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『百貨店の活況は束の間の「棚ボタ」だったのか』
(2026年02月12日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 インバウンド消費や株高景気に押し上げられて活況を呈していた都心の百貨店も、25年12月は免税売上が急減して失速。25年通期の全国百貨店売上総額も5兆6755億円と前年から1.5%減少して19年比99.1%、衣料品は同2.2%減少して19年比90.0%に落ち込んだ。25年11月までの活況が実力だったのか、インバウンドに押し上げられた束の間の宴だったのか。斜陽産業という百貨店の命運は変わらないのだろうか。

 

■免税売上が剥げ落ちたら

 コロナ明け以降の百貨店売上はリベンジ消費とインバウンド復活によって急ピッチで回復していったが、その勢いを支えていたのは免税売上だった。

 コロナ前18年度(高単価の百貨店は19年10月の消費税増税による落ち込みが大きかったので18年を起点とする)の全国百貨店売上総額5兆8870億円がコロナ禍の20年は4兆2204億円に落ち込んだが、21年は4兆4183億円、22年は4兆9812億円、23年は5兆4212億円、24年は5兆7722億円と回復が加速。24年は18年の水準には至らなかったものの(98.0%)、19年の水準はかろうじて超えた(100.3%)。

 とは言っても免税売上は18年の3396億円、19年の3461億円から24年は6487億円、25年も5667億円に増加しており、それを除いた真水の国内売上は24年で5兆1234億円、25年で5兆1087億円と、18年の

5兆5474億円はおろか19年の5兆4086億円にも届いていない。25年で18年比82.1%というのが実力だ。

 

全国百貨店売上総額に占める免税売上比率は24年で11.24%、25年で9.99%だったが、東京や大阪の

都心百貨店では最盛期には25〜50%にも達していた。それが剥げ落ちれば業績は暗転してしまう。

三越伊勢丹ホールディングス百貨店業のセグメント営業利益率は22年3月期の−0.74%から2.01%、3.97%と急回復して25年3月期は5.34%に達したが、24年3月期は1089億円(百貨店総額売上高の10.1%)、25年3月期は1700億円(同14.8%)の免税売上高を含んでおり、これを差し引けば百貨店業の営業利益率はコロナ前19年3月期の1.38%以下に押し戻されてしまう。

売上高を20年3月期の2740億円から1472億円も積み上げて25年3月期で4212億円に達した伊勢丹新宿本店とて24年3月期は502億円(百貨店総額売上高の13.4%)、25年3月期は757億円(同18.0%)の免税売上高を含んでおり、20年3月期の254億円(同9.3%)との差額504億円を差し引けば25年3月期でも968億円しか増えていない。

「968億円しか」と断るのは、19年9月末の伊勢丹相模原店と伊勢丹府中店の閉店、22年10月2日の小田急百貨店新宿本館の営業終了、20年3月末の東急東横店の営業終了に続く23年1月末の東急渋谷本店の閉店、24年10月1日からの西武百貨店池袋本店の売場半減と全面改装工事入りなど、伊勢丹新宿本店の商圏から推計2500億円以上が消えているからだ。渋谷・新宿・池袋の他百貨店と分け合ったとしても1000億円以上が伊勢丹新宿本店に流れたと見るべきで、競合店の閉店という「敵失」や免税売上という「棚ボタ」がなければ売上は減少していたはずだ。

当事者たる三越伊勢丹は富裕層に特化した「顧客業への転換」の成果と胸を張るが、「敵失」と「棚ボタ」による売上増は否めず、「神話」は色褪せて見える。

 

高島屋とて25年2月期の国内百貨店業の総額営業収入8589億円に対してセグメント営業利益率は3.32%と、免税売上高が1160億円(百貨店総額売上の13.5%)も営業収入を押し上げているにしては低い。コロナ前20年2月期の国内百貨店業の総額営業収入7752億円には免税売上高が687億円(同8.9%)含まれていても営業利益率は0.54%とカツカツだったから、免税売上が剥げ落ちれば国内百貨店業は赤字転落してしまう。

国内百貨店業の営業利益率が0.54%だった20年2月期でも、東神開発(商業施設デベロッパー)と高島屋クレジット(消費者金融)、高島屋スペースクリエイツ(建装業)が連結総額の12.5%、連結営業利益の64.8%を稼いで連結営業利益率は2.78%に踏みとどまっていたから、免税売上高が急減しても非百貨店事業が下支えするのが高島屋の強みだろう。

大手百貨店各社で百貨店業と商業施設業や消費者金融業など非百貨店業のバランスは異なるにしても、免税売上による押し上げは大同小異だから、免税売上が剥げ落ちれば収益を直撃するのは避けられない。それをカバーできるのはECプラットフォームビジネスとリテイルメディアビジネス、それに基づいて収益構造を抜本改革するローカルOMOマーケティング※だが、百貨店各社の現状はお寒いばかりだ。

 

※ローカルOMOマーケティング・・・店舗とECの顧客と売上を一体に地域管理して在庫を適正配分、店舗を適正配置するマーケティング手法で、EC売上比率が一定(概ね20%)以上に達して店在庫引き当ての店出荷や店渡しが定着していることが前提となる。

 

■未だECさえ離陸していない我が国百貨店の現実

三越伊勢丹のEC売上高は25年3月期で8.7%増の460億円と百貨店総額売上高の3.80%に過ぎず、ようやく黒字に転換したばかり。高島屋は25年2月期で364億円という開示もあるがIRでは「EC店舗」に104.7億円(同1.22%)が計上されているだけで、売上計上の変更もあって全容は掴みにくい。大丸松坂屋も阪急阪神百貨店もIRにEC売上の計上が見えないが、各社とも総額売上の1〜4%にとどまるようだ。

ECと店舗に売上の計上が分散したり変更されたりと混乱が見られるが、宅配も店舗受け取りも、FC※出荷もドロップシッピングも関係なく、オンライン決済ならEC計上、店舗決済なら店舗計上するのが原則で、業務分担に応じた手数料で精算すればよい。そう割り切れないで売上計上が混乱するのはOMO戦略が迷走しているからではないか。

 

米国の大手デパートチェーンではコロナ禍を経てEC売上比率は30〜40%に達し、ローカルテザリング※で店舗在庫も引き当てて最速で受け渡すBOPIS※や店出荷が定着。EC/店舗の際を超えて地域顧客に対応するローカルOMOマーケティングが必然になり、店舗網と在庫を適正に再配置して間隙をOMOサテライト※でカバーし、顧客利便と運営効率を高めることが競われている。

BOPIS利便やローカルOMOマーケティングで先行したのはウォルマートやインディテックスだが、OMOサテライトの先鞭をつけたノードストロムは「ノードストロム・ローカル」を7店舗、サックスフィフス・アベニューも「ザ・フィフスアベニユークラブ」を16店舗配してBOPISやお試しの利便に応えている。

ローカルOMOマーケティングを進めるには地域毎に店舗売上と分担するほどのEC売上があることが前提で、概ね売上の20%以上に達してからになるが、我が国百貨店の場合は店舗布陣自体が大都市中心部に限定されており、ローカルエリアは全くカバーしていない。そんな状況では受け取りとお試し利便のOMOサテライトの展開が先行されるが、以前からの外商軸サテライトストアはともかく、OMOサテライトという発想は欠けている。

高島屋が15年10月にららぽーと海老名に出店した「タカシマヤスタイルメゾン」(725平米)もBOPISやお試し利便という発想が無く、フルライン店からのテザリング物流体制も欠いてダイジェスト編集にとどまり、売上が低迷して20年2月に閉店している。百貨店が立ち遅れる中、オンワードは「クリック&トライ」(取り寄せ試着・購入)サービスを全国413店舗(25年2月末)に拡大してOMOサテライトの役割を担っている。

 

米国のデパートメントストアはEC売上を総売上の30〜40%に伸ばしても、フルライン店舗の赤字に喰われて利益が限られ、アウトレットストア(実態はサプライヤー在庫が過半のオフプライスストア)や自社クレジットカードの手数料で補っている。その壁を越えるのが自社ECのマーケットプレイス化(サプライヤー出品商品も広く扱う)とOMO利便による客数と売上の拡大で、FC出荷もドロップ・シッピング※も問わない。それで凌ぎながら不採算店舗を果敢に撤収してローカルOMOマーケティングによる店舗網(フルライン店とOMOサテライト)の適正再配置をやり遂げれば、画期的な高収益体質に生まれ変わる。

 

コロナ禍以降、このステップをどこまで進めたかで百貨店に限らず欧米小売業の明暗は分かれたが、競合店の相次ぐ閉店という「敵失」と免税売上という「棚ボタ」に恵まれた我が国の都市百貨店は勘違いの成功体験に本質を見失い、少なからぬ投資や減損を必要とする「羽化」(成虫への変態)を先延ばしにしてしまった。免税売上の潮が引いていく中、果敢な投資と減損を断行して遅ればせながら「羽化」するか、「幼虫」のまま朽ちていくのか、我が国の百貨店は壁際の選択を迫られている。

 

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。「セントラルFC」と断ったのは店舗在庫引き当てのリージョナル・ロジスティクスではないからだ。

※ローカルテザリング・・・地域の店舗間で在庫を融通して在庫効率と顧客利便を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きい靴チェーンや紳士服チェーンはもちろん、アパレルチェーンでも活用されている。

※BOPIS・・・Buy Online Pick-up In Storeの略称で、ECで発注して店舗で受け取るショッピングスタイル。Curbside pickup(駐車場受け取り)もその一種。

※OMOサテライト・・・通常の店舗がカバーしていない地域において受け取りとお試しの利便、顧客コミュニケーションを提供する小型の無在庫店舗。

※ドロップシッピング・・・EC事業者に在庫を預けず、受注した宅配伝票をEC事業者から受信して出品者が自社倉庫から顧客に直送する方式。

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