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WWD 小島健輔リポート
『「SC白書2025」から読み解くアパレルの賃料負担と出店戦略』
(2025年06月12日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

  日本ショッピングセンター協会から6月1日に「SC白書2025」が発行されたが、コロナ禍を経たテナント構成の変化、アパレル店舗にとっては意外にも思える賃料推移など興味深い内容だった。「SC白書2025」を起点にアパレル店舗にとっての賃料負担と出店戦略を考察してみよう。ちなみに「SC白書2025」はショッピングセンター協会のウェブサイトから印刷書籍版(税込み会員価格1980円、非会員価格3080円)も注文できるが、デジタル版なら無償で閲覧できる。

 

「SC白書2025」が語るアパレルの凋落と変質

 

 2024年は23年より4SC多い38SCが開業したが店舗面積が5万平方メートルを超えるSCはなく、3万平方メートル以上もエミテラス所沢(4万3000平方メートル)、ゆめが丘ソラトス(4万2700平方メートル)、三井アウトレットパーク マリンピア神戸(3万2000平方メートルへの増床再開業)だけだった。38SCの合計店舗面積は42万1569平方メートルと記録が残る08年以降最小で、平均店舗面積1万1094平方メートルは84年以来40年ぶりの最小記録となった。

 

 東京に続いて大阪や名古屋、福岡の都心では次々と巨大施設が開発されている印象があるが、上層階のオフィスやホテル、レジデンスが主役のコンプレックス(複合施設)であって、商業施設は付加価値と利便性を担う脇役になった感がある。商業施設の中でも時間(コト)消費が志向されてイベント施設や飲食サービス、物販でもキャラクターグッズや趣味雑貨が拡充される一方、ファッション関連とりわけアパレルの出番はコロナ以前と比べれば限られる。

 

SC過剰が慢性化した米国では百貨店や大型ファッション店が撤退した後がフードコートやアミューズメントパークになり(ECの出荷センターになったケースもある)、行き詰まった大型モールが取り壊されてレジデンスやホテル、オフィスやメディカルセンターとの複合施設に再開発されるケースが増えている。わが国のターミナル再開発も新宿や渋谷に見られるように、百貨店やファッションビルが取り壊されてオフィスやホテル、レジデンスやエンタメ施設との複合施設に再開発されるわけで、商業施設とりわけファッション関連は再開発前と比べれば縮小されて脇役に回るのが現実だ。

 

郊外やローカルに目を移せば、役割を終えた総合量販店(GMS)が取り壊されたり改修されて、スーパーマーケットやフードコートを中核に、ドラッグストアや生活雑貨などの最寄業種、クリーニングや修理からATMまで各種生活サービス、フィットネスや英会話、学習塾などの習い事、メディカルサービスなどをそろえた近隣型商業施設(NSCやコンビニエンスセンター)に生まれ変わるケースが広がっている。いわゆる「ダウンサイジング」(近隣日常化)で、アパレル関連は手頃な普段着カジュアルに限定される。

 

GMS跡の再開発とは次元が異なるが、郊外駅前の百貨店がテナント構成のSCに生まれ変わるケースも広域型から足元型への「ダウンサイジング」が共通しており、食品や飲食サービス、ドラッグストアや生活雑貨などの最寄業種が拡充される一方でアパレルは格段に圧縮される。その中身も、かつての百貨店ブランドから手頃なSCブランドや量販ブランドに代わってしまう。そごう川口店だった駅前のビルを三井不動産が再開発したららテラス川口など典型的な事例で、かつての百貨店顧客はその変貌に落胆するに違いない。

 

「SC白書2025」でも新規開業SCにおけるテナントの業種構成推移を報告しているが、コロナ前18年はテナント数の18.9%を占めていた「衣料店」(18年から分類)がコロナに直撃された21年には12.9%に激減し、22年は15.0%まで回復するも24年は再び10.1%に激減している。代わって増えたのが「飲食店」で18年の18.9%が24年は27.2%、「サービス店」(日常サービスや習い事、メディカルサービスなど)も18年の22.3%から浮き沈みはあるものの24年は24.0%に増えている。

 

経済産業省「商業動態統計」によれば24年の衣料・服飾品小売売上高は19年の79.6%までしか回復しておらず、総務省「家計調査」における24年の被覆および履物支出も19年の88.3%に留まるから、新設商業施設において「衣料店」の比率が落ちるのもやむを得まい。食料品の値上げが続いてエンゲル係数がコロナ前19年の25.7%から24年は28.3%に跳ね上がって生計が圧迫され、ファッション係数(被服・履物支出)が3.67%から3.33%に抑制されたことも響いていると思われる。

 

そんな中でも着実に伸びているのが生活圏の日常衣料や立地を選ばない「ライフウエア」であり、前者は「ファッションセンターしまむら」や「パシオス」、後者は「ユニクロ」や「ジーユー」であることは言うまでもない。意外と伸びているのが生活雑貨店の衣料品で、「ケユカ」のエスニック感覚のナチュラル衣料は近年の亜熱帯気候にも適応しているし、「ラコレ」の衣料品にも目を惹くものがある。「無印良品」の衣料品やファミリーマートの「コンビニエンスウエア」も「ライフウエア」的評価を得ているのではないか。生活圏での衣料品の可能性については、24年6月4日掲載の「『ユニクロ』が抜けた“空白マーケット”を手にするのは誰か」(★リンク貼るhttps://www.wwdjapan.com/articles/1829781★)を読み返していただけば理解が深まると思う。

 

アパレル店舗のテナント賃料負担率は高いのか

 

 「SC白書2025」によれば、23年の売上対比賃料率は物販で平均11.57%(賃料と共益費一括の総合徴収型)と前年から0.56ポイント低下したが、コロナからの回復やインバウンド効果で売り上げが上昇して賃料負担率が低下したと総括されている。SCのテナント賃料は売上対比の定率が大半だが「最低保証売上」(=最低保証賃料)というボーダーがあり、月々の売り上げがそのボーダーを割り込むと賃料負担率が跳ね上がる。

 

今や定着したテナントの定借契約(00年3月施行)期間も施設の性格によって3〜6年(都心ほど短く郊外ほど長く、核テナントは10年以上とさらに長い)と幅があるが、その間は原則、賃料条件は変わらないから(最低保証水準は交渉余地がある)、市況で売り上げが上下すれば売上対比賃料率は相応にブレてしまう。ゆえに水準を見るには長期間の平均を取るべきで、「SC白書2025」は2012年から2024年までの12年間の平均は12.40%だったと開示している。

 

アパレル業界の実感としては「そんなに低いわけがない」と思われるかもしれないが、これは地方や郊外の近隣型商業施設まで含んだもので、多くのアパレル店舗が出店するような大型モールではイオンモールの25年2月期で17.6%、駅ビルではJR東日本のルミネが24年3月期で19.7%と業界の実感に近い。この料率は賃料だけで、共益費や販促費、ハウスカードの決済手数料などが加わる実際の負担率はさらに高くなる。

 

一般に客数の多い広域商圏の好立地施設ほど販売効率は高くなるが最低保証のボーダーも高く、結果的な賃料はそれ以上に嵩むから、売上対比の賃料負担率は好立地ほど割高になる。過去の「SC白書」では立地別の賃料負担率も開示していたが、19年版では物販の総合賃料負担率は小都市周辺地域の9.59%から大都市中心地域の16.18%まで6.59ポイントもの格差があった。

 

 アパレルテナントの賃料負担率は最低保証のボーダーを割り込む月がなかったとしても基準賃料率を下回ることはないから、10%+2.2%(総合賃料と個別賃料の12年間平均格差で共益費に相当)=12.2%が下限ということになるが、ターミナルなど好立地では基準賃料率が12〜16%の施設も少なくない。逆に高い販売効率では賃料率が逓減する契約も稀に見られるし、「ユニクロ」や「ザラ」「H&M」のような大型店は準核店舗扱いになって基準賃料率が8〜6%と低くなる。

 

そんな優遇の背景には売上規模や集客力の評価もあるが、奥行きの深い大型区画を使ってくれる割引も考慮されているのではないか。一般に、大型SCにおけるモール面1スパン目の区画の賃料を100とすれば、2スパン目は80、3スパン目は60、4スパン目は40と割り引かれる(低減率は商業施設や区画の形状によって異なる)。間口の狭い店舗では奥に行くほど客数が落ちるが、ユニクロのように間口も広く購買頻度の高い下着・ナイティ・靴下など奥までMDが充実していると落ち込みは少ない。

 

化粧品店では1スパン目は低単価セルフ販売のドラックコスメ、2スパン目は中単価セミセルフ販売のドクターコスメやナチュラルコスメ、3スパン目は高単価接客販売の基礎化粧品、と客数×客単価のロジックで販売効率を平準化させているが、アパレル店舗でも似たような工夫が可能ではないか。

 

賃料負担率は店舗規模と出店形態で大きく変わる

 

 大手アパレルチェーン各社の直近決算から売上対比の賃料負担率を探れば、下はファーストリテイリングの3.8%から上はハニーズの21.0%まで5.5倍もの差があるが、その背景には店舗規模の大小と出店形態の違いがある。

 

国内ユニクロの店舗が平均1048平方メートルで9億9254万円を売り上げるのに対し、ハニーズは平均227.4平方メートルで6476.4万円売り上げるに過ぎず、平方メートルあたり販売効率もユニクロの95.2万円に対してハニーズは28.5万円と3掛けにとどまる。賃料負担率とは逆に、平均月坪店舗費(賃料+減価償却費)はハニーズの1万5033円に対して国内ユニクロは販売効率の高さで推計2万3300円も負担しているから、商業施設デベロッパーにとっては賃料面でもありがたいテナントだ。奥行き3〜4スパンも使ってくれる大型店でそんな賃料を払ってくれるテナントは他には見出せない。外資アパレルの大型店は販売効率がせいぜいユニクロの半分前後、ライフスタイル系やインテリア系の大型店はさらに低く、賃料負担力も格段に低い。

 

テナント出店より地代を払って自ら店舗を建てる定期借地の路面店舗の方が格段に賃料負担は軽い。ファーストリテイリングの連結決算では売上対比の賃料負担率は3.8%と計上されているのに減価償却費(物流施設なども含む)も含めた店舗費用負担は9%前後と推計されるのは、定期借地の路面店舗の比率が高いゆえと推察される。ほとんどが定期借地契約の路面店舗であるしまむらはもっと負担が軽く、平均1010平方メートルで2億9717万円を売り上げる店舗の売上対比賃料負担は4.96%、減価償却費を加えても5.88%に収まっている。月坪当たりの実額は4756円、賃料だけ取れば4014円と極めてローコストだ。

 

同様な定期借地の路面店舗が大半のワークマンはさらにローコストで、チェーン全店売上高に対する賃料負担率は3.83%、減価償却費を加えても5.47%に過ぎない。ワークマンの25年3月期末の全1051店舗中、FC店が974店舗、加盟者に引き渡してFC店になるトレーニングストアが37店舗と大半だから、96.2%が定期借地の路面店舗だと推察される。ワークマンのFC店は本部が開発して加盟者に運営を委託する方式で、開発投資も地代も減価償却費も本部が負担している。

 

ちなみにテナント店舗が大半を占めるアダストリアの平均月坪店舗費は3万9602円で負担率は14.3%、賃料だけでも月坪3万1393円、ユナイテッドアローズの平均月坪店舗費は5万3810円で負担率は14.4%、賃料だけでも月坪5万1194円と推計されるから、定期借地の路面店舗が大半のしまむらやワークマンより負担率は3倍近く高い。

 

路面店舗は店舗費負担だけでなく、営業時間や店休日も自在に決められるからシフトが組みやすく人件費負担も軽く、EC注文品を店在庫引き当てして店出荷するにも店渡しするにも、ローカルテザリング※1.でルート便を回すにも、ダイレクトパーキングのメリットは大きい。先々でリージョナルロジスティクス※2.やローカルOMOマーケティング※による店舗網の適正再配置を構想しているなら、地域の店舗布陣の中核に営業の自由度が高く賃料負担も軽い大型の路面店舗を確保するべきだろう。

 

※1.テザリング…地域の店舗間で在庫を融通して欠品を回避し在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる

 

※2.リージョナルロジスティクス…中央のDC※4.やFCから全国の店舗や顧客に物流(セントラルロジスティクス)するのではなく、生産地から各リージョナルのTCやDCに直送し、リージョナル内の各店舗や顧客に物流するロジスティクス手法で、ルート便によるローカルテザリングや地域の宅配業者による即日配送で在庫効率と顧客利便を高め物流費を抑制する

 

 

※3ローカルOMOマーケティング…店舗とECの顧客と売上を一体に地域管理して在庫を適正配分、店舗を適正配置するマーケティング手法で、EC売上比率が一定(概ね20%)以上に達して店在庫引き当ての店出荷や店渡しが定着していることが前提となる

 

※4.DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とFC(Fulfillment Center)…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FCは通販の出荷用DC

 

出店布陣の青写真を先に描くのが必定

 

 アパレルはビジネスモデルやMD展開、運営スキル以前に「時代の風向き」みたいなものが勢いを左右するから、追い風の時は好案件が次々に来て客層が微妙に異なる出店や損益分岐点の高い出店をしがちで、風向きが変わって水位が下がれば採算を割り込む店舗も出てくる。好条件の案件が持ち込まれても、ドミナントエリアから外れた飛び地では店舗スタッフの採用も運営管理も無理が多く、水位が下がればたちまち不採算化してしまう。FCや販売代行という手もあるが損益管理や在庫運用の弊害もあり、それを前提とした店舗布陣には慎重であるべきだ。

 

そんな失策を避けるには個別案件に左右される受け身の出店選択を避け、あるべき店舗布陣の青写真を先に描いておいて、それに適する案件を自ら開拓していく能動的な姿勢が必要だ。そんな店舗布陣の青写真には(1)対象顧客の定義、(2)出店立地の定義、(3)エリア布陣設計、(4)施設内ロケーション選択、(5)区画の面積と形状、(6)採算モデル、が不可欠ではないか。

 

(1)対象顧客の定義は過度に観念的あるいは理想的なペルソナ像に流れず、単純明快に全関係者が共有できるシンプルな定義で商業施設の性格と対照できれば良いが、男女比率や世代比率が極端に偏る地域もあるから商圏分析システムによる検証が必要だ。

 

(2)出店立地の定義は(A)近隣生活圏(ネバフッド)、(B)地域生活圏(コミュニティ)、(C)広域生活圏(リージョナル)、(D)郊外ターミナル、E)都心ターミナルが基本だが、国勢調査と住民基本台帳で分かる居住人口とGPSで見る昼間移動人口は大きく異なるから使い分ける必要がある。

 

(3)エリア布陣設計は居住人口ベースなら「面」で布陣しても良いが、昼間移動人口ベースだと鉄道路線などの「線」で布陣する方が的確だ。地域的には接していても阪神間のJR沿線、阪神沿線と阪急沿線、港北の横浜市営地下鉄沿線と田園都市線沿線は所得帯も極端に違う別世界だから、沿線別に店舗布陣を設計する必要がある。それは東京城西域のJR中央線沿線と京王線沿線、小田急線沿線も同様だ。「線」で布陣と言っても鉄道ではJR武蔵野線沿線、道路だと16号線沿線といった「円弧」布陣もよく使われる。

 

 エリア布陣では地域商圏に浸透させる一等立地の「旗艦店」を最初に打ち込み、標準店と集約売り切りを担う量販店舗をバランスよく配置する必要がある。これを外すとエリアを超えた店間移動が必要になって物流費がかさみ、エリアMger/SVのテリトリー分担もややこしくなる。

 

(4)施設内ロケーション選択はテナント出店の肝で、これが迷走すると損益が不安定になるだけでなく、チェーン運営総体が混乱してしまう。単純化すれば「最低保証が高くても一等地を取って高効率を狙う」か「最低保証の低い二等地で確実な損益を狙う」かだ。郊外大型SCでも一等地の最低保証は月坪25万〜30万円、二等地なら15万円、三等地なら10万円の攻防になるが、店舗面積の小さい客単価志向のアパレル店舗は一等地を狙い、店舗面積の大きい量販志向のアパレル店舗は二等地、三等地を選択する傾向が見られる。商業施設によって一等地を選択したり二等地を選択したりと分散すれば損益管理も商品政策も流動化してしまうから、どちらか徹底して統一するのが賢明だ。

 

(5)区画の面積と形状は商品配置とR(レジ)、F(フィッティング)のレイアウト、客単価×客数=販売効率の構図によるが、前述したユニクロのようにスーパーマーケット型のレイアウトで奥に購買頻度の高いインナーやソックスを配して客数を稼ぐ手法、化粧品店(飲食店も同様だが)のように多客数×低単価の店頭から少客数×高単価の店奥へと商品を配する手法がある。自店のマーチャンダイジングとVMDストーリー、運営プロセスと人時効率で基本の配置を固め、前述した賃料の奥行き割引も計算して面積と形状を標準化すべきだ。

 

(6)採算モデルは(4)(5)の結果として必然的に定まるが、小売店舗の損益分岐点は固定費水準でほぼ決まってしまう。テナント店では最低保証家賃が損益のボーダーを決めてしまうから、最低保証の高い一等地にこだわるのはリスクを否めないが、一等地を選択するのなら月次損益管理を徹底するべきだ。

 

売り上げピークの稼ぎ月で出した利益を端境月の赤字が食い潰す構図が、亜熱帯化による残暑で8月だけでなく9月まで赤字になるに及んで(10月の利益も細っている)アパレル小売を苦しめている。晩夏〜秋冬〜梅春のMD展開を抜本から再構築しないとこの難局は乗り切れないが、それができるアパレルは限られるのではないか。採算モデルは年間で組むのではなく、月次損益のストーリーとして再構築するべきで、端境月の最低保証をクリアできるMD展開が問われる。それについては別の機会に詳説しよう。

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