小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2017年11月30日付)
『‘老人力’がアパレルを救う?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 シャツ屋さんからランドセル屋さんに転職された方のお話を伺ったが、ボーナスがヒト桁違ったそうだ。大量の期末残品に苦しむシャツ業界と一年近くも前倒しの受注生産でほぼ残品ゼロのランドセル業界の明暗を痛感させるエピソードだった。
 そのランドセル屋さんでは来年の新学期向け商品どころか再来年の新学期向け商品もすでに生産を終え、今は再々来年向け商品の見込み生産に入っているとか。注文の入り方は毎年安定しているので計画生産してもズレは小さく、職人のキャパがギリギリなので手が空いたら先の商品を生産するようにしているとか。アパレルギョーカイから見れば雲の上の高天原かと思うようなお話だった。
 少子化で毎年、新入学する子供の数はジリジリと減っているし、購入したら6年間は買い替えもほとんどないという安定縮小が続く特殊なマーケットだが、パパママに爺婆が加わった6ポケットで単価の上昇が続き、新入学小学生の減少と職人の高齢化・引退による国内生産のキャパ減少が釣り合って需給が均衡するというマジックが成り立っている。ここでポイントなのが‘国内生産’が大前提になっている事で、海外生産が当たり前で‘国内生産’など滅多にお目にかかれない(今や数量では3%ほど)というアパレルの世界とは価値基準の次元が違う。
 それが成り立っているのは商品選択の真の決定者が子供ではなく爺婆だという事に尽きる。デザインや色は子供が選択するのだろうが、ブランドの選定はお金を出す爺婆の意向が大きく左右しており、彼らの価値観が‘日本製’と決めつけているからだ。度外れた過剰供給がアパレル不振の最大要因なら‘メイド・イン・ジャパン’の喧しいキャンペーンも実効性が期待されるが、それには‘真の決定者’を変えなければなるまい。
 バブル期にプレゼント癖が付いた団塊世代も既に‘財力’で孫のご機嫌を取るご隠居となっているから、将を射んとすれば〜で彼らの価値観に訴えるのも一手と思われる。ブランド子供服にも波及している‘爺婆’の発言力がトゥイーンズ服やフレッシャースーツまで及べば、アパレルの苦境も多少は和らぐのではないか。‘老人’の頑迷な拘りも時として世のためになる事もあるのだろう。
ランドセル600

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