小島健輔の最新論文

ファッション販売2013年6月号掲載
『絶好調ブランドの好調要因』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 91年をピークに縮小の一途を辿って来た衣料消費も、中国の生産コスト急騰と東日本大震災を契機としたデフレの終焉で11年度に底を打ち、12年度は僅かながらも20年振りの再拡大に転じた。シェールガス革命による米国経済の復活と中国のデフレ輸出の終焉を背景にアベノミクスが巡航バブル経済に離陸する今後、世界的なモード回帰も加わって衣料消費はインフレと脱「等身大」買い替え需要で久方振りの活況を呈すると期待される。
 「失われた20年」を脱してインフレ経済へと舵を切った日本市場では、これまでの「等身大」ブランドが飽きられ、モードの階級性が復活して「背伸び」したブランドが急伸する事になる。昨冬商戦のブランド別販売結果にはその予兆が色濃く現れていた。

昨冬商戦の総括(11月〜1月)

 昨冬商戦では全国百貨店婦人服の既存店前年比は100.0、当社が全国100SC&百貨店から集計している婦人服ブランド平均は同98.2だったが、全国百貨店紳士服は同100.9、紳士服ブランド平均は同101.2と、どちらも婦人服を上回った。その要因はドレス志向キレイ目ビジカジの好調で、ジーンズカジュアルなどは一段と低迷を深めた。
 婦人服で比較的堅調だったのはミッシーやミセス、ティーンズやセレクトショップの一部で、セクシーガールやヤングカジュアル、ヤングマインドカジュアル、ワーキングガール、ジーニングカジュアルは低迷を継続した。タイプ別に細かく見れば、ワーキングガールからキャリア、ミセスまでクリエーター系やキャラクター系が好調で、SCではナチュラルライフスタイル系やティーンズ系が売上を伸ばした。秋商戦で好調が目立ったラグジュアリー系は明暗が分かれて減速したが、宝飾ブランドは堅調を継続した。
 総じて固定客比率の高い自社開発・計画MDの中〜高価格大人ブランドが健闘する一方、流動客比率の高いODM依存・売れ筋追い継ぎ接ぎMDの低価格若向けブランドが低迷したと総括されよう。

アパレルブランドの三層構造

 アパレルブランドは各タイプで三層に市場を分け合っており、同タイプでも1)デザイナー/パターンナー/生産管理スタッフを抱えて自社で企画から生産管理まで貫徹する計画MDの中高価格ブランドがリスクを負って開発したトレンドを、2)デザイナーはいてもパターンや生産管理は外注するOEM生産の中価格ブランドが半歩遅れで追い、3)バイヤーが企画仕入れするODM依存の低価格ブランドが値頃で裾を追う、という構図が成り立っている。
 1)は完成度が高く差別化出来るが開発期間が長く開発固定費も高くつくから、ロットがよほど大きくない限り価格が高くなるし、リスクを負ったプロダクトアウトの性格が強い。3)は完成度が低く同質化しがちだが開発固定費が軽く、短い開発期間で売れ筋を低価格で訴求出来る。2)はその中間に位置付けられるが、MD展開の技がないと価格も魅力も中途半端になってしまう。1)は計画MD比率が高くスタイリング提案が明確だが、3)は売れ筋後追いで継ぎ接ぎのMDになり、単品の価格と鮮度を競うしかない。1)をキャラクターブランド、2)はMDブランド、3)はファストブランド、とでも言い分けられよう。ちなみに109市場の単品ボトムを例にとれば、1)は8800円から12800円、2)は5900円から6900円、3)は2900円から3900円、といったところだ。
 この1)〜3)層の組み合わせで、同じタイプを狙っても館のポジションは大きく異なる。キャラクターブランド比率が高ければトレンドをリード出来るが裾野が広がらず、ファストブランド比率が高いと同質化と値崩れで売上が低下して行く。キャラクター/MD/ファスト三層の適切なバランスが館の魅力と売上を決めると言って良いだろう。

販売効率別ベスト5ブランド

 好調ブランドを販売効率で3段階に分けてベスト5を見ると、月坪超100万円級では1)セリーヌ、2)シャネル、3)エモダ、4)ジェラート・ピケ、5)ルイ・ヴィトンと並ぶ。高単価のラグジュアリーブランドと若向けでも自社開発の中価格人気ブランドがベスト5を分け合っている。月坪50〜100万円級では1)アンクライン、2)アニオナ、3)マーク・バイ・マークジェイコブス、4)ルネ、5)ナラカミーチェと並ぶ。高単価のプレタ〜ブリッジブランドに欧州生産のキャラクターブランドと自社開発型のシャツ・シングルライナーが加わっている。月坪50万円未満級では1)ヨウジヤマモト・プリュスノアール、2)PLST、3)ヤッコ・マリカルド、4)ニコアンド、5)シンシア・ローリーと並ぶ。テイストや世代は違っても顧客が支えるクリエイティブなブランドに加え、SCでモード系とナチュラル系を二分するアラ40の両雄が並んだ。
 この他の好調ブランドは、クリエーター系ではコムデギャルソン、ヨウジ・ヤマモト、ジュンヤ・ワタナベ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、トッカ、キャリア〜ミセスの顧客ブランドではギャバジンKT、エアパペル、インゲボルグ、バーバリーと並ぶから、時のトレンドに流されない固定客のついたクリエイティブなブランドの強さが痛感される。
 どの販売効率帯でも52週継ぎ接ぎMDで売れ筋を追うようなOEM/ODMブランドはベストランキングには入って来ないから、忙しいだけのくたびれ儲けというのが実態なのではないか。

20年振りの時流転換でどうなる

 昨冬商戦の結果を見る限り、小細工を労して売れ筋を後追いするより、きちんと自社開発して振れないキャラクターで顧客を捉えるというブランドビジネスの王道が勝ち組の条件だったが、長年続いた「等身大」スタイルに飽きて「背伸び」スタイルへの買い替えが急進するこれからは何が勝ち組の条件となるのだろうか。
 解り易く商品のビジュアルで言えば、「負け組」の条件は「汚い」「貧乏臭い」「ゆるレイヤード」「加工カジュアル」「ジーニング」など、「勝ち組」の条件は「キレイ」「リッチ」「スリム(ゆるスリム含む)」「スタイリッシュ」「モード」という事になる。「等身大」より「いい女」が志向されるのだ。
 物の作り方で言えば、「負け組」の条件は「ODM/OEM」「流通素材」「後加工」「売れ筋追いの継ぎ接ぎMD」、「勝ち組」の条件は「自社開発」「オリジナル素材」「装飾加工」「面を展開する計画MD」。見せ方売り方で言えば、「負け組」の条件は「単品継ぎ接ぎMDのお化粧ディスプレイ」「パート&バイト依存のローコスト運営」、「勝ち組」の条件は「計画的に面を切り替えるVMD」「正社員主体のハイバリュー運営」。ビジネスモデルで言えば、「負け組」の条件は「厚値入れの高ロス」「利益独占の引き吊りスマイルカーブ」、「勝ち組」の条件は「薄値入れの低ロス」「利益共有の仲良しスマイルカーブ」と御宣託しておこう。
 商品はともかく、物の作り方も見せ方売り方もビジネスモデルも皆、昔から変らぬブランド商売の王道だ。日本中が長らく続いたデフレの黄昏の中で理想を見失い、「等身大」という退化の微温湯に浸かっていたガラパゴスな歳月は間違っていた。ファッションビジネスも小売商売も、「等身大」という退化の隘路を抜け、もう一度、理想の追求を取り戻すべきだと思う。

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