小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年07月10日付)
『トップダウンかボトムアップか』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 TSIホールディングスは今期からスタートした中期経営計画の方針を発表したが、その骨子は『本部主導の構造改革から各事業会社が主体性を発揮する再成長へ』という一言に尽きる。赤字事業の出血を止める構造改革は本部主導の荒療治を必要としたが、出血が収まって来たので各事業会社が主体性を発揮する再拡大路線に転ずる、という路線転換と受け止めてよいだろう。
 TSIに限らず、買収合併等を経て多数の事業を抱える大手ファッション企業では経営の壁に当たる度に『本部主導か事業部の主体性か』が問われて来たが、その判断次第で企業の盛衰が決まって来たと言っても過言ではない。事業規模がそこまで大きくないファッション企業まで含めて言えば『トップダウンかボトムアップか』と言い換えても大差はあるまい。MDやDBにフォーカスすれば、『全体最適か個別最適か』『CMIかSMIか』『在庫は前進分散配備か後方集中配備か』といった実務課題にも通ずる。
 半世紀近くもこのギョーカイの盛衰を見て来た経験から言えば、この磁極シフトは状況に応じた必然で、適切にその方向とタイミングを見極める必要がある。経営者の最高責任はその判断と執行にあると言ってもよいだろう。長年の企業ウォッチングから見た“公理”は以下の三点だと思う。

1)事業を確立・運営するのは個々の事業責任者であり、壁に当たらない限り主体性に任せた方がよい。事業の確立や立て直しには最低2シーズンはかかるから、上手く行かないからといって途中でひっくり返すと却って時間を要し出血も多くなる。壁に当たって3シーズン以上建て直せない、あるいは出血が自己資本を損なうほどに至れば、放置せず本部主導で再構築する。

2)本部スタッフとりわけ経営企画や人事の権限が拡大して現場の機動性が損なわれ厭戦気分が広がれば現場主導のボトムアップに転じ、現場に任せ過ぎて規律が崩れ効率が悪化すれば本部主導のトップダウンに転じる。

3)マーケットが同質化してパワーゲームに向かう局面では本部主導のトップダウン、マーケットが多様化して局地戦に向かう局面では事業部主導のボトムアップ、勝ち戦で戦線を拡大する局面では事業部主導のボトムアップ、負け戦で戦線の整理撤退が急がれる局面では本部主導のトップダウンが定石だ。

 難しいのはマーケットが多様化して局地戦闘力が求められる状況で負け戦に追い込まれる場合で、今日のファッションマーケットではコンテンツがローカルに多様化する一方でプラットフォームはパワーゲームに直面しており、その中で負け戦に追い込まれると判断が難しい。コンテンツ軸の店舗販売事業は事業部主導、プラットフォーム軸のEC事業は本部主導という判断が基本だが、個別企業の置かれた状況で異なるかも知れない。
 岐路に立つ幾つかの大手アパレルチェーンや大手アパレルメーカーの判断はどっちであるべきか。親切心で耳の痛いホントの事を言って逆恨みされるのも老体には堪えるから、読者の想像に任せよう。

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