小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『アンドエスティHD決算に見る「挑戦」と「失敗」、そして求められる「革命」』
(2026年04月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

ƒvƒŠƒ“ƒg

 

2025年9月にアダストリアから商号変更して持ち株会社体制となったアンドエスティHDの最初の本決算となる26年2月期は、「挑戦」と「失敗」が交錯し、増収・営業増益ながら純利益は減益で、売上高・利益とも期初の予想に届かなかった。今期(27年2月期)から木村治氏から福田泰生氏へ社長も交代して再出発することになったが、商号も変えて5回目の変貌※1.を図ったアンドエスティHDにどんな課題があり、どんな打開策があるのだろうか。

 

※1.5回目の変貌…アンドエスティHDは、過去4回ビジネスモデルを変更し、現在5回目となる「小売業を超えたファッションプラットフォーマー」への変革に挑む。1回目が紳士服店からメンズカジュアル店への業態転換(1973年)、2回目がチェーンストア化(82年)、3回目がストアブランドによるOEM・ODM型モデルへの移行(97年)、4回目が自ら企画・生産を手掛ける垂直統合型SPAへの挑戦(2010年)。

 

 

■「挑戦」と「失敗」で業績予想未達となった26年2月期

 

アンドエスティHDの26年2月期は「挑戦」と「失敗」が交錯し、売上高は前期比3.8%増の3043億5100万円と3000億円台の大台に乗ったものの期初予想にはわずかに届かず(99.8%)、営業利益も同6.5%増の165億2400万円と期初予想比87.0%、当期純利益は同1.2%減の94億9800万円と期初予想比76.6%にとどまった。一株当たり当期純利益は205.86円と前期から1.47%低下し、ROEは12.0%と前期から1.1ポイント、24年2月期の20.9%からは8.9ポイントも落ち込んだ。ROAも7.0%と前期から0.4ポイント、24年2月期の11.3%からは4.3ポイント落ち込んだ。

 

「今後の成長の本丸」と位置付けるECプラットフォーム事業はGMV(流通取引総額)が14.8%伸びて462億円に達し、外部ブランドの流通構成比も9.7%まで高まった。外部モールを合わせたEC全体も4.8%増の763億円と、国内ブランドリテール売上高の28.8%に達した。その一方、連結売上高の87.3%を占める国内ブランドリテール事業は4.4%増の2658億300万円にとどまり、営業利益もわずかながら(3.2%)減益で、営業利益率は前期の6.0%から5.6%に低下した(営業利益にはHDを含む)。

 

グローバル事業は、アジアは伸ばしても米国事業の撤退で99.9%とわずかながら減収で連結売上高に占める比率は7.84%にとどまるが、営業利益は2.6倍と大きく改善され、営業利益率は5.8%と国内ブランドリテール事業(5.6%)を上回った。飲食事業の売上高は前期の14.0%増から1.1%増と急減速し、わずかに黒字転換したものの連結売上高の4.83%に過ぎず、業績への貢献は限られる。

 

これら営業損益に加え、特別損失に24年に買収したトゥデイズスペシャルののれんと無形固定資産の減損損失25億200万円、店舗の減損損失11億3700万円、米国事業譲渡に伴う関係会社株式売却損6億9500万円、他計47億3800万円、特別利益に福岡物流センターの固定資産売却益34億4600万円他を計上している。

 

「挑戦」と「失敗」とは言うまでもなくライセンス事業の「フォーエバー21」とイトーヨーカ堂との協業事業「ファウンドグッド」で、前者は25年10月、後者は26年2月で終了している。23年春に立ち上げた「グローバルワーク」の生活圏型低価格派生業態「スマイルシードストア」も26年2月期末までに「グローバルワーク」に転換されて消えている。業績への影響は「軽微」としているが、新規事業への拙速な取り組みと短期での終了が企業イメージや内部の士気に影を落としたことは否めず、社長交代につながったという見方もある。

 

25年9月には連結子会社ゼットンの財務経理責任者による1億7000万円の横領も発覚しており、ガバナンスの甘さも指摘される。総じて分散的な拡大に人材のリソースやガバナンスが追いついておらず、再成長するには一度、立ち止まって体制を再構築する必要がある。

 

福田泰生新社長の下で27年2月期は、連結売上高を3.2%増の3140億円、営業利益を4.1%増の172億円(売上対比5.5%)、30年2月期は連結売上高4000億円、ECプラットフォーム流通総額1000億円、営業利益320億円(売上対比8.0%)を計画しているが、外部事業の買収は別として、内部のリソース(事業モデルやブランドと人材)は力不足かもしれない。

 

 

■進化なき拡大がもたらした運営効率の停滞

 

木村治氏が21年5月27日に社長に就任した22年2月期から26年2月期までの4期間の業績を俯瞰すれば、事業買収もあって連結売上高は51.0%増加し、営業利益は2.52倍、純利益も倍近く、純資産も5割近く増えたから、拙速な「挑戦」による「失敗」はあったにしても、積極的な事業分散経営は十二分に業績を拡大したと評価される。石井稔晃氏以降6代(うち2代は福田三千男会長の兼務)の社長の中で石井稔晃氏と並んで最も業績を伸ばした社長だったことは間違いない。とは言っても効率指標は必ずしも上向いておらず、事業は拡大しても運営の仕組みや精度はさほど進化しなかったことが指摘される。

 

粗利益率は54.6%と22年2月期から0.5ポイント低下し、60%を超えていた10年2月期までの水準には遠い。販管費率は49.1%と22年2月期から2.7ポイント切り下げたが、42%台だったリーマン前とは比較すべくもない。営業利益率は5.4%と22年2月期の3.3%からは改善されたが、16年2月期の8.0%、20%に近かったリーマン前とは格差が大きい。

 

棚資産回転は4.64回と22年2月期の5.18回から0.54回減速しており、20年2月期の6.07回、10回転を超えていたリーマン前には遠い。交叉比率も253.1と22年2月期の285.4から年々低下しており、300を超えていたコロナ前、600〜800だったリーマン前とは比較すべくもない。

 

平米当たり売上高は22年2月期の67.2万円が73.4万円、79.3万円、80.5万円と25年2月期までは上向いていたが、26年2月期は77.3万円と4.0%低下し、22年2月期からは15.03%増にとどまった。この間に客単価が16.55%上昇したことを割り引けば実質の販売効率は全く伸びておらず、国内ユニクロ(25年8月期で102.8万円)の4分の3にとどまる。

 

一人当たり売上高は26年2月期で2221.4万円と前期から1.23%上昇したが、前々期の2267.4万円を2.03%下回り、国内ユニクロの4260.6万円とは倍近い格差がある。一人当たり粗利益高は1212.4万円と国内ユニクロ(2160万円)の56掛けにとどまるから、ユニクロと賃上げを競うのは無理がある。

 

こうしてみると、アンドエスティHDはプラットフォームに進化したEC事業を除けば、ビジネスモデルや運営の仕組みを進化させることなく戦線を広げて営業強化に突き進み、運営効率が停滞していったと捉えられる。それが国内ブランドリテール事業の実態だったのではないか。

 

■伸び悩むブランドリテール事業の突破口

 

国内ブランドリテール事業の売上高は、26年2月期で2658億300万円と前期比4.4%増にとどまるが、22年2月期からは40.9%増えている。国内ブランドリテール事業売上高の87.9%を占めるアダストリア本体も2335億6200万円と3.0%増にとどまるが、22年2月期からは36.3%増えている。連結子会社でZ世代狙いD2CアパレルのBUZZWITは125億6200万円と22年2月期から82.5%も伸びたが、前期は5.6%増、今期は2.3%増と減速している。連結子会社でベターレンジのセレクト業態を展開するエレメントルールは9.0%増の137億8100万円で、22年2月期から40.2%伸びている。アダストリア本体もBUZZWITも伸びが鈍化しており、本体の売上規模が大きいブランドの伸び悩みが成長の足枷になっている。

 

国内ブランドで売上高が最大規模(538億4200万円)の「グローバルワーク」が前期1.9%増、今期も2.2%増と伸び悩み、「ジーナシス」(116億2500万円)が前期95.1、今期99.4と連続して前年を割り、「ベイフロー」(109億9800万円)も97.4と前期の104.7から一転して落ち込む一方、「ニコアンド」(5.4%増の378億5000万円)や「スタディオクリップ」(4.5%増の239億1800万円)、「ローリーズファーム」(6.6%増の242億4900万円)は堅調で、大きく伸ばしたのは「レプシィム」(15.7%増の172億3000万円)と雑貨中心のラコレ(11.8%増の141億6500万円)に限られる。当期伸び悩んだブランドも好調に伸ばした時期もあり、成長が継続しないことが課題となっている。

 

どうして成長が継続しないのか、「ジーナシス」や「ハレ」など尖った感性のブランドは立地も顧客も選んでニッチの域を出られないし、「ニコアンド」や「スタディオクリップ」などナチュラルなライフスタイルブランドもアパレル中心のMDは限界があり、拡大には雑貨もガジェットではなく「無印良品」のような生活必需品の地道な開発が必要だ。ファストな単品MDの「ローリーズファーム」、キャリアのワードローブMDの「レプシィム」は開発素材軸の縦売りアイテムを拡充していけばまだ伸ばせるが、サプライヤーとの取り組みと在庫運用の手法を切り替える必要がある。

 

最大規模の「グローバルワーク」が500億円台で壁に当たっているのはカジュアルウエアもビジカジウエアも継続する面のMDを組めずに顔(MD編成)が見えず、中途半端な幅(サイズ展開)と奥行き(在庫の積み込み)で顧客の間口を広げ切れず(インクルーシブに徹し切れず)、メジャーポジションを取れないでいるからだ。500億円を600億円にする発想では壁は越えられず、一気に1000億円の大台を狙う大仕掛けが必要だと思う。

 

試行錯誤が続いてマイナーなポジションを出られなかった「ジーユー」に柳井正氏が号令を発した09年3月の990円ジーンズMD(ウィメンズ9型108SKU、メンズ3型36SKU)くらいのインパクトが問われるのではないか。当時、200億円ほどだったジーユーが12年8月期には500億円、15年8月期には1425億円に到達し、25年8月期では3307億円を売り上げて305億円(売上比9.2%)の営業利益を稼ぐまで育っている。今や、たった1ブランドでアンドエスティHDの連結売上を上回り、営業利益は倍近い。

 

どのブランドも、マーケットポジションもMDもサプライも大きく変えることなくテクニカルな努力で伸ばそうとしてきたから、相応の成果しか得られていない。限られた開発人材が多数のブランドに分散して商品開発が中途半端になっていることも、その要因と指摘される。OEM/ODM商社機能を内部に取り込んだバイヤーMDの域を出ないブランドがほとんどで、開発チームが素材から面のMDストーリーを構築するメジャーな開発型SPAとは距離がある。

 

多くのブランドにリソースを分散するのではなく、メジャー(売上規模1000億円超)に育てるブランドにリソースを集中するべきで、2030年2月期の連結売上高4000億円を達成するには突破口となる「革命」が必要だ。

 

 

■and STのプラットフォーム化とOMOシフトの課題

 

ブランドリテール事業が伸び悩む中、目論見通りに成長しているのが外部商材も取り込んでプラットフォーム化するECモールのand ST事業で、26年2月期はグループ商材の売上高が417億円と6.6%増でも外部商材は前期から4倍に拡大して45億円に達している。

 

アパレルではジュンやユナイテッドアローズ、バロックジャパンリミテッドの一部ブランド、ランジェリーではワコールの各ブランドやトリンプ、化粧品・美容器具ではファンケルやマリークアント、ヤーマンなど多数、靴ではニューバランスや卑弥呼、オリエンタルトラフィック、バッグではマンハッタンポーテージやACE、雑貨ではアフタヌーンティーリビングやキャスキッドソン、食品ではディーン&デルーカなど、すでに結構なバラエティーに広がっている。カテゴリーは多様でも自社ブランド顧客との親和性が考慮されて違和感はないから、店受け取りが広がれば店舗への集客効果も期待される。

 

 and STの利用ガイドを見る限り、外部商材はオンワード・クローゼットのようなドロップ・シッピング※2.(特定商取引法に基づく販売元も宅配業者もそれぞれに異なる)ではなく、特定商取引法に基づく販売元が株式会社アンドエスティに一本化され、宅配業者もヤマト運輸と日本郵便が指定されているから、在庫を預かってFC※3.から出荷するフルフィルシッピングと思われる。

 

店受け取りも可能で、自社商品は店在庫検索による店舗在庫引き当ても行われているが(ひとつのSKUに限られる「Quick Pick」)、複数のSKU(「Multi Pick」)になると店舗在庫引き当てはできずFCから出荷されるようだ。注目すべきは「Quick Pick」も「Multi Pick」もオンライン決済の「ショッパー渡し」という点で、FC出荷品も裸包装で店舗物流に混載されていると推察する。他社では店受け取りでも宅配包装(段ボール入り)で店舗物流しているケースもあり、物流費も作業工数も格段の差がある。

 

店舗在庫引き当てや裸包装の店舗物流混載は工夫されていても、オンライン販売の大半はFC在庫引き当てで店舗在庫と分断されているから、OMOのスタート点にも立っていない。OMOの本質は顧客と在庫の一元化によるローカルマーケティングで、FCを廃し店舗在庫に一本化してリージョナルロジスティクスに徹すれば店舗と在庫の適正配置が実現し、顧客利便も販売効率も在庫効率も飛躍的に向上し、物流のコストもタイムラグも画期的に圧縮される。「ザラ」などを運営するインディテックスの近年の飛躍的な効率化と高収益化を見れば、その効果は明らかだ。

 

遠藤洋一社長の時か、松下正社長の時か、ブランドの枠を超えてエリア単位のマネジメント(主にデベロッパー対応や採用、シフト運用)を志向したアンドエスティだが、物流センター(DC)の自動化ではセントラルロジスティクスに流れ(福岡物流センターの廃止)、倉庫運営システムも店舗物流とEC物流が交錯して(常総物流センターの自動化)、全体最適を見通すロジスティクス戦略を明らかに欠いている。

 

OMO戦略はロジスティクス戦略と表裏一体であり、and ST事業とブランドリテール事業を一体にローカルOMOマーケティングを追求していく戦略構想が不可欠だ。福田泰生新社長にはブランドリテール事業の「革命」と合わせて期待したい。

 

※2.ドロップ・シッピング…在庫を抱えず受注してサプライヤーが顧客に直送するEC事業形態

 

※3.DCとTCとFC…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC

 

論文バックナンバーリスト