小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『アパレルOMOの“現実的正解”とKPI』
(2026年05月28日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ECはすっかりアパレルの主要販路となったが、OMOは各社で解釈も位置付けもバラバラなのが現実だ。何を持ってOMOのKPI(重要達成指標)とするかから混乱している現状をきっちり交通整理しておきたい。

 

■EC売上と店舗売上の定義

 大手アパレルのEC比率はコロナ前19年から直近の25年(26年の2月期、3月期)へ、ユナイテッドアローズが20.0%から26.3%、オンワードHDが14.0%から28.3%、アンドエスティHD(旧アダストリア)が19.6%から29.5%、EC比率の高いデイトナインターナショナルの買収効果も加わったTSIが23.4%から31.0%、パルグループの衣料品事業が15.8%から40.8%、と各社で水準や伸び率には差があるものの大きく伸びたが、アパレル市場全体ではどう動いたのだろうか。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」における「衣類・服飾雑貨」のEC比率は19年の13.87%からコロナ禍を経て24年には23.38%に上昇している。25年の集計発表は8月末になるが、おそらくはわずかな上昇にとどまると思われる。

OMOが広がる過程でOMOの定義以前に「EC売上」の定義自体が混乱した時期もあったが、経済産業省は「受発注がオンラインで行われる取引の金額」と定義しており、欧米でも同様に定義されている。在庫の引き当て(店舗在庫か倉庫在庫か)や受け取り方(宅配か店受け取りか)は様々でも、オンライン上で決済すれば「EC売上」、店舗で決済すれば「店舗売上」になる。アパレル各社が定義に従って売上を計上しているとは限らないが、オンラインからの「取り置き・取り寄せ試着」で店舗決済したなら「店舗売上」、オンライン決済して「店受け取り」したなら「EC売上」になる。

 

■OMOって何だったっけ

  OMO(Online Merges with Offline)とはネットと店舗の垣根を超えた連携を意味する。ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットでの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による在庫検索から店取り置きしたり、ネットで決済して店受け取り(BOPIS)したり店から出荷し、顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略総体を指すが、企業によって重点とする方向やKPIは大きく異なっている。

 コロナ前のOMO黎明期は顧客アプリ軸のマイレージ(ポイント)制度によるLTV※政策でECを拡大して店舗とECのクロスユーザー(店舗とECの両方で購入する顧客)化を図るのがアパレル業界のトレンドだったが、システム投資が嵩む割に期待ほどECが伸びずクロスユーザー化は進まなかった。コロナ下の行動規制で店舗売上が激減しECが急拡大した後は、オンラインストアやSNSのスタッフスタイリング投稿、オンラインから最寄り店舗の在庫を取り置いたり倉庫から取り寄せたり(取り置き・取り寄せ試着)、オンライン決済商品を店舗で渡してECユーザーを店舗に誘導する方向に転じている。

コロナ前がシステム投資先行でECを拡大するサイクルだったのに対し、コロナ後は拡大したECから店舗へ顧客を誘導し、店舗物流を活用して宅配コストを圧縮するサイクルに移行したと総括されるが、未だコロナ前の感覚で高コストな運営を続けるアパレルもあれば、店舗と店舗物流を活用して宅配コストを圧縮し、顧客利便を高めて低コストにクロスユーザーを拡大しているアパレルもある。米国的に言えばアマゾン流からウォルマート流へ、日本的に言えばZOZO流からヨドバシ流へ、といったシフトだ。

ヨドバシやウォルマートのOMOは店舗軸の物流改革というべきだが、アパレルではもっと割り切った「革命」も広がりつつある。インディテックス(ZARAなど)に発したOMOマーケティングがそれで、変動費型のECを固定費型の店舗販売に集約して販売効率と在庫効率、資本効率を高め、物流費と人件費を画期的に圧縮して飛躍的に高収益化するというリテイル・イノベーションだ。

※LTV・・・・Life Time Value(顧客生涯価値)の略で、新規顧客開拓と比較して既存顧客の長期定着メリットを言う。

 

■OMOのご利益はECと店舗販売のコスト組み替えだ

OMOの起点は顧客の店舗購入データとオンライン購入データの一元化であり、次いで店舗在庫とDC在庫、FC※在庫の引き当て一元化、ゴールは在庫の物理的一元化だ。店舗小売業にとっては店舗向け補給在庫(DC)とEC向け出荷在庫(FC)を同じ倉庫の同じ棚に集約し、インディテックスのような撒き切り型ロジスティクスのチェーンでは店舗在庫に収斂する。これはロジスティクスのシナリオで、コスト圧縮のシナリオが並行する。

ZOZOのようなフルフィルシッピング※のECプラットフォーマーとアパレルチェーンのコスト構造を比較すると、GMV(流通総額)対比の人件費負担率は前者は後者のほぼ5分の1だが物流費負担率はほぼ5倍だ。上場アパレルチェーンの決算書から計算すると、物流費についてはそこまでの開きはないが、アパレルチェーン各社も前述したようにECを相応に拡大しているからで、EC比率と物流費を因数分解計算すれば前述した倍率に近い。

店舗販売はマテハンや精算、接客の人海運用が避けられないから人件費負担が高いが、ECはシステムが販売するから(ささげ運用やサムネイルの組み替えは結構な手間だが)フロントの人件費率負担は桁違いに低い。バックヤード(倉庫運営)の人件費負担率は商品単価と出荷単価、自動化の程度で大きく異なるが、アパレルチェーンも大差ない。両方を合わせれば、平均して5倍の差になるわけだ。

倉庫運営の人件費負担には大差がなくても、外注する運送費の負担はB2C(顧客向け)物流のECはB2B(業者向け)物流の店舗物流より桁違いに高くつく。顧客ごとに一点から数点を適切サイズのパッキンなどに梱包して送る宅配便と大型パッキンに数十点あるいはもっと多数を混載する店舗物流ではGMVあたりの物流費負担は10倍以上開く。倉庫運営費用(運営人件費+倉庫賃料+減価償却費等)と外注運送費を合わせると、平均5倍程度の差になるわけだ。

顧客開拓のマーケティング費用もECと店舗販売では桁違いだ。ECでは数多のECサイトが氾濫するネット空間で顧客をキャッチしてカゴ落ちなく購買に繋げるには、ネット広告費やアフィリエイト手数料、モールのアルゴリズム対策費、カゴ落ち防止の様々なサイト内アプリが必要で、新規顧客獲得には数万円を要する。これらの大半はGMVと連動する変動費だ。

店舗販売では店舗費用(家賃と減価償却費)や運営人件費など固定費負担が重いが、好立地に店を構えていれば一定の新規顧客は期待できるから、ECのように新規顧客獲得に膨大なマーケティング費用(広告費)をかけ続ける必要はない。

運営固定費が高い店舗の顧客を新規顧客獲得費の高いECへ誘導して低コストに販売し、店舗物流に乗せる「取り置き・取り寄せ試着」や「店受け取り」、「店出荷」(料金半減のローカル宅配)で物流費を大きく圧縮する。その一方でECのスタッフスタイリングやSNSから店舗へ送客したり、社内の別ブランドや他社商品(自社ECサイトのプラットフォーム化)の「店受け取り」を拡大すれば、ついで買いと客数増で売上が増えて固定費負担が軽減される。

これがOMOのコスト圧縮シナリオで、ECの新規顧客獲得費と物流費の圧縮、店舗の客数増と売上増による固定費負担の圧縮が期待できる。これにOMOマーケティング※による店舗と在庫の適正配置が加われば在庫効率(回転と消化)も大きく向上し、収益性は画期的に上昇する。欧米の先行事例では営業利益率が3ポイント以上、上向いている。

 

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

※フルフィルシッピングとドロップシッピング・・・ECプラットフォーマーが在庫を預かって棚入れからピッキング・梱包・出荷仕分けまで受託するフルフィルシッピングに対し、在庫を預からず受注と決済・代金回収を受託し、受注情報を得て出品者が顧客に直接出荷する方式がドロップシッピング。在庫を預からず毎日の受注分を定時に一括して出荷倉庫に荷受けし、出荷仕分け以降を受託する中間の方式もある。

※OMOマーケティング・・・地域ごとに店舗利用とオンライン利用の顧客分布を掴んで、最適な店舗配置と在庫配置、物流手法と顧客アプローチを仕組む。

 

■OMOのKPIはステップとゴールで決まる

 OMOの本質を理解すれば、そのKPI(重要達成指標)も自ずから見えて来る。

OMOを進める上で最初のKPIは「横持ち比率」(客注と店間移動を除く倉庫間の在庫移動)の圧縮で、倉庫在庫を物理的に一元化すればゼロになる。次が「クロスユーザー比率」で、店舗とEC間の送客の仕掛けがうまく機能すれば上昇してLTV単価(年間顧客売上高)も上昇するが、その前提として一定以上のEC比率(アパレル業界では20%弱)に到達している必要がある。

店舗小売業の「クロスユーザー比率」はEC比率が上限で、26年3月期のEC比率が26.3%だったユナイテッドアローズ(単体)は売上の54.8%を占める「UAクラブ」会員のクロスユーザー比率を14.9%と開示している。店舗とECでは客単価が異なるから売上の比率と顧客の比率は一致しないが、全顧客も同じクロスユーザー比率と見ればECだけの顧客も10%強程度存在すると推察される。その店舗への取り込み余地は大きく、クロスユーザー比率を高めるメリットが見える。

物流費圧縮のKPIとなる指標が「店受け取り比率」で、しまむらのように84%にも達すれば圧縮効果は絶大だが、受け渡し伝票入りの裸包装(ビニール袋)で店舗物流に混載し、ストアショッパーに入れて渡さないと効果が限定される。即日渡しの顧客利便を競えば「店在庫引き当て比率」も問われるが、ピッキングや出荷(店出荷する場合)のマテハン負担を考慮すれば、倉庫在庫を引き当てて店舗物流に混載する方が合理的かもしれない。

ゴールを「店舗在庫+倉庫在庫」とするのか「店舗在庫一本化」にまで至るのか、マーチャンダイジングの流し方とサプライチェーンも考慮して戦略的にステップを設計するべきだろう。

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