小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『事業の盛衰を分ける「二重リンク」』
(2026年02月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

624851261_2963197897209576_1121811943359675468_n

 アパレルに限らず、事業には何をやっても上手く回る時期と何をやっても上手く回らない時期がある。そのリズムと構造を見誤ると悪循環から抜けられなくなって破綻に至りかねないし、逆にリズムと構造を正しく捉えると何もかもが上手く回り出す。

 半世紀に渡ってアパレルや小売業の栄枯盛衰を見て来たが、事業を発展させるリズムと構図、事業を衰退させ破綻に導くリズムと構図みたいなものが朧げながら見えて来たように思う。その時々を振り返ってみれば、盛衰の要因はマーケットサイドやサプライサイドの変容だったり、ロジスティクスやマネジメントだったりと様々だが、そのメカニズムを一覧する構図が「外部環境適応と組織ガバナンスの二重リンク」だ。

 

■マーケットサイドの風向き

 事業の盛衰を決定的に左右するのは市場環境であり、マーケットの風向きが逆風であれば何をやっても報われないが、追い風なら下手な事業者でも上手く行く。いわゆる「時代のバスに乗る」という状況であり、しばらくはほぼ全員が上手く行くが、やがて過剰供給となって優劣が開き出し、最終的には仕組みを確立した一部の事業者しか残らない。

 マーケットの風向きが逆風となっても、仕組みの整った優位の企業はライバルが落伍していく衰退市場で残存者利益を享受できるが、いずれは売上とコストのバランスを保てなくなって収益力が悪化していく。この段階での戦略判断が企業の命運を分けることになるが、その結果は極めてドラマチックだ。

 『マーケットの立ち位置を変えず仕組みを工夫して延命する』選択をした事業者は長い時間をかけて衰退して行き、売り上げの減少をコストの切り詰めでカバーする「倹約経営」段階から営業赤字を資産の運用益や売却益でカバーする「筍経営」段階を経て債務超過に至り、身売りか破綻か清算かという結末を迎える。この間には『立ち位置は変えずパイを広げる』という選択(同業の買収)もあるが、売り上げの取り込みで固定費負担を軽減するメリットも長続きはせず、結局は業績の悪化を加速させるケースが多い。

 衰退市場での同業買収は自社より業績の苦しい事業を取り込むことになりがちで、リストラ効果を超えるシナジーは期待できず、結局は衰退を加速させることになる。同業の買収は市場の成長段階で自社より高収益な事業を取り込むのが定石で(MBOも仕掛け易い)、衰退市場で衰退事業を取り込むメリットはほとんどない。ワコールのピーチ・ジョン買収(06年)はマーケットの風向きが暗転する直前の不可解な「高値掴み」だったし、以降の内外の買収も成長事業の果実は得られず、営業損失を資産売却益で補う「筍経営」に陥っている。

逆に選択と集中を狙った事業売却では残す基幹事業より低収益な事業をスピンアウトするのが鉄則だが、資生堂の2021年の「TSUBAKI」「uno」など日用品ブランドの売却はマスな売上と高収益を期待できるコモディティ事業を売却して固定費負担を高め収益力を低下させただけで、なんのメリットもない自傷行為だった。実際、スピンアウトの受け皿となったファイントゥデイHD(旧ファイントゥデイ資生堂)の売上はコンスタントに1000億円を超え、営業利益率は22年12月14.4%、23年12月期22.8%、24年12月期13.7%と高収益なのに、中高価格ブランド化粧品に特化した現在の資生堂は24年12月期で営業利益率0.8%、当期赤字、25年12月期見込みは営業赤字、当期赤字に転落し、3次に渡るリストラで2057人を整理する惨状に陥っている。

 

マーケットが逆風に転じても追い風が吹くマーケットに転ずれば成長を期待できるが、なぜかアパレル業界では滅多に見られない。成功体験と顧客を追って同じような商品を同じように売り続ければ、衰退は止まらなくなる。運用方法を工夫したり商品を若返らせたりしても、基本的なテイストだけは最後まで変えられないケースがほとんどだ。

リーマン前に最盛期を迎えた「愛され系OL」(赤文字系のエビちゃんもえちゃん)のブランドはことごとく凋落していったが、仕組みや売り方を工夫してもマーケットとすれ違ったブランドを建て直すのは不可能に近い。それは百貨店のエレガンス系OLブランドやサマンサタバサも例外ではあるまい。

前後して失速したNBジーンズ軸のカジュアルチェーンも、アスレジャーを取り込んだメトロジーニングに転換しない限り浮上は困難で、ライトオンも例外とはなり得ない。往時のギャル&お兄カルチャー下でブレイクしたアズール・バイ・マウジーも風向きが変わって久しく、アスレジャー感覚のイージーフィットなライフスタイルブランドに抜本転換しない限り浮上は困難だ。

逆に追い風が吹いた「自立系OL」ではハンサムグラマラスなキャリアブランドや大人可愛いアイドル卒業系ブランドが広がり、女性目線に徹したマッシュグループを1000億円企業(25年8月期売上は1363億円)に押し上げ、多くのD2Cブランドが台頭している。

マーケットの風向きに逆らって一時的に業績を押し戻すことは不可能ではないが、仕掛ける技と投入するエネルギーの割に合わず、いずれ向かい風に押し戻されてしまう。そんな技とエネルギーがあるなら、追い風のマーケットに投入したほうが格段の見返りが得られる。それがポートフォリオというものだ。半世紀に渡って内外アパレルの盛衰とビジネスモデルを検証して来たが、『マーケットの風向きに逆らってはいけない』は不動の鉄則だと思う。

 

■サプライサイドの変容

マーケットが逆風になっても業績の悪化は茹でガエル的に進行することが多く、10年以上もかけて破綻に至ることが多いが、「サプライサイドの変容」に直撃されたケースでは格段に進行が早い。08年のリーマンショックを契機としてのアパレル生産の海外シフト再加速は国内産地でのQR生産を掃討し、数年で破綻するアパレルが続出。なんとか持ち堪えたアパレルもコロナ禍で息絶えた。

 我が国衣料品の数量ベース輸入浸透率は00年頃には86%に上昇していたが、ファストなトレンド商品ではまだ国内の短納期生産が成り立って、駅ビルやファッションビルのアパレルチエーンの高効率を支えていた。リーマン前、月に2回転も回っていたセシルマクビーの商品は安価でも大半が日本製だったし、ポイント(現アンドエスティHD)の在庫回転13.1回、交叉比率791(07年2月期)という驚異的な効率を支えていたのも国内の短納期生産だった。

日曜までの売上データから月曜に追加生産を決定して各工程と資材を手配し、火曜には備蓄した生機を一宮で染色して水曜には新潟の縫製工場に届け、木曜には裁断・縫製してプレス仕上げして金曜には出荷し、土曜日には東京の店頭に並ぶ・・・なんて今時のSHEINやZARAにも引けを取らないウルトラファスト生産が当たり前のように行われていた。もちろん、オーバーナイトのリージョナル間移送を要するハブ&スポークの宅配便では間に合わないから、アパレルの生産スタッフが社用のライトバンを自分で運転して運んでいた。

それがリーマンショックを契機とした経済の失速と急激な円高転換で海外産地シフトが再加速し、国内産地の低コスト短納期生産は急速に崩壊していった。消費の冷却も相まって前述したようなアパレルチェーンの高回転商売は成り立たなくなり、潮が引くように業績が悪化していった。輸入浸透率の統計データでは06年の94%が14年までに97%と3ポイント高まっただけだが、国内ファスト生産の最後の灯火を吹き消すことになった(中高額品の国内生産は一部に残り、伊藤忠モードパルなどの繁栄をもたらしている)。

国内短納期生産が成り立たなくなって急ブレーキがかかった(ポイントの場合、7期間で在庫回転は半速、販売効率は6掛け)ファストなアパレルチェンは収益構造が崩れ、力あるチェーンは海外生産の開発型SPAを志向したが(ポイントの2010年のSPA宣言)、中小のチェーンは破綻するか事業規模をシュリンクさせて延命を図った。過剰な出店や為替デリバティブの失敗など他の要因もあったが、11年8月のララ・プラン(ラブボート)の民事再生法申請から19年6月のエムズの特別清算、20年11月のセシルマクビー全店閉店まで、似たような背景が指摘される。

 

今後もサプライサイドの環境変化は突然、起きてアパレル業界(に限らず)を振り回し、その波は川中から川下へと波及していく。川下のチェーンは在来のサプライチェーンにしがみ付いても暫くは生き存えるが、効率も収益性もジリジリと低下して「茹でガエル」的な終焉を迎える。より早く大胆に転換した者が生き残り、古いサプライチェーンにしがみ付く者は遅かれ早かれ悉く破綻していくというのが、内外の半世紀を見てきた結論だ。

 

■オペレーションサイドの変容

 アパレルチェーンの経営では店舗の人件費と賃料という「固定費」の比率が高かったが、スマホの普及によるオンライン販売の拡大、BOPIS※など受け取りやお試しの利便、スタッフスタイリング投稿やSNSによる店舗誘導などOMOが一般化するに連れ、経費構造は大きく変わっていった。売上に対する固定費率は漸減していく一方、物流費(宅配外注費、倉庫運営費)や代金回収費など変動費率が上昇していった。

 オンライン販売比率が一桁の段階では運営経費率は下がらないが二桁に乗ると加速度的に下がりだし、2割を超えてOMOが進むとローカルOMOマーケティング※が可能になり、テザリング※による店舗在庫引き当てのBOPISやローカル出荷というリージョナル・ロジスティクスに移行する段階になると、ECと店舗を最適に組み合わせた店舗網の再配置が可能になる。

ここまで来れば店舗の運営効率は格段に高まって小売チェーンの損益構造から大きく飛躍し、営業利益率は倍以上に跳ね上がる。先行したウォルマートに続き、コロナ明け以降はインディテックスやアバークロンビー&フィッチも目を見張るような成果を挙げている。我が国のヨドバシカメラやABCマートはウォルマートのはるか以前から似たようなリージョナル・ロジスティクスによるローカルOMOマーケティングを確立しており、小売チェーンの水準を超える高収益体質が定着している。

 

 もうひとつの変容はインフレ経済への構造転換だ。輸出競争力が落ちて貿易赤字が定着し、旅行黒字もデジタル赤字の急増に追いつかず、投資収益の大半が海外に再投資されて国内に戻らず、円安による輸入インフレと実質マイナス金利(金利−インフレ率)が循環する中、インフレと賃上げ、投資利回りが競い合うバトルが続くと見るしかない。 

企業としては値上げと賃上げ、資金調達を競わざるを得ないが、長く続いたデフレ下で低体温体質が染み付いた企業はリスクもチャンスも大きい高体温体質への切り替えが遅れがちだ。収益力がコストインフレに飲み込まれ、利益も賃金も上げられないでは社員も取引先も投資家も離れてジリ貧になっていく。

その壁を越えるのは適切な「値上げ」とライバルに負けない「賃上げ」に他ならないが、前者は商品開発と調達の仕組みを変えての製品繊細度(生産仕様と加工精度)アップ、後者は店舗や物流施設における運営の仕組みを変えての人時生産性アップが必要だ。製品繊細度は精密機器や電子部品では当たり前の競争要件だが、アパレル業界は鈍感に過ぎる。半導体ではナノの精細度が競われるが、アパレルでも1Kに止まらず4K・8Kを競うべきだろう。人時生産性の向上というとDXとロボット化に短絡しがちだが、業務プロセス改革と働き方改革を先行させないと効果が限定されてしまう。

店舗での人時生産性は日間・週間の業務ローテーションの再構築と働き方改革のすり合わせが最も効果が大きく、RFIDやAIカメラによるDXが加われば運営人時量を飛躍的に圧縮できる。それと製品繊細度向上やオケイジョンMD、機能MD、VMD効果による単価アップが揃えば人時生産性は跳ね上がり、大幅賃上げで組織が活性化して定着率も高まり、それがまた運営効率を高めるという好循環が回りだす。

 

アパレルに限らず、事業は「外部環境適応と組織ガバナンスの二重リンク」を好循環に回すか悪循環に回すかで明暗が開いていく。部分最適に陥らず、この構図のような全体観で三面の環境変化にアクティブに適応していくべきだ。

※BOPIS・・・Buy Online Pick-up In Storeの略称で、ECで発注して店舗で受け取るショッピングスタイル。

※ローカルOMOマーケティング・・・店舗とECの顧客と売上を一体に地域管理して在庫を適正配分、店舗を適正配置するマーケティング手法。

※テザリング・・・店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいシューズチェーンや紳士服チェーンでは定着している。

論文バックナンバーリスト