小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『ジーユーのインクルーシブMDは
ユニクロを超えるか』
(2025年10月28日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

絶好調のユニクロと比較すれば課題を抱えるジーユー(GU)だが、店頭のMDとVMDは着実に進化している。25年8月期までの3期間の推移と今秋冬の品ぞろえからインクルーシブ※1.MDの進展を検証してみた。

 

※1.インクルーシブ(inclusive)とエクスクルーシブ(exclusive)…インクルーシブは包括的・開放的、エクスクルーシブは排他的・独占的という意味で、マーケティング&マーチャンダイジングの基本政策を分ける

 

■絶好調のユニクロ、伸び悩むジーユー

 

25年8月期の国内ユニクロ事業は売上収益が前期から10.1%伸びて1兆261億円と大台に乗り、営業利益も1844億円と同18.4%伸びて営業利益率は18.0%と10年8月期(20.8%)以来の水準に達した一方、ジーユー事業は売上収益が3307億円と前期から3.6%の伸びにとどまり、営業利益も305億円と9.5%減少し、営業利益率は9.2%と1.4ポイント低下した。23年8月期と比較しても、国内ユニクロ事業が営業収益で15.2%、営業利益で56.5%も伸びているのに、ジーユー事業は売上収益で12.0%、営業利益で16.9%しか伸びていない。

 

成熟期に入った国内ユニクロより成長期のジーユーの方が売上収益も営業利益も伸びていないのは、メジャーなSPAブランドに進化するのに必須の課題を解決できていないからだ。それは幅広い顧客をカバーする多SKU(色・サイズ)展開で欠品を回避すべく大量の在庫を抱えるインクルーシブMDと消化回転・歩留まりの相剋に他ならない。ベーシックな「ライフウェア」のユニクロが商品開発、サプライ・マネジメントからロジスティクス、店頭のVMD運用まで長い時間をかけて確立してきたノウハウが、メジャートレンドな「ファッションウェア」のジーユーにそのまま使えるわけではないからだ。

 

ベーシックな「ライフウェア」は売れ残っても多少、値引きすれば翌年も販売できるが、トレンド性の「ファッションウェア」は持ち越せば大幅に値引きして叩き売るしかない。「ファッションウェア」でも「ファストファッション」は二束三文になってしまうが、「今風ライフウェア」ならベーシックな「ライフウェア」と大差なく、来年に持ち越せる。

 

ジーユーは「ファストファッション」と若向き「今風ライフウェア」の間を揺れ動いてきたが、24年以降はメジャートレンドな「今風ライフウェア」に収斂してMDとVMDが上手く連携され、在庫運用のスキルも相応に高まったのではないか。それでもMD展開や在庫運用が未熟な分、インクルーシブが徹底できず、ユニクロに比べれば売り上げの伸びが鈍く、収益力も追いつけないでいる、と見るべきだろう。

 

■売上収益と営業利益のシーズンバランス推移

 

MDとVMDの具体的検証の前に、MD展開と在庫運用の結果成績たる「売上収益と営業利益のシーズンバランス」の推移をユニクロとジーユー、アダストリアで比較してみよう。

 

インベントリーマネジメントの基本は平準化であり、売り上げと在庫が四半期、月次で平準化するほど消化歩留まりが高くなり、運営経費も平準化して営業利益が最大化する。その典型がしまむら(単体=国内)で、売り上げのシーズン偏差(各25.0%からの平均乖離)は0.25ポイント、営業利益のシーズン偏差も4.16ポイントと極端に小さい。

 

ユニクロはかつては秋冬に偏って偏差が大きかったが年々、低かった4Q(夏期)の比率が上向き、25年8月期では売上収益で1Qが25.98%、2Qが26.80%、3Qが25.33%、4Qが21.90%(偏差3.11ポイント)、営業利益で1Qが28.29%、2Qが24.66%、3Qが28.70%、4Qが18.35%(偏差6.99ポイント)と平準化が進み、相応に消化歩留まりが高まって粗利益率が上向き(2期間で+2.8ポイント)、営業利益率は13.2%から18.0%に上昇している。

 

対してジーユーは売上収益こそ1Qが27.40%、2Qが22.75%、3Qが27.35%、4Q が22.50%と偏差は4.75ポイントに収まるが、営業利益は1Qが32.37%、2Qが13.23%、3Qが40.72%、4Qが13.68%で偏差が23.09ポイントと大きく、2Q(冬期)、4Q(夏期)が低位を抜け出せず、通期の営業利益率も9.22%に留まった。23年8月期から売上収益の偏差はほとんど変わっておらず、営業利益は1.23%とほとんど利益が出ていなかった4Qが大きく改善されて偏差は17.37ポイントも縮まったが、2Q、4Qの営業利益水準は依然として低い。

 

ユニクロに比べれば年間のMD展開ストーリーを確立できておらず、2Q(冬期)と4Q(夏期)のMDと在庫消化に課題が残るが、アダストリア(9月1日付でアンドエスティHDに改称)のアパレル・雑貨事業に比べれば一歩も二歩もインクルーシブMDに近付いている。今秋冬MDの比較は後述するが、ジーユーとアダストリアは売上収益と営業利益のシーズンバランスが似通っている。

 

8月決算のユニクロ、ジーユーに2月決算のアダストリアの期間を合わせれば、売上は1Q(9〜11月)25.22%、2Q(12〜2月)24.76%、3Q(3〜5月)26.06%、4Q(6〜8月)23.97%、偏差1.28ポイントと平準化しているが、営業利益は1Qが34.29%、2Qが9.41%、3Qが39.42%、4Qが16.88%、偏差23.71ポイントと格差が大きい。シーズンの前半は稼げても後半は売り切りの値下げで利益が削られるパターンで、とりわけ冬期の落ち込みが目立つ。通期(24年9月〜25年8月)の営業利益率も4.89%とジーユーの半分ほどに留まるのは、在庫運用の巧拙もあろうが、多少は持ち越せる「今風ライフウェア」とシーズン中の売り切りが必定の「ファッションウェア」の差もあると思われる。

 

■今秋冬に見るユニクロとジーユーのインクルーシブMD

 

「ユニクロ」と「ジーユー」、アダストリアの「グローバルワーク」のインクルーシブMDを比較すべく、定番的なスエットアイテム(ロゴものや加工ものでない)を取り上げたが、店頭では陳列スペースの制約や欠品でMDの全体が見えにくいので、各社ECサイトのラインナップを数えた。

 

「ユニクロ」「ジーユー」はブランドサイトだから、「スエット」や「パーカ」を選べばサムネイルに品番が一覧され、商品詳細ページで品番毎に色・サイズのラインナップが一覧できるが、「グローバルワーク」は企業プラットフォーム(名称はand STなのにURLはdot-st)で、「スエット」や「パーカ」で検索するとサムネイルに複数ブランドの品番が並んでしまい、商品詳細ページも色毎のカートページをまとめないと色・サイズのラインナップが一覧できないなど、ブランドサイトに比べるとMDの全容がつかみにくかった。加えて、ゾゾタウンや楽天、デベロッパーが運営するサイトなど多数のECサイトに掲載され、それぞれに見せ方も掲載MDも微妙に異なるため、ブランドMDのラインナップをつかむのは至難だった。デザインものやロゴものがほとんどで継続展開の定番と看做せる品番は限られたので幅を広げて収録したが、欠落があるかもしれない。MDのプロが苦労するのだから、一般消費者にとってはもっと分かりにくいだろう。

 

「ユニクロ」「ジーユー」のブランドサイトでは昨年品番や端境品番もあって「今秋冬MD」の線引きに迷ったが、「24年品番」と明記してあるもの、明記がなくても中核サイズが欠品しているものは継続品とみなして外した。

 

三者を比較したMD一覧表を精読してほしいが、ユニクロは男女兼用または女性用が大半で男性用はスエットパンツの4品番(2型の並丈と長丈)しかなく、全28型のうちボトムが19型もあり、合計は1090SKUに達する。ジーユーはもっと徹底して男女兼用(ユニセックス)と女性用しかなく、全26型のうちボトムが12型を占め、合計は812SKUもある。グローバルワークは男性用と女性用で男女兼用品番がなく、全12型のうちボトムは1型だけで、合計は206SKUと限られた。

 

 

「ユニクロ」は単品企画ばかりで上下セットアップできるものは限られるが(ブラッシュドスエットのみ)、「ジーユー」は同一素材で上下セットアップできる企画が大半で、単品企画は一素材(ダブルフェイス)のトップス3型(ユニセックス2型、ウィメンズ1型)のみと性格が分かれる。「グローバルワーク」も単品企画ばかりで、同一素材で複数型のトップスを展開するものが多く、上下セットアップできるのは一素材(ダンボール)だけだった。それもトップスの5色・2サイズ展開に対してボトムは2色・2サイズ展開(しかも1色欠品)だけで、セットアップ企画とは到底言い難い。

 

「ユニクロ」の色展開は2〜10色と幅があるが、近年は3〜5色展開が大半だ。白・ライトグレー・チャコール・黒とかベージュ・モカ・ブラウン・ボトルグリーンなどベーシックカラーが基本で、10色展開でもそれらにアクセントカラーを添えた構成だから、往時のようなレインボー(同一トーンの多色相)展開はもはや見られない。「ジーユー」も3〜9色で4〜5色展開が多く、「ユニクロ」より明るめなベーシックカラーにパステルカラーが若々しさを添えている。「グローバルワーク」は2〜8色で4色展開や6色展開が目立ったが、企画によってナチュラルカラーやモノートンに分かれ、ユニクロやジーユーのような「計画されたカラーパレット」というまとまりは感じられない。

 

「ユニクロ」のサイズ展開は6〜8だが、ボトム(スエットパンツ)では同一デザインで「並丈」「短丈」「長丈」を展開するケースがあり、105SKU、128SKUに達するデザインもある。「ジーユー」は全品番(トップもボトムも)7サイズで統一しており、やはりボトムでは同一デザインで「並丈」「短丈」「長丈」を展開するケースがあり、最大デザインは105SKUに達する。

 

近年の若者(Y世代以下)はそれなりに体形が整っており、太さにそれほどのサイズバリエーションが必要かと疑問に思うが、丈にはバリエーションが必要だ。実際の体形に加え、オーバーサイズやコンパクトに着たり落とし履いたり重ねたりすれば、さまざまなサイズが必要になる。そんな今時のウエアリングが「ジーユー」のサイズ展開から透けて見える。店頭のマネキンのスタイリングはそこまでは走っておらず、コンサバなスタイリングを出ていないのはつまらないが、さんすて岡山店みたいに機動的な多重出前VMDを仕掛けられる店長なら期待して良いかもしれない。

 

「グローバルワーク」のサイズ展開は最大7サイズ(リッチクリーンスエット・ミニロゴで8色展開、56SKU)だが、他は2〜4サイズばかりで、唯一のスエットパンツも2サイズ展開だから、「ジーユー」のようなサイズ展開やウエアリングの幅があるわけではない。店頭のマネキンのスタイリングもY世代の教科書的なフィットでストリートな崩しは見られないから、スエットパンツのサイズ・丈展開などは不要なのだろうが、それでは顧客が広がらない。

 

■インクルーシブMDには「覚悟」が必要

 

三者のMDを店頭で見ると、「ユニクロ」は単品の完成度と色・サイズ展開を訴求する姿勢が強く、VMDも単品の棚割り訴求が徹底されている。出前も単品棚割りをダイジェストしてみたり、それをトップスとボトムで2段棚展開したりしているが、いずれも「単品」訴求で「定型ルック」訴求の意図を欠き、素材からのルック訴求はビジネスのセットアップに限られる。上下のフィットバランスを崩して合わせるようなスタイリング訴求は全く見られないから、万人向けの「ライフウエア」に徹している。

 

対して「ジーユー」は単品の棚割り訴求はジーンズや定番トップス、下着・ナイティなどに限られ、同一素材の上下2段セットアップ訴求、「縦売り※2.ボトムを下段+横売りトップスを上段」の2段定型ルック訴求の多重展開など、「単品」より「定型ルック」を訴求するVMDが目立つ。素材と色彩のコントラストを軸にコーディネイトを設計するブランド型のコレクションMDこそ見られないが、サイズ展開の豊富さもあってスタイリング提案の感度は毎シーズン、着実に向上している。

 

 

「グローバルワーク」はコアのボトムやセットアップは素材からの縦売りMDだが、大半は横売りの単品企画で「定型ルック」の訴求は弱く、素材と色彩をコントラストしてコーディネイト設計するコレクションMDは全く見られない。コアの縦売りMDもテーブルやハンガーに単品展開されるだけで元番地の棚割り訴求がなく、補給を切らさず継続するという「覚悟」は見えない。コアの縦売りアイテムを軸とした「定型ルック」も店頭での間に合わせにしか見えず、素材から設計した定型ルックのインパクトにはほど遠い。

 

「開発型SPA」とはいうもののMDもVMDも素材軸の構造性が見られず、インクルーシブな色・サイズ展開を切らさず補給する「覚悟」も見えないから、超千億円級のブランドに化けるとは到底思えない。

 

MDの組み立ては上手なVMDで魅せることもできるが、MDが素材から組み立てられていればVMDが下手でも「意図」や「覚悟」は相応に伝わる。インクルーシブMDは色・サイズを幅広く展開し、多様なフィットと着崩しを可能にして幅広い顧客を捉え、欠品で失望させることが無いよう在庫を積んで補給することが求められるが、計画通りに消化回転させていくのはAIを駆使しても困難を極める。

 

低コストな計画生産にオンデマンドな補充生産やVMI※3.、キックオフを組み合わせて在庫消化と値引きロスを許容範囲にコントロールしていくが、想定外の事態や異常気象が起きれば許容範囲を超える値引きロスや残品も「覚悟」しなければならない。私の推察だが、「ユニクロ」や「ジーユー」は20%を超える値引きロスと8〜10%程度の持ち越しは「覚悟」の上でMDと生産、販売計画を組んでいると思う。うまく回ればそれ以下で済んで好業績を残せるが、想定外の事態が起きればそれ以上になることも「覚悟」の上だと思う。

 

近年は在庫を残さないよう色・サイズを絞り、少なめに調達して「適正在庫」で安全運転するのがトレンドのようだが、それでは少なからぬ顧客を切り捨て、あたら得られるはずの売り上げを捨てることになる。私の知る限り、同一価格帯・同一立地ならインクルーシブMDと売り切りMDの販売効率は倍ほども開くから、「覚悟」を決めてインクルーシブMDを仕掛けるライバルに顧客を譲る結果を招くことは間違いない。

 

「ユニクロ」が万人の「ライフウェア」で国内衣料消費のシェア12%に迫り、「ジーユー」も遠からずインクルーシブMDで若向け「今風ライフウェア」に進化するとすれば、他のアパレル事業者の取り分は確実に減っていく。

 

自分のシェアを確保して生き残るには自分なりのインクルーシブMDを見出し、上手にサプライを仕組むにしても、相応の「覚悟」を決めて在庫を抱える必要があるのではないか。

 

※2.縦売りと横売り…同一品を備蓄補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエテイを揃えて少量を蒔き切りで売り切っていくのが「横売り」

 

※3.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い

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