小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『ユニクロとしまむらで労働負担は5倍違う!
フェイシング量とマテハンの「常識」と「非常識」』
(2026年06月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 チェーンストア運営の基本の基本がフェイシング量と補充のマテハンだが、業界が違えば「常識」が「非常識」になるほどギャップがある。見てくれと顧客利便と運営効率、売り切りと欠品防止と補給頻度の相剋をどうバランスするか割り切るか、業界によって驚くほど「常識」が異なる。

 

■フェイシング量と補充の「常識」と現実

 チェーンストア業界の「常識」では適正フェイシング量は「最低陳列在庫+次回補充までの販売消化数」で、プロモーショナルなエンド陳列(出前)などでは適正量を超えるボリューム陳列を仕掛けて購買を喚起することも多い。キャンペーン期間を過ぎたらラック列の元番地に戻して適正フェイシング量の棚割りで販売を継続するのだろうが、適正量を超えて山積みした売れ残りは何処に行くのかと心配になる(次の催事店舗に移動するかベンダーに戻すのだろう)。

 「適正フェイシング量」というのも結構、怪しくて、販売消化ペースと補充サイクル、陳列可能な上限と下限(この認識に大差がある)、EOS自動補充の発動から物流行程を経て店着し棚入れされるまでのタイムラグなど、正確に計算されているのか疑わしい。ローカルあるいはリージョナルロジスティクスの食品では鮮度管理もあって緻密に行われているが、セントラルロジスティクスのアパレルなどでは相当にアバウトで、オンライン販売と店舗販売のトランザクションラグも加わってズレが大きい。

販売効率が高くない量販店で販売消化ペースとかけ離れたフェイシング量が陳列されているのを見かけることがあるが、おそらくは運営コストを下げるべく補充頻度を抑制しているのだろう。逆に販売効率が高いとフェイシング量を積んでも売れ行きに追い付かず、お客の合間を縫って多頻度に補充するしかない。

お客の側からすれば通路も陳列フェイスも品出しカートとスタッフが塞いで買い物の邪魔になるが、品

出し補充しないことには欠品してしまい、それはそれでお客を失望させることになる。補充だけでなく既陳列品を前に出して新規陳列品を奥に回したり(先入れ先出し)賞味期限が迫った商品をチェックして外したりもするから結構手間取り、お客をイライラさせてしまう。これにストア在庫引き当てのネットスーパー出荷ピッキングが加わると、繁忙時と重なって顧客のイライラは頂点に達する。

賞味期限チェックに時間がかかるのは商品に印字された日付を逐一目視しているからで(自動読み取りの端末はあるが逐一、印字面を向けて読ませる必要がある)、アパレルチェーンでは棚割り位置から外れた迷い子商品を探索するRFIDレーダーが普及しているが、食品の賞味期限チェックでもそんな便利システムはないのだろうか(RFIDが前提になるのでしょう)。

80年代の西友の自動マテハン実験店舗のように前方傾斜棚に後方から落下補充する方式(缶飲料などでは定着している)なら高頻度でもお客の邪魔にはならないが、後方補充スペースが売り場を削ってしまうので広がらなかった。最近の中国では天井の搬送コンベアから補充する試みもあるようだが、設備投資が大きい割に使えるアイテムが限られるから、これも広がるとは思えない。スライド式の傾斜棚を活用するぐらいしか策はないのだろうか。

最近はAI流行りだが、アルゴリズムやAIで補充数量を予測できてもフィジカルなマテハン工程を効率化できるわけではないし、AIロボットに逐一、商品の賞味期限印字を探させて読ませるなどご冗談でしかない。図体の大きいロボットがちんたら補充作業する間、警備員が立ち会って長々とお客の通行を止めるのもあり得ないから、現実には営業時間外しか使えず、補充頻度の課題が残る。

 現実問題として、人手不足と人件費高騰、物流の労務的制約がのしかかる現状では、多少は棚回転が遅くなっても、ボリューム演出効果も期待して、補充頻度を落として陳列量を積むという選択にならざるを得ない。少なくともお客の側は、その方が欠品も買い物の邪魔も回避できるから歓迎するのではないか。

 そんな選択とは真逆の「常識」が支配する小売業界がある。チェーンストア衣料品と同様、売上規模が萎縮する百貨店衣料品だ。

 

■「定数定量陳列」という不合理なドグマ

 かつて百貨店アパレルのMDとVMDに関わっていた頃、大きな障害となっていたのが大半の百貨店が採用していた「定数定量陳列」という見てくれの規制だった。「定数定量陳列」とは見てくれの上質感を維持すべく、一定ピッチの什器に掛けられる点数を規制するもので、120cmラックを基準とするならトップスで20点、アウターで16点、コートで14点というふうに基準を定め(百貨店ごとに多少異なる)、VMD担当者が毎日巡回して違反していれば訂正させるという運用が行われていた。

 見てくれは良いのだが、スペースが限られて売上が競われる百貨店のインショップでは各色はともかくサイズは出しきれず、Mだけ1点づつしか陳列できないといったケースが多々生じていた。消化仕入れのインショップでは旬の売れ筋が競われて前月の売れ残り品番まで陳列するスペースはなく、接客途中でサイズ在庫やコーディネイトする前月の品番などを逐一、後方まで取りに行く必要が頻発していた。

 各ブランドに割り当てられた後方ストックは同一フロア内とは限らず、地階や上層階まで往復することを強いられ、お客は少なからぬ時間を売り場で待たされるという光景が日常化していた。百貨店インショップの保守人員は曜日や時間帯にもよるが一人か二人のことも多く、一人がストック探しに抜けると一人かゼロになり、混み合う時間帯では接客できずに帰してしまう顧客も少なくなかった。この不便を回避すべく、高効率なブランドでは売り場とストックを行き来するバイト(ストッカー)を活用するケースさえあった。

 多少は陳列が密になっても色配列などを工夫すれば選びやすく綺麗に見せられるから、ストック探しに行くロスを解消すべく陳列方式(VMD)を設計して百貨店側を説得したりしたが、当時はぶつかることが多かった。百貨店の「定数定量陳列」は今日でも残っており、不合理なドグマで販売スタッフにも顧客にも不便を強いている。

セレクトショップの多くも近似した陳列量抑制型のVMDが定着しており、在庫量の多さもあって接客中に後方へ在庫探しに行く頻度が高く、客単価が高い割に一人当たり売上が伸びない要因となっている。あのZARAも似たような陳列量規制があるようで、売り場には投入されて間もない新鮮商品ばかりが陳列されている。もとよりサイズは展開してもカラーは1〜2色に絞っているから、陳列量さえ抑えれば陳列はすっきり綺麗にまとまる。前サイクルの売れ残り品は後方ストックにキープされ、コーディネイト接客で持ち出して消化に努めるが、多くはシーズン末のセールで消化されるようだ。

これらは欧州のブランドビジネスに発して日本の百貨店やセレクトショップに定着したブランディング優先の「常識」だが、販売プロセスや陳列マテハンから見れば不合理な「ドグマ」でしかない。世界が違えば「常識」も異なるという典型ではないか。

 

■畳み陳列とハンガー陳列ではマテハン労働負担が5倍違う

 それではたっぷりフェイシング量を積めば後方ストックに探しに行く手間や高頻度な補充、欠品が避けられて解決かというと、必ずしもそうならず別の課題が出てくる。イメージ的なブランディングや在庫回転は別としても、フェイシング管理(棚割り補充と陳列形状維持)のマテハン労働負担は深刻な課題だ。

 ユニクロやジーユーなど量販アパレルチェーンは顧客を限定しないよう幅広くサイズを揃え(往時はカラーも展開していたが近年はベーシックカラーに絞っている)、欠品を回避しボリュームを訴求すべく多めのフェイシング量を積んでいるが、お客が試着した商品を戻して畳み直し、売れた商品を補充して崩れた棚割りを元に戻し維持するのは大変な重労働で、セールの週末など閉店後のフェイシング整理に2時間以上を要することもある(そんな時は派遣スタッフまで活用していた)。

棚割りから外れた迷い子探しにはRFID探索ハンディレーダーなどハイテクを駆使しても、畳み直して棚割りを整える労働は人海戦術になる。畳むだけならロボットにやらせることも可能だが(縫製工場では自動機械がやっている)、棚割りを組み直すのは人手に頼るしかない。ロボットの畳み作業は速度も仕上がりも一枚を数秒で綺麗に畳む達人の瞬間技には遠く及ばないから導入する意味は無く、店舗スタッフに達人の技を研修する方が合理的だが、数量が嵩めば疲労は否めない。

 その一方、しまむらは畳み陳列を原則禁止しており、ジーンズやTシャツさえ畳まずにハンガー陳列している。ハンガー陳列の棚割りは一列の心太型になるからユニクロのようなボリューム陳列はできないが、品出しや陳列整理などフェイシング管理労働の負担は畳み棚割り型の5分の1程度に抑制できる。若いスタッフが頑張っても一人当たり41.45平米をカバーするにとどまる国内ユニクロ(25年8月期)に対して、主婦パートが無理なく140.74平米をカバーするしまむら(26年2月期の単体)の違いは陳列方式にあると理解してもらえただろうか。

 しまむらでも今後、「都心型店舗」(ターミナル立地ではなくアーバン立地)が増えて来れば客数相応のフェイシング量を積む必要があり、実際に東武成増駅前の西友内店舗ではSKU当たり各4〜6(パッケージ肌着などは各1ダース)陳列しているアイテムも見られるが、アパレルの畳み陳列は見られない。それはデザイン物が強いコカ(coca)も同様で、しまむら並みにハンガー陳列に徹している。ユニクロほど販売効率が高くないジーユーもハンガー陳列比率を高めており、フェイシング量は積んでもフェイシング管理の労働負荷を抑制する配慮が推察される。

 

■フィジカルの現実を見て殻を破れ

 人智を越える効率を競うAIが経済成長を牽引し株式市場も戦場もリードする今や、全てをデジタルで解決できるという錯覚が蔓延しているが、如何にデジタルで予測したり仕組んだりしても物理的に実行しないと現実は動かない。ゆえに次はフィジカルAIだロボットだと言われるが、人間がやってきた非効率な作業プロセスをロボットに学習させても効率は高まらない。「人間並み」に到達するのが限界で、コストは到底合わない。システム開発だ軍事作戦だという次元はともかく、人海作業が支えてきたチェーンストア運営においてはフィジカル起点で突破口を見出す必要がある。

目的とコストを見据えて作業の手法と手順、タイミングを抜本的に組み直すか、革命的に効率化する代替プロセスに置き換えるか、はたまたサプライチェーン全体で分担を組み直すか、生産プロセス〜物流プロセス〜店内作業プロセス〜顧客のマテハン負担と利便という流れで課題を検証し、ゼロベースで再構築するべきではないか。フェイシング量とマテハンという原点的な課題からアプローチした真意を理解していただければ幸いだ。

 

 

 

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