小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『プラットフォーマー化する大手アパレルが直面する、OMOの理想と現実』
(2026年04月30日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 オンワードHDやアンドエスティHDなどエンジニアを抱えて自社ECを拡大して来た大手アパレルが、他社ブランドも取り揃える「プラットフォーマー」を志向している。無在庫・無リスクで手数料収入が入り、店受け取りなら自社店舗への新規顧客も期待できる薔薇色のビジネスモデルに見えるが、OMO戦略や効率的なロジスティクスを欠いてはコスト倒れになるリスクも指摘される。

 

■プラットフォーマーに変貌するアンドエスティ

 旧アダストリアはアパレルチェーンという枠を超えて「Play Fashion プラットフォーマー」に変貌すべく、24年10月23日にこれまで「.st」として拡大して来た自社ECモールを「and ST」に改称し、25年9月1日より100%出資の新設子会社「株式会社アンドエスティ」に事業を承継。同時に本体も「株式会社アンドエスティHD」に商号変更して持ち株会社に移行した。

 ECモール事業をプラットフォーマーに飛躍すべく親会社と同じ商号を冠した子会社に事業移管し、顧客が慣れ親しんだ自社モールサイトも「.st」から「and ST」に改称して他社商品を拡大するという念の入った大仕掛けに、プラットフォーマーへの飛躍を「第五の変革」と位置付ける同社の意気込みが現れているが、もっと単純で親しみやすい方法もあったのではという見方もある。

同社によれば、1度目は1973年の紳士服店からメンズカジュアル店への業態転換、2度目は1982年のチェーンストア化、3度目は1997年のストアブランドによるOEM・ODM調達SPAへの移行、4度目が2010年の自ら企画・生産を手掛ける垂直統合型SPAへの挑戦で、今回の「小売業を超えたファッションプラットフォーマー」への挑戦が五度目の変革になる。4度目の垂直統合型SPAへの挑戦とてまだ道半ばでブランドリテール事業は成長が鈍化しており、次なる成長へと「小売業を超えたファッションプラットフォーマー」へ期待をかけている。

最新の26年2月期でアンドエスティHD全体のオンライン売上額は前期から4.8%増の763億円、うち自社ECサイト「and ST」のGMV(流通総額)は同14.8%増の462億円、他社モールでの売上が7.4%減の301億円だった。オンライン売上額763億円は同社国内ブランドリテール売上2658億円の28.7%に相当し、自社ECサイトGMV462億円はその60.6%に相当する。

「and ST」のGMVのうち自社商品が6.6%増の417億円(90.3%)で、他社商品は4倍増の45億円と9.7%まで拡大した。他社商品は期末時点で前期末から倍増の53ショップで、アパレルではユナイテッドアローズやジュン、バロックジャパンリミテッドの一部ブランド、ランジェリーではトリンプやワコール、化粧品・美容器具ではファンケルやマリークアント、靴ではニューバランスやオリエンタルトラフィック、バッグではマンハッタンポーテージやACE、雑貨ではアフタヌーンティーリビングやキャスキッドソン、食品ではディーン&デルーカなどが出店している。カテゴリーは多様だが、自社ブランド顧客との違和感はない。

 

■「and ST」と「オンワードクローゼット」は何が違うのか

 他社商品を広げてプラットフォーマーを志向しているのはオンワードのECサイト「オンワードクローゼット」も同様だ。26年2月期でホールディングス全体のオンライン売上額は前期から12.4%増の580億4600万円、うち自社ECサイト「オンワードクローゼット」のGMVは8.2%増の456億500万円、他社モールでの売上が30.7%増の124億4100万円だった。オンライン売上額580億4600万円はオンワード樫山とECを展開する国内事業会社の売上2053億1700万円の28.3%に相当し、自社ECサイト「オンワードクローゼット」のGMV456億500万円はその78.6%(オンワード樫山だけだと82.8%)に相当する。

 「オンワードクローゼット」ではストライプインターナショナルやワコールの各ブランド、TUMIやACE、ゼロハリバートンなどバッグや服飾雑貨のブランド、ジャパンメイドのファクトリーブランドなど多数の他社商品を扱っているが、GMV456億500万円のうち他社商品の取扱高は開示していない。「and ST」より他社商品の取り扱いが先行していること、フルフィルシッピング方式の「and ST」と異なってドロップシッピング方式であることなどから、他社商品の取扱高は「and ST」よりやや多いと推察される。

 自社ECサイトをプラットフォーム化する場合、他社商品をFC(出荷倉庫※)に預かって宅配出荷するフルフィルシッピング方式、受注を出品者に取り次いで出品者が宅配出荷するドロップシッピング方式、その中間のTC仕分け出荷方式がある。大規模に自動化しない限りFC運営はコスト負担が大きいから、他社商品を拡大するにはドロップシッピング方式の方が手っ取り早い。

 通販ビジネスの物流費負担は店舗販売とは桁違いに重く、フルフィルシッピングに徹して25年3月期で5747億円も取り扱うZOZOでも取扱高比で荷造運賃(外注宅配費)が6.5%、物流関連費(倉庫運営費)が3.2%、賃借料と減価償却費(大半が倉庫)が2.3%、計12.0%も要している。この他、100%キャッシュレス決済だから代金回収手数料も2.3%要している(ソフトバンクグループ傘下のLINEヤフー傘下になる以前は3%強を要していた)。

物流費負担は商品単価と出荷単価に逆相関するから、ZOZOの商品単価4038円/出荷単価8980円より低いと物流費負担率は当然にZOZOより重くなる。低単価のファストファッションに特化したECプラットフォーマーの「ショップリスト」が毎日、出品者に受注分を出荷センターに納品させ、自動仕分けして宅配出荷するTC仕分け出荷方式を採っていたのも必然だった。

アパレルでも中高単価ブランドが多く物流費負担が応分に収まっていたオンワードが、大小様々な形状で低単価商品も含まれる他社商材を拡大するにあたり、FC(出荷倉庫)を経由しないドロップシッピングに徹したことは「正解」だったと思われる。ならば、「and ST」がフルフィルシッピング方式を選択したことは「失策」だったのだろうか。

 

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

 

■プラットフォーマーへの課題

プラットフォーム事業を移管した株式会社アンドエスティの26年2月期の連結消去前売上が140億円と開示されているから、GMV462億円に対する手数料率は30.3%と計算できる。GMVのうち他社商品は9.7%と限られるから、自社ブランド事業部に対する社内レートが大半で、他社商品に対するレートはやや高いと推察される。ざっくり社内レートを30.0%と仮定するなら、社外レートは33.0%と計算できる。

ZOZOの25年3月期では商品取扱高に対する売上高比率は37.1%だが、リテールメディア収入112億円など商品取り扱い以外の収入が150億円近くあり、それらを除けば売上総利益率は34.5%になる。商品取扱高に対する平均手数料率が34.5%でも私が知る限り、出品者の取扱高と出荷単価によって実際の手数料率は24%〜40%強と幅がある。ちなみに「韓国のZOZO」と言われるムシンサの平均手数料率は28.0%、アマゾンのフルフィルシッピングはもう少し低いと聞く。

ZOZOでは総利益率34.5%に対して物流費などの販管費率は23.2%だから営業利益が11.3%残る(経常利益には前述した収入が加わる)が、アンドエスティではどうだろうか。株式会社アンドエスティのGMVはZOZOの12.44分の1と桁違いに小さく、出荷倉庫運営の規模も経験値も大差があり、宅配業者の引き受け単価も相応の差があると思われるから、取扱高対比の販管費率は28%近いと推察する。社内レート30.0%に対しては2.0%、社外レート33.0%に対しても5.0%の利益しか残らない。

社外レートは出品者の取扱高と出荷単価で異なるだろうし、それは社内ブランドに対しても同様かもしれない。実際の運営コストに応じて手数料率は合理的に設定されるはずだ。ZOZOの取扱高に対する営業利益率は11.3%でも、売上対比の営業利益率は30.4%に跳ね上がるが、株式会社アンドエスティのプラットフォーム事業売上に対する営業利益率も3倍ほどに跳ね上がるから、30年2月期の連結売上高4000億円、GMV1000億円(うち他社商品GMV105億円)、連結営業利益率8%の足をひっぱることにはならないだろう。

それでも他社商品GMV105億円(ZOZOの55分の1)という目標に対して倉庫運営など物流費が折り合うかとなると疑問は否めないから、低単価商品や大型商品についてはドロップシッピングと柔軟に使い分けるべきで、先行受注商品やファストなひと蒔きトレンド商品などはTC仕分け出荷という選択もあると思われる。

 

■OMO戦略との相乗が成り立つか

 プラットフォーマー化のもうひとつのメリットが、オンライン決済品の店舗受け取りによる新規顧客獲得だ。

 アパレルのOMOというとECサイトやSNSにおけるスタッフコーディネイト提案による販売促進と店舗誘導が挙げられるが、自社ブランドのスタッフコーディネイト提案では新規顧客の誘導は限られる。他社商品の店舗受け取りが広がると新規顧客獲得のチャンスも広がるから、アパレルECサイトのプラットフォーマー化では客層が近いランジェリーやナイティ、化粧品や服飾雑貨の他社商品が拡充される。

 オンライン決済品の店舗受け取りは前述したフルフィルシッピングやTC仕分け出荷では店舗物流への混載で物流コストを格段に圧縮できるが、ドロップシッピングだと個別に宅配料金がかかるだけでなく、宅配包装のコストと店舗での入荷と管理の手間も嵩み、宅配包装BOXをストックする空間も必要になるなど、格段にハードルが高くなる。

 「and ST」の場合、自社商品は店在庫検索による店舗在庫引き当ての店渡しも行われているが(ひとつのSKUに限られる「Quick Pick」)、複数のSKU(「Multi Pick」)になるとFCでまとめてから店舗へ出荷される。どちらもオンライン決済で店舗では「ショッパー渡し」だから、FC出荷品も裸包装で店舗物流に混載されていると推察する。他社商品の店渡しもFC出荷だから、「Multi Pick」と同様の手順で裸包装で店舗物流に混載されるのだろう。自社他ブランド、他社商品の店舗受け取りによる新規顧客獲得は合理的に仕組まれているようだ。

「オンワードクローゼット」の場合、百貨店内ショップが多いせいかオンライン決済しての店受け取りの仕組みはないが、自社商品は「クリック&トライ」という取り寄せ試着が442店舗で可能で、試着して気に入れば店舗決済で購入できる。取り寄せた商品の購入率が気になるが、26年2月期では前期からやや上昇して44.44%だった。他社商品はドロップシッピングだから取り寄せ試着は難しく、店受け取りの仕組みもないから、他社商品による店舗での新規顧客獲得は想定していないようだ。

 プラットフォーマーを志向する「and ST」と「オンワードクローゼット」はそれぞれに学ぶべきことが多いが、他社商品拡大とOMO戦略の連携という点では百貨店内ショップの制約に縛られる「オンワードクローゼット」には限界があり、自社商品の店舗在庫引き当てと他社商品も含めての店渡し利便、店舗物流への混載など「and ST」に1日の長がある。これは優劣というより販売チャネルの制約であり、プラットフォーマー化とOMOを志向する多くのリテイラーが直面する課題だと思う。販売チャネルに仕組みを合わせるか、あるべき仕組みへと販売チャネルを再構築するか、という選択になるのではないか。

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