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『ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”』
(2025年11月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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最近のアパレル業界は、在庫を抑制して消化歩留まりを高める「在庫適正化」が流行りだが、「売り切り」を志向すれば「欠品」が頻発するのは必定で、値引きや残品を抑制する一方で少なからぬ顧客を切り捨てることになる。その一方で、ユニクロは『欠品は犯罪だ!』と言い切って、相応の値引きや残品を覚悟で多段階に在庫を積み上げ、国内だけで1兆261億円も売り上げて(2025年8月期)、衣料消費の11.6%を占め、12%に迫ろうとしている。コロナ前(19年8月期)の推定シェアは9.5%だったから、コロナを経て6年間でシェアを1.1ポイントも伸ばしたことになる。
在庫を抑制して「売り切り」に走るアパレル業界と、在庫を積んで「売り足し」に注力するユニクロ。マーケットはどちらを支持したか、如実にわかる数字ではないか。この両極の在庫政策が「売り切り志向」のエクスクルーシブ政策と「売り足し志向」のインクルーシブ政策であり、MDの組み方もVMDの見せ方もはっきりと分かれる。

※エクスクルーシブ(exclusive)とインクルーシブ(inclusive)⋯⋯エクスクルーシブは排他的・独占的、インクルーシブは包括的・開放的という意味で、顧客の間口を絞るか広げるかというマーケティング&マーチャンダイジングの基本政策を分ける。

 

エクスクルーシブ政策とインクルーシブ政策

 

 エクスクルーシブ政策ではマーチャンダイジングの間口も在庫も顧客も絞り、売上を犠牲にしても在庫効率を高めて収益を確保せんとするが、インクルーシブ政策ではマーチャンダイジングの間口も顧客も広げ、ロスを恐れず在庫を積んで売上の最大化を図る。

 アパレル業界のマーケティングは、「消費者より作り手の方が情報の感度が高い」という「非対称性」を前提に付加価値を創造して利益を得る発想が長く通底していた。だが、2001年のブロードバンド革命、2008年のiPhone上陸を経てネットとSNSが情報を民主化するにつれ、ファッション誌の影響力が衰退して非対称性の上に成り立っていた「ファッションシステム」が崩れ、SNSを軸にインフルエンサーや販売スタッフが顧客と対称に交信するOMOな(店舗とネットが一体化した)パーソナルマーケティングに移行している。

 そんな情報の民主化が進行していくにつれ、マーチャンダイジングもエクスクルーシブからインクルーシブへ変化が求められたが、インクルーシブなマーチャンダイジングは在庫負担が重いため、アパレル業界の大勢は未だエクスクルーシブなマーチャンダイジングに依存したままだ。我が国では、インクルーシブ政策で先行したユニクロが国民的ブランドとなり、今やグローバルな覇権を争っている。米国でも過激エクスクルーシブ政策が行き詰まったアバクロ(Abercrombie&Fitch)がインクルーシブ政策に一転して業績が急回復するなどマーケットの変化は明らかだが、アパレル業界は現実から目を背けている。

 コロナ以降、台頭が著しいD2C(卸や直営店に頼らずSNSを活用してEC主体に顧客に直販する)アパレルは、少量生産の売り切りを前提とするエクスクルーシブ政策を採るケースが多く、yutoriやHUMAN MADEのように急成長してIPOする成功例も見られる。だが、事業スケールは数十億円から百数十億円(M&Aを駆使したり、販路を海外に広げても数百億円)と限られ、千億円単位(グローバル市場では兆円単位)でシェアを争うインクルーシブなメジャーSPAとは土俵が異なる。

 1990年代からDXとハブ・コンビナートによる南欧圏内短納期生産体制を確立したインディテックス(ZARA主体)のような例外はあるが、少量生産の売り切りMDは高収益が期待できても事業スケールに限界がある。メジャーな事業規模を求めるなら色・サイズのSKUを広げ、在庫を積んで売り足していくインクルーシブMDを確立する必要がある。では、エクスクルーシブ政策とインクルーシブ政策でMDと補給はどう違うのだろうか。

 

MDの組み方と補給はこれほど違う

 

 売り切りを志向するエクスクルーシブMDでは在庫リスクを軽減すべく、多数のデザインに分散したり1デザインのSKU数を限定し、調達ロットも小さく抑えて補給在庫を積まず、オンデマンドに生産・調達して売れ行きに対応する。

 ZARAを例にとれば、毎週、多数のデザインが小ロット(全1759店に対してデザイン品1.5万点〜定番単品6万点)で生産され、全世界の店舗マネージャーによる短時間のオンライン発注(価格固定の競りに近い)によって各店舗への投入が決まる。創業期にはFC店への依存度が高く、25年1月期末でも1759店中288店を占めるという事情が各店発注制の背景だが、今日では直営店マネージャーの成果報酬制(固定給7割+成果報酬)の前提ともなっている。

 ほとんどのデザインが1〜2色展開に絞られているが(定番的な単品でも4色止まり)、サイズはトップスやアウターで4〜6、ボトムは5〜8あって、コーカソイド顧客に対してはインクルーシブにカバーしている。手足が長い筋肉質体型(骨格タイプ「ナチュラル」)に偏っているためモンゴロイドに対するカバー率は低く、ローカルフィット仕様にも消極的で、アジア圏で伸び悩む要因となっている。

 1デザインあたりのSKU数は限られるが店舗数に対して生産ロットが極端に少なく、1759店がオンライン発注すれば極めて短時間に売り切れてしまうから「競り」と比喩したわけだ。

 世界のどこにも在庫を保管するDC※やFCは持たず、生産された商品はスペインの巨大セントラルTCで自動仕分けされ、その日のうちに各店舗に出荷されるから、補給在庫はどこにも存在しない。ECの注文にも最寄りの店舗在庫を引き当てて店渡ししたり、店舗から顧客に出荷されている。

※DCとTCとFC⋯⋯入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

 ファストファッションの代表のように言われるH&Mは、多数のデザインに分散して1デザインあたりのSKU数は限定しても、調達コストを抑えるべくZARAより一桁多いロットで生産するからリードタイムが数カ月と長く、各国のDCに店舗在庫の1.5倍ほどの補給在庫を積んでいる。ECも各国のFCからの出荷であり、在庫の分散と停滞が避けられず、インクルーシブでないのに「売り切り」に徹しているわけでもない。中途半端なビジネスモデルだから業績が安定せず、収益力も低位にとどまる。

 ABS(マイコン制御の自動ブレーキシステム)のような超高頻度・短サイクル・小ロットのオンデマンド生産に、国際郵便小包の普通便と航空便の配送時差錯覚を組み合わせるタイムマシン・マジックで、ほぼ無在庫販売に近いファストなマーチャンダイジングを実現して世界を席巻したのが、広州発の越境・産直・免税通販のSHEIN(中国人は「シェイン」と発音する)だ。生産に先行するECサイト掲載で受注を先行させ、週サイクルの小ロット生産で受注数と生産数を擦り合わせていくから、国際郵便小包のタイムマシン・マジックと合わせれば無在庫販売が成り立つ。色もサイズも極端に絞った超多デザインの高頻度投入・売り切り型であり、究極のファストファッションと言えよう。

※VMI(Vendor Managed Inventory)⋯⋯あらかじめ定めた棚割りと販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

 

インクルーシブMDを極めたユニクロ

 

 顧客を幅広く捉えて売り足しを追求するインクルーシブMDは、色・サイズを揃えた多SKU展開と欠品させない補給体制が不可欠であり、オンデマンドな補正生産やサプライヤーとの協業(VMI※)を駆使するにしても、相応の値引きロスや残品は覚悟の上で在庫を抱えて補給する必要がある。

そのインクルーシブMDを極めたのがユニクロであり、売場・店内後方・消費地DC・生産地出荷倉庫と4段階に在庫を積んで欠品を回避しており、売場にぎっしり積み上げた在庫は全体の3割にも満たない。国内ユニクロの在庫回転はコロナ前19年8月期の2.15回転から25年8月期は3.50回転まで改善されたが在庫負担は重く、好不調で幅はあるが25%近い値引きロスと8〜10%の持ち越し在庫は覚悟の上と思われる。

 素材から開発してデザイン数を限定し色・サイズを展開するユニクロのMDは、今秋冬シーズンのベーシックな(ロゴものや加工ものでない)スウェットアイテムを例に取れば、合計28型(うちボトムが19型)、1090SKUにも及ぶ。対してアンドエスティホールディングスの「グローバルワーク」は合計12型(うちボトムは1型のみ)、206SKUに過ぎないから、MDの組み立て段階から間口の桁が違う。

 ユニクロはレインボーな多色相カラー展開のイメージがあるが、グローバルな「ライフウェア」に洗練された今日ではベーシックカラー(ベージュ/キャメル/ブラウン/ディープグリーンとか白/ライトグレー/チャコール/黒など)にアクセントカラーが加わる程度で、最大は10色展開だが大半は3〜5色展開、素材によっては1〜2色展開も見られる。その一方、サイズはトップス、ボトムとも6〜8サイズ展開と幅広くカバーしており、パンツでは短・並・長と丈を展開するデザインもある。5色・7サイズ展開の「ドライスウェット・カープパンツ」は3丈合計で115SKU、8色・8サイズ展開の定番「スウェットパンツ」は2丈合計で128SKUに達する。

 それに比べれば、業界の多くのブランドは色展開はともかく、サイズはフリーサイズやS/M/L展開にとどまって丈展開など滅多に見られない。前述したグローバルワークのベーシックスウェットも色は2〜8展開しているが(大半は3〜6色)、サイズは2〜4(トップス2型のみ7サイズ)展開にとどまる。

 

「棚割り」に見る「覚悟」の違い

 

 インクルーシブMDの間口と補給の「覚悟」が一発で分かるのが売場の「棚割り」だ。「棚割り」は色・サイズの展開が一覧できるだけでなく(ECサイトのサムネイル設計でも必定)、各SKUのフェーシング数量を積み上げた在庫のボリュームが来店客に与えるインパクトも大きい。そして何より、「棚割り」は欠品が歯抜けとなって目立つから、在庫を抱えて補給する「覚悟」が透けて見える。

 これまで多くの量販店やアパレルチェーンがユニクロに対抗する業態やMDにチャレンジしてきたが悉く失敗してきたのは、業界のみならず一般消費者にも公知の事実だ。商社などサプライヤーの協力を得て似たような商品を同様な価格で開発しても、売れ残りを恐れて色・サイズの展開をユニクロほどには広げられず、当初は広げても補給在庫を抑えて「棚割り」を維持できず、消費者に『ユニクロとは仕組みも「覚悟」も違う』と見透かされてしまった。

 インクルーシブMDには素材開発や生産仕様開発、ウエアリング設計やVMD(「棚割り」+「出前演出」)のスキルが必要だが、何より求められるのは色・サイズを展開した「棚割り」を維持するサプライやロジスティクスの仕組みはもちろん、相応の値引きロスや売れ残りを恐れず補給在庫を積む「覚悟」ではないか。その「覚悟」が足らず怖気付いたライバルを悉く引き離し、圧倒的な覇者となった柳井正の「覚悟」こそ、経営者が学ぶべき真髄だと思う。

 

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