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WWD 小島健輔リポート
『12月商戦「売り上げを稼ぐ」VMDの仕掛けを問う』
(2025年11月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 

11月になってようやく冷え込み、防寒アウターやニットが動いて売り上げが稼げるシーズンとなったが、下手なVMDでチャンスを損なっては目も当てられない。12月商戦に焦点を当てて「売り上げを稼ぐVMD」の基本を確認しておこう。

 

基本はMDの一覧性と「元番地」「出前」

 

VMDはマーチャンダイジングの展開を視覚的に(とは限らないが)訴求して顧客の購買行動を喚起・誘導するものだが、季節のウエアリングとその核となるアイテムが明確でMDのラインナップがそろい、かつ在庫の奥行きが厚くないとVMDのインパクトも限られ、期待する売り上げも得られない。ウエアリングとMD展開が的確に設計されていないと効果的なVMDは組めないし、在庫を積まないと早々に欠品して仕掛けが崩れてしまう。

 

「売り上げを稼ぐ」VMDの基本の基本が「MDの全容を一覧させる」ことで、インクルーシブ※1.なMDを志向するユニクロやジーユーはこの点で突出している。オンラインストアのサムネイルでもアイテム毎のデザインラインナップ、品番毎の商品詳細ページでもSKU(色×サイズ)ラインナップの全容が一覧できるが、単品の羅列に終始してMDの全容が見えないECサイトも多い。それは実店舗でも同様ではないか。

 

一瞬にして店内MDの全容を一覧させるのが理想だが物理的に困難だから(壁面の小型店では可能)、店頭や主通路沿いにMDのダイジェストを的確に「出前」する必要がある。デザインやSKU(色×サイズ)がそろった元の陳列フェイスがフェイシング管理(補充と陳列整理)する「元番地」であり、そこから目立つ所にダイジェストして持ち出す陳列が「出前」と捉えていただきたい。

 

「元番地」はユニクロのように単品の色・サイズ展開を「棚割り」陳列する「単品展開型」をイメージしがちだが、上下に「セットアップ」(同素材)陳列したり「定型ルック」(異素材)陳列するよう企画段階からMDを組む場合もある。詳しくは後述する。

 

「出前」は通常、継続販売する「縦売りアイテム」※を「元番地」からピックアップして、短期間で売り切る「横売りアイテム」と「定型ルック」を組むことが多いが、1アイテムで1カ所とは限らない。お相手や色組みを変えて複数仕掛ければ、それだけ販売チャンスは増えるが、「縦売りアイテム」は十分な在庫を抱えていることが前提になる。上手い店長?のいるジーユーに行けば、「縦売り」ボトム×「横売り」トップスの多重「定型ルック」出前を実見することができる。

 

SKU(色×サイズ)を揃えて補給するインクルーシブなMDでは「元番地」は本部指示を基本とした「棚割り」陳列が基本だが、売り切り御免のファストなMDでは新規アイテムは「出前」され「元番地」は売れ残りの旧アイテムが詰め込まれがちだから、下手すればいかにも「売れ残り集積」に見えてしまう。色・サイズが欠けた売れ残り品番をどう編集して「売れる」陳列に見せるかが現場VMDの技の見せどころで、「単品再編・階梯誘導型」と「ルック回転編集型」の2つの方法がある。

 

※1.エクスクルーシブ(exclusive)とインクルーシブ(inclusive)…エクスクルーシブは排他的・独占的、インクルーシブは包括的・開放的という意味で、顧客の間口を絞るか広げるかというマーケティング&マーチャンダイジングの基本政策を分ける

 

※2.縦売りと横売り…同一品を備蓄補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエテイをそろえて少量を蒔き切りで売り切っていくのが「横売り」

 

売り切る「単品再編・階梯誘導型」と「ルック回転編集型」

 

「単品再編・階梯誘導型」は単品MD(素材構成から設計されたコーディネイトMDでない)の色やサイズが欠けた品番を類似品毎に集め、色欠けしたものは色別に色環配列し(起点と向きは季節とトレンド次第)、サイズ欠けしたものはサイズ別に配列する手法で、前者はニットやカットのトップス、後者はスカートやパンツで使われることが多い。

 

複数類似品番の売れ残りを色やサイズでまとめて配列して「購買階梯」(商品を選択する順序)を意図的に誘導し、買い上げ率を高めるVMD手法で、元から欠けた状態の古着店などでもよく見られる。簡単な技法だが売り切り効果は大きく、販売組織に定着すれば消化力が確実に高まる。

 

VMDにおいて「購買階梯」誘導は極めて重要な手法で、買い上げ率のみならず陳列整理などのマテハン効率も高めて労働生産性を高める効果が大きい。オンデマンド・サプライを効率化する効果も大きく、メーカーズシャツ鎌倉でかつて徹底されていた「サイズボックスVMD」はその好例だ。襟型さえ決めれば自分のサイズ(首周り×袖丈)のボックスの中にある色・柄から選択するというプロセスを誘導し、国内フランチャイズ工場に積んだ素材から不足する色・柄を選択して不足するサイズの数量だけ毎週生産するという仕掛けで、最盛期には年間24回転という奇跡を実現していた。

 

「ルック回転編集型」は売れ残り品というより色・サイズの補充が効かないセレクト買付品をどう魅せるかというセレクトショップのニーズから発展したもので、核となる濃い味のセレクト品に対して素材や色彩、フィットのコントラストを組んだルック回転(隣同士が悉くルックになる)にカラーストーリーをつけて陳列する技法だ。

補充する在庫が無いから売れる度に組み直しが必要で(オリジナルの「縦売り」アイテムを軸とすれば維持できる)、高度な感性と技術、手間を要する。美術的素養と熟練が必要だから企業文化としての研鑽と習熟の仕組みが不可欠で、相応の給与を支払える客単価と生産性が伴わないと技術水準の維持が難しく、著名なセレクトショップでも消え行く幻の技法となりつつある。

 

アパレルMD設計の5つの基本パターン

 

アパレルMD設計の基本パターンは「単品展開型」「定型ルック型」「セットアップ型」「コンポーネンツ型」「コレクション型」の5種で、その応用やクロスでさまざまな展開が可能だし、意図して別のMDに組み替えて見せるVMD技法もある。

 

同一の糸から編み地やデザイン、色・サイズを、同一の布帛やジャージからデザイン、色・サイズをトップスあるいはボトムの単品で展開するのが「単品展開型」だが、トップス&ボトムで組めば「セットアップ型」、トッブス&ボトムのみならず様々なアイテムを展開すれば「コンポーネンツ型」になる。

 

「セットアップ」はテーラード・セットアップもあればブラウス・セットアップ(BS)やスウェット・セットアップ(トラック・スーツ)、デニム・セットアップもあり、テーラード・セットアップとブラウス・セットアップやスウェット・セットアップをクロス・セットアップして「ルック回転型」に陳列すれば、見栄えが良く単価の取れるVMDが仕掛けられる。

 

「コンポーネンツ型」は素材や後加工のオリジナリティとウエアリングが一体となったもので、80年代には米国の「Units」に発したジャージコンポーネンツがブームになって日本でも類似ブランドが幾つも登場したが、短期のブームに終わっている。布帛では縫製後にプリーツ加工する製品プリーツで自在なウエアリングとイージーケアを実現したイッセイ・ミヤケの「プリーツプリーズ」が独自のマーケットを確立し、今日も人気を保っている。

 

「定型ルック型」は企画段階で設計されることは稀で、単品企画のトップスやアウターとボトムを売り場でセットしてVMD訴求するケースが大半だ。当然に異素材組み合わせになるから表面感や物性のコントラスト、フィットのコントラスト、色彩のコントラストをどう組むか、ウエアリングのセンスが問われるが、店頭現場では最も高頻度に使われ、消化促進効果も大きい。

 

「コレクション型」は欧米のメゾンブランドやラグジュアリーブランドの基本で、シーン毎に素材構成と色彩構成を組んでコーディネイトを設計する。当然ながら、VMDもランウェイをハンガーラックに表現したような「バックステージ型」(ランウェイ楽屋のモデル別スタイリング陳列)か配色に凝った「クロスコンポーネンツ+アクセントアイテム型」になる。デリケートな設計に加え生産もコストと手間を要するから中低価格のアパレルにとっては非現実的だが、洗練されたインパクトがあり、セレクトショップが手持ち在庫で「ルック回転編集型」VMDを組むときのアイデアソースとして欠かせない。

 

意図して異なるMDに見せるVMDの技

 

「元番地」からダイジェスト編集する「出前」は元のMDの性格に基づくことが多いが、意図して異なるMDに組み替えて見せる技もある。売場が陳腐化して売り上げが停滞したときなど、同じ品ぞろえでもVMDで別のMDに見えるよう組み換えれば、鮮度が高まって売り上げが回復する契機を仕掛けられる。「契機」と言ったのは、鮮度の高い新商品や人気の「縦売り」商品の補充投入を欠いては効果が続かないからだ。

 

テーブルに「単品展開型」のトップスからサイズを絞って色を並べ、同様に持ち出したボトムと2段展開したり、壁面やフェイスエンドに上下2段展開して「定型ルック」を訴求する仕掛けはよく見られる。それを相手を替えて複数ヶ所展開すれば、「多重露出」で販売機会を広げられる。「セットアップ型」のMDをテーラード企画とBS企画をクロスしてルック回転陳列し「定型ルック」に見せる技は、キャリアブランドでは必須のVMD技法だ。

 

「定型ルック」をアイテム別に色・サイズを揃えてハンガーに並べると壁を作って単調になるから、1点ずつルックを組んで色環順に配列し「ルック回転編集型」に見せればクオリティ感が高まって一格上に見え、ルック売りも容易になる。「セットアップ」や「クロス・セットアップ」も同様で、「ルック回転編集型」に組んでアクセントアイテムや雑貨(スカーフやバッグ)をスパイスすれば、見違えるほどインパクトが高まる。逆も真で、高価格のブランドで単純な「定型ルック型」陳列や「単品展開型」陳列をやると格落ちして見え、顧客を失望させてしまう。

 

長年、店頭のVMDを見てきた私の印象だが、低価格店のVMDは「単品展開型」と「定型ルック型」、高価格店のVMDは「ルック回転編集型」(セレクト系)か「コレクション型」(ハイブランド系)というイメージがある。アパレル各社もブランドのクラスによってVMD手法を使い分けているが、中には違和感を感じさせるケースもある。人事異動でクラスやMDの異なるブランドからVMD担当者や店長が赴任したケースと思われるが、VMD手法はブランド固有に確立すべきもので、そんな属人的な事情で流動してよいものではあるまい。

 

顧客もVMDに漠然とそのようなクラスイメージを抱いているとしたら、クラス違いのVMD手法はブランディングを妨げているかも知れない。経営レヴェルでVMD手法を見極めるべきではないか。

 

12月商戦の「売り上げを稼ぐVMD」は

 

12月商戦というとかつては「防寒アウターとクリスマス」だったが、温暖化で寒冷期が後ズレして短くなり、TPOの際が崩れて軽快で機能的なウエアリングが定着した今日では以下の4点を認識する必要がある。 

 

(1)暗い重い冬色紡毛系の「冬物防寒アウター」のニーズは激減し、明るい軽い春色中綿系の「梅春防寒アウター」に主役が移った。

 

(2)合繊綿から羽毛まで、カジュアル系からドレス系まで、中綿アウターのニーズが多様化した。

 

(3)春色合繊表面の中綿アウターを映えさせる春色トップスのニーズも多様化した。

 

(4)よって中綿アウターと春色トップスの素材と色彩のコントラストを訴求する「定型ルック」が「売り上げを稼ぐVMD」の極め手になる。

 

「梅春期」とは立冬から冬至へと寒くなるとともに太陽の南中高度が低くなって反射光による明るい「春色」が先行する季節を指すもので、立冬(11月7日頃)から立春(2月4日頃)までの約3カ月間に相当する。ニットは10月下旬、アウターも11月中旬から梅春色へシフトするから(客層によってはもっと早い)、冬色紡毛系の防寒アウターが求められる期間は極めて短いのが現実だ。

 

梅春期の反射光による「春色」は立春以降のライトな「春色」よりペールだが、アイテムや素材によってオフ・ペールからライトまでトーンに幅がある。ニュートラルカラー(モノトーン)で言えばオフグレーからライトグレー、ミディアムグレーまでだが、ブラックもベールトーンとのコントラストで人気がある。

 

中綿アウターは見た目も軽さが求められるから膨らみが抑制され、表面素材も軽量化が追求され、近年はマット系が大半を占める。定着したアウトドア系に加えてウールコートを代替できるタウン系、ドレス系の需要が高まっており、その分、軽さと薄さ、マットな表面感が求められているようだ。アウトドア系はスポーティなビビット系やパステル系に加えて近年はシックなナチュラルカラーが広がり、タウン系、ドレス系はオフグレーからブラックのモノトーン中心にサックスやミントからサモンやピンク、パープルまでペール〜ライトトーンが加わる。

 

そんな中綿アウターを映えさせるトップスとは、タウン系/ドレス系ではネックのある起毛系ニット(フイルム系混やラメ系混を含む)、あるいはフリルネックやボーネックのレース系/透け系/テカリ系のブラウスと起毛系U/Vネックニットとの組み合わせ、アウトドア系/カジュアル系では綿系裏起毛から合繊ジャージ/ベロアのフーディやフーディ・トラックスーツだと思われる。

 

中綿アウターの胸元からそんなトップスがのぞく「定型ルック」をブランドのクラスとMDに適したVMD手法で多重展開すれば、華やかな春色が売場に広がって入店客が増え、アウターとトップスのセット販売で客単価も高まるのではないか。

 

毎月、多数の店頭を巡回して様々なMDとVMDを検証し、クライアントのMDとVMDを指導する中での実感からまとめたが、掲載するビジュアルが限られる(公式取材写真しか使えない)からピンと来ない方もおられるだろうし、当てはまらないブランドもあるかもしれない。売り場で説明すれば分かってもらえると思うが、VMDを考え直す契機になれば幸いだ。

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