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『店舗販売も「場ミリ」脚本が大切』(2021年08月31日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アイドルグループのステージにせよ演劇にせよ、複数の演者が交錯する舞台演出では「場ミリ」(舞台床の番地表示)で位置と移動を指示する時系列脚本が不可欠で、動きの激しいステージ、せりや舞台転換を伴う演劇ではコンマ秒単位のスピード感が求められるが、店舗運営の現場では番地指定はともかく、動きまでの指示は極めて稀だ。
 食品スーパーやコンビニでは「什器番地」「棚割」という配置指定が定着しているが、アパレル店舗においてはアバウトなカテゴリーやテイストの区分はあっても、ユニクロや無印など大手SPAチェーンを除いては「什器番地」「棚割」の配置指定は稀で、「場ミリ」のような時系列移動シナリオなど国内では滅多に見たことがない。配置指定がないと品出しや陳列に迷いが生じて作業が手間取り、出前への配置指示はあっても元番地への戻し指示がないから出前陳列のフォーカスが暈け、前サイクルの残品が滞貨してフォーメーションの転換もシャープさを欠いてしまう。そんなダサいことをステージでやったら、ブーイングは避けられないだろう。
 『国内では滅多に見たことがない』と言ったのは、米国では最盛期(80年代)の「LIMITED」で週サイクルのフォーメーション転換が運用されていたし、国内でも最近の「GU」で多重出前運用と元番地戻しを目にすることがあるからだ。
 食品スーパーやコンビニの生鮮品は数日、日配品とてせいぜい週内に消化しないと鮮度が朽ちてしまうし、工場生産のグローサリー食品とて賞味期限がある。賞味期限は半年とか一年とか長いように思えるが、「三分の1ルール」という業界慣行があって、賞味期限の三分の1を過ぎたら小売店への納品ができなくなり、三分の2を過ぎたら返品されてしまう。行き場の無くなった商品は値引きしてディスカウントストアに転売したり、ファミリーセールへ回したりするが、大半は廃棄処分になる。それを避けるには欧米業界並みの「二分の1ルール」(納品可能期間が長くなる)への転換や小売店舗内の編集・売変シナリオに加え、行き場を失った商品の再流通シナリオ、さらには廃棄商品のフードシェアプロセスも用意しておく必要がある。
 アパレルの世界ではトレンドやシーズンの鮮度が問われるが、もとより賞味期限が曖昧で「三分の1ルール」などという業界慣行もなく、消化進行計画との乖離が大きくなるとECでのクーポン販売や店頭でのキックオフ(期間限定値引きでECのクーポン販売と近似する)で消化が促進され、それでも消化が滞るとアウトレットや催事に回されて値引き処分されたり、定番的なものだと翌シーズンまで持ち越されることもある。
 生鮮・日配食品は夕刻のタイムセールあるいは週末のワゴンセールなど売価変更や編集移動のスピードが早く、近年は電子値札によるダイナミックプライシングも加わってスピードが加速しているが、アパレル店舗では在庫消化管理も売価変更も編集移動も週サイクルで食品に比べればスローだし、編集移動のシナリオを欠くチェーンも多い。コロナ禍を経て販売の主役となったECの方は時間単位の売価変更やささげ替えが競われ、店舗と品揃えや売価が異なるケースも増えている。
 ECは元よりSKUごとの登録だから条件検索やハッシュタグで如何様にも編集できるし、幾つかテンプレートを用意しておけば見せたいサムネイルを構築できる。顧客も条件検索で一瞬で並べ替えできるから、選び易いよう定期的に検索体系を見直すべきだろう。
 ECに比べれば店舗の分類と陳列配置は物理的に固定されており、店側が再編するのも大掛かりになるし、顧客がECのように自在に組み替えることも不可能だ。ならば、店側は分かり易い陳列配置とフォーメーション転換を「お約束」化して顧客の選択利便に応え、店舗のマテハン労働も効率化するべきだ。その一方で商品タグに添付した二次元コードをスマホでスキャンしてECに飛べるようにすれば(ショールーミング)、ささげ情報もレビューも参照できるし、顧客の意思で並べ替えもできる。ECと直結した電子タグでリアルタイムなレコメンドや売価変更を訴求するのもインパクトがある。
 ECが販売の主役になるに連れ、ECに慣れた顧客は店舗販売の商品情報の薄弱さと陳列フォーメーションの代わり映えの無さに辟易し始めている。店舗販売はローカルOMO(店舗在庫引き当て・出荷・店受け取り)でお試し・受け取りの優位を確立するとともに、二次元コードによるショールーミングや電子タグなどで情報格差・時差を無くし、番地指定の出前運用でシャープなフォーメーション転換を演じるべきではないか。

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