小島健輔の最新論文

ファッション販売2005年2月号掲載
『2005年のビジネスチャンス』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

消費大失速が来る

 紆余曲折しながら夏まではなんとか持った消費もオリンピックの終了とともに失速し、冬の深まりとともに低迷を深めている。では今年はどうなるかだが、明るい材料は一切ない。それどころか、消費を冷却する悪材料がめじろ押しなのだ。

 悪材料1)手取りがどんどん目減りする
 小泉政権になってから勤労者の社会負担が次々と引き上げられ、手取りがどんどん目減りしている。まず平成15年4月から健康保険医療費の自己負担が3割に引き上げられたが、昨年4月からは介護保険料が、同10月からは厚生年金保険料も引き上げられた。今年も4月から雇用保険料が、10月からは厚生年金保険料がさらに引き上げられる。加えて、昨年分の所得(年末調整)から配偶者特別控除が廃止され、マイホーム譲渡損失の損益通算(確定申告)も出来なくなった。さらに、今年分の所得から老年者控除も廃止され、所得税の定率減税も段階的に廃止されていく。
 恐ろしいことに、増税の本番はこれらの後に待ち受けている。2007年度以降に実施という消費税の大幅引き上げがそれで、消費どころか経済総体が畏縮して恐慌状態に陥りかねない。政府税調と小泉政権の目指すものは行革どころか、国民の犠牲の上に公務員天国を温存せんとする背徳の裏切りなのだ。
 これだけ次々と手取りが目減りしていけば消費が冷え込むのも当然で、昨年末から今年4月にかけては特に目減りが集中するから、消費マインドは一段と冷え込む事になる。

 悪材料2)団塊ジュニア世代が消費の主役を降りる
 平成カジュアルから平成ニューファミリーまで何段階もの消費ブームを支えて来た団塊ジュニア世代が30代半ばに差しかかり、昇進・転職でも子供の教育でも住宅取得でも階級分化の現実に直面して多くが疲弊している。一部に突出が見られるものの世代群としての勢いは衰え、消費の主役は前後の世代に分散する傾向が強まっている。
 一時は郊外SCを席巻したファミリーカジュアル業態も大半が長期低迷に陥り、その前後の世代をカバーする新手業態が業績を伸ばしているし、都心部でも団塊ジュニア世代とともに成長して来た大手セレクトが勢いを失う一方、若手世代を狙ったセレブカジュアル系やギャルOL系が勢力を伸ばしているではないか。
 前述した手取りの目減りも家庭形成期にある団塊ジュニア世代を直撃しており、消費力がさらに低下するのは避けられない。昨年から既に徴候は出ていたものの、今年は劇的な後退が拡がる事になるだろう。

 悪材料3)海外旅行回復でラグジュアリーブランド大失速
 ここ3〜4年続いたラグジュアリーブランドブームがついに本格失速する。今回のブームの背景は、1)9.11以降の海外旅行急減による海外購入分の膨大な国内回帰、2)階級分化が進行する中で階級所属の安心感を求めたゆえの大衆化、の二面と考えられるが、その両面が崩れつつあるからだ。
 海外旅行の復活は昨年のGWあたりから目立ちはじめ、出費額はともかく出国者数は昨夏でほぼ9.11前の水準に戻ったと言うから、今年のGWでは大量の海外購入が発生するに違いない。ラグジュアリーブランドの内外価格差は依然、3〜4割もあるし、スーパーブランドでは百貨店のポイント割引も効かないから、海外旅行が回復すれば国内回帰分の流出は避けられない。
 もう一面の背景だった急激な階級分化も一巡が近付き、日本社会は安定を求めて保守回帰の様相を強めている。では、この間に大量増殖したラグジュアリーブランド店はいったいどうなるのだろうか。上位集中が一段と進み、下位ブランドの淘汰撤退が続出するのは間違いないだろう。

 悪材料4)郊外SC大失速
 03年は47SCが開設され、平均商業面積も前年から43%増の28,455平米と大型化が急進。3万平米超の大型SCは20に達し、うち15は4万平米を超えた。04年も11月末までで55を数え、通年では60前後に達したものと見られる。平均商業面積も11月末までで27,505平米と高水準を維持。3万平米超の大型SCは通年で24を数え、うち18は4万平米を12は5万平米を超え、ローカル圏では既に7万平米級の開発競争に入っている。
 この煽りを受けて既存SCの売上急落が各地で多発しており、新設大型SCさえ新たな開発計画に怯えるという過熱ぶりだ。にもかかわらず、工場跡地等の豊富な物件供給とSPCなどの資金調達手法多様化により、開発ベースは加速こそすれ減速する気配はまったくない。このまま開発が進行すれば地方都市商店街は悉くゴーストタウン化するのはもちろん、大半の既存SCが大幅な売上減少に苦しむ事になる。
 売上が苦しいのは新設SCとて同様だ。開店景気で半年ばかりは盛り上がっても、周辺SCの売上を食った分はやがて潮が引くように落ちていく。ここ3年ほどの間に開設された郊外大型SCでは、初年度予算に届かないばかりか2年目、3年目と売上が落ちていくケースが頻発している。主要な郊外SCとターミナルSCの売上伸び率を比較すれば、明らかに後者の方が勝っているのだ(大都市ターミナル→地方都市ターミナル→ローカル郊外/ルーラル→大都市郊外の順)。
 郊外SCモールの主役を担って来た大手系ファミリーSPAの売上も昨春以降、釣瓶落としに急落しており、回復の目処さえ立っていない。今年から来年にかけても郊外大型SC開発はさらに過熱し多様化する事が確実で、パニック的売上減少に直面するテナントが急増するものと懸念される。

逆風下のビジネスチャンスはこれだ

 バブル崩壊来最悪の消費後退に直面するとは言え、冷静に需給関係を読んでニッチを狙う者には千載一遇のチャンスともなる。売上は需要と供給のバランスで上下するものだから、過剰供給の立地/SCを回避して供給不足の立地/SCを選択し、過剰供給の客層/価格帯/テイストを回避して供給不足の客層/価格帯/テイストを狙えば、必ずやチャンスが開ける。ポイントの業態開発や新手ローカルチェーンの台頭を見れば、チャンスの捕らえ方も想像がつくのではないか。

 チャンス1)供給不足のSCを選択せよ
 大都市周辺の激選区ではなく、これまで大型SCがなくて買い物の場に困っていたようなローカルやルーラルに開発された高占拠率型広域SC(売場占拠率10%以上圏が半径20km以上)、あるいは高質なサバブ住宅地圏に開発された足下特化小商圏型ライフスタイルセンター(売場占拠率10%以上圏が半径2〜3km)を選択し、その立地にあった業態を出店する。間違っても、既に周辺SCの商勢圏が重なりあっている立地に割り込むような侵略型SCには出店しない事だ。はじめの半年は良くても、後は売上が落ちていくだけだからだ。

 チャンス2)コストの安い定期借地権開発型SCを選択せよ
 資金調達手法が多様化していると言っても、土地をまともに購入して立派なRC建築のSCを造れば高コストは避けられず、テナントのコスト負担も重くなる。定期借地権開発のSCならテベの負担も軽いから、売上の割に家賃などの不動産費負担が軽くなる。鉄骨造りのプレハブ建築が理想で、アンカーも同様な低層鉄骨建築が良い。加えて、アンカー面積比率が低い方がテナントの負担は軽くなる。なぜなら、アンカーの坪当たり家賃は一般にテナントの3分の1程度だからだ。アンカーがデカくて立派なRC建築のSCはテナントにとって割の合わないSCなのだ。

 チャンス3)ニッチなフォーカスで顧客独占を狙え
 大型SCで数字を落としているのはファミリーカジュアルにせよOL狙いにせよ、テイストのフォーカスを甘くして広範な客層を狙った旧世代業態であり、テイストのフォーカスを絞った新手業態は数字を伸ばしている。大手の大型ストアが中核を占めていた数年前とはモールの様相は一変し、フォーカスを絞った個性的な新手業態のバラエテイが急速に拡がっている。要はモールの競争環境が成熟し、マーケットの切り取り方がニッチに変質したのだ。
 その中でも好調なのはテイストは絞っても世代はそれほど限定されない店で、小商圏で顧客化実績のあるローカル出身業態が多い。彼等に共通するのはモールの動員客数に依存し過ぎない事で、着実に顧客を蓄積して小商圏のライフスタイルセンターでも大型モールと大差ない販売効率を叩き出している。

 チャンス4)現場起点の運営で顧客満足を狙え
 彼等の成功を支えているのは店頭現場主導の運営だ。個店を積み上げてジュニアチェーンに成長した段階にあり、まだ現場主導の運営が生きている。各店頭の販売動向が品揃えに反映されるのはもちろん、基本は本部指示があるにせよ、個店で異なる状況に即した再編集陳列運用が店舗判断で行われている。
 本部のMDやディストリビューターがPOSデータに基づいて傾斜配分し、陳列指示書によって一律な運用を行うナショナルチェーンでは不可能な個店対応が実現されているからこそ、顧客が蓄積されて高い販売効率が得られるのだ。
 既にナショナルチェーン規模になってしまった業態でも、店舗主導の手法と精神を取り入れれば、現場に考える力が復活して個店対応力が高まり、業績が上向くのではないか。ましてや、まだ支店経営やジュニアチェーン段階にある業態は、ナショナルチェーン的な本部主導体制を急ぐべきではあるまい。

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