小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『「ザラ」盤石の店舗効率の凄み それでも「ユニクロ」に勝ち目がある理由』
(2025年03月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

INDITEX業績推移 202503131518

 インディテックスの25年1月期決算が開示されたが、成長率こそ鈍化したものの、デジタルマーケティングによる店舗網の再配置が進んで店舗効率と収益力は一段と高まった。ファーストリテイリングは猛追しているがまだ差は大きく、H&Mを突き放して独走体制を極めたように見えるが、ユーロモードの伝道師たるエクスクルーシブ政策の限界も垣間見える。

 

■好調継続のインディテックスに猛追するファーストリテイリング

 3月12日に開示されたインディテックスの25年1月期決算は、売上高が前期から7.5%増の386億3200万€(6兆3340億円※)と、コロナからの回復期にあった前々期の17.5%増、前期の10.4%増からは鈍化したが、コロナ前20年1月期を36.6%上回った。ファーストリテイリングの24年8月期売上高が3兆1038億円と19年8月期を35.5%上回ったのとは大差ないが、H&Mの24年11月期売上高が2344億7800万SEK(3兆3530億円※)と19年11月期をようやく0.8%上回ったにとどまるのとは雲泥の差がある。

 営業利益は75億5400万€(1兆2390億円)と前期から10.9%増加して19年8月期を58.3%上回り、営業利益率は19.6%と前期から0.7P上昇して19年8月期を2.7P上回った。ファーストリテイリングの24年8月期営業利益が5009億円と19年8月期を94.4%上回ったのには及ばないが、営業利益の絶対額はファーストリテイリングの2.47倍と差は大きく、営業利益率も3.5P上回る。H&Mの24年11月期営業利益は173億0600万SEK(2475億円)と19年11月期の99.8%にとどまり、営業利益率も7.4%と19年11月期の7.5%に僅かながら及ばずと格差が大きい。

 当期純利益も58億7700万€(9640億円)と前期から8.9%、20年1月期を61.1%上回った。ファーストリテイリングの24年8月期当期純利益が3936億円と19年8月期の2.21倍に伸びたのには及ばないが、ファーストリテイリングの純利益率は12.7%とインディテックスの15.2%とはまだ2.5Pの差がある。

 24年はインディテックスが着実に業績を伸ばしたのに対し、H&Mは回復が遅れて格差が一段と開いた一方、ファーストリテイリングは売上に加えて収益力でも猛追して格差を縮めた。国内ユニクロの25年8月期上半期(24年9月〜25年2月)既存店売上は9.8%増、全店売上は11.6%増と、前期上半期の既存店-3.4%/全店-1.8%から一転して加速しており、25年は改革が一巡して売上伸び率が鈍化するインディテックスとの差を一段と縮めると思われる。

※ユーロの為替レートは24年2月から25年1月の平均163.96円、スウェーデンクローナ(SEK)は23年12月から24年11月の平均14.30円

 

■店舗効率がさらに伸びたインディテックス

 インディテックスの着実な業績向上は店舗効率の上昇によるところが大きい。店舗数は前期から2.2%(126店)、20年1月期からは28.7%(1842店)も減ったが、一店平均面積は826.4㎡と前期から4.3%、20年1月期からは21.4%拡大し、一店平均売上は686.5万€(11億2560万円)と前期から9.9%、20年1月期からは81.2%も拡大。㎡売上は8306.9€(136.2万円)と前期から5.2%、20年1月期からは49.4%も上昇している。

 ZARA(ZARA HOMEを含む)に限れば、店舗数が前期から1.0%(21店)、20年1月期からは20.2%(553店)減った一方、一店平均面積は1436.8㎡と前期から3.0%、20年1月期からは17.6%拡大し、一店平均売上は1271.0万€(20億8390万円)と前期から7.7%、20年1月期からは77.9%も拡大。㎡売上は8846.2€(145.0万円)と前期から4.5%、20年1月期からは51.3%も上昇している。

 元よりドレスアイテムの比重が高いこともあって「ユニクロ」より一格以上、単価が高いのに加え、近年のドレスアイテムシフトとサプライチェーンの近欧化再構築(アジアからモロッコやトルコなどへ)やインフレで平均単価がさらに上昇していること、元よりダウンタウンやターミナルの店舗が多く、近年の好立地への集約再編で販売効率が高まったことで、坪売上に換算すれば全業態ベースで450万円、ZARA(ZARA HOMEを含む)に限れば480万円近くになる。

24年8月期における国内ユニクロの平均店舗面積が1048㎡、一店平均売上が9億9253万円、坪当たり売上が314.2万円だから、ZARA(ZARA HOMEを含む)の平均店舗面積は国内ユニクロの1.37倍、一店平均売上は国内ユニクロの2.1倍、坪当たり売上は1.5倍強になる。国内ユニクロの一店平均売上は19年8月期(9億6627万円)をようやく超えたが、坪当たり売上(336.9万円)の回復は今期の課題となる。

これは国内ユニクロの数字であって、海外ユニクロも合わせたユニクロ事業の坪当たり売上は249.5万円と一回り低く開示されているから、海外ユニクロの坪当たり売上は国内よりかなり低いということになる。ZARAと比較すべきは海外ユニクロも合わせたユニクロ事業の販売効率であり、未だ倍近い格差がある。

 

■店舗効率を伸ばした二つの施策

 インディテックスの店舗効率が飛躍的に向上した背景にはコロナ明けの世界的なインフレがあったことはもちろんだが、それは他のアパレルチェーンも同様で、インディテックスの突出した伸びには 1)マーチャンダイジングとサプライの原点回帰、2)店舗網の集約再配置、が大きかったと思われる。

 

(1)マーチャンダイジングとサプライの原点回帰

 ユニクロやH&Mなどカジュアルなアパレルチェーンと競合し、調達のロットが大きくリードタイムも長いアジア生産のカジュアル商品を抑制し、調達のロットが小さくリードタイムも短い北アフリカやトルコなど近欧圏にサプライチェーンをシフトするとともに、価格の通るドレスアイテムの比重を高めて平均単価も上げて来た。とりわけスペイン本社のハブ・コンビナートからルート便でミルクランできる南欧圏やモロッコに重点を置き、ハブ・コンビナートでマーキング・裁断した素材と副資材を供給し、製品を回収してハブ・コンビナートでプレス仕上げするドレスアイテムの完成度が際立つが、増えたと言っても全体の15%ほどが限界と思われる。

この方式は製品の完成度が高く見栄えも格段に良いのに小ロットで1週間で仕上がるという完成度と短納期を両立するもので、当然に価格が通る。業界のプロなら一見してそれと判るが、一般顧客も手に取ればピンとくるはずだ。

完成度の高いドレスアイテム重視と近欧圏生産シフトはアパレルメーカー出生のインディテックスにとって原点回帰でもあり、アジア生産の低価格カジュアルチェーンとの競合を避けて単価を向上させるリポジショニングは全ての効率を押し上げる成果をもたらした。

 

(2)デジタルマーケティングによる店舗網の集約再配置

 インディテックスの店舗網の集約再配置は好立地の大型店舗への集約と受け取られがちだが、それだけではなく、地域(国家)商圏の将来性・採算性評価とOMO※なデジタルマーケティング検証に基づいている。

 インディテックスは25年1月末で97の地域(国家)に店舗展開しているが、これまでも市場の特性や採算性、将来性やカントリーリスクなどを勘案して拡大、縮小、撤退(ロシアやベネゼーラ)して来ており、24年度もその方針が継続された。店舗数が最も減少したのは本国のスペインで70店舗減少して1087店舗となったが、これは効率化再配置によるもので、ポルトガルの270店舗への16店舗減、イタリーの325店舗への9店舗減も同様と見られる。

地域商圏の評価による店舗減少は中国本土の58店舗が最も大きい。20年1月期の570店舗から134店舗へ累計436店舗も減少して4分の1以下に減ってしまったが、ウイグル綿問題による不買運動などカントリーリスクに加え、国潮国風志向によるユーロモード離れも影響していると思われる。日本も9店舗減少して68店舗と、20年1月期の145店舗から半分以下になってしまったが、ウエアリングのユーロモード離れに加えて採算性の悪化が大きかったと推察される。増店が多かったのはバーレーン(+7の16店舗)、カザフスタン(+7の41店舗)、アゼルバイジャン(+6の20店舗)などで将来性を評価したものと思われるが、増店の規模は限られた。

OMOなデジタルマーケティングは、コロナ下で断行されたオンライン注文品のFC(Fulfillment Center/通販の出荷用DC)出荷から店舗出荷/店渡しへの転換が契機となったと思われる。インディテックスのEC比率はコロナ前20年1月期の13.9%(31.9億€)から21年1月期は店舗休業もあって32.3%(66億€)に跳ね上がり、コロナ明けの店舗回帰を経て落ち着いた25年1月期も26.4%(102億€)と4分の1以上を占めており、オンラインで店舗に取り置いたりオンラインで購入して店舗で受け取ったり、店舗で確かめてオンラインで購入するなどOMOな一体化が進んでいる。

OMOな購買行動をマーケティングすれば、当然にローカル単位の顧客行動管理が必要になる。ローカル商圏ごとの購買履歴をデータベース化すれば地域のどこにどれほどの需要があるか明白で、店舗在庫引き当ての店出荷/店渡しに徹すればオンライン販売と店舗販売の隔てなく一体の売上が予測できるから、的確に店舗網を再配置し、的確に在庫を配置できる。

アバクロ復活への地域店舗網の再配置効率化も同様なデジタルマーケティングで進められたと思われる。アバクロのEC比率は50%に達してBOPIS※が浸透しているからデジタルマーケティングの効果は大きく、24年1月期の月坪売上高は2526ドル(年間坪当たり455万円)とコロナ前20年1月期から51.3%も上昇した。

インディテックスの場合、25年1月期でもフランチャイズが店舗数の20.4%、売上の15%を占めるから、FC(Fulfillment Center)在庫引き当てから店舗在庫引き当てへの転換は必定だったはずで、ライバルチェーンに先駆けて決断できた一因と思われる。その一方、フランチャイズ店舗を前提とした店舗マネージャーによるオンライン発注の成果管理が機動的なローカルテザリング(地域店舗間の欠品在庫融通)を妨げているという制約も指摘される。

ユニクロは2018年10月に鳴物入りで稼働した有明自動倉庫で逆にEC向けのFC(Fulfillment Center)在庫を店舗在庫から分断してしまい、21年10月からようやくFC出荷と並行しての店在庫引き当てが可能になったが、地域単位のOMOデジタルマーケティングには後れを取ってしまった。典型的な「部分最適」事例であり、他山の石と参考にするべきだろう。

※OMO(Online Merges with Offline)・・・ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

※BOPIS・・・Buy Online Pick-up In Storeの略称で、ECで注文して店舗で受け取るショッピングスタイル。

 

■エクスクルーシブ政策の限界

 的確精緻な施策で順風満帆に見えるインディテックスだが、「ユーロモードの伝道師」という原点的なエクスクルーシブ政策の限界は否定できない。前述した中国本土や日本での店舗網の衰退はその典型であり、ファーストリテイリングの猛追を許してしまう「弱み」と指摘される。

 「あらゆる人のライフウエア」を追求して品質や仕様を研鑽し、内外のクリエイターとのコラボを重ねてデザインもウエアリングも磨かれ「ライフウエアのグローバルブランド」に進化した「ユニクロ」は、完成度の高い定番の色・サイズを広く展開して顧客カバー率の向上に努め、売場や後方のみならず消費地DCにも生産地倉庫にも在庫を積み上げて欠品を防止し、在庫効率を犠牲にしても顧客カバー率と需要充足率の最大化を図っている。

 それに比べると、「ZARA」はユーロモードの文法(様式美)を出ることなくトレンドを追ってテイストもウエアリングも限定され、サイズ展開はあっても基本体型は骨格質のコーカソイドだから手足が長く、ローカルフィットにも消極的だから、モンゴロイドなどの顧客は体型的に限定される。極端に色数を絞った(基本は1〜2色、単品パーツでも4〜5色)ナチュラルモードなカラーも顧客を限定する。加えて、例外なくひと蒔きで売り切る(世界のどこにも在庫を積んで補給するDCが存在しない)ファストな「横売り」MDだから、慢性的に「欠品」を容認している。顧客を選んで限定し「消化」優先で「欠品」を容認する典型的な「エクスクルーシブ政策」であり、顧客カバー率も需要充足率も「ユニクロ」には遠く及ばない。

 となると、世界のマーケットをカバーできる範囲は「ユニクロ」より格段に限定され、モンゴロイド圏での苦戦は免れない。カジュアルチェーンとの競合を避けて価格の通るドレスアイテムの比重を高めれば収益性は高まるが、体型の制約も厳しくなるからマーケットはさらに狭まる。カジュアルアイテムも含めて「お洒落用途」の性格が強いから、汎用性「ライフウエア」の「ユニクロ」に比べれば用途も限られる。

 ユーロモードのエクスクルーシブ政策に立脚する「ZARA」より汎用性「ライフウエア」のインクルーシブ政策に立脚する「ユニクロ」の方がマーケットが大きく成長性も高いから、逆転がいつになるかはともかくインディテックスとファーストリテイリングの売上規模の差は確実に縮まっていく。小ロットの蒔き切りファスト生産「横売り」MDの「ZARA」より大ロット計画生産「縦売り」MDの「ユニクロ」の方が売上規模の拡大による増益効果は格段に大きいから、売上規模の差が縮まっていけば収益性は先んじてファーストリテイリングが逆転する公算が高いと思われる。

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