小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『「三極化」する衣料消費⋯⋯ 最新統計で占うアパレル市場の風向き』
(2026年03月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 賃上げで多少は懐が暖かくなったのか、長年萎縮してきた衣料消費も一部に復活の兆しが見えてきたが、機能性やイージーケア、コスパが必定となった衣料消費の変質が逆戻りするわけもない。16年から続いた衣料品の購入単価下落も円安インフレで21年を底に反転したとはいえ、衣料消費総体の低価格志向が止まったわけでもない。最新のデータと現場の実感を擦り合わせて衣料消費の今後を占ってみよう。

 

■回復局面が一巡した25年の衣料消費

 衣料消費に関する25年のデータが出揃ったが、全国百貨店衣料品、チェーンストア衣料品、家計調査の被服及び履物支出のいずれも24年から減速し、コロナ明けのリベンジ消費と円安インフレ、一部ではインバウンドに押し上げられた回復局面が一巡したことが見て取れる。

 全国百貨店総額は前年から1.5%、衣料品は同2.2%減少し、総額は19年の99.1%、衣料品は同90.0%、チェーンストア衣料品は同1.8%減少して19年の68.5%(衣料売場の撤退や縮小が続いた)にとどまった。家計調査の被服及び履物支出も同1.8%減少して19年の89.0%と、百貨店衣料品と近似している。経済産業省の商業動態統計では小売業総体が前年から1.4%、19年からも8.5%伸びたのに対し、織物・衣服・身の回り品小売業は前年から1.3%伸びても19年比は8掛けにとどまった。22年以降は円安でインフレに転じており、この間のインフレ率12.0%を割り引けば全国百貨店衣料品は19年の80.4%、家計調査の被服及び履物支出は79.5%というのが実勢と受け止めるべきだろう。

 米国商務省国勢調査局(US Sensus Bureau)小売売上統計の「デパートメントストア」はJCペニーなどPDSも含んでいたが、25年は前年から0.8%減少して19年の71.8%にとどまった(PDSやデパートの倒産が相次いだ)。「衣料品&服飾雑貨店」は前年から5.5%増加して19年からも22.6%伸びているが、この間のインフレ率26.0%を差し引けば実質97.3%にとどまる。

繊研新聞が伝えるところによれば、フランスモード研究所が発表した25年のフランスのアパレル市場規模も前年から1.6%減少して19年の93%弱にとどまったというから我が国と大差はないが、円安インフレの我が国とは逆にユーロ高もあって価格下落圧力が強まっている(米国から締め出されたシーインなど中国の激安越境EC衣料品が殺到していることも要因)。

先進国の衣料消費はいずれもコロナ明けのリベンジ消費が一巡して伸び悩んでおり、日本と米国はインフレ下、フランスはディスインフレ下で低価格シフトが鮮明になっている。

 

■三極化する衣料消費

衣料消費は「二極化している」と言われるが、価格帯別の動向を仔細に見れば「三極化している」のが実態だ。矢野経済研究所の24年までの集計をベースとすれば、25年の衣料品市場は下着や靴下まで含んで8兆4200億円前後に着地したと推計されるが、これはコロナ前19年の92%弱、00年の60%強で、近年のインフレも考慮すれば四半世紀で実質、半分ほどに縮小したことになる。

ラグジュアリーブランドは1兆円強の市場規模があるが免税売上や衣料品以外の靴・鞄やジュエリー、ウォッチに依存する比率が高く、衣料品の国内シェアは金額ベースで(以下同)2%ほどにとどまると見られる。百貨店の衣料品は25年で1兆5058億円と00年の42.4%に縮小したが、単価が高いだけに未だ国内衣料品市場の17.9%を占める。ラグジュアリーブランド衣料品の多くは百貨店衣料品に含まれるから、両者を合わせた高価格のプレミアムマーケットは国内衣料品市場の19%弱と推計されるが、アパレル事業者の百貨店離れやインバウンドのモノ離れ(コト志向)、国内富裕層のクワイエット志向(ブランド品で悪目立ちしたくない)で漸減していくと思われる。

その一方、「ユニクロ」は直営店だけで8692億円と国内衣料品市場の10.3%、「GU」まで合わせれば1兆2000億円と14.3%も占め、しまむら全業態計6565億円(国内のみ)は7.9%を占める。チェーンストア衣料品5975億円も7.1%を占めるが、しまむら一社にも及ばない。これらに「無印良品」の衣料品などSC価格のアパレルチェーンを加えたボリュームマーケット全体では衣料品市場の55%ほどを占めると推計する。

両者の狭間でシェアを伸ばしているのが駅ビル・ファッションビルなど都心の付加価値型衣料品市場(スペシャルティマーケット)で、大手セレクト5社の合計売上(パルグループは衣料事業のみ)は5587億円とコロナ前19年から12.0%伸びているが、店舗売上はコロナ前を回復しておらず、ECの伸びで補っている。中小のセレクトショップを合わせたシェアは10%弱、同クラスのブランドアパレルの売り上げを合算した市場規模は百貨店衣料品を超えて20%に達すると推計する。

 コロナ下で急伸したのがECで、経済産業省の「電子商取引に関する市場調査結果」によれば24年の「衣料・服飾雑貨」EC売り上げは前年から4.74%伸びて2兆7980億円と小売市場の23.38%を占めたとされる。これには靴・バッグなど服飾雑貨やラグジュアリー雑貨も含まれ、大半がアパレルチェーンやアパレルメーカーの売上に計上されているから、それらに計上されない国内EC売上(EC専業アパレルやD2Cアパレル)は衣料品市場の6%前後と推計する。EC専業アパレルの大半は低価格のボリュームマーケットだが、D2Cアパレルの多くは中価格のスペシャルティマーケットに仕分けられる(シェアはコンマ以下)。

 

大雑把ながら国内衣料品市場はプレミアムマーケット19%弱、スペシャルティマーケット20%強、ボリュームマーケット61%(EC専業アパレルを含む)に三極化していると推計するが、実態は「四極化」が急進している。前述した国内衣料品市場8兆4200億円に含まれないシーインやテムなど中国系越境ECの日本国内売上は諸説あるものの、チェーンストア衣料品(5975億円)もZOZO(25年3月期で取扱高6144億円)も超えていると推計されるからだ。さすれば国内衣料品市場の実態は9兆1000億円弱、中国系越境ECはその7.3%ほどを占めたことになる。

チェーンストア衣料品を大きく凌駕するシェアをたった5年で獲得した勢いは恐ろしいものがあり、画期的な「流通革命」(EC掲載先行・短サイクル少量反復「無在庫」生産・産直越境「無税」通販)だったと受け止めるべきだ。チェーンストア衣料品は半世紀前の古い流通の仕組みを何も変えず価値も価格も革新しなかったのだから、没落は必然だった。

 

■「賃上げ」が際立つ若年層と女性に勢い

 衣料市場の趨勢は三極化でも、世代やジェンダーなど個別の勢いは異なる。

厚生労働省の毎月勤労統計では25年は給与の伸びが2.3%にとどまった一方で物価は3.7%も上昇して実質所得は1.3%減少したが(減少は4年連続)、若年層と女性の実質所得は伸びている。20年から24年の賃金上昇率は20代前半で10.5%、20代後半で10.0%、30代前半で9.5%、30代後半で8.5%、40代前半で7.8%、40代後半で7.3%、50代前半は4.2%と若年層ほど高く、24年は20代前半、後半の女性が5.0%、30代後半の女性が5.3%、40代後半の女性が5.8%と年齢を問わず女性の賃金が伸びた。

25年はまだ速報段階で男女別の集計は開示されていないが、全体の賃金上昇率が前年の3.8%から3.1%に大きく減速する中も若年層ほど高いという傾向は変わっていない。全体では10代から20代が4.4〜4.5%、30代前半が4.3%、30代後半が3.6%、40代前半が3.7%だったが40代後半は1.4%、50代も2.2%と若年層ほど高く、学卒の20代が5.2%と突出しているのは30万円〜40万円と競われた初任給引き上げが反映したと思われる。

わざわざ若年層と女性の所得が伸びていると論証したのは、商業施設やブランド/業態の個別動向では若年層や勤労女性向け衣料の高付加価値化が顕著だからだ。若年層や勤労女性向け衣料に限ればボリュームゾーンよりモデレートゾーンの伸びが高く、首都圏の駅ビルなどは積極的に高付加価値テナントに入れ替えている。

高額なブランド衣料と低価格のコモディティ衣料や激安の越境EC衣料に二極化しているとされてきた衣料消費だが、所得が伸びている若年層と女性ではスペシャルティマーケットでの単価アップやご愛顧ブランドのクラスアップが顕著で三極化している。一時はシーインやテムに流れたティーンズ層もアルバイトなどで稼げる一部の高校生や大学生は懐が暖かくなってブランド志向やトレンド志向を強めており、売れる価格帯が上振れしている。

その中で旧来のアメカジ系(ギャル系も含む)やエレガンス系(かつての赤文字系)が衰退する一方、レディスではロリータ系のバリエーション(量産系から地雷系や病みカワ系、クラシック系など)が広がってOL層でも大人可愛いアイドル卒業系ブランドが台頭し、メンズではモード系〜ストリートモード系のバリエーションが広がって韓流アイドル的なスタイリングも珍しくはなくなった。総じてキレイめなドレス志向が強く、黒やチャコール、パープルが目立つ店頭はグローバルなファッショントレンドとは異質で、独自のトレンドを形成している。

 

■追い風のマーケットで生産性を高め好循環に転ずる

インフレが定着して若年層や女性の給与が伸びる中、デフレ時代の感覚を引きずって低価格に固執するアパレルチェーンもあるが、同じような運営体制なら商品単価、客単価の高いチェーンほど給与水準が高いのが現実だ。若年労働力が逼迫する中、賃上げ競争に遅れをとっては人材の量も質も揃わず組織の活力も競り負けてしまう。

多くのアパレルチェーンに関与して来たが、店舗規模や店舗DXで突出した大手チェーンを除けば給与水準と人材の質は悲しいほど価格帯にスライドしている。「賃上げ」を経営目的の第一義に掲げ、「価格が通る追い風のマーケットやカテゴリー」にシフトし、バイヤー/マーチャンダイザーの単品調達感覚を脱して素材からコーディネイトMDを組んでスペックと付加価値を高めて商品単価を上向け、顧客のライフスタイルに寄り添うシーンMDで客単価を高めないと、インフレに追い越されて会社総体が貧困化してしまう。

販売の生産性で競り負ければ「賃上げ」でも採用でも競り負けて会社の貧困化が進み、それがまた商品単価・客単価と販売の生産性を停滞させるという悪循環に陥る。衣料消費が停滞する中も追い風が吹くマーケットもあり、商品単価・客単価と販売の生産性を高めれば収益力が上向き、「賃上げ」でも採用でも競り勝つ好循環に転ずることが出来る。

インフレ局面では変化しない者はコストに飲み込まれて衰退し、リスクを取って変化する者がコストを超えて躍進するから、変化に挑んで好循環に転ずることが必定だ。衣料品業界も経営意志さえあればそれができる状況ではないか。

論文バックナンバーリスト