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『コロナ危機で米国ではモールも潰れるのに、
日本ではテナントだけが苦しい理由』(2020年08月07日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 日本ではコロナ感染拡大による長期休業や客数減で売上が激減したテナント企業が家賃の減免を求め、大手デベの多くが減免に応じたが、それでデベの経営が危なくなったと言う話はとんと聞かない。ところが、米国ではコロナ危機で家賃が入らなくなって破綻が危惧される商業施設デベが少なくないと言う。日米で、いったい何が違うのだろうか。

 

■コロナ禍で1万5000店が 閉店する

米国では3月半ばからロックアウトで商業施設が全面封鎖され、5月末になってようやく大部分の商業施設が再開したが、この間の休業による売上激減でニーマンマーカスやJCペニー、Jクルーやアセナリテールなど多数の小売業が破綻し、メイシーズは2〜4月期で35億8100万ドルの損失を計上して4000人規模のリストラに追い込まれ、ギャップは家賃の未払いで大手デベに告訴されている。営業を再開してもコロナ感染の第二波が荒れ狂う状況では客足は戻らず、米調査会社のコアサイトは持ちこたえられず閉店する店舗は年内に過去最高の1万5000店に達すると、一月末時点で8000店とした予測を大幅に修正した。

19年の米国小売業売上のうち自動車関連・燃料・建築資材・園芸用品を除くコア売上は前年から4.2%伸びて3兆2873億ドルに達したが、そのうちショッピングセンター売上は1.5%増と伸び悩んだものの2兆9211億ドルと小売業コア売上の9割近くを占めるから(日本は22.5%)、1万5000店の大半はショッピングセンターから消えることになる。

米国SCの入居率は19年第4四半期でクローズドSCが前年同期から1.9ポイント落ちて89.1%、オープンエアSCが同0.2ポイント上がって93.3%だったが、コロナパンデミック以降はクローズドSCの人気が落ちてオープンエアSCの人気が高まっているから、入居率の格差も開いていくと思われる。それは三密を恐れる顧客だけでなく、クローズドSCの家賃の高さを嫌ったテナントにも共通する動きだから、閉店はクローズドSCのテナントに集中することになる。

クローズドSCは「モール」と呼ばれる空調された屋内型で大規模な広域施設が多く、オープンエアSCは通路部分に屋根がない開放型で中小規模の生活圏型が多く、後者には各店舗前に直接、車を乗り付けられるストリップセンターも含まれる。A.C.(After Corona)時代は必然にW.C.(With Corona)となるから、顧客の購買行動が生活圏にシフトし、テナントも家賃の安いオープンエアSCに流れるのは必然だ。

 

■大手商業施設デベも潰れる

ロックアウト休業や感染忌避の客数減で売上が消え家賃が入らなくなれば、中小の商業施設デベは資金繰りがつかなくなるし、コロナ感染が第二波、第三波と長引いて撤退する店舗が広がれば、さすがの大手商業施設デベも経営が傾く。コロナ禍で破綻する最初の大手商業施設デベになりそうだと囁かれているのが、全米第6位のCBL&アソシエイツプロパテイで、連邦破産法の申請を準備していると報じられている。

同社は米国最大手のサイモン・プロパティー・グループ同様、投資した商業施設を自己管理する不動産投資信託(REIT)であり、米国南東部・中西部の27州に65の支配持分モール、9の非支配持分モールを所有するなど108の商業施設を運営。支配所有する61モールの年間販売効率は147万円/坪、入居率も90%とクローズドSCの平均水準をクリアしていたが、19年は7億6870万ドルの収入で1億2860万ドルの営業損失、1億5370万ドルの株主損失を計上と、コロナ以前から業績が悪化していた。

モール間の競争が激しくECにも圧されて過去5年間に27%も収入が落ち、二期連続の営業赤字に陥って株価も18年2月には1ドルを割り込んでいたから、その頃から破綻が危ぶまれていたのだろう。

コロナ禍のロックアウトで3月中旬から全面閉鎖されたモールのうち5月25段階で66のモールが再開されたが、4月は請求した家賃の27%しか受け取れず、5月も同様な集金率だった。テナントの大半は長期休業で経営が悪化し家賃の軽減や繰り延べを要求しており、交渉が難航して家賃の回収は今年後半から来年になりそうだと開示している。それでは資金繰りがつかなくなるのは時間の問題で、連邦破産法の申請を準備せざるを得ない。

最大手のサイモン・プロパティー・グループとて家賃の遅延や不払いに苦しんでおり、大手アパレルチェーンのギャップ社を家賃不払いで告訴するなど対策を講じているが、株価もコロナ以前の160ドルから60ドル台まで落ちている。

 

■我が国の商業施設デベは大丈夫か

 日本ショッピングセンター協会(以下、SC協会)によれば、国内既存SCの売上高はコロナ危機で3月28.0%減(テナント30.7%減)、4月68.8%減(同76.2%減)、5月61.4%減(同69.1%減)と落ち込み、営業を再開した6月も都心施設が苦戦して15%減と回復が遅れており、売上が激減したテナントからは固定賃料や最低保障家賃の減免や猶予が繰り返し要求されている。 

SC協会が6月29日〜7月8日にデベロッパー会員314社に実施したアンケート調査(回答73社/1168施設)によると、回答73社の96%が賃料の減免に応じており、固定賃料は20社、最低保障家賃は14社が減免し、減免率は50%以上60%未満が最も多かった。資金力のない中小の単館デベは減免に消極的だから、減免に応じたのは資金力のある大手デベや電鉄系・百貨店系デベ中心と推察される。

結局のところ家賃の減免は部分的でテナントの苦境を救うには不十分で、家賃支援給付金など公的救済に頼ることになるが、売上の減少が大きく在庫の負担ものしかかり、不採算店を閉めたり破綻するテナントが続出することは避けられない。それでも、我が国では商業施設デベの廃業や破綻はごく限られるはずだ。なぜなら、我が国の商業施設はテナントの売上を一定期間、預かって家賃や共益費を精算してからテナントに渡す「売上金預かり制」であり、米国の商業施設デベのように売上が激減したから家賃が入らなくなるという事態は起こらないからだ。

 

■テナントに不利な「売上金預かり制」

日本では売上金から家賃を天引きされるテナントがデベに減免をお願いする構図だが、テナントが売上金を直接収納している米国では『売上が減っては払えません』とテナントが実力行使している。だから、資金繰りに窮して破綻する商業施設デベも出てくるが、我が国ではそんな事態は起こらず、テナント側だけが破綻に瀕することになる。

「売上金預かり制」では商業施設デベが売上金を預かって、月の前半の売上から固定の家賃や共益費を差し引いて月末に、後半の売上から歩合家賃や変動共益費を差し引いて翌月15日にテナントに振り込むのが一般的だから、直接収納より22.5日、売上金の入金が遅れる。加えて、キャッシュレス決済もデベがアクワイアラと包括契約して手数料を上乗せするから、テナントが直接契約するより1.5〜2.0%も高くなる。政府のキャッシュレス政策にコロナ感染を恐れてのキャッシュ離れも加わってキャッシュレス決済比率が急上昇しているから、テナントの負担はさらに重くなる。
 そんな我が国の「売上金預かり制」はテナントの資金繰りも収益も圧迫するから、大手外資チェーンは受け入れておらず、国内企業でも核のGMSやSM、サブ核のカテゴリーキラーや大型ファッション店は直接収納している。テナント店ばかりなら売掛金の回収日数は22.5日より長くなるはずで、ユナイテッドアローズは26.3日、TSIホールディングスは26.1日を要しているが、H&Mは9.2日、ZARA(インディテックス)は10.1日、ファーストリテイリングは9.6日に収めている。
 建前は共存共栄だが、最低保障家賃や様々な共益費・協力金、キャッシュレス決済手数料の上乗せ徴収、出店時の内装監理費や工事協力金、退店時のペナルテイ徴収、定期借家契約の一方的な運用など、デベとテナントの関係は対等とは言い難く、この機会に抜本から見直してサスティナブルな共存関係に改めるべきだろう。

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