小島健輔の最新論文

繊研新聞2021年01月20日付掲載
『百貨店衣料品とユニクロに見るシーズンMDの変化』
アフターコロナの新常態にMDとサプライはどう対応すべきか
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

温暖化が進んでアパレルのシーズン需要は大きく変わったとされるが、現実はどうなのだろうか。個別の事象や印象論ばかりでは心許ないから、2010年からコロナ前の2019年まで百貨店衣料品と国内ユニクロの売上変化を検証し、アフターコロナの新常態におけるMDとサプライの在り方を考えてみた。

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■全国百貨店衣料品売上はどう変わったか

 温暖化が進んで冬の防寒アウター需要が細り、夏が長くなって秋との端境アイテム需要が高まったというのが業界の通説だが、全国百貨店衣料品の売上推移ではどうだったか。

 決算期と実需に合わせて春期を3〜5月、夏期を6〜8月、秋期を9〜11月、冬期を12〜翌年2月の各3ヶ月間と区分け、年間売上に占める各季節シェアの推移を見た。アパレル業界の実感としては1ヶ月後送りに感じるかもしれないが、実需から売り切りのサイクルはこの区切りで、小売業の決算期もほとんどが2月末か8月末だ。米国小売業の決算期は1月末に集中して我が国より1ヶ月早いが、冬のセールも春(クルーズ)の立ち上げも1ヶ月早い。

 温暖化と言っても年によって寒暖は大きく振れるし、天災や経済パニック、増税などがあると消費は大きく振れるので、10〜12年、17〜19年の各3年間の平均を比較して見た。09年からでなく10年から、20年でなく19年までとしたのはリーマンショックとコロナ禍の異常値を避けるためだ。

 まず春夏期と秋冬期のバランスだが、秋冬期は10〜12年平均の52.25%が17〜19年平均では50.20%と2.05ポイントも落ちており、温暖化で春夏シフトが進んだという印象を裏付けている。さらに四季のバランスを見ると、冬期は27.03%から25.88%に1.15ポイントも低下、秋期も25.22%から24.33%に0.89ポイント低下しているから、暖冬化で防寒アウターの需要が落ち込み、残暑で秋物の販売期間が短くなったことが伺える。春期は25.00%から26.28%へ1.28ポイントも上昇しているが、夏期は22.75%から23.52%と0.77ポイントの上昇にとどまり、夏物投入の前倒しが進んで春期が春夏物のプロパー販売期、夏セールも前倒しが進んで夏期がセール期と化し、夏が長くなっても恩恵はほとんど無いに等しかった。

 四季の移り変わりが変化しても新たなライフスタイルアイテムが投入されず、過剰供給によるセール時期の早期化に圧されて投入時期を前倒しているだけで、アパレルのシーズンMDは袋小路に陥っている。

 

■月売上指数の変化からコロナ後を占う

 実態を掴むには月売上指数の推移を見るべきで、10年と19年の1〜12月の売上分布を比較すると以下の3点が浮かび上がる。

1)夏セールの7月から6月への前倒し、同じく冬セールの1月から12月への実質前倒しが顕著。

2)10年では1月、7月のセール月、12月に続く4位だった3月が7月の低下もあって2位に上昇。

3)19年の9〜11月は消費増税で大きく振れたが、合計売上シェアは0.19%減とやや低下。

 温暖化で冬の防寒アイテム売上が落ちているのは間違いないが(機能性軽量防寒アイテムの開発不足が原因)、夏物企画の投入がゴールデンウィークで終わって夏セールがどんどん前倒される実情では、長くなった夏に対応する商品を欠いて7月の売上が落ち込み、秋口の端境アイテムも販売期間が短いため8、9月の売上を押し上げる勢いがなく、消費増税の駆け込み需要も反動で帳消しされ、秋期の凋落傾向は変わらなかった。

コロナ禍を経て通勤需要やオケイジョン需要が激減しカジュアルシフトが進めば3月のピークは崩れて4月に流れ、9、10月はさらに落ち込むから、アパレルの月売上分布は一変してしまう。主要カジュアルチェーンの月売上分布を参考にすれば、ユニクロのダウンやフリースのようなパワーアイテムを持たない限り、秋冬期は9月から1月まで全て低下し、春夏期は3月から7月までほぼフラットになる。端境の2月と8月の低さは変わらず、ECでの先行受注販売に加えて部屋着や下着、ライフスタイル雑貨などアパレル以外のアイテムで下支えするしかない。

温暖化の影響は否定しないが(国内ユニクロでは顕著でない)、温暖化より過剰供給によるセール時期の前倒し、春夏期ではそれに呼応した投入時期の前倒しが四季の売上バランスを動かしたのではないか。コロナ禍の20年は4〜5月の休業で春夏期が劇的に落ち込んだから逆に動くが、21年以降は春夏期の売上シェアが上昇して秋冬期を逆転すると思われる。 

 

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■国内ユニクロの四半期売上変化に何を見るか 

凋落著しい百貨店衣料品より、国民的カジュアルブランドたる国内ユニクロの四半期売上の推移を見た方が先への展望も開ける。ユニクロ(ファーストリテイリング)の決算期は8月だが決算期を跨ぎ、春期を3〜5月、夏期を6〜8月、秋期を9〜11月、冬期を12〜翌年2月の各3ヶ月間と百貨店衣料品に合わせた。

秋冬期は10〜12年平均の59.02%が17〜19年平均では56.65%と、百貨店衣料品(2.05ポイント低下)と同じく2.37ポイントも落ちており春夏シフトは同様だが、百貨店衣料品より尚6.45ポイントも高い。一般にカジュアル系はドレス系より秋冬比率が低いが、アウターから下着まで防寒アイテムに強いユニクロは特異な季節バランスを確立している。

秋期は31.56%から28.79%と2.77ポイントも落ちたが、冬期はそのバランス変化もあって逆に27.46%から27.86%に0.4ポイント上昇している。秋期の10〜12年平均は百貨店衣料品より6.34ポイント、17〜19年平均も4.46ポイントも高いが、創業祭の11月の突出した高さに加え、秋から冬へ継続するアイテムが多いことも10月を押し上げている(一般には秋物の売り切り月)。春期は22.48%から24.20%へ1.72ポイント(百貨店衣料品は1.28ポイント)も上昇しているが、夏期は18.50%から19.15%と0.65ポイント(同0.77ポイント)の上昇に留まるのは百貨店衣料品と共通しており、夏物投入・販売の早期化と晩夏ライフスタイルアイテムの開発不足が推察される。

 

■『温暖化による防寒アイテム需要衰退』は誤った認識

国内ユニクロの月売上分布(当社推計)は防寒アイテムの強さで11、12月が突出して高く、10月も通勤アイテムの薄さを秋から冬へ継続するアイテムがカバーしてやや高く、通勤/オケイジョンアイテムを欠いて9月と3月が落ち込み(3月の極端な低さは特異)、8月と2月の底も深い。シーズンを通じて継続するアイテムが多く、8月と2月で切り上げるためと推察される。

10年から19年の変化を考察すれば、1)春夏期のパワーアイテム開発、2)創業祭と誕生祭の期間延長やキックオフ(期間限定値引き)による売上前倒しが大きく、3)温暖化しても防寒アイテムは落ち込まなかった。10年から19年で百貨店衣料品売上が四分の三に激減したのに対し国内ユニクロの売上は1.44倍に伸び、冬期の売上シェアも僅かでも上昇したのだから、『温暖化が防寒アイテム需要を細らせた』という業界の認識は明らかに誤っている。伝統的な防寒アウターにとどまって今風のカジュアルなライフスタイルが求める軽量で機能的な防寒アイテムの開発に注力しなかっただけではないか。

ついでながら、この間に国内ユニクロの平均稼働店舗数はほとんど変わらず(781.4店➡︎783.9店)、平均店舗面積が746平米から955平米と1.28倍、平均店舗売上が7億3195万円から9億6627万円と1.32倍に拡大し、坪売上は328.35万円から336.93万円と2.6%伸びており、どこにも無理のないバランスのとれた安定成長だった。

 

■ユニクロの分断なきMD展開と製販同盟

ユニクロのシーズンMD展開とサプライ体制にも注目すべきだ。ユニクロのシーズン構成はAW期+防寒期、SS期+リゾート期の2+2型で、秋〜冬と継続するアイテムが多く11月末の創業祭で12月需要を先取りし、5月末の誕生祭で6月需要を先取りして期末セールの値引きロスを抑制し(近年は「誕生感謝祭」に名称を一本化)、以降も冬は防寒アイテム、夏はリゾートアイテムを継続して販売する。

多少は新規アイテムが開発されるにしても通年のMD展開に振れがないから過年のデータに基づく販売予測精度が極めて高く、季節を細分化せず継続する商品が多いため、チラシ掲載のキックオフなど手慣れた営業対応で在庫消化をコントロール出来ている。売れ残る商品があっても定番的商品が大半だから翌シーズンに持ち越せるし、大元の生産地在庫も余れば製販同盟を組む商社が持ち越してくれるから、コロナ禍の春夏物も他社のように叩き売る必要がなかった。

価格対品質の圧倒的優位と定番の継続的スペック改善だけでなく、季節(時には年も)を細分化しないアイテムの継続性、分断のない製販同盟の継続性もユニクロの在庫消化運用を優位に導いているのではないか。MDの継続性(同時に顧客との継続性でもある)もサプライヤーとの継続的同盟関係も『分断したら負け』という商いの本質を踏まえており、綺麗事で終わらない本当のサステナビリティを実践している。

 

■在庫消化の鉄則は計画と実現の一致と継続的製販同盟

 単品を小ロット短サイクル投入する中小規模のファストMDやベンダーにサプライを委任するVMIはともかく、ロット調達MDでは過剰なシーズン細分化は消化回転の実勢と乖離して値引きと残品のロスを肥大させる。ロット調達や展示会発注調達による売り減らしでは最低でも8週間は販売消化期間を見る必要があり、ロットが大きいとさらに長くなる。シーズン末の売り切りセール期間も必要だから、6シーズンを超える細分化は弊害の方が大きくなる。

 小ロット短サイクルのファストMDやVMIなら在庫回転が12回を超えるケースもあるが、定番商品を継続するベーシックSPAも展示会発注のセレクトチェーンも2〜3回転にとどまり、シーズンを細分化して薄い在庫を切り替えるMDでも最大6回転までで、それ以上細分化しても在庫が消化せず回転は却って低下してしまう。その壁を越えるにはVMIが必要で、17年8月期の国内ユニクロ事業は商社VMIで5回転に達していたが、国内倉庫在庫を自社計上した19年8月期は2.43回転に落ちた。実態は同じだが商社が抱える補給用の国内倉庫在庫を資産計上しただけの違いで、今日も生産地倉庫の在庫は商社が抱えている。

 ユニクロの商社VMI効果は絶大で、資本も人材も商品開発と販売に集中できるから、商社機能を全額出資の調達子会社に担わせる良品計画とは事業規模の拡大とともに格差が開いている。継続的製販同盟はサプライチェーンの鉄則であり、DXでデジタルに繋がれば画期的なオン・デマンドサプライが実現する。

 過剰在庫も値引きと残品のロスも計画と実現の乖離が産むものであり、実勢と乖離しない無理のない計画を組めば高回転でなくても応分の利益が得られる。それに部分的にでもVMIを組み合わせると、売上は伸びなくても在庫回転とキャッシュフローは劇的に改善され、利益も一段と伸びる。ユニクロに学ぶべきは商いの本質なのかもしれない。

※VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。

 

■虚像を追うより現実を見よ

 季節や月度の売上バランスもともかく、百貨店衣料品売上は10年の2兆1839億円から19年は1兆6490億円と四分の三(75.5%)に縮んだ。この間にアパレルの市場規模は若干だが回復しているし(矢野経済によれば+2.8%)、家計消費支出におけるアパレル支出(洋服・シャツ・セーター)も9.6%の縮小にとどまるから、百貨店衣料品の凋落は法外に割高な価格が顧客を離反させたと見るべきだろう。

 実際、百貨店アパレルの流通コストは歩率手数料と販売人件費を合わせると小売売上の50%にも達するから、賃借料と販売人件費を合わせて小売売上の20%に収まる国内ユニクロより流通コストが2.5倍も嵩み、生産ロットもユニクロより二桁も小さいから、同じ品質なら価格はユニクロの三倍になってしまう。そんな法外価格が通ると思い込んで来たことの方が異常だったのではないか。

 デザイナーアパレルのコストは百貨店アパレルと大差無いし、ロットがさらに小さくデザインが凝っている分、一段と割高になる。駅ビルやファッションビルを販路とするアパレルも、賃借料と販売費(人件費と光熱費、キャッシュレス手数料など)を合わせた流通コストは小売売上の40%に迫っており、ユニクロの倍近く嵩む。ECモール出店の流通コストはそれよりやや低いが大差はなく、自社ECで一定規模以上を売らないとD2Cのコストメリットは出てこない。

今や品質と価格のデフェクトスタンダードはユニクロであり、競合するライバルチェーンはそれよりワンライン割高なだけでも苦戦しているのに、三倍も割高な百貨店ブランドが生きながらえて来たことは奇蹟に思える。人口と経済、生計と消費が萎縮していくA.C.(アフターコロナ)の“新常態”に生き残るには、コストを抑えてお値打ち競争力を実現するしかない。少子高齢化による社会負担増で国民の生計が疲弊し、無理なインフレ政策が労働価値を下落させ資本の肥大と生計の窮乏という二極化を煽って日本社会の相互扶助余力を枯渇させた挙句、コロナ禍で若年勤労者とりわけ非正規雇用の女性が追い詰められ、お洒落どころではなくなる中、百貨店やアパレル業界が夢を売れる状況ではない。

心地よい虚像にしがみつかず現実を正視するなら、売上の拡大を目論んで許容して来たサプライの無理と無駄と分断を排してロスとコストとリードタイムを徹底して圧縮し、これまでとは次元を画したお値打ち価格で顧客に応え、企業と雇用の存続を死守するべきではないのか。

 

■DXで繋ぎ『大切に作って大切に売る』原点に回帰せよ

アパレル業界、とりわけアパレルメーカーはもの創りに偏って店舗運営と在庫運用という小売スキルを軽視する風潮が根強く、組織として業務を検証し改善して現場のスキルを高める習慣を欠き、店長や販売員、あるいは販売代行業者の属人的な能力に依存して使い捨てて来たという指摘は免れない。D2CでようやくECサイト運営という小売のPDCAに目覚めたとは言え、新常態下のシリアスな環境では小売の仕組みとスキルを磨いてロスとコストを抑え、競争に耐えるお値打ちな商品を提供しないと生き残れない。

拡販競争の中でいつの間にか忘れられた『大切に作って大切に売る』原点に回帰し、現場と顧客を起点に店舗とEC、販売と調達・生産を繋げてオン・デマンドに応える“サステナブルな体制”を構築するべきだ。DXはリアルタイムに“繋がる”手段であり、本部集権で現場を端末化・無力化したPOSの二の舞を演じてはならない。販売の実現には確実な実務スキルを備えた現場組織が不可欠なのだ。

※D2C(Direct to Consumer)・・・ブランドメーカーが店舗やネットの小売業者を通さず、自社のサイトやショールーム、ポップアップストアで直販する販売形態。

※PDCA・・・Plan(計画)➡︎Do(実行)➡︎Check(評価)➡︎Action(改善)のサイクルを繰り返して業務効率を改善をする運営管理手法。

※DX(Digital Transformation)・・・デジタル技術でプロセスやサプライチェーンを繋ぐ業務革新。

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