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『HUMAN MADE上場に見る”熱血少年的”成功構図』
(2025年12月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役


HUMAN MADE上場に見る”熱血少年的”成功構図 _流通・小売業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】

■『ヒューマンメイドと少年ジャンプ』

11月27日の上場記者会見でヒューマンメイド代表取締役CEO兼COOの松沼礼さんは、セールをやらないで99%を売り切っていく同社の52週MD の仕掛けを『私が子供の頃の「少年ジャンプ」をイメージしています』と以下のように語った。

「少年ジャンプ」は(発売日の)毎週月曜日が待ち遠しく、少年達は小銭を握りしめて本屋に駆け込みましたが、「ヒューマンメイド」ではそれが土曜日なのです。毎週土曜日に新商品を発売し、翌日には大半が売れ切れます。新商品は木曜11時にウェブやSNSで公開されると、国内外のファンによって拡散され皆の期待をふくらませた上で、土曜11時に店舗とECで販売を始めます。話題のコラボレーション品であれば、土曜の開店前には長蛇の行列ができます。毎週新しい商品を求めるファンの心情は、「ドラゴンボール」や「スラムダンク」「北斗の拳」を楽しみにしていた1980〜90年代の少年たちに重なる気がします・・・・。

林さんは松沼さんの発言を受けて、『「少年ジャンプ」の編集方針が「友情・努力・勝利」であることは有名で、会社組織だって従業員同士のチームワーク(友情)、毎日の地道な仕事(努力)、そして会社の成長(勝利)で回っている。ヒューマンメイドの場合、創業者でクリエイティブディレクターのNIGO®さんをはじめ、その仲間たち(ファレル・ウイリアムス、KAWS、VERDY)のキャラが立っているため、少年ジャンプ的なナラティブを感じさせます』と解説する。

 『松沼さんら経営陣もファレルたちクリエイター陣も、NIGO®さんとの長年の熱い「友情」とリスペクトが土台にあリます。松沼さんたちは人材、組織、財務、生産、販売などの基盤を整える「努力」を重ねてきました。ファレル、KAWS、VERDYはクリエイティブで契約するだけでなく、上位株主としてもヒューマンメイドと深く結びついています。「IPOを起点に国内外での出店拡大やM&Aに本腰を入れるのは日本発のカルチャーを永続させるための壮大なチャレンジ」(松沼氏)で、これこそが「勝利」であり、少年漫画のような夢とロマンがある挑戦です』と林さんは続けている。

 

 この記事を読んで、アパレルチェーンのガバナンスを「スキル・努力と成果と評価・報酬の循環」と公式通りに捉えてきた私は正直、ショックを受けた。そんな少年チームスポーツ的な「友情・努力・勝利」の熱血構図で現実のビジネスが回っていくとは思えなかったからだ。しかし考えてみれば、金融・インフラから製造・流通までどの業界でも野球はもちろん、アメフトやラグビー、サッカーやホッケーなど学生スポーツで活躍した経営幹部がリーダーシップをとって業績を伸ばすケースは枚挙にいとまがないから、チームワークとリーダーシップによる「友情・努力・勝利」の熱血構図はビジネスの世界でも通用するのは間違いないようだ。

 

■IPOの勝利を分かち合ったNIGO®の仲間達

 ヒューマンメイドは2010年にNIGO®(長尾智明)が立ち上げ、16年に柳澤純一氏(現CFO)とともに「オツモ株式会社」を設立して法人化し、24年5月にHUMAN MADEに商号変更している。20年1月期には売上高が13億7600万円に伸びて営業利益4億5000万円(売上対比32.7%)と高収益体制を確立し、前後して鳩山玲人氏(取締役CSO)、松沼礼氏(現代表取締役CEO兼COO)というプロ経営陣が参画している。

 共同創業者の柳澤純一氏はデロイト出身の公認会計士だから、16年の会社設立段階からIPOを目論んでいたのだろう。代表取締役CEO兼COOとして現業を取り仕切る松沼礼氏はファーストリテイリングで「UT」(Tシャツブランド)を担当してNIGO®と信頼関係を築き、経営者として招かれている。EC中心のD2Cからスタートしてグローバルな多店舗展開へ飛躍しようとするヒューマンメイドを牽引するにふさわしいリーダーだ。CSO(最高戦略責任者)を務める鳩山玲人氏はサンリオ出身のキャラクタービジネスのプロで、IPビジネスのグローバル展開という次の段階を仕組んでいくと期待される。

 このプロフェッショナルチームを外部からサポートするのがアーチストとして互いにリスペクトし合うNIGO®の友人達だ。米国の音楽プロデューサー ファレル・ウイリアムスはNIGOLD(NIGO®の資産管理会社)に続く第二位の主要株主でIPO前で25.70%、IPOに伴う164万株の売り出し後でも18.16%のヒューマンメイド株を所有し、アドバイザーも務めている。グラフィックアーティストのVERDY(田中慧)の所有株は0.89%と少ないが、ヒューマンメイドの商品企画に不可欠なクリエイティブパートナーを務めている。米国の現代美術家KAWS(ブライアン・ドネリー)も同じく0.89%だが、VERDY同様にヒューマンメイドの商品企画に不可欠なアドバイザーを務めている。

 彼らはヒューマンメイドに直接に関わる一方、彼らやその仲間のアーティスト達がヒューマンメイドの商品を身に付けて登場したりメディアやSNSに取り上げられることでヒューマンメイドのブランディングに大きく貢献している。リスペクトを集める世界的な著名アーティストともなれば、SNSで名前を売るローカルのインフルエンサーとは桁違いの拡散とプレステージがある。

 

 そんな熱血チームの「友情と努力」がもたらした「勝利」がIPOであり、NIGO®は株式上場に際して280万株(個人272万株+NIGOLD 8万株)を売り出して81億5050万円(引受価格2910.90円)を手にし、残した1140万株は12月3日の終値(4800円)ベースなら547億2000万円になる。ファレルは164万株を売り出して47億7388万円を手にし、残した416万株は同じく199億6800万円になる。経営チームの3人(松沼礼、柳澤純一、鳩山玲)もそれぞれ10万株を売り出して2億9110万円を手にし、残した56万株は同じく26億8800万円になるから、「友情と努力」は十分に報われたと言えよう。

 

■「ヒューマンメイド」の商品も売り方も「少年ジャンプ」的

「ヒューマンメイド」の商品もNIGO®独特の「裏原宿少年団」風のやんちゃなキャラが効いている。ビンテージライクな定番アメカジアイテムをストリート感覚で崩し、オリジナルのグラフィックやコラボのキャラクターを装飾してやんちゃな少年風に表現している。シャトル織機によるセルヴィッジデニムや洗う度にペーパーラベルが擦れ落ちてハートステッチが現れる仕掛けなど、素材や仕様にNIGO®の少年ぽいこだわりが通底している。

もとよりユニセックスなメンズ企画だから、顧客の女性比率も年々上昇して25年1月期では41%に達している。顧客の年齢も初期の20代中心から大人に広がり、25年1月期は30代が39%と20代に並び、40代以上も21%に及んでいる。顧客の国籍も日本30%、韓国25%、台湾17%、中国8%、香港7%とアジア全域に広がっている。こうしてみると、世代も性別も国籍も問わずインクルーシブ※に広がるグローバルカジュアルという「メジャー性」が潜んでいることが分かる。だからこそユニクロ出身者に経営を託してビッグなグローバルブランドを目指しているのだ。

顧客を限定しないインクルーシブMDはアパレル商品のサイズ展開にも表れており、Tシャツやスウェットからジーンズやアウターまで大半がS〜XXLの5サイズ展開(一部はS〜XLの4サイズ)だから、ストリートな緩いフィットも相まって体型を選ばない。素材やディティールに凝ったアウターやスウェットなどはクーローバルなナショナルブランドの倍ほど高価で、ほとんどアフォーダブルなストリートラグジュアリーの域だが、手頃な3PパックTシャツや小物雑貨類で顧客の裾野を広げている。

※エクスクルーシブ(exclusive)とインクルーシブ(inclusive)…エクスクルーシブは排他的・独占的、インクルーシブは包括的・開放的という意味で、顧客の間口を絞るか広げるかというマーケティング&マーチャンダイジングの基本政策を分ける

 

商品の投入も代表取締役CEO兼COOの松沼礼さんが『少年時代の「少年ジャンプ」のよう』と語ったように、毎週木曜日11時に公開して土曜日の11時からオンラインと店舗で販売する52週MDだから、木曜日の公開と同時にアクセスが殺到してパンク状態になり、土曜日の開店前には店頭に長い行列ができる。新規公開されるのは毎週、アパレルが8〜10型ほど、グッズが4〜5型ほどだから、半期でアパレルが200品番(色・サイズ展開から2000SKU弱と推計)、グッズが100品番ほどになると思われる。

数量限定のコラボ商品などは土曜日の開店と同時に蒸発するから、ブランドフアンの顧客にとっては毎週がワクワクする「ガチャ」であり、連載漫画の次が読みたい週刊「少年ジャンプ」のようだ。

その一方、争奪戦の週末が明けた平日には人気商品は完売して継続定番の3PパックTと小物雑貨しか残らず、せっかく来店してくれた顧客を失望させてしまうことになる。25年1月期ではインバウンドの急増で国内直営店売上が全社売上の48.32%(前期は35.86%)に急拡大し、免税売上はその4分の3以上(76.6%)にも達しているから、来週まで待てない海外観光客のためにも手頃な継続展開商品を増やす必要に迫られている。

 

■「プロパー消化率100%、最終消化率99%」の「ガチャ」的エンタメ販売

 毎週新発売の数量限定販売で「ガチャ」的エンタメ感を煽るビジネスモデルとは言え、何度足を運んでも希望の商品が買えないようでは顧客が離れかねない。リセール店に行けば「定価」を上回るプレミアム価格で手に入るが、よほどのお気に入りでない限り手が出ない。

そうかと言って手頃な継続定番品を増やし過ぎては容易に買えて「渇望感」を希薄化させてしまうし、在庫回転も悪化してしまう。幅広い顧客をカバーしようとすれば多サイズ展開は必定だが、多少は売れ残るサイズも出てきてバラ残が溜まりかねない。ヒューマンメイド社は「プロパー消化率100%、最終消化率99%」とアナウンスしているが、実際の消化回転はどうなっているのだろうか。

 25年1月期における棚資産回転は61.37日、前期末との平均在庫で見た回転数は6.22回だから2ヶ月で一回転というペースであり、「プロパー消化率100%、最終消化率99%」とは俄かには信じられない。実際、25年1月期では元評価在庫の3.73%に相当する額を棚卸資産評価損として計上しているが※、不良品や損傷、再販できない返品もあるから、それらを除く実質消化率は99%に近いと思われる。

※「ヒューマンメイド」の未使用品はリセール店では「定価」にプレミアムを乗せて買い取ってくれるが、ブランドを毀損する訳にはいかないから廃棄・焼却して全損計上したと看做した。

 

 今後、IPOで得た資金で国内外の店舗網を拡充し、海外向けのECも整備していくとしているから、25年1月期で年坪3000万円に迫る(2973万円)国内直営店(8店舗)の驚異的な販売効率※も希薄化が避けられないが、それ以上に危ぶまれるのが「希少性」や「渇望感」の解消による「ガチャ」的エンタメ感の喪失だ。NIGO®のやんちゃな商品は毎週末の「ガチャ」的エンタメイベントで販売してこそ「裏原少年」(のマインドを秘めた世界の老若男女)の渇望を癒すのであり、継続商品を広げ過ぎて渇望を満たして仕舞えばフアンの熱量も冷めてしまう。

 IPOして投資家の資金を集めた以上、アパレル経営のプロが周到に仕掛けて「ヒューマンメイド」をメジャーなグローバルブランドへと成長させていくのは既定路線だが、「裏原少年」の渇望を煽り続ける「ガチャ」的エンタメ感覚を損なってはなるまい。

※最も効率の高い渋谷パルコ店は21.32平米で9億3000万円を売り上げており、年坪販売効率は1億4395万円と天文学的水準だ。

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