小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『「イオンコーデ」が嘲られるウエアリング変化のシリアスな背景』
(2026年07月27日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

758499800_3135745329954831_8992816407593739480_n

 

 

 最近、SNSでやたら見かけるのが中年男性の週末着を「AEONコーデ」と揶揄するスタイリングアドバイス投稿だが、半世紀前に散々嘲られた「ワンポイントポロ・コーデ」に通ずるものがある。「AEONコーデ」は「アメカジおやじ」、「ワンポイントポロ・コーデ」は「ゴルフウェアおやじ」と言い換えてもいいだろう。

どちらも四半世紀前に終わった流行の残滓を纏うような懐かしさと野暮さが同居したスタイルで、よく言えばオフシーンのTPOをわきまえたスタイルだが、着こなしを誤ると「リタイヤおやじ」に見えてしまう。まだ現役の50〜60代としては「リタイヤおやじ」には見られたくないだろうし、バリバリ現役の30〜40代にとっては「ああなりたくはない」という嫌悪感があるのだろう。

 

■「AEONコーデ」と「バリバリ現役コーデ」

 「AEONコーデ」と言われるのは週末のイオンモールなどでよく見かける中年男性のふた昔前風の野暮ったい普段着スタイルを指すもので、「AEON(イオンスタイルストア)で購入したらしい服」という意味ではない。AEONの名誉のために最初に断っておこう。

「AEONコーデ」は前世紀からリーマン前頃までは郊外やローカルの多くの老若男女に親しまれていた普段着のアメカジスタイルで、当時のジーンズカジュアル店やユニクロに並んでいたのと大差ないカジュアル単品を気負わずに(オシャレを意識しないで)合わせたものだ。当時と異なるのはフィットが随分と緩くなったことで、若者はストリート風にオーバーサイズで合わせても(トップはニートでボトムはオーバーサイズの合わせが多い)格好がつくが、体型の崩れた大人は肩や腰の「ゆる抜け」で止めないとだらしなく見えてしまう。ましては当時の着こなしそのままのY2K(西暦2000年)風スリムフィットなど経年劣化した体型を露呈するだけで、下手にブランドバッグまで合わせると国籍を疑われてしまう。

「AEONコーデ」の定番たるシャツやポロシャツ、Tシャツのタックアウトも、サイジングや素材感を一歩間違うと「ゆる抜け」を超えてだらしなくなる。バリバリ現役世代はキレイ目素材のポロシャツやTシャツを緩くタックインしてブラウジングするスタイルが主流だが、今時の現役世代向けのポロシャツやTシャツは多少なりとも表面にテリ感があって物性的にも適度の落ち感がある機能性の合成繊維か再生繊維だからで、洗いのかかったアメカジの綿天竺Tシャツではタックインしてのブラウジングは無理がある。

バリバリ現役30〜40代の多くは住居費(持ち家のローンあるいは家賃)の高騰もあってフルタイム共稼ぎの多忙なライフスタイルだから、服はビジカジからウィークエンドまでTPOレス(多くはシーズンレスでもある)に着回せるイージーケアの機能的な「ライフ・ギヤ」(当然に合繊中心)であり、最小数量で最大の着回しを志向すれば必然的にニュートラルカラー(いわゆるモノトーン)中心になる。アウターやパンツは黒・グレーにグレージュやブラウン、カーキが加わるぐらいだが、トップスには彩度を抑えた季節の差し色も添えられる。着こなしも現役らしい機能性ときちんと感が必須で、程よい抜け感とバランスする緩ニートなフィットが好まれる。だらしなく見えるオーバーサイズは社会人以前の若者か現役を退いた老人のものとして嫌悪されているようだ。

結局のところ、アメカジおやじを「AEONコーデ」と揶揄しているのはバリバリ現役世代で、かつての若者が親世代を「ゴルフウェアおやじ」と揶揄したように、「僕らはリタイヤしてもあんな格好はしたくない」という予防線みたいなもののようだ。

 

■団塊〜X世代とMZα世代の断絶

現役世代に「AEONコーデ」が疎まれるのは、バリバリの現役感も今風のトレンド感もスマートな機能性も欠いて「リタイヤおやじ」に見えるからだ。

「AEONコーデ」は綿素材のジーンズやチノパンをベースとした古典的な「ワーク系」アメカジで、ふた昔前にはどこの商業施設にもあったジーンズカジュアル店で売られていたものだ。今やジーンズカジュアル店はすっかり廃れて閉店した店も多く往時の繁栄は見る影もないが、輸入古着店(大半が北米物)でこだわりのアメカジアイテムを探す若者やおじさんは今も少なくないから、バリバリ現役世代を除く若者やおじさんには一定の支持があるのだろう。「AEONコーデ」には古着風に見えると言う「難点?」(古着好きの人にはカッコよく見えるのかも)があるのかも知れない。

「ワーク系」アメカジと断ったのは「アスレジャー系」ではないからで、デニム軸やチノ軸の「ワーク系」は廃れてもスウェット素材/機能合繊素材軸の「アスレジャー系」は部屋着からワンマイル、アウトドアからビジカジまでTPOレス/シーズンレス/ジェンダーレスに広がり続けている。韓流の「空港スタイル」が契機となったのか、かつてはワンマイルまでに止まっていたジャージのトラックスーツをオシャレな街着として粋がる若者やバリバリ現役世代が増えているのも隔世の感があるが、振り返って見ればY2Kのセレブも「ジューシークチュール」のトラックスーツで街中を闊歩していた。

X(バブル〜団塊ジュニア)世代まではローカルの青春期を「ワーク系」アメカジで過ごした人も多かったが(都会育ちは「アメカジ」でなくキレイ目プレッピー寄りの「渋カジ」だった)、Y世代以降(MZα世代※)は青春期をブレザー制服とジャージのトラックスーツで過ごした人が主流となり、仲間から浮き上がらない機能的な「制服的着回し」と「TPOレス/シーズンレス/ジェンダーレスなアスレジャースタイル」が社会人になっても通底している。彼らから見れば「ワーク系」アメカジは旧世代のローカルおじさん・おばさんスタイルであり、Y2Kリバイバルや古着趣味に走ったりするケースを除けば、自分のライフスタイルとは無縁なのが現実だろう。

 

■社会構造と家族構造のシリアスな変化

アパレルのスペック(デザインとパターン)はウェアリングが決め、ウエアリングはライフスタイルが決めるが、そのライフスタイルは社会構造がもたらす家族構造が決める。

戦後1955年体制来の男性家長が稼いで第3号被保険者の妻が家事と育児を分担する「核家族」が少子高齢化と社会負担増、国家経済の衰退とインフレで崩壊し、老若男女が悉く働いて家計を分担せざるを得ない現実に直面する中、服はコスパ・タイパ・機能優先でTPOレス/シーズンレス/ジェンダーレスな「ライフ・ギヤ」へと変質していき、それぞれのゲゼルシャフト(経済共生圏)やゲマインシャフト(生活共生圏)の中である種の「制服的着回し」に収斂していく。それは今時のバリバリ現役世代もZα世代の若者も同様で、前世紀の社会構造や家族構造、ライフスタイルに発した自然素材軸の古き良き「トラディショナル」も「アメリカンカジュアル」も「テーラリング」も「エレガンス」もメジャーな継続は難しい。

「アメリカンカジュアル」はともかく「テーラリング」や「エレガンス」は往時のブルジョワ的ライフスタイルに発したものだから、多くの日本人が貧しく忙しく世知辛くなっていけばライフスタイルから消えていかざるを得ない(富裕層や趣味層には残る)。前世紀の経済成長期には乗用車のサイズも排気量もどんどん大きくなったが(近年の中国もそうだった)、失われた30年の果てに先進国中の最貧国に転落した今や軽自動車が主流となり、「戦後期」の50年代に流行ったような原付ミニカー(車検も車庫証明も不要で百万円以下で買える)さえ急増しているが、アパレルも似たようなものだ。

そんな社会変化と世代交代がもたらすライフスタイルとウェアリングの変化にアパレル事業者が的確に対応できているかとなると甚だ疑問で、ファッションへのこだわりが色眼鏡になって現実の変化が見えていないか正視できていないケースが多い。オシャレなデザインを生み出す感性は時として視野を狭め目を曇らせることがあるようだ。刻々と変化していくライフスタイルとウエアリングの現実には、高感度なアパレル事業者より量販的なアパレル事業者の方がこだわらず的確に対応できているかも知れない。

※MZα世代・・・「MZ世代」は韓国から始まったM(ミレニアム)世代とZ世代をまとめる捉え方で、「MZα世代」はようやくティーンズに差し掛かる次のα世代を加えたもの。何かとメンタルなX世代までの「アナログ世代」に対して機能重視の「デジタル世代」という区分でもある。ちなみにM世代は80年代初頭〜90年代前半生まれ、Z世代は90年代後半〜10年代前半生まれ、α世代はそれ以降の生まれ。

 

■「AEONコーデ」おじさんに迫られる選択

バリバリ現役世代からは嘲られる「AEONコーデ」だが、着ている当人は青春期に刷り込まれたワークカジュアルやジーニングの「文法」をベースに今風に多少、緩く崩してオフシーンに対応しているだけで、時代ズレした「化石」のように疎まれているとはこれっぽっちも思っていない。家族からもパパの世代らしい週末スタイルとして容認されており、だらしなく見えない限りクレームはつかないだろう。パパの世代らしい「文法」の中で、ちょっと目新しいアイテム、たとえばアウトドア風の冷却ファン付きペルチェ素子ベストとかバレルレッグの太めジーンズなんかにチャレンジしてみれば、という程度のアドバイスがあるぐらいだろうか。もし家族からそんなアドバイスをもらえるようなら、古典的な「核家族」の類希に幸せなパパだと思う。

現実には共稼ぎや親の介護などでママが多忙だと洗濯に関わる手間を最小化する必要に迫られ、クリーニングやアイロンかけを要する「ウールや綿の衣料品は買わないで」と宣告されてしまう。となれば、今時のTPOレスに着回せるイージーケアの機能的な合繊系「ライフ・ギヤ」を選択せざるを得ない。

それらの多くはバリバリ現役世代の多忙なライフスタイルに合わせて企画されたものであり、好むと好まざるに関わらずバリバリ現役世代風のニュートラルカラーの「ライフ・ギヤ」スタイルになるから、おじさんが着ても相応にスタイリッシュに見えてしまう。腰の落とし方など姿勢が違うから年代相応のおじさんぽさは残るが、ビジネスシーンでも週末のイオンモールでも「現役世代のパパ」と見做され、「AEONコーデ」と嘲られることはなくなるだろう。

論文バックナンバーリスト