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WWD 小島健輔リポート
『三陽商会の復活は本物か』
(2023年11月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ロスト・バーバリーにコロナ禍が重なって6期連続の営業赤字に沈んでいた三陽商会も23年2月期はようやく浮上し、コロナが明けて百貨店に客足が戻った24年2月期中間期は回復に勢いが付いて通期決算を上方修正し、株価も急回復しているが、三陽商会の復活は「本物」と言って良いのだろうか。

 

■今中間期業績と24年2月期見通しから回復度を検証する

 今24年2月期中間期(23年3〜8月)の売上高は281億5500万円と前中間期から10.6%増加したが、インバウンド売上13億円を除けば5.5%増にとどまり、平均12%の単価アップで売上数量は1.3%減少しているから、客数はほとんど回復していない。売上高はコロナ前19年3〜8月売上を新会計基準に換算した351億3000万円と比べれば80.1%にとどまるが、同じく前中間期から売上を10.0%伸ばしたオンワードホールディングスとてコロナ前20年2月期中間期(19年3〜8月)の76.3%にとどまるから、コロナ禍からの売上の回復は大手アパレルの平均的水準ではないか。

 三陽商会は23年2月期第1四半期から新会計基準に移行しており、5億円上方修正された24年2月期通期売上見通し615億円(前期比5.5%増)は、コロナ前20年2月期の12ヶ月間(14ヶ月変則決算の19年3〜20年2月)売上を新会計基準に換算した757億5000万円に対しては81.2%になるから、回復ペースは中間期と大差ない。遡ってロスト・バーバリー前14年12月期の1109億9600万円に対しては55.4%、同新会計基準換算推計売上1464億3000万円(同期の開示「前売」売上1428億3000万円+卸売上他)に対しては42.0%と遠く届かない。14年12月期の新会計基準換算売上は同期の百貨店売上比率77.4%、推計手数料率28.8%として私が計算したもので、多少の誤差があるかも知れない(「前売」とは小売を指す)。

旧会計基準と新会計基準の大きな違いは、消化仕入れの百貨店売上が旧基準では卸売上だったのに対して新基準では小売売上になり、販売手数料分(百貨店の歩率)が売上と粗利益、販管費に上乗せされるが、営業利益以降は変わらない。百貨店売上比率にも拠るが、百貨店売上比率が新基準で65.8%、手数料率が推計31.7%と見た 23年2月期だと旧基準より売上で26.4%、粗利益率で10ポイント強程度、上乗せされる。粗利益率が18年12月期の48.4%から23年2月期は62.0%、販管費率も同52.1%から58.1%に跳ね上がっているのは会計基準変更のマジックに依る部分が大きい。ちなみに20年2月期の新会計基準粗利益率は59.2%と開示されているから、23年2月期は2.8ポイント上昇したことになる。

今中間期の営業利益は7億1800万円と前中間期の3億1700万円の赤字から10億3500万円上向いて黒字転換し、コロナ前20年2月期中間期の8億6300万円の赤字からは15億8100万円改善された。半期純利益も7億4400万円と前中間期の2億5500万円の赤字から9億9900万円上向いて黒字転換し、20年2月期中間期の6億600万円の赤字からは13億5000万円改善された。

 4億円上方修正された24年2月期通期営業利益見通し31億円は前期から38.7%増え、20年2月期の28億7500万円の赤字からは59億7500万円も改善されるが、ロスト・バーバリー前14年12月期の102億1300万円に対しては30.4%と程遠い。3億円上方修正された純利益28億円は前期から9億円増え、20年2月期の26億8500万円の赤字からは54億8500万円も改善されるが、14年12月期の63億1800万円に対しては44.3%にとどまる。25.53円上方修正された24年2月期の一株当たり純利益見通し240円は前期から34.3%増え、20年2月期の▼219.17円からは459.17円も改善されるが、14年12月期の502.56円に対しては47.8%にとどまる。

 コロナ禍からの回復はようやく8合目、ロスト・バーバリーからの回復はまだ4合目というのが現実だが、大江体制になってからの回復は目覚ましく、株価も22年3月7日の安値583円を底に回復に転じている。

 今中間期の業績回復と24年2月期見通しの上方修正、配当予想の59円から88円への積み増しが発表された10月6日には前日終値の1,858円から2,258円に急騰。11月1日には年初来高値の2,751円(終値は2,702円)を記録し、1月16日の年初来安値1,264円の2.18倍、2020年10月2日の安値464円(終値は495円)からは5.93倍に達したから、マーケットは三陽商会の業績回復を両手を上げて評価したことになる。振り返って見れば、14年5月19日のバーバリー終了の発表を受けて翌5月20日に2,100円の安値を付けても、15年8月3日には4,570円の高値(上場来高値は89年10月4日の21,900円)を付けているからポスト・バーバリーの期待は高かったわけで、マーケットの期待値はまだ6合目あたりなのかも知れない。

 

■販路構成変化と消化率を検証する

 販路別売上比率は百貨店が今中間期で65.2%、23年2月期で65.8%と、コロナに直撃された21年2月期の54.3%、22年2月期の56.6%を除けば、コロナ前18年12月期の65.3%、17年12月期の65.2%からほとんど動いていないように見えるが、新会計基準の今中間期、23年2月期を旧会計基準に換算すると56.6%、57.0%ほどと推計されるから、コロナ前からは8.5ポイントほど低下している。75〜80%にも達していた16年12月期までのバーバリー時代からは20ポイント前後も低くなっているが、それは意図して下げたというより「バーバリー」と「マッキントッシュ」のブランド力(百貨店内好立地売場の確保力)の差を反映していると見るべきかも知れない。

直営店は15年12月期の12.3%からコロナ前18年12月期の12.0%までほとんど変わらず、コロナ禍の21年2月期は8.3%、22年2月期は6.3%と百貨店以上にシェアを落とし、23年2月期も旧基準で7%と回復が鈍い。商業施設や路面に出店する直営店ブランドは「マッキントッシュフィロソフィー」や「ラブレス」に限られ、いずれもブランド自体が伸び悩んでいるからだ。

販路は別としても、「バーバリー」に代わる主力ブランドとして育成に注力して来た「マッキントッシュロンドン」と「マッキントッシュフィロソフィー」も売上の伸び悩みは否めない。16年12月期に前者が116億5000万円、後者が79億2000万円、計195億7000万円(小売売上)まで伸びたものの以降は伸び悩み、コロナ禍から回復しても90億円規模、70億円規模にとどまって16年の水準に届いていないと見られる。後述するように「マッキントッシュ」本家も含めた3ブランドの棲み分けと市場浸透力には課題があり、「バーバリー」のように小売販売額が1000億円を大きく超えるブランドに育つ目処は見えていない。

そのバーバリー社の売上は三陽商会とのライセンス契約を終了した16年3月期の25億1500万£から23年3月期の30億9400万£(約5051億円)へ23.0%増加し、営業利益率も16.6%から20.5%に上昇しているから、グッチやサンローラン、ディオールやプラダのような派手さは無くてもブランド価値は不動のようだ。

EC・通販は15年12月期の2.6%から16年12月期5.3%、17年12月期8.0%、18年12月期9.2%と着々と伸び、コロナ禍の21年2月期は店舗の休業もあって22.5%まで急拡大したが、店舗回帰とともに22年2月期は18.8%、23年2月期は旧基準換算で19%、今中間期は同17.5%ほどに停滞している。試着が欠かせない高単価アウターが中心のため、手頃な単品でEC売上を伸ばすよりSNSと一体に店舗へ送客するOMOが要となる。ブランドサイトとECサイトを統合してコーポレートECサイトへリンクし、各ブランドのアプリも揃っているが、使い勝手の評判は今ひとつで、店舗在庫引き当て(試着/受け取り/宅配)やBOPISなど先行するアパレルのようなOMO利便は充足されていない(取り寄せ試着は可)。

アウトレットは15年12月期の9.4%から4.7%、5.5%と低下したが、プロパー店の値引き販売を抑制すべくアウトレットに移動して値引き消化する役割分担が定まった22年2月期は11.7%、23年2月期は旧基準で14%、今中間期も同14.6%ほどと推計される。これに伴い、プロパー販売比率は22年2月期の61%から23年2月期は65%、今中間期は68%に高まったが、改善されたとは言え期中総消化率は23年2月期で72%と28%が翌期に持ち越され、今中間期末在庫も旧在庫(前期品)が24%を占めた。24年3月期はプロパー販売比率を67%以上、期中総消化率は79%以上を目指しているが、それでも21%は翌期に持ち越されることになる。

改善されても消化水準は低いと思われるかも知れないが、回転の速い婦人服(23年3月期で三陽商会衣料品売上の43%)はともかく、紳士服(同57%)のスーツ/コート期中消化率は60%に届かないのが業界平均だから、三陽商会の期中総消化率は上手くコントロール出来ている方だと思う。

オンワードの百貨店売上比率が08年の75%からコロナ禍の20年(21年2月期)には29%まで激減して33%に急増したECに抜かれ、23年2月期は百貨店33.2%/EC30.0%/SC他36.8%と劇的に再編されたのに比べれば、高単価ブランドを揃える三陽商会の百貨店依存率の下降は極めてスローペースだ。ECの頭打ちと直営店の伸び悩みを見れば、百貨店依存率がさらに低下して過半を割ることはなく、「マッキントッシュロンドン」や「マッキントッシュフィロソフィー」のブランド価値が高まっていくなら、むしろ百貨店依存率は再上昇に転ずるべきだろう。

 

■マーチャンダイジング効率と商品財務は回復したか

 商品財務については直近の22年2月期と23年2月期、23年2月期中間期(22年3〜8月)と24年2月期中間期(23年3〜8月)で比較したが、三陽商会は23年2月期の第1四半期(22年3〜5月)から新会計基準を適用しており、22年2月期だけは旧会計基準となるため、23年2月期を旧会計基準に換算して本決算を比較し、中間期は新会計基準で比較した。

 23年2月期では棚資産回転が132.2日と前期から10日弱短縮されて在庫回転も2.76回と0.2回転速まり、買掛債務回転が86.7日と11日弱延びてCCCは66.5日と24.8日も短縮され、必要運転資金は84億1000万円と12億5000万円圧縮されて純資産対運転資金率は23.1%と5.4ポイント抑制された。粗利益率は52.0%と4.0ポイント、交叉比率は143.6と20.2ポイントも上昇している。販管費率は47.2%と3.5ポイント低下し、営業利益率は4.8%と前期の−2.7%から7.5ポイントも浮上した。旧会計基準だと売上が新会計基準の8掛け弱になるため、利益率はその分、嵩上げされる。

 24年2月期中間期では棚資産回転が137.2日と前中間期(22年3〜8月)から7.6日短縮されて在庫回転も2.66回と0.14回転速まったが、買掛債務回転が75.0日と6.3日短縮されてCCCは79.3日と1.9日の短縮にとどまり、必要運転資金は121億4000万円と8億9000万円増加し、純資産対運転資金率は31.8%と1.1ポイントの低下にとどまった。粗利益率も62.0%と0.6ポイント上昇し、交叉比率は165.0と10.3ポイント上昇している。販管費率は59.5%と3.2ポイント低下し、営業利益率は2.6%(旧会計基準では3.2%)と前期の−1.2%から3.8ポイント浮上した。

 こうして見ると三陽商会の業績が上向いたのは23年2月期の下期(22年9月〜23年2月)からで、アパレル各社売上月報の19年比推移を見ると22年10月が転機だったことが分かる。浮上したとは言えバーバリー時代14年12月期の営業利益率9.2%に比べればまだ利益率の水準(旧会計基準だと23年2月期は4.85%)は低いが、すでに過半まで戻している。消費の風向きではなく三陽商会の経営努力による回復の加速はこれからと見るべきだろう。

 

■リストラで継ぎ接ぎになった組織は回復したか

 三陽商会はロスト・バーバリーの急激な業容縮小を予見して早くも13年6月、業績が悪化していく中で16年12月、18年12月、21年3月の4度、計946人の希望退職を断行し、連結従業員数(正社員+臨時従業員)は14年12月期の5730人から21年2月期末は3495人と61.0%、22年2月期末2824人と49.3%、23 年2月期末は2633人と46.0%に減少している。従業員の削減とともに平均勤続年数も短くなり、16年12月期の19.0年をピークに20年2月期は13.4年まで短縮され、23年2月期はようやく14.4年まで戻している。

この間に多くの逸材が失われ、企画・生産から店舗運営・販売まで各分野の業務水準を低下させたことは否めない。ようやく回復に目処が見え始め、再成長への戦略展開へと移ろうという今、真っ当な経営者なら失われたものの重さを痛感しているに違いない。高品質な商品を作って高付加価値で販売する組織の再構築はこれからの課題だが、業種の際を超えて人材が逼迫する中、給与水準の回復が必定だ。

14年12月期で連結従業員数の97.7%、23 年2月期では99.7%を占める三陽商会単体の平均年間給与は15年12月期の687.4万円をピークに減少が続き、22年2月期には453.3万円と15年12月期の66%に低下し、世間に賃上げ機運が広がった23年2月期は485.7万円とようやく同70.6%まで戻している。かつての給与水準が高かったことは否めないが、今や大手アパレルの平均的水準に並び、しまむら(449.3万円/23年2月期)やユナイテッドアローズ(429.7万円/23年3月期単体)など小売チェーンとも大差なくなっている。高付加価値なハイブランドアパレルを志向するなら収益力も給与もそれなりの水準が問われるのではないか。

 

■高品質ものづくり体制はラグジュアリーに化けるか

 英国ヨークシャーの自社工場や東欧で生産される「マッキントッシュ」と三陽商会がライセンス生産する「マッキントッシュロンドン」「マッキントッシュフィロソフィー」の棲み分けは必ずしも明快でも戦略的でもないように見える。

「マッキントッシュ」は英国製のゴム引きトレンチコートが16万9400円(税込、以下同)と、今や35万7500円〜39万6000円もする「バーバリー」の英国製トレンチコートに比べれば意外に手頃で、英国風味も濃いから「お値段以上」のお値打ち感がある。セレクトショップを主な販路としているからコートの単品訴求にとどまり、百貨店内のブティックや直営店は限られるからブランドの顔が見えないのは残念だ。

「マッキントッシュロンドン」はオーセンティックな高品質ブリティッシュクロージングブランドと位置付けられるが、14万3000円の綿ギャバジンのトレンチコートは日本製でもウールコートやスーツ/ジャケット/パンツは中国製やベトナム製が多く、品質管理が徹底されているとは言え(それは匠が現場指導するユニクロも同じ)、有り難みは欠いている。布帛のアウターはともかくニットは価格相応の品質感がなく、平場ブランドと大差ない。デザイン面での英国風味も「マッキントッシュ」や「オニール」に比べれば格段に薄く、かつての「サンヨーバーバリー」に代わるハイブランドと言うよりベターゾーンの百貨店ブランドという位置付けに見える。21年に国内商標権を取得した「ポール・スチュアート」の方がまだキャラクター性があり、百貨店のベターブランドとは一線を画しているが、こちらも回復途上にある。

 「マッキントッシュフィロソフィー」はライセンスブランドというより、独自のマーケティングに基づく今風ユニセックス感覚の機能性ブリティッシュコンテンポラリーブランドに位置付けられ、価格帯は違うが「UNIQLO:C」、テイストは違うが「THE NORTH FACE PURPLE LABEL」に通ずるものがある。5万9400円のしなやかなウールポリ・ギャバジンのトレンチコートは中国製だが日本製に遜色なく、ゴム引きの蒸れる欠点を透湿防水防風3層ボンディングブロードで解消した8万3600円のフーデットコートは日本製の安心感もある。 

現社長の大江伸治さんがゴールドウイン再生の立役者だったからかも知れないが、ユニセックス感覚のスタイリッシュなブリティッシュコンテンポラリーウエアにアウトドアブランド的な機能性を加えた独自のマーケティングは光るものがある。未だ稚拙なストアマーチャンダイジングや店舗運営のスキルが伴えばと言う条件付きだが、ビッグブランドに化ける可能性を感じさせる。

顧客としては「マッキントッシュ」は英国製(東欧製もあるが)、「マッキントッシュロンドン」は日本製と言う先入観を抱くが、機能性の「マッキントッシュフィロソフィー」には生産地を問わない。価格帯から見ても百貨店のベターゾーンという販路から見ても「マッキントッシュロンドン」の主要アウターは日本製、とりわけコートとジャケットは自社工場製であるべきだが、自社生産体制への投資は後回しにされてきたのではないか。

業容がシュリンクする中でのリストラは国内工場にも及び、かつて存在したサンヨーエクセルは18年10月に豊島に譲渡され、サンヨー・インダストリー(スーツ特化の福島ファクトリー)はサンヨーソーイング(コート特化の青森ファクトリー)に統合された。福島ファクトリーも青森ファクトリーも縫製技術が高く21年2月に設備も増強されているが、前者はスーツ月産1300着、後者はコート月産1000着とキャパが限られ、稼働率重視で計画生産が優先されているからQRは望み難い。

キャパが限られるのはリストラを経て従業員が数十人と限られるからで(週間30時間未満勤務者は社会保険非加入)、職人の計画的育成による自社工場(サンヨソーイングは持分法適用子会社)の生産力増強が戦略的に意図されてはいない。翌期中期の計画にも自社工場増強の設備投資は盛り込まれておらず、自社工場の設備投資と職人の養成予算が必ず盛り込まれるラグジュアリー企業とは異質なものを感じる。高品質にこだわるなら工場と職人への投資は最優先されるべきで、それ無くしてラグジュアリービジネスへのチャンスは開かない。

「マッキントッシュ」にバーバリーに迫るブランディングを求めるなら、本家「マッキントッシュ」の直営店布石と百貨店内ブティックの多店化、「モンクレール」的なキャンペーンが不可欠で、並行品がECサイトに氾濫する状況も放置すべきではない。本家「マッキントッシュ」がメジャーにならなければ派生ブランドの「マッキントッシュロンドン」と「マッキントッシュフィロソフィー」が化けるチャンスも限られてしまう。マッキントッシュを所有する八木通商と三井物産、三陽商会のチームワークが問われるのではないか。

 

 

 

 

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