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WWD 小島健輔リポート
『yutoriはZ世代D2Cアパレルの枠を超えて成長を加速』
(2025年05月22日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 SNSマーケティングを駆使したD2CでZ世代を捉え、M&Aも駆使して急成長するyutoriが2025年3月期決算を発表した。その急成長の仕掛けとブランドマネジメントの秘訣、今後の発展性を探ってみた。

 

ハートリレーションの子会社化で成長が加速

 

 yutoriの25年3月期は売上高が92.3%増の83億600万円、EBITDAが87.1%増の9億5700万円、営業利益が75.0%増の6億7100万円、当期純利益が40.0%増の3億1400万円と、ZOZOと資本提携した21年3月期以降5期連続の増収増益となった。本体が売上高を38.2%(16億4900万円)伸ばしたのに加え、24年8月16日に51.0%の株式を取得して連結子会社化した株式会社ハートリレーション(小嶋陽菜COO、安倉和弘CEO)の売上高が下半期から加わって52.9%(22億8400万円)も押し上げた。

 

 大雑把な計算だが、非支配株主に帰属する当期純利益1億916万円が全てハートリレーションの49%分に相当するとすれば、ハートリレーションの純利益は2億2278万円、法人税率から逆算した推定営業利益は3億2940万円、営業利益率は14.4%と推計できるから、買収前23年12月期の営業利益率10.5%から4ポイント近く上向いている。yutoriの25年3月期の営業増益2億8767万円にM&Aに伴う半期分ののれん償却費7500万円を加えた実質営業増益3億6267万円の実に9割強を占めると推計されるから、ハートリレーションの子会社化は大正解だったことになる。

 

高価(ハートリレーション株式51%の取得費用は16億9200万円)でも自社より高収益な会社を買収するという決断はLBO※1.を容易にしたのはもちろん、初年度(半期)から大きな投資利回りをもたらした。ハートリレーションの子会社化以前の最盛期21年12月期の営業利益率は26.5%(売上高21億8600万円、営業利益5億8000万円)だったから、yutori傘下になって成長が加速しマネジメント精度が高まれば再び20%を超えると期待される。

 

前期末の27店からハートリレーションの3店舗も含めて46店舗(うち台湾に1店)に拡大したオフラインが32億3900万円と2.90倍に増加し、全売上高の39.0%を占める最大の販路に台頭。26億7500万円と56.9%増加した自社ECが32.2%を占め、18億4400万円と32.5%増加した他社プラットフォーム(ZOZO、楽天など)が22.2%を占めた。インスタグラムなどSNSで顧客を広げてきたD2Cアパレルのyutoriも店舗販売がけん引する新局面に入っている。

 

 最大カテゴリーは34億3400万円と前期から32.4%伸びたヤングカルチャー(「9090」「HTH」「ヤンガーソング」など17ブランド)だが、下半期から加わった「Her Lip to」(ハートリレーション)が半期分で22億8400万円と27.5%を占め、18億9200万円と前期から26.9%伸びたニュアンス(「PAMM」「ブロークン ベース」など6ブランド)が22.8%を占めた。他にデザイナー(「フラグスタフ」など9ブランド)が3.4%、韓国(「codegraphy」など2ブランド)が3.3%を占める。

 

後述するYリーグでY1、Y2を占める上位ブランドはヤングカルチャーが7ブランド、ニュアンスが2ブランド、デザイナーが1ブランドと成長エンジンがヤングカルチャーに偏っており、Y世代を捉えるハートリレーションの子会社化によって成長エンジンが2本になったことは極めて心強い。ハートリレーションの「Her Lip to」はアパレルのみならずビューティライン(「ハーリップトゥ ビューティ」)やランジェリーライン(「ロジア バイ ハーリップトゥ」)も展開するライフスタイルブランドであり、フィルターバブルなyutoriのブランドとは売上規模も成長性もケタが違うから、ハートリレーションの成長が今後の業績を押し上げると期待される。

 

※1.LBO(Leveraged Buyout)…買収する企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として金融機関などから資金を調達する買収手法。yutoriによるハートリレーション株式51%の買収もハートリレーションの株式を担保に銀行団から買収資金16億8000万円を借り入れている

 

大規模買収を経て変貌する損益構造

 

24年3月期末で純資産が6億8447万円に過ぎなかったyutoriが23年12月期末で純資産が11億7500万円と72%も上回るハートリレーションを16億9200万円も投じて51%の株式を取得し子会社化したのだから、それに伴う銀行借入の増加(16億8000万円)もあって25年3月期末の長短借入金は30億円を超え、自己資本比率は24年3月期末の34.3%から14.7%に低下した。yutoriにとっては社運を賭けた「大規模買収」だったが、それによって損益構造はどう変わったのだろうか。

 

 外部のOEMサプライヤーを活用するアウトソーシング型のyutoriに対してハートリレーションは内部にデザインチームを抱えるインソーシング型でyutoriより高付加価値・高価格・高コストなこともあり、ハートリレーションが半期間、連結された粗利益率は61.55%と前期から1.63ポイント上昇した。販管費率も53.46%と2.42ポイント上昇したが、のれん償却負担分0.90%(下半期で7500万円)を除けば実質1.52ポイントの上昇で、粗利益率の上昇の方が0.11ポイントと僅かながら上回った。

 

M&Aに伴うのれんの償却負担もあって営業利益率は8.08%と0.80ポイント低下したが、のれんの償却負担0.90%を除けば8.98%と前期のyutori(8.88%)を0.10ポイント上回る。前述したようにハートリレーションの実質的な営業利益率は14.4%と推計され、売上規模の拡大とともに一段と高収益化していく。yutoriのブランドも上位ブランドは年商10億円規模に迫っているから、インソーシングを部分的に取り入れて高付加価値化していくという選択もあるだろう。

 

ハートリレーションの連結は下半期だけだから通期の経費構造は今期決算を待たねばならないが、25年3月期では多い順に人件費が売上対比12.15%、「その他」が同10.55%、支払い手数料が同10.22%、広告宣伝費が同6.95%、地代家賃が同5.25%、荷造運賃が同4.91%を占めた。

 

人件費率は店舗販売も行うアパレルとしては低いが、人手のかからないECの売上比率が54.4%と高いことが要因で(ハートリレーションも売上の過半が自社EC)、オフライン売上比率が高まっていけば必然的に上昇していくから、それに見合う高付加価値化が必要になる。人件費に次いで大きい「その他」はM&Aに伴うのれん償却費や減価償却費、システム利用料などで、M&Aを駆使して成長しているから負担が大きい。

 

支払い手数料はZOZOや楽天など外部プラットフォーム経由の売上高(18億4400万円)に伴うものと思われるが、それだけでは料率が高すぎるので、ZOZOで取扱高対比2.3%が計上されている自社ECの代金回収手数料やオフライン販売のキャッシュレス決済手数料なども含まれていると推察される。地代家賃は店舗売上(32億3900万円)に伴うものとすれば売上比13.46%で、アパレルの駅ビル・ファッションビル立地小型店舗としては低く収まっている。D2Cから人気上昇して出店を請われるブランドばかりで、不採算店舗がほとんどないことが要因と思われる。

 

荷造り運賃は自社EC売上の15.25%に相当するが、出荷倉庫の運営委託費なども含まれていると推察される。ZOZOの25年3月期の荷造運賃が取扱高対比6.5%、物流関連業務委託費(出荷倉庫運営費用)が同3.2%、賃借料(出荷倉庫がほとんど)が同1.5%、減価償却費(出荷倉庫内設備がほとんどと推察する)が同0.8%、合計12.0%だったから、取扱規模が限られるyutoriとすれば相応の負担だろうが、改善余地は大きい。

 

店舗販売拡大に伴う生産性の低下が課題

 

24年3月期中間期の平均給与は365.1万円と低かったが、24年3月期末の平均給与は469.0万円と一気に28.5%も引き上げられており、25年3月期も大幅に引き上げられたと思われるが、6月末の有価証券報告書の開示を待つしかない。25年3月期の粗利益高に対する人件費の労働分配率は19.74%、同営業利益の資本分配率は13.13%だったから、これからも大幅に賃上げしていくには一段の高収益化が必要だ。

 

 yutoriの26年新卒給与は総合職正社員で基本給21万3000円+見做し残業手当45時間分7万6000円、計28万9000円で、年間119休日とも120休日とも取れる募集表記だが、119休日とすれば年間所定労働時間1968時間で時間給は1300円ということになる。ハニーズ(1309円)やユナイテッドアローズ(1235円)と大差なく、アダストリア(1585円)の82%、国内ユニクロ(2020円)の64%にとどまるから、若い力を結集する躍進企業としては改善の余地が大きい。ハートリレーションは本社勤務が120休日の1960時間制、店舗勤務は116休日の1992時間制と勤務規定が異なるが、本社勤務の専門職ではyutoriと同じく基本給に見做し残業手当45時間分を固定支給する募集も見られる。

 

 ハートリレーションの子会社化から半年ということもあり、両社の勤務規定や給与体系のすり合わせはまだ行われていないようだが、ガバナンスの根幹でもあるから、給与体系はともかく勤務規定の一本化は急がれるべきだろう。

 

現行の給与水準から見て一段の高付加価値化、高労働生産性化は必定で、小型店舗の多店化、とりわけ販売効率の低いローカル都市店舗の出店が労働生産性の足を引っ張ることが危惧される。販売代行やFCという選択もあるが低労働生産性を容認することになるから、アダストリアやパルのような店舗スタッフ発信SNSを軸としたローカルOMO※2.を目指すなら避けるべきだろう。

 

店舗の労働生産性を高めるには一人当たり売上高の拡大が必定で、それには店舗規模の大型化と運営のDXが不可欠だ。フィルターバブルなyutoriのブランドは個々のMDスケールが小さいから複数ブランドを複合しないと大型化は難しいが(ローカル都市店舗は複合型に徹するべき)、カテゴリーに広がりがあるライフスタイルブランドの「Her Lip to」は容易に大型化できる。商品単価も高いから売上規模も格段に大きく、労働生産性を高める突破口になると期待される。

 

※2.OMO(Online Merges with Offline)…オンライン(EC)とオフライン(店舗販売)を融合するマーケティング戦略

 

急速な多ブランド化でも収益性を崩さないマネジメント

 

 創業4年で11ブランドまで拡大し、22年7月にはA.Z.Rを吸収合併して8ブランドを加え、24年3月期末には29ブランドに達し、24年8月にはハートリレーションを子会社化、同年11月には「over print」のえをかくを買収するなどして25年3月期末にはグループ計38ブランドに達した多ブランド運営でも収益性を崩さないマネジメントの秘訣はどこにあるのだろうか。

 

 まず挙げられるのが、SNSを軸としたフィルターバブルなマイクロマーケットに無理のない軽装備の事業体制だ。yutoriの商品開発は外部のOEMサプライヤーを活用するアウトソーシングだから、ブランド運営は独自のコンセプトを持って商品企画するディレクターとマーチャンダイザー、SNSマーケッターの3人さえ居れば回るが、立ち上げ段階はマーチャンダイザーとSNSマーケッターは他ブランドとの兼務でコストを抑制し、離陸を容易にしている。

 

「Yリーグ」と言われるブランド育成の競争管理が行われており、立ち上げ期のY5、確立期のY4、成長初期(グロース期)のY3、成長加速期(ハイグロース期)のY2、定着巡航期のY1の5段階で分類管理されている。月商700万〜1500万円がY4の確立期であり、この過程でマーチャンダイザーやSNSマーケッターが専任になるのだろう。月商1500万円〜2500万円がY3のグロース期であり、実店舗を布石したり商品開発のスタッフが加わったりすると推察される。

 

当然ながら、ランクアップしていくブランドもあれば、勢いを失ってランクダウンするブランドもある。25年3月期末の判定(半期毎)では「F-LAGSTUF-F」「over print」「COMMON GULL PRODUCTS」がY3に、「codegraphy」がY4にランクアップする一方、「WudgeBoy」はY4にランクダウンしている。伸びるブランドに投資を集中し、伸びないブランドは経費を抑えてチャンスに備え、Y5から這い上がれないブランドには引導を渡す。当たり前と言えば当たり前だが、無理せずこだわらないのが若い企業らしい。

 

年商1億〜2億円で黒字化して2〜3億円で離陸するのだから、突出した成功でなくてもブランド事業が成り立っていく。複数の開発スタッフや営業スタッフを抱えて年商5億〜6億円、数店の直営店を抱えれば10億円近くにならないと利益が出ない固定観念に囚われがちな既存アパレル業界とは経営感覚が異なる。

成長を加速し生産性を上げて賃上げしていくには、いずれ小粒ブランドの背比べという枠を越えなければならないが、突破口のひとつはNB(ナショナルブランド)化、もうひとつはライフスタイルブランド化だと思われる。

 

フィルターバブルなマイクロマーケットを捉えるyutoriのブランドの中にもウエアリングとMDの柱を確立して顧客が広がりつつあるブランドもあり、いずれプチNB化すれば店舗網も広がって数十億円の売り上げ規模になっていく可能性もある。顧客の広がりと店舗規模、売上規模の大きさという点ではライフスタイルブランドは桁違いで、ビューティラインやランジェリーラインまである「Her Lip to」は百億円ブランドに化けると期待される。

 

今期は安定的な業績構築を目指す体制固め

 

 今26年3月期は売上高が32.4%増の110億円、営業利益は31.1%増の8億8000万円、当期純利益は27.1%増の4億円を見込んでいるが、yutoriのブランド群が前期並みに成長し、ハートリレーションが前期並みの売上高で通期貢献するだけでも売上高は120億円を超えるはずで、かなり慎重な予想と言えよう。粗利益率も60.5%と1.0ポイントの低下を見込んでおり、インソーシングで高付加価値のハートリレーションが通年貢献するにしては弱気に過ぎる。

 

ZOZOと資本提携して黒字転換した21年3月期から22年3月期は51%増(M&Aのない自社成長)、23年3月期も51%増(A.Z.Rの吸収合併など)、24年3月期は75%増(前期のM&Aが通年貢献)、25年3月期は92%増(ハートリレーションの子会社化など)と成長が加速して来た経緯を思えば今期の32.4%増という予想は意外な低さで、大きな資金を要するM&Aを避けて財務と運営管理体制を固める踊り場を想定しているようだ。25年8月1日に予定する主力のヤングカルチャー事業とminumのコスメ事業の分社化も、どちらも100%子会社だから連結業績が変わる訳でもなく、事業ポートフォリオをY世代や女性、非アパレル(コスメやIPなど)に広げる再構築に注力するものと思われる。

 

 既存ブランドは地方大都市への店舗網拡大と台湾への2店目の出店、中国ではポップアップを経て常設店舗の開設へ、韓国ではセレクトショップへの浸透を図り、「9090girl」によるギャルの取り込みに続きギャル男にも手を広げるなど、手堅くステップを踏む拡大を計画している。

 

 今後も成長性の高い事業会社を分社していき、yutori本体は新規事業創出や事業ポートフォリオのコントロール、資金調達やM&Aなど資本政策を担う持ち株会社となることを想定しており、今期は成長への布石と並行して事業領域の再構築や財務基盤の強化、運営管理体制の整備など、その足固めに注力する。

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