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WWD 小島健輔リポート
『商業施設の賃料が上昇する中、
アパレルはどこに出店すべきか』
(2025年09月24日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 インフレと賃上げが競り合う中でアパレル消費も5月以降は上向いているが、インバウンドや飲食の勢いに金利上昇も加わって商業施設(館)の賃料も上昇しているから、立地や客層に左右されるアパレルの出店は慎重に検討されるべきだろう。商業施設の立地や性格、販売効率、賃料条件などから出店選択の要点を探ってみた。

 

■出店需給好転と金利上昇で上がる賃料をいかに吸収するか

 消費の回復で出店意欲を高めるアパレルチェーンも少なくないが、コロナ明け以降の店舗回帰にインフレやインバウンドも加わって賃料改定に強気の商業施設デベロッパーも増えている。

CBREの調査によれば、銀座と関西で先行したハイストリート(繁華街)路面物件賃料のコロナ前水準超えが25年の第1四半期では表参道・原宿や渋谷にも広がり、未到達は新宿と名古屋栄のみとなっている。ラグジュアリーやドラッグに偏っていた出店もスポーツ・アウトドアやアパレル、飲食に広がって好物件は賃料が競り上がっている。建築費の高騰や金利の上昇で求められる投資利回りもジリジリと上昇し、不動産会社の株価に続いて東証リート指数も上昇しているから(定期借家契約改定のタイムラグがあった)、商業施設の賃料もコロナ前水準回復という一線を超えて上昇するのは必至と思われる。

 商業施設デベロッパーのスタンスに立てば、インフレ局面で売上が伸びていれば単位面積当たりの賃料水準を高めようとするのは当然で、業種やゾーン毎に平均を大きく下回るテナントをマークして定期借家契約の改定に臨み、縮小移動したり高家賃が望めるテナントに入れ替えたりする。賃料水準を高めようとするデベロッパーは客単価の高いテナントにシフトするのが顕著だから、客単価も販売効率も低く前年を割っているようなアパレル店は追い出しの対象になってしまう。

 賃料水準の上昇が避けられないなら販売効率や粗利益率の向上で吸収するしかないが、そのキーとなるのが客数と客単価、人時生産性であることは言うまでもない。客数と客単価が上向いて一人当たり粗利益額が上昇していかないと、賃料や給与の上昇を吸収出来ず、採算が悪化して出店どころではなくなってしまう。

 客単価は商品単価と買上点数に因数分解されるから、素材の開発や仕様の完成度で商品単価をほどほどに高めるとともに(平均4%程度が客数減を招かない安全ライン)、ネットやSNSでコーディネイトを訴求して顧客を店舗に誘導するローカルOMO※の実践が決め手になる。店舗スタッフによるスタイリング投稿やイベント告知、ECからの取り寄せ・取り置き試着やEC注文品の店舗受け取りで店舗を訪れる顧客が増えれば、買上客数も買上点数も当然に伸びる。

 人時生産性を高めるもう一方のキーが店舗DXと物流の再構築だ。RFIDの導入は必然で、在庫管理・棚卸しの効率化はもちろん、迷い子品の探索や店渡し・店出荷品のピッキングもスピーディになるし、低単価店では一括読み取りのセルフレジで精算人時を大きく削減できる。

店舗のマテハン人時量を圧縮するにはVMD方式(別の機会に詳説したいが、売場で実地説明しないと理解が難しい)の再構築と品出し・フェイシング管理の集約・定時化が効果的だが、物流段階のプレハブ化を加えれば大幅な削減が可能になる。初期投入では品番単位やアドレス単位にSKU数量を揃えてバンドル化する、棚割り図やアドレス指定を同封する、など物流段階でプレ加工することにより、店舗段階の作業を軽減してマテハン効率を高めることが出来る。

プレハブ化は生産段階でのインレイ封入やタグ付けに始まり、バンドル化やオリコン仕分けなどできるだけ上流(工場や出荷倉庫)で済ませるのがポイントで、物流プロセス総体の最適化に組み込む必要がある。店舗段階だけで効率化しようとすると作業の負荷が高まったりシフトに無理が生じたりするから、物流段階のプレハブ化は必然と思われる。

※OMO(Online Merges with Offline)・・・ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットでの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

 

■商業施設の性格と販売効率の実態

 賃料の上昇を吸収する策を講じても、自店にとって十分な客数が期待できる商業施設でないと採算は望めない。世代やジェンダー別の商圏人口や分野別の消費支出規模、アクセス利便や競合関係を商圏分析システムで精査する必要があるが、アパレル店舗では世代や価格帯にテイストやトレンドも絡むから計算通りにはいかないことも多い。出店区画周辺の顔ぶれを見て判断することも多いと思われるが、その前に商業施設の性格と売上規模(館の年間売上)、販売効率(月坪効率)の大枠を掌握し、出店の基本方針を固めておくべきだ。

  繊研新聞社のアンケート集計をベースに情報を補足してイオン系を除く24年度の館売上(核店舗も含む)上位150商業施設(170億円以上)の性格と販売効率を検証してみたが、どう工夫しても物理的に図表にプロットできるのは館売上300億円以上の72施設までだった。150施設は大きくアウトレットモール、ダウンタウン商業施設、郊外SCに分けられるが、ダウンタウン商業施設はステーションビル(駅ビル)、アーバンモール(駅ビル以外の商業施設や地下街)、ファッションビル、郊外SCは駅前型と駅から離れたタイプ(大雑把だが「車型」としておこう)、アウトレットモールもラグジュアリー中核型とその他で性格も販売効率も大きく異なる。

 館売上上位150商業施設はアウトレットモール(OT)が15、ステーションビル(駅ビル/SB)が39、アーバンモール(UM)が16、ファッションビル(FB)が15、駅前型ショッピングセンター(SSC)が30、車型ショッピングセンター(SC)が34、空港モール(AM)が1と分類できる。月坪効率が30万円以上の施設が47、20万円以上30万円未満の施設が41、20万円未満の施設が62という結果になったが、タイプと販売効率の分布は別表を参照してほしい。
 販売効率が高いのはステーションビルやアーバンモール、アウトレットモールだが、それぞれに偏りが見られる。ステーションビルが都心ターミナルから郊外ターミナルや私鉄駅施設まで乗降客数と賃料に相応に売れているのに対し、アーバンモールは立地や館の性格で効率の格差が大きい。それはファッションビルも同様で、同地区のステーションビルと比べれば大方が6〜7掛けの販売効率にとどまっている。

アウトレットモールは大都市圏周辺のラグジュアリー集積型とローカル都市周辺のNB(ファッションやスポーツのナショナルブランド)集積型で効率格差が大きい。ラグジュアリーブランドの集積を欠くローカルのアウトレットモールは効率が低く、テナントの採算も苦しいと思われる。ショッピングセンターは駅前型の方が車型よりひと回り販売効率が高いが、乗降客数が限られる駅では車型と大差ないケースも見られる。とは言っても、世代交代で自家用車保有率が低下するメトロ圏郊外では駅前型と車型の格差は開いて行かざるを得ない。

車型ショッピングセンターと言えばイオンモールとららぽーとだが(どちらも駅前型もある)、イオンモールは個々の館売上を開示していない(大方は掴めるが実額は不明)。ららぽーとも海老名や豊洲など駅前型はまずまずの販売効率だが、駅から離れた物件は販売効率が低く、地方に行くほどそれが顕著になる。

これらは立地とタイプで類型化した傾向であり、例外的な高効率施設も低効率施設も存在するから個々の検証が必要なことは言うまでもないが、大半の施設は類型的な見方が当てはまる。

 

■「お勧め物件」と「リスク物件」

 販売効率が高い施設ほど賃料水準も高く最低保証のハードルも高いから、力不足のアパレル店が無理に出店すれば賃料負担に苦しむことになるが、販売効率が高めにしては賃料水準や最低保証がそこまで高くない「お勧め物件」、逆に立地が悪い分、賃料も安いが、それ以上に販売効率が低い「リスク物件」もある。今回の集計や過去の知見(館側で50余/テナント側で500近い商業施設に関わって来た)から、私が「お勧め物件」あるいは「リスク物件」と考えるタイプを挙げておこう。

 アパレル店舗にとっての「お勧め物件」は、自店の客層が厚いメトロ圏アーバン※のJR駅あるいは私鉄急行停車駅の駅ビルで、客数が望める割に賃料はターミナル駅ビルより格段に手頃だ。サバーバンは人口密度が低いからターミナルの駅ビルでないと客数が望めないが、集合住宅が多く人口密度が高いアーバンならターミナル駅でなくても相応の客数が望める。

注意すべきは沿線や駅毎に客層が異なることで、ミセス〜シニアの高齢世代、マンション住まいの現役世代、賃貸住まいのOLや学生、いずれかの狙いと一致する必要がある(ファミリー客はアーバンでは少数派)。近接した地域でも沿線によって世帯所得水準やライフスタイルが極端にかけ離れるケース(東急田園都市線と横浜市営地下鉄線など)も少なくないから、データと実感で判断する必要がある。

私鉄のアーバン駅ビル(高架下物件も含む)は販売効率が高くても営業面積が小さいので館売上上位150に入らない(大半は100億円にも届かない)施設がほとんどで、食品やドラッグ、雑貨や飲食など最寄り業種に偏ってアパレルのバラエティが限られる場合も多いが、客層が一致すれば高い販売効率と収益が望める。

 「リスク物件」として注意したいのは人口密度が希薄なローカルの車型SCで、販売効率も賃料も低いがドミナントを形成できない孤立店舗ゆえ店舗運営や人事管理などマネジメントコストが見合わず(販売代行という選択もあるが)、期待外れになると立て直しの策もない。商圏が薄く広いため、ライバル商業施設が開業すれば落ち込みも大きく、回復も望み難い。出店はマネジメントとロジスティクスのスパン内にドミナントを形成するのが必定で、それが成り立たないローカルの孤立店舗を作ってはならない。

逆に使い勝手が良いのがドミナント内のパワーセンター店舗やストリップモール店舗で、販売効率は月坪10万円に届かない施設がほとんどだが相応に低賃料(月坪数千円)の広い店舗は営業時間も自由で人時効率が高く、ダイレクトパーキング出来るからテザリング※や店出荷の拠点としても活用できる。販売効率はボーダーに届かないにしても、館売上がランク入りする(170億円以上)パワーセンターは少なからず存在すると思われる。

もう一つの「リスク物件」は広域商圏を狙ってアップスケールな投資とテナント構成を組んだ商業施設で、ライバル施設と食い合って期待した商圏占拠率を確保できないとコスト倒れになり、テナントも売上が賃料に見合わず収益が圧迫される。それは郊外やローカルのみならず都心のターミナルでも言えることで、好況期では上手く回っても一度、不況に転ずれば売上が落ち込んで採算が取れなくなってしまう。インバウンドが押し上げる近年の活況も、韓国の暗転を見れば継続性を疑うべきだろう。

対して広域を狙わず足元商圏の占拠率を高く取る戦略を組んだ商業施設は初期投資もランニングコストも低く、ライバル施設との食い合いリスクも低いから売上が安定して賃料負担も軽く採算が取りやすいが、お手頃でインクルーシブ※なMDでないと客数不足で販売効率が低位にとどまるリスクがある。

高単価でエクスクルーシブ※なMDで高効率施設(当然に高コスト)での採算を志向するか、低単価でインクルーシブなMDで低コスト施設(相応に低効率)での採算を志向するか、出店政策以前の選択が問われることは言うまでもない。

立地別・タイプ別の賃料負担率については6月12日掲載の『アパレルの賃料負担と出店戦略はどうなるのか「SC白書2025」から読み解く』で詳説したので、そちらをご一読くだされば、本稿と併せて出店の方針も定まってくるのではないか。

※サバーバンとアーバンとエクサバン・・・・都市圏郊外の新興住宅地域を指す「サバーバン(suburban)」に対して都市圏内の旧住宅地域を指すのが「アーバン(urban)」で、前者の典型が住居専用の一戸建て住宅地であるのに対して後者は商業地域や工業地域が近接してマンションやアパートと一戸建てが混在する再開発期の住宅地。都市圏の拡大で田畑や工場、倉庫などが混在する周辺都市近郊まで広がった住宅地が「エクサバン(exurban)」。

※テザリング・・・店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる。

※インクルーシブ(inclusive)とエクスクルーシブ(exclusive)・・・インクルーシブは包括的・開放的、エクスクルーシブは排他的・独占的という意味で、マーケティング&マーチャンダイジングの基本政策を分ける。

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