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WWD 小島健輔リポート
『「大手セレクトショップ」は殻を脱いで成長チャンスをつかめ』
(2026年07月01日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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新宿や渋谷の商業施設を一周して各店のVMDとMDを点検するのが毎月の習慣になって久しいが(隔月で郊外SCも一周してます)、近年は大手セレクトショップのVMDもMDも魅力が褪せた感を否めない。独自の目利きとVMDスキルが光っていたベイクルーズ系のストアも目を惹くことが稀になり、コントラストの効いたVMDが魅力だったパルの大人セレクト業態も24年の秋口から目に見えて輝きを失い、毎月の巡回もインパクトある提案を見出す楽しみが薄れてしまった。いったい大手セレクトに何が起こっているのだろうか。

 

■セレクトブランドの開発力・供給力に限界

 

パルの場合は井上英隆創業会長が引退するのを契機にガバナンス(個別業績評価のKPI)に変化があったのか、24年の春先から「ウィムガゼット」や「ガリャルダギャランテ」など大人セレクト業態でコントラストを効かせるスポットアイテム(シアーなデザイントップスやボトム)が消えてスタイリングが平板になり、色環順ルック回転に小物をアクセントする鮮やかなVMDも崩れ、価格帯に見合わない単品構成の定型ルック陳列になってしまった。

 

それは特定の店舗に限らず同一業態の複数店舗に共通し、いくつもの業態に同時に起きたから、数値管理(おそらくは粗利益率)優先のKPIに変わって感覚的な魅力が削がれたのだと直感した。そう感じたのと同時に、毎月開示される既存店売上前年比がマイナスに転じ、25年秋からは株価まで落ちていったから、私だけでなく多くの顧客が同様に失望したのだと思う。

 

大人向けの高単価セレクト業態は未だ色あせたままだが、若向きお手頃カジュアルSPA業態の「チコ」は価格帯相応の定型ルックMDをルック回転陳列して多重露出するなどMDとVMDを連携する技が冴えているから、失速は「セレクト商材」が魅力を左右する大人セレクト業態に起きたことと受け止めるべきだろう。魅力ある「セレクト商材」の不足あるいは仕入れ枠の圧縮はパルに限ったことではなく、ユナイテッドアローズやベイクルーズなど大手セレクトに共通する課題のようで、どこのセレクトにも「バブアー」が並んだときは限界を感じた。

 

作り手側のこだわりやクリエイションより使い手側の機能性と心地よさが求められる今時は素材開発から取り組まないと売れる商品は作れないが、例えセレクトブランドがそんな使い勝手の良い商品を開発してもロットが限られて割高になってしまう。加えて、セレクトブランドは在庫を抱えて補給してくれるわけではないから、縦売りによる売り上げの積み上げも望めない。00年前後はセレブデニムで盛り上がっていたジーンズショップ(実態はNBデニム軸のセレクトショップ)が見る影もなく凋落していった要因の一つが、NBメーカーの補給在庫リスクを担わない殿様商売体質だった。

 

こだわりの「割高価格」を受け入れてくれる顧客には限りがあり、補給も望めないとなれば、大手セレクトとしては限定的な取り組みにならざるを得ない。セレクトブランドが頼りにならない以上、大手セレクトは利幅を確保するためだけでなく、売れるMDで品揃えの骨格を構築すべく、オリジナルを主役にしたMDストーリーを組むしかなくなったのではないか。

 

■セレクト商品では大手の事業規模を支えられない

 

伝統的なセレクトショップのMDは、シーズンに半年以上先行する国内外のコレクションを一巡して魅力を感じるセレクト商品を発注し、セレクト商品が映える品ぞろえを構成すべくオリジナルを開発して補完するという手順だった。主役はセレクト商品やセレクトブランドに別注したキャラの濃い商品であり、オリジナルはそれらとコーディネイトして引き立てる脇役であり、着回しの効く定番でもあった。

 

日本のセレクトショップが台頭した1990年代は欧米ファクトリープランドからのセレクト(後述するが「別注」と同義)が主役を担ったが、欧米のインフレと円安で価格が高騰するにつれ日本人顧客がついてこれなくなり、売上規模が萎縮していった。セレクトショップの直買い付けも代理店による輸入も最低保証発注量を割り込んでジャパンフィットの別注ロットに届かなくなり、日本市場から消えるブランドが相次いだ。

 

少量をお試しで買い付ける場合は例外として、代理店や大手セレクトが日本市場に継続投入する欧米ブランドのアパレル商品はジャパンフィットに別注されたもので、現地の店舗で売られているものとはサイズ感やパターンが別物だ。よほどのコーカソイド体型(骨格診断で言う「ナチュラル」)でない限り、現地の店頭で購入してもフィットに難儀し、お直し加工代がかさんで割安にはならない。国内の売上規模が別注ロットを割り込めば取引の継続は国難で、代理店が交代したり直卸しになったり試行錯誤した果てに消えていったブランドも少なくなかった。

 

欧米ファクトリーブランドの代わりになったのがまだしも手頃なドメスティックブランドやライセンスブランドで、コロナ禍を契機に国内工場/産地発のファクトリーブランドやSNS起点のD2Cブランドも台頭していった。ファクトリーブランドやD2Cブランドの多くは伝統的なものづくりやクリエイションにこだわるもので、限られた好事家には刺さっても、欧米ファクトリーブランドやライセンスブランドに代わるほどメジャーな支持を得るには至らず、大手セレクトがセレクト商品を核に品揃えを維持するのは難しくなっていった。

 

ターゲットを絞ればセレクト商品主体の構成は今日でも可能で、「FROM JAPAN TO THE WORLD」を標榜して国内産地を明記したジャパンメイドブランドを売り込んだTOKYO BASE(26年1月期売上高は237億3400万円、うちセレクト事業売上高は半分強の127億7000万円で残りは自社ブランド事業)、韓国や台湾、香港、中国などアジア発のストリートブランドをセレクトして独自のボジションを切り開いたパワー・ボム(6業態計26店、うち香港1店)など成功例はあるが、大手セレクトの事業規模を支えるには力不足だ。

 

ジャパンメイドのファクトリーブランドやクリエイターブランドもアジアのストリートブランドもSPA化すれば単独でも億ドル規模の事業が可能だが、コレクションから部分的にピックアップして編集するセレクトショップのMDでは品揃えの一角、あるいはニッチな一業態を担うことはできても、大手セレクトの数百億円〜超千億円規模のビジネスを担うのは難しい。

 

■ECに偏って「セレクトショップ」の運営力が低下

 

大手セレクト5社(ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ、 ビームス、シップス、パルの衣料事業)がコロナ前から直近決算まででの6期間でいかほど売り上げを伸ばしたのかを検証してみたが、直近決算(ビームスのみ25年2月期)の5社合計売上は5793億円と22.4%(1060億円ほど)増えている。この間に百貨店衣料品売上は1776億円(10.6%)、チェーンストア(量販店)衣料品売上は2822億円(32.1%)減少し、国内ユニクロは1764億円(21.0%)、しまむら単体(国内全店)は1736億円(33.6%)も売り上げを伸ばしたから、セレクト大手5社合計売上高の伸び額はともかく伸び率は国内ユニクロを凌駕したことになる。

 

とは言っても増えた分の82.5%(875億円)はECの伸びであり、店舗売上高は5.6%(200億円)しか増えていない。5社合計のEC比率もコロナ前の24.6%から直近決算では35.2%と、10.6ポイント上昇している。ZOZOとともに育った大手セレクトのECは点(単品)のMDになりがちで、面で訴求する店舗MDとの乖離は否めず、ECとりわけ外部モールサイト依存が高まり過ぎれば店舗MDが弱体化するのは避けられない。

 

スマホの縦スクロール画面で点(単品)から線(類似品比較やルック提案)の広がりにとどまるECと、リアル3D空間でワードローブやMDのラインナップを面訴求する実店舗とは、MDの組み方もVMDの仕掛け方も根本から異なる。ECに売り上げの比重が偏れば店舗のMDも単品構成に流れてインパクトある面のMDが組めなくなり、VMDも単品集積や定型ルックにとどまって、洗練された着回しを見せる「ルック回転陳列」を仕掛けるスキルが失われていく。

 

外野の推察でしかないが、パルの大人セレクト業態の魅力が削がれたのも、20年2月期に18.1%だった衣料事業のEC比率がコロナ下で急上昇して23年2月期には40.0%に達し、25年2月期には41.6%まで上昇したことも一因かもしれない(26年2月期は40.8%に低下している)。

 

■店舗のVMDとマテハンに課題

 

長年、大手セレクトのVMDと販売プロセスを側から検証してきたが、円安とインフレに所得の伸びが追いつかず衣料消費が抑制され、こだわりやクリエイションよりコスパと機能性が求められる傾向が強まる中、大手セレクトの高コストな店舗運営、とりわけ販売プロセスとマテハンの無理(=人件費負担)が限界に近づきつつあるように思う。

 

もとよりキャラの濃いセレクトブランドから仕入れて品ぞろえするセレクトショップは、SPAと比べれば顧客の間口が狭くアイテムの汎用性もMDの幅(色・サイズ展開など)も奥行き(同一品在庫)も欠いて期中の補給も期待できず、過大な在庫を抱えて売り減らす体質を否めない。加えて見栄え優先の「定数定量陳列※1.」で店頭陳列在庫が抑制されるため、接客途中でサイズ在庫などを探しに後方ストックと行き来する頻度が高く、接客に時間を要し(顧客もその間、待たされる)マテハン負担が大きい。

多品番で奥行きの浅いセレクトMDは店舗在庫の比率が高く店間移動が多くなり(奥行きが深いMDならDCに在庫を積んで補給する)、ピッキングや荷出し荷受けのマテハン負担も店舗スタッフにのしかかる。マテハン負担の大きい非効率な店舗運営は接客集中を妨げるから、商品単価が高い割に一人当たり売上高が高まらない要因になっていると推察される。

 

セレクト商品の大半は色・サイズを限った単品のピックアップゆえ、SPA商品のような同一素材のアイテム展開や色・サイズ展開によるスケール感のある面訴求や定型ルック訴求は出来ず、キャラも素材も色彩もフィットも異なるセレクトアイテムにオリジナルも加えて独自の着回し提案を「ルック回転陳列」に組み上げるVMDスキルが問われるが、この難度が極めて高く容易には習得できない。コーディネイトのセンスやトレンド感度、素材知識はもちろん、色彩構成や造形構成の美術的素養、在庫や補給の掌握から売上構築の営業センスまで問われるからだ。しかも、売れてしまえば同一品の補充も難しいから、また工夫して組み直さなければならない(MDに奥行きがあるSPAなら同一品補充で維持できる)。

 

近年は毎月、店頭を一巡しても目を惹く陳列は極めて稀だから、セレクトショップならではのVMDスキルが組織的に研修・承継されていないのが実情だろう。客単価や販売消化に直結するだけでなく、パルのケースのようにブランディングと顧客支持を左右しかねない重要スキルだから、「組織ぐるみ」での再構築が急がれる。

 

※1.定数定量陳列…見た目の上質感を表現すべく陳列する商品点数を規制するもので、スリーブアウト(吊るし陳列)では一定ピッチに吊るす点数、フォールデッド(畳み陳列)では一山に重ねる点数や高さを規制する

 

■なぜ殻を脱ぐ必要があるのか

 

セレクトブランドとセレクトショップの関係はわが国だけでなく世界的な課題であり、キュレーションECサイト※2.が発達した欧州では在庫を抱えて販売するセレクトショップの負担は大きく、各都市に著名な地元店は存在しても、わが国のようにセレクトショップがチェーン展開して大規模化するケースは見られない。

 

チェーンストアの本場である米国でも、19年1月にリミテッド傘下のヘンリ・ベンデルが五番街の旗艦店を含む全23店舗を閉鎖して123年の歴史を閉じ、バーニーズ ニューヨークも同年8月に連邦破産法を申請して破綻し、全米にチェーン展開するセレクトショップは潰えた。ニューヨークの伝説的セレクトショップ「シャヴァリ(Charivari)」(あのマーク・ジェイコブスが駆け出しの頃、商品補充係として勤めていた)もとっくになくなり、LAのフレッド・シーガルを引き継いだロン・ハーマンも23年末に閉店している。ボストンなど各都市には地元の名店は残るが、チェーン展開する大手はもはや存在しない(アーバンアウトフィッターズの「アンソロポロジー(Anthropologie)」をセレクトショップと見るかは異論があろう)。

 

米国で実質、最大のセレクトチェーンなのがセレクトショップ複合型スペシャルティ・デパートメントストアのノードストロムで、創業一族経営陣によるMBOで上場最後となった25年1月期末でフルラインデパート92店、OMOサービスサテライトのノードストロム・ローカル6店、オフプライスのノードストロムラック277店を展開して145億5700万ドル(150円換算で2兆1836億円)を売り上げていた。

 

わが国では百貨店が1980年代に在庫リスクを抱える自前商売(本番買い取り)を放棄し、近年は人手がかかる消化仕入れ型の売り場運営まで放棄して定期借家テナント構成のSCと化しつつあるから、リーマン前までは大手セレクトが日本のノードストロムに化けるチャンスはあったと思うが、リーマンショックや東日本大震災、コロナを経てわが国の経済力と通貨価値、国民の消費力が衰退した今となっては死んだ子の年を数えるようなものだろう。

 

日本経済にも消費者にもまだ力が残っていた時代に「日本のノードストロムになる」と決意するセレクト経営者が出なかったことが悔やまれるが、今日でもインバウンド主体に世界から集客するなら実現は可能だ。賃貸面積2万余平米で509億円(免税売上高41.1%)を売り上げる渋谷パルコが客層も規模感も近いかもしれない。

 

大手セレクトが成長を継続するには、残念ながら「セレクトショップ」という殻を脱ぐ必要がある。さまざまな課題があって効率的な運営が難しく大きな成長が望めないセレクトショップ事業(当然ながら実態はオリジナル主導のセレクトSPAだが)より、MDの増幅が容易で大きなマーケットを取り易く、運営も効率化し易く、OMOもサプライもコントロールし易いSPA事業の方が投資効率が圧倒的に高く成長も速い。地域特性やバッティング※3.に大きく左右されるセレクトショップより海外展開も容易だ。

 

TOKYO BASEの中国事業は試行錯誤を否めなかったし、香港のI.TとてNIGOから「ア ベイシング エイプ®」(運営会社ノーウェア)を買収して日本に進出したとは言え、セレクトショップの海外展開に成功したわけではない。TOKYO BASEの半分はSPA事業だし、ユナイテッドアローズの新規事業もSPA(ブランド)事業が主力になっている。付加価値型のSPA事業の方がセレクトショップより成長も収益化も海外展開も容易な以上、セレクトショップという殻に閉じこもって成長機会を限定する意味はないと思う。

 

※2.キュレーションECサイト…ウェブマガジンのような編集サイトで商品を紹介して顧客に発注させ、サプライヤーが顧客に発送する仕組みで、サプライヤーの商品ページに移行して決済するアフィリエイト型とキュレーションサイト内で決済するドロップシッピング型があるが、いずれもサイト側は商品を抱えず、サプライヤーが顧客に商品を発送する

 

※3.バッティング…地域市場における取り扱いブランドの重複を言い、アウェー地域への出店ではブランドがそろわないこともある。JR大阪三越伊勢丹の撤退も名古屋駅前「イセタンハウス」の撤退も、ホームの新宿店でそろっていた有力ブランドがバッティングでそろわなかったことがつまずきの契機だった

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