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WWD 小島健輔リポート
『漂流する衣料消費にどう対応するか』
(2026年06月22日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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コロナからの回復が一巡した衣料消費はインフレやインバウンドに押し上げられて拡大する分野がある一方で縮小が止まらない分野も多く、増えないパイの中で消費が漂流する構図が鮮明になっている。いったいどこから流出して、どこへ流れ込んでいるのだろうか。

 

■百貨店と量販店から流出した衣料品売り上げの行方

 

「アパレル小売市場規模」(矢野経済研究所の集計、下着類も含むが服飾雑貨は含まない)はコロナ前19年の9兆1732億円からコロナ直撃の20年は7兆5158億円まで縮小した後、年々回復して24年は8兆5010億円まで戻した。25年の集計はまだ出ていないが、食料品や光熱費の上昇による衣料支出抑制とインフレやインバウンドが交錯してわずかな増加(0.5%増の8兆5440億円前後)だったのではないかと推察されるから、19年比は93%強にとどまる。ちなみに家計調査の25年の「被覆及び履物支出」は前年比1.8%減で、19年比は89%だった。

 

全国百貨店売上高(日本百貨店協会)の衣料品は1兆5058億円と前年から2.2%(店舗調整前は2.4%)減少し、コロナ前19年の1兆6834億円には1776億円(10.6%)、消費税増税前の18年の1兆7725億円には2667億円(15.0%)届かなかった。25年の全国百貨店総額には免税売上高が9.99%、19年には同6.01%含まれていたから差は3.98ポイントあり、衣料品の免税売上高も同率と見るなら百貨店衣料品の国内客売上実勢は19年の86%程度(1兆4477億円)と推計できる。

 

百貨店衣料品は国内客の購買回復にインバウンドも加わって落ち込みは小さかったが、どちらもなかったチェーンストア(量販店)衣料品は5975億円と前年から670億円(10.1%)減少し、19年からは2822億円(32.1%)も落ち込んだ。百貨店衣料品とチェーンストア衣料品を合計すれば19年から5180億円ほど減少したが、これは「アパレル小売市場規模」の19年から25年の減少額6290億円の82%強に相当する。その一方で売り上げを伸ばしたのは誰だったのだろうか。

 

コロナ前から直近決算まで売り上げを伸ばした額が大きい順にアパレルチェーンをリストしていくと、国内ユニクロが1764億円(19年8月期〜25年8月期)、しまむら単体(国内)が僅差の1736億円(20年2月期〜26年2月期)、ジーユーが920億円(19年8月期〜25年8月期)、ワークマンが872億円(20年3月期〜26年3月期)、アンドエスティHD(旧アダストリア)国内ブランドリテールが561億円(20年2月期〜26年2月期)、パルグループホールディングスの衣料品が477億円(20年2月期〜26年2月期)と続く。ここまでで合計6330億円、ワークマンを外しても5458億円になるから、ちょっと乱暴な当て込みではあるが、百貨店衣料品とチェーンストア衣料品から流出した売り上げの行方は見当がついたのではないか。

 

ECに流出した衣料消費も少なくないと思われるが、この間に増加した「衣類・服飾雑貨等」EC売上高8880億円(経済産業省の「電子商取引に関する調査」)には服飾雑貨や靴・鞄、それらの高額ブランド品が含まれていること、EC衣料品売上高の大半は店舗でも販売するアパレル企業の売上高に計上され、OMOが進む中では「店舗決済」か「オンライン決済」かの違いでしかないことから、この考察からは除外した。この認識については5月12日掲載の小島健輔リポート「ECと店舗のギャップを埋めるOMOの威力」を参照されたい。

 

シーインやテムなど中国系・韓国系越境ECへ流れたアパレル売上高は、前述した経済産業省の「電子商取引に関する調査」では24年で全品目計(衣料品に限らない)466億円と推計されているが、実態は1ケタ違う。越境EC大手の散発的な開示データからは諸説あるもののチェーンストア衣料品(5975億円)に匹敵すると推計されるから、「アパレル小売市場規模」の7%ほどを占める。前述した国内大手アパレルチェーンへの流出額に匹敵するが、関税も消費税も免税の個人輸入であって集計が存在せず推測の域を出ない。

 

■メトロエリアと女性・若者と推し活・IPへ

 

流出や流入は商業施設間はもちろん、アパレルチェーン間やブランド間でも当然に進む。商業施設の売上推移やテナントの入れ替わり、上場アパレルチェーンの販売成績を追っていけば、そのベクトルが見えてくるが、それは社会構造やライフスタイルの変化がもたらすものだ。

 

マクロ的には地域間と世代間の移動が顕著だ。少子高齢化は地方や大都市圏周縁部(エクサバン ※1.)で深刻で、若年層とりわけ地方では就職機会が限られる若い女性の流出が加速している。流出した若い女性は大都市圏アーバンに集中しており、福岡市中央区、京都市の東山区と中京区、札幌市中央区など極端に若年女性(20〜49歳)比率が高い区域が見られる。

 

スタイリングを左右する通勤手段も大都市圏(メトロエリア)とローカルで大きく異なり、電車通勤のメトロエリアではキレイめニートなビジカジスタイルが主流であるのに対して、車通勤のローカルでは緩めのカジュアルスタイルが主流だ。郊外大型商業施設では電車アクセス施設(駅上〜駅近)と車アクセス施設で売れるスタイルが異なるが、コロナが明けて以降はガソリン代の高騰もあって電車アクセス施設へのシフトが鮮明だ。

 

これらの移動に加えてインフレが進行する以上、アパレルの出店政策は「上り」(高家賃でも高集客立地を志向)一択であり、賃料などのインフレに押されて「下り」出店に流れては販売効率と人件費など固定費のバランスが崩れて損益構造がジリ貧になっていく。

 

24年以降は若年世代の所得と消費の増加も顕著だ。所得が限られて購入単価が低かった若年層(10代、20代)の購買力が急速に高まり、若者向けのファッションビルや駅ビルの構成も手頃なカジュアルチェーンからNB(ナショナルブランド)価格のブランドショップにシフトしている。それは同時にメトロなキレイめスタイルへのシフトでもある。「アイドル卒業系」OLブランドを矢継ぎ早に導入するルミネなど単価上昇も顕著で、若者の懐が暖かくなっていることを実感させる。

 

その背景となっているのが若者のバイト収入や給与収入の急ピッチな上昇だ。25年4月のマイナビの調査ではバイト時給は全国では3年間で11.3%ほどの上昇だが、首都圏では1300円台に乗っているから2割近く上昇している。厚生労働省の「賃金構造基本統計」でも24年25年の2年間で全世代の平均賃金が男性で6.4%、女性で8.9%上昇した中、20代男性は7.3%、20代女性は9.2%も上昇している。初任給の高騰で10代男性は11.2%も上昇、30〜34歳も男性9.4%、女性9.1%と若年層の賃金上昇が顕著だ。男性では45歳以上は伸びがガクンと落ちるが女性では55〜59歳で8.6%、60〜64歳でも9.8%と伸びており、女性への所得移転と購買力の上昇が際立つ。

 

女性や若者の懐が暖かくなってブランド衣料にも追い風が吹いているが、リーマン前のように高額ブランドやラグジュアリー雑貨には流れず(電車内で高額ブランドバッグを持つ「日本人」OLは滅多に見られない)、オシャレより推し活やIPにお金を使っている。ファッションビルの上層階がIP集積に変わり、オシャレな渋谷が凋落して推し活とIPの池袋に若者が集まるご時世だ。

 

推し活とIPと言えば、国の際もデジタルとリアルの際も時空の際も大人と子供の際も超えて交錯しており、日本に限らずアジアや欧米のキャラ、昔のキャラや子供キャラ(大人推し※2.)も人気だ。ポケモンやスヌーピーからホロライブやプリキュアまで30ショップがそろう「東京キャラクターストリート」(東京駅八重洲地下中央改札前の東京駅一番街内)の熱気を実感してみてはどうか。

 

※1.アーバンとサバーバンとエクサバン…都市圏郊外の新興住宅地域を指す「サバーバン(suburban)」に対して都市圏内の旧住宅地域を指すのが「アーバン(urban)」。前者の典型が住居専用の一戸建て住宅地であるのに対して後者は商業地域や工業地域が近接してマンションやアパートと一戸建てが混在する再開発期の住宅地で、東京でいえば環状6号線の外側で環状8号線のちょい外辺りまでだろうか。都市圏の拡大で田畑や工場、倉庫などが混在する周辺都市近郊まで広がった住宅地が「エクサバン(exurban)」で、東京圏で言えば外環道から国道16号線辺りだろうか。

 

※2.大人推しキャラ…ナルミヤキャラクターズはもちろん、往時のセーラームーンや近年のプリキュアまで、大人(「大友」と揶揄される)が夢中になるキャラも少なくない。

 

■「着回しの効く制服化」と汎用性・継続性・機能性

 

女性と若者の衣料支出が上向いていると言ってもトレンドを追う層は限られ、職場や仲間内に馴染む出すぎない(痛くない)スタイリング、着心地の良いフィットや肌あたり、手間いらずで心地よい機能性が求められている。ライフスタイルを彩るオシャレは志向しても、トレンドやキャラを追って目立つのは避けたいというのがコンセンサスなのだろう。

 

となればスタイリングは「着回しの効く制服化」が進む。JKのブレザー制服上下×トラックスーツの着回し、ロリータ系ヤングや「アイドル卒業系」OLのステージ衣装的フィット&超ミニフレアスタイル(アンダースコート/ブルマが定着)、MZ世代(20〜40代)ビジネスマン/ウーマンの機能性セットアップなど「着回しの効く制服化」に他ならない。売上を伸ばしているブランドや業態はそんな肝を押さえているのではないか。

 

「着回しの効く制服化」を志向すれば、スタイリングとマーチャンダイジングには継続性と汎用性が求められる。「制服」の基軸アイテムは同一商品を継続補給して縦売りするか、基本スペックを継続して素材やディティールを代えてリレーするか、いずれかの「継続」が求められる。加えて、幅広い顧客をカバーせんとすれば(「制服」の必須要件)、サイズをそろえて欠品しないよう補給体制を仕組まなければならない。サイズと在庫を絞って「売り切り御免」で消化歩留りを優先しては顧客が広がらず、狙ったマーケットで「制服化」を果たしてシェアを確立するのは困難だ。

 

「制服」には「手間いらずで心地よい機能性」が不可欠で、イージーケアや形態安定、季節に応じてUVカットや接触冷感、吸汗・速乾、吸湿・発熱などを備える必要がある。さすれば必然的に、綿や羊毛といった伝統的な自然素材軸のものづくりではなく、合成繊維・再生繊維軸のものづくりになる。それはスポーツウェアに発してカジュアルウエアもビジネスウエアも変えていく「アスレジャー革命」に他ならない。

 

「革命」の進行は染色加工大手の染色加工事業業績(多角化しているので全社業績とは一致しない)を見れば明らかで、羊毛主体のソトー、綿主体の東海染工が赤字に苦しむ一方、合繊主体の小松マテーレやセーレンは好調だ。今春のアパレルチェーンでも綿系カジュアルを引きずるバロックジャパンやハニーズのカジュアルラインは不調だが、合繊活用の機能性カジュアルに方向を定めたワークマンは近年の踊り場を抜けて急加速している。

 

 

■固執せず視野を広げて上げ潮に乗る

 

アパレルに限らず大半の事業者は成功体験に捉われて従来のポジションとやり方を変えられず、逆風に逆らって不遇な商売を続けるケースが多い。何もかも変えろとは言わないが、追い風を捉えるウェアリングやフィット、カテゴリーやアイテム、スペックや機能は素直に取り入れないと機会損失が大きく、業績を押し上げる好機を逸してしまう。

 

マーケットの風向きだけでなく、売り上げを伸ばし運営を効率化しコストを下げる仕組みやスキルにも素直であるべきだ。旧来の手法に固執して大きな効果が期待できる手法に門戸を閉ざしては、先んじて取り入れたライバルに出し抜かれ、売り上げも収益もジリ貧になる。MD手法やVMD手法、在庫運用手法やチェーン運営手法、サプライチェーンと商品財務手法、OMOやロジステイクスは効果的な仕組みや技法が幾らでもあるから、視点を変えれば目前の壁が消えて視界が一気に開ける。目を見開いているつもりでも日々の実務に熱中していると「視野狭窄」は避けられず、目の前が見えていても左右や背後、上も下も見えていないのが現実だ。

 

現状に固執せずマーケットの風に素直に乗ること、視野を広げて新たな知見やスキルを柔軟に取り入れることがアパレルビジネスの肝だと思うが、こだわるのが居心地いいのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

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