小島健輔の最新論文

現代ビジネスオンライン
『小島健輔が絶句「百貨店は終わった!」』
百貨店という業態の寿命は尽きた
(2019年10月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

百貨店の閉店ラッシュは止まらない

百貨店の閉店ラッシュがとまらなくなってきた。

9月末には伊勢丹の府中店と相模原店が閉店し、同日に甲府の山交百貨店(※)も閉店、8月にはヤナゲンの大垣本店や大和の高岡店、大沼の米沢店、今春には井筒屋の黒崎店や中三の青森店(※)など地方店も相次いで閉店しており、19年中の閉店は百貨店協会加盟店舗だけでも実に9店舗に達する(※は百貨店協会非加盟店舗)。

加えて10月に入っては最大手百貨店アパレルのオンワードが600店の閉鎖を発表。そごう・西武が20年8月末で西武の大津店、岡崎店、そごうの徳島店、西神店、21年2月末でそごうの川口店を閉店、高島屋も横浜港南台店を20年8月末で閉店すると発表するなど、あたかも百貨店という小売業態の寿命が尽きたかのようだが、「百貨店」は本当に終わったのだろうか。

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99年には311店を数えた我が国の百貨店も00年7月のそごう倒産を分水嶺に減少に転じ、18年末には219店まで減少。来年3月には三越の新潟店、東急の東横店の閉店も決まっており、今後も地方店や郊外店中心に閉店が続けば2020年中には200店舗を割り込みそうだ。

百貨店の閉店が続くのは、郊外モールや駅ビルに加えて近年はECに顧客を奪われたのが直接的な要因だとしても、そんな事態を招いた要因は百貨店側の堕落にあったことは間違いない。

日本の百貨店は三段階で堕落していったのだ。

百貨店は「三度の堕落」で見放された

(1)自前品揃えと在庫リスクの放棄

80年代初期までの百貨店は自ら商品を発注し買い取って品揃えしていたのが、84年ごろから委託仕入れに変わり(そごう破綻を契機に消化仕入れに移行)、品揃えをブランドに任せて在庫リスクを持たなくなった。

結果、同じブランドが並べば品揃えも大差なくなって同質化し、在庫リスクをブランドに転嫁した分、ブランド側は原価を切り詰めてお値打ち感が劣化した。当時の買取と委託の掛け率差から見て、原価の切り下げは10ポイント前後だったと思われる。

(2)売上減少を利幅でカバー

バブルが崩壊して売上が急落した92年以降、百貨店はブランドの納入掛け率を切り下げて利益の確保を図り、00年までの8年間で実に計12ポイントも切り下げた。

ブランド側も利益を確保せんと同率に原価を切り下げたから、百貨店商品のお値打ち感は急ピッチで低下した。

80年代初期と比べれば百貨店ブランドの原価率は半減したから素人目にもお値打ち感の劣化は明らかで、ブランドも顧客も駅ビルや郊外SCに逃げ出すことになった。

(3)ショールーミングを恐れてECを妨害

今やブランドショップでは店頭の品揃えや情報を補完すべくタブレットで顧客をECサイトに案内したり、顧客が自分のスマホで商品タグのQRコードをスキャンしてECサイトに行くのは日常風景となったが(ショールーミング)、百貨店でこの風景を見ることは滅多にない。

ECに売上を奪われることを恐れてタブレット接客や商品タグへのQRコード記載を禁止している百貨店が未だ多いからだ。

米国の百貨店が自らECを拡大してO2O(ショールーミング&ウェブルーミング)を日常風景化しているのと比べれば、無為無策のまま時代に取り残されたと扱き下ろされてもやむを得まい。

実際、米国大手百貨店のEC比率はノードストロムで30%、ニーマンマーカスで34.5%に達し、メーシーズも30%に迫っているというのに、我が国大手百貨店のそれは化粧品を突破口にようやく拡大しつつあるとはいえ、中元歳暮中心に2%前後にとどまっている。

ましてや、店舗をEC商品の受け渡しやお試し、宅配出荷の拠点として活用するC&C(クリック&コレクト)など十年早いのが現実だ。

顧客にとってはオムニチャネルなショッピング利便を拒絶されているわけで、ECにもC&Cにも置いていかれる百貨店から足が遠のくのは必然と言うしかない。

「商業ビル化」と「インバウンド」…?

三段階の堕落を経てお値打ち感が半減しオムニチャネル利便も拒絶する百貨店は、顧客にとって便利でも有利でもない、よほどのイベントでもないと足が向かない場所になってしまった。

そんな現実の中で志向されたのが“ハイブリッド百貨店”と称される商業ビル化と外国人観光客狙いのインバウンド対応だが、どちらも百貨店生き残りの決定打とは言い難い。

“ハイブリッド百貨店”は消化仕入れの百貨店売場を圧縮して定期借家契約のテナントを中心に構成するものだが、どんどん百貨店型の売場が減って近年はファッションビルなど商業ビルと大差ない構成になっている。

人手がかかる百貨店型の売場を減して少人数で手離れの良い運営ができるテナント構成へシフトしているわけで、「デパチカ」があることを除けば商業ビルと何も変わらず、不動産業化している。

それでも好立地なら問題はないが、ちょっと駅から離れて集客に工夫がいる立地になると商業ビルとしても苦しいし、商圏が衰退する地方都市や郊外となると営業継続も難しい。

加えて、百貨店型の売場が減って商業ビル化すると、ブランドを選別したり編集したり営業催事を組んだりするスキルも目に見えて落ちていく。再建築開業して定借テナント比率が65%となった大丸心斎橋本館を見て、そんな懸念を深めざるを得なかった。

新たな「堕落」

百貨店の衰退が本格化する転換点となった00年は、3月に定期借家契約が導入され商業施設のテナント入れ替えが容易になって百貨店の優位が崩れ、6月には大店立地法が施行され開発や営業が自由化されてモール型SCが急増する契機となり、7月にはそごうが倒産している。

商業ビル化というハイブリッド戦略が百貨店の打開策とならないのは明らかだ。

インバウンド対応にしても、もとより“棚ぼた”であって自らの力で獲得した成果ではないから、各国の為替や経済、流通政策の変化でいつ何時、急減するやも知れない。流動客であって固定客とは言えないから、先々まで安定した売上が期待できるわけでもない。

インバウンド依存の高い香港や韓国の商業がどれほど不安定か、もはや他山の石と見過ごせる段階ではなくなっている。

『百貨店は終わったのか』と問われれば、『終わったのではなく自ら堕落して自滅していった』と答えるしかないだろう。その意味では商業ビル化もインバウンド対応も“新たな堕落”でしかないのかも知れない。

ブランド難民の受け皿は“ウェブルーミング・サロン”

かつては地域の消費文化を支えていた百貨店が自滅していった跡に取り残されるブランドの顧客は、いったいどうすれば良いのだろうか。

ECにシフトして600店を閉店すると言うオンワードはもちろん、大半のブランドアパレルはECに活路を求めているから、店舗がなくなった地域の顧客はECで買うしかないが、トレンド変化が激しいアパレルの世界では定番はともかく新作は試着してみないと魅力もフィットも判らない。

「返品自由」と謳われても、試着して送り返すのは面倒だし、AI頼りの提案ではしっくりこない人もいるだろう。やはり、ブランドの世界を表現した空間で自分に合ったコーディネイトやフィッティングを接客してもらわないと、「ブランド顧客」であり続けるのは難しいのではないか。

EC販売比率が30%前後まで達した米国の大手百貨店では、店舗から離れた顧客の生活圏にECで見てお取り寄せ・お試し・お直し・受け取りができる接客重視の“ウェブルーミング・サロン”が広がり始めている。

「Nordstrom Local」が代表的なもので、生活圏に立地するだけに、ゆったりとした試着室と接客空間、カフェまで備え、お直しスタッフも常駐している。百貨店のサテライトストアというよりスパまで備えたラグジュアリーなビューティサロンといった雰囲気で、宅配業者の展開する試着・受け取り拠点とは次元が違う。

我が国でも地方や郊外の百貨店が閉店して取り残されたブランド難民にとって、ECだけでは満たされないパーソナルな接客サービスと華やいだショッピングの楽しみが得られる受け皿となるのではないか。

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