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ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『“両極端”のユニクロとしまむら チェーンストア衣料品はどちらに学ぶべきか?』
(2024年04月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 チェーンストア衣料品の衰退は衣料消費の萎縮に加え、ユニクロとしまむらに売上を奪われたことが大きかった。ならばチェーンストア衣料品が復活するには両者に学ぶべきだが、両極の性格を持つ両者のどちらに学ぶべきか、その分岐点は店舗の立地にあると思われる。

 

■ユニクロとしまむらに奪われた1兆4300億円

 

 「チェーンストア」と言っても食品やドラッグ、住関連や家電、アパレルや均一価格雑貨など様々な分野のチェーンがあるから、本稿で「チェーンストア衣料品」と呼ぶのは「食品部門を主とするチェーンストアが併設する衣料部門」と定義するべきだろう。衣食住を網羅する総合量販店(GMS)はもちろん、食品スーパーやコンビニエンスストアも想定される。

 「食品部門を主とするチェーンストア」に近いのが日本チェーンストア協会に加盟する小売チェーンで、コンビニは含まない一方で一部のホームセンターも加わるから定義とイコールではないが、衣料品の凋落が顕著に見られる。「チェーンストア販売統計」の売上総額が1992年から2023年で88.4%に萎縮する中、食料品のシェアが43.2%から69.9%に上昇した一方、衣料品のシェアは25.6%から5.5%に急落し、92年の3兆9265億円から7402億円と18.9%に激減している。

商業動態統計の「織物・衣服・身の回り品小売業」売上もこの間に56.9%に萎縮しているから相応の変化と言えなくもないが、同率の萎縮ならチェーンストア衣料品売上は2兆2340億円ほどになるはずなのに現実は7402億円だから、さらに1兆4940億円も萎縮したことになる。この間にユニクロとしまむらの国内売上は1兆4300億円も増えているから、チェーンストア衣料品はユニクロとしまむらに売上を奪われたと見て差し支えないだろう。

チェーンストア衣料品はどちらに多くの売上を奪われたのか、92年〜2023年にユニクロは8760億円、しまむらは5540億円、国内売上を増やしているから、ほぼ6対4ぐらいだが、立地によって影響度合いは違ったのではないか。両者の影響を測るにも両者に学んで対策するにも、両者の性格とビジネスモデル、運営効率を正しく掴む必要がある。

 

■両極のユニクロとしまむら

 

 「ユニクロ」と「しまむら」(「ファッションセンターしまむら」業態)は商品政策も出店政策もサプライチェーンもロジスティクスも全くの両極にあり、異なるロジックで成功しているから、どちらをベンチマークするかで方向が大きく分かれる。

「万人のライフウエア」を謳ったコンセプチュアルな「縦売り型」自社開発MDで立地を上りグローバルブランドに出世した「ユニクロ」、生活圏の庶民に寄り添った「横売り型」仕入れ品揃えで津々浦々のローカルに定着して「衣料品のエッセンシャルストア」となった「しまむら」。その違いは「縦売り型」自社開発MDと「横売り型」仕入れ品揃え、地域商圏から広域商圏への上り出店政策と生活商圏密着の不動の出店政策に集約されよう。

「ユニクロ」の「縦売り型」自社開発MDとは、素材もデザインも絞り込んで(代わりに色・サイズは広げる)継続販売する定番商品を大量計画生産し、生産地出荷倉庫、消費地DC※、店舗後方ストック、売場陳列フェイスと4段階に積み上げて売り減らす「多段ダム型サプライ」で、BSに計上される在庫(消費地DC※在庫)だけでも店舗在庫の1.5倍を積み上げている。「カスタムオーダー」(実態は既製品在庫)に象徴されるように、色・サイズ在庫の偏りによる欠品は素材を積んで期中に補充生産しているようだが、在庫回転は2.85回(23年8月期の国内ユニクロ)にとどまるから計画生産が大半と思われる。

「しまむら」の「横売り型」仕入れ品揃えは、鮮度とバラエテイを保つべく引きつけた当用(必要最小限)仕入れ品を売り切って売れ筋要素を類似商品で追っていく「売り切り型リレーサプライ」で、倉庫にも店舗後方にも補給在庫を持たないから売場に陳列している商品が全てだ。平米当たり期末在庫は2.5万円と国内ユニクロの14.1万円の18%と極めて薄く、最盛期の10〜12回転からは減速したものの24年2月期も7.48回と、在庫回転は国内ユニクロの2.62倍速い。

色・サイズを揃えて縦売りする「ユニクロ」はフェイシング量(SKU当たり陳列点数)も厚く、売場で見る限り標準で6点、重点商品では1ダースにも及ぶが(当然、店舗の販売効率で設定は異なると思われる)、「しまむら」では各1点/中心サイズのみ各2点を基本に高効率タイプは各2点/中心サイズのみ各3点といったバンドルで投入している。

品揃えのバラエティを坪当たりの品番数で見れば、継続補充されてフェイスが維持される「ユニクロ」がほぼ1品番と変わらないのに対し、「しまむら」はシーズン初期で5品番、類似品の売れ残りが重なって来るシーズン末期は10品番ぐらいまで混み合ってくる。「ユニクロ」が色・サイズの展開で顧客を広げているのに対し、「しまむら」はテイストとデザインのバラエテイで顧客を広げているが、実態はそうとも限らない。

「ユニクロ」にはコンセプチュアルなNB(ナショナルブランド)としての文法と仕様があって特有のかっちりした仕上がり感があり、NB世代の高齢層の支持は揺るぎないが、抜けて着こなす若年層にはしっくりこない。若年層は「GU」に任せるという分担なのだろうが、「GU」の仕様も若い大人向けだから、ティーンズやヤングまでカバーするのは難しい。「しまむら」もバラエテイがあると言っても文法と仕様はコンサバなミセス/アダルト向きで、抜けた軽快な着こなしを志向する子育て世代やスタイリッシュ志向のバリキャリはカバー出来ていない。

ロジスティクスも「ユニクロ」はパッキン単位※で全国数カ所のDC(ユニクロは倉庫配置を開示していない)から店舗配送していると思われるが、「しまむら」は店タイプ別のSKU数量組み合わせバンドルを生産地で組んで全国10ヶ所のリージョナルTCで自動仕分けし、自社の夜間ルート便で各店舗に配送して店間移動品を回収している。24年問題でルート便のカバー範囲が狭まるのを中継デポで補っているようだが、店受け取りが9割近いECがマーケットプレイス化※して拡大する先々を考えれば、12〜14リージョナルに再編するべきだろう。

VMDと在庫の消化運用も両者で異なる。「ユニクロ」は棚割りをフェイシング管理して継続補給するのが基本だが、重点品目は巨大テーブルに積み上げて単品(ないしは定型ルック)訴求し、期末はエリアの基幹店に在庫を集約して売り切っている。「しまむら」は客層×カテゴリーの平場構成をミニマムのフェイシング量で心太運用するアナログ管理で、SKU単位に自動振替して店間移動し消化するのが基本。「ユニクロ」のように継続補給する棚割りフェイスや巨大テーブルでの単品訴求、エリア基幹店への在庫集約は見たことがない。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とPC(Process Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。PCは食品小売業において生鮮品や惣菜の仕入れと加工、包装、出荷を一括する地域拠点。

 

■両者の商圏規模と出店戦略はこんなに違う

 

このような両者の違いは出店戦略に重ねて見れば理解できる。

仕入れ型のカジュアルチェーンから縦売り型のライフウエアSPAへと時間をかけて進化した「ユニクロ」は、当初のローカルの生活圏立地から地域圏立地、リージョナルな広域圏立地、果ては大都市のターミナルやダウンタウンへと出店立地を上って行った。立地を上るとともにMDを集約して縦売りを極め、フェイシング量も積み上げて行った。MDを集約してフェイシング量を積むほど多くの客数が必要で、出店立地の上りシフトと一致したからこそ挫折することなく成長できた。

一方の「しまむら」はローカルや郊外の生活道路沿いという立地を動かすことなく、客数が限られる生活圏に適した間口の広いバラエティとミニマムなフェイシング量で薄い在庫を回転させる「エッセンシャルストア」の地位を固め、リスクを冒すことなく安定して成長できた。

「しまむら」は標準の商圏規模を人口2万5000人としているから、フェイシング量の格差から「ユニクロ」の標準商圏規模は6倍の15万人程度と推察される。もちろん、「しまむら」にも「ユニクロ」並みに高密度商圏の店舗もあるし、「ユニクロ」の広域SC店舗は40万人以上、都心店舗は100万人以上をカバーしているから幅はあるが、商品政策やロジスティクスと出店立地が一致していることを理解して欲しい。

ここを強調しているのは、チェーンストア衣料品の多くが「しまむら」や「ユニクロ」に対抗する過程で立地と噛み合わない商品政策を志向して挫折するケースが絶えなかったからで、とりわけ生活圏や地域圏に立地しながら「ユニクロ」並み、あるいはそれ以上の広域を狙う商品政策を志向するケースが少なからず、販売効率や在庫回転、人時効率が採算に届かず行き詰まることが多かった。

では「しまむら」や「ユニクロ」はどの程度の運営効率なのか、損益に直結する店舗運営の効率指標を比較してみよう。

※パッキン単位・・・EC向けはオリコンだが店舗向けもオリコンに切り替えているかも知れない

※ECのマーケットプレイス化・・・自社ECサイトに他社商品も揃えて品揃えを拡大し、検索広告などリテールメディア事業の機会も開く。

 

■ユニクロとしまむらの店舗運営効率を比較する

 

 一人当たり3476.6万円を売る国内ユニクロ事業は平均1030平米の店舗をフルタイマー15.7人とパートタイマー28.7人(8h換算11.1人)で回して9億3621万円を売り上げ(23年8月期)、一人当たり4122.4万円を売るしまむら(連結ベース、以下同)は平均1011平米の店舗を正社員1.42人とパートタイマー5.52人(8h換算)で回して2億8608万円を売り上げている(24年2月期)。国内ユニクロは平米当たり年間91.0万円を売る売場を一人で38.2平米カバーし、しまむらは平米当たり年間28.3万円を売る売場を一人で145.4平米もカバーしている。

平米あたりの販売効率が3.2倍も違うのに、しまむらは一人が国内ユニクロの3.8倍の売場をカバーして国内ユニクロの1.2倍近い一人当たり売上を確保している。とは言っても仕入れ品揃えのしまむらは粗利益率が34.4%と自社開発SPAの国内ユニクロの47.9%の7掛け強だから、一人当たり粗利益額は1418.1万円と国内ユニクロの1665.3万円の85%にとどまる。

結果として、しまむらの人件費率は12.8%に収まりながら一人当たり人件費は539.9万円(給与476.3万円)、ファーストリテイリング(国内ユニクロ事業としての開示が近年はない)の人件費率13.9%と一人当たり売上から算出した国内ユニクロの一人当たり人件費は483.2万円と12%近い開きがある。

その差は一人当たり保守面積の3.8倍の差と営業時間の短さ(しまむらのほとんどが路面店で10時〜19時営業)にあるが、一人が145.4平米の売場を保守できるマテハン効率の高さこそ高い運営効率の主要因と見るべきだ。

 

■マテハン効率の格差は陳列・補充の方式にある

 

ユニクロはRFIDで在庫管理や客注品・迷い子品探し(RFIDレーダー活用)を効率化し、衝立式のフルセルフレジで精算人時を削減しているが、棚割りフェイスの畳み直し・棚戻し、後方ストックから補充と品探しに膨大な人時量を要している。対してしまむらはハンガー陳列ばかりだからアナログな陳列フェイスの維持管理と棚戻しが容易で、品出しはアドレス指定された初期投入品と店間移動品だけで後方ストックからの補充がないから、ユニクロに比べれば極めて負担が軽い。その分、単品集積陳列のインパクトは欠くが、継続補給して縦売りするわけではないから困ることもない。

VMDのインパクトは望むべくもないが、華やかな広域モールやターミナル商業施設に出店しているわけではなく、気負わない普段着で行ける生活圏に位置しているのだから無理に気取る必要もない。顧客が値札と比較する「商品の見栄え」を高めるには、ディスプレイに使うトルソーの骨格タイプ的な選定と今風なウエアリングのコーディネイトを外さなければ済むから、ユニクロ風な人時量食いのVMDを真似る必要もない。

しまむらは店舗運営の大半を近所の主婦パート(顧客代表でもある)に依存しているだけに、マテハンの作業負担や待遇に細かく気を配っている。品出しのカートは不格好に大きいが作業が楽で、脚立作業を要する高所陳列も回避している(労災を慮れば180cm高以上の脚立を店舗においてはいけない)。対してユニクロは数年前まで後方ストックのパッキン縦積みや高所陳列を容認するなど(現在も継続しているかは不明)、マテハン作業の負担と安全に配慮を欠いている。その気配りの差がマテハン効率、ひいては人時効率の格差をもたらしているのではなかろうか。

店舗運営とは現場作業の積み上げで効率も業績も動くものであって、本部が理屈で考えるだけでは成果は得られない。チェーンストア衣料品も、そんな原点から再構築されるべきだろう。

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