小島健輔の最新論文

WWDJAPAN 小島健輔リポート
『ワークマンの路線転換は「迷走」か?「覚醒」か?』
(2025年02月26日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ワークマンが今春から「#ワークマン女子」を「ワークマンカラーズ」に業態変更してベーシック衣料のファミリー業態とし、地方都市ロードサイドのFC店中心に多店化するとしているが、前期まで3期連続で既存店売上が伸び悩んで2期連続の減益という踊り場から抜け出す突破口となるのだろうか。

 

■踊り場からの再成長を図る「ベーシック衣料のファミリー業態」

 地味ながら手堅く安定していたプロ向けワークウエア&用品専門店「ワークマン」のFCチェーンが職人人口の減少で頭打ちになったのを契機に、低価格機能性を武器にした一般向けワーク&アウトドアカジュアルの「ワークマンプラス」(一号店は18年9月のららぽーと立川立飛)でSCにも出店して再び成長に転じ、女性向けのファッション性を意識したワークカジュアルの「#ワークマン女子」(一号店は20年10月の桜木町コレットマーレ)で都心部にも出店してメジャーなカジュアルチェーンへと発展を図ったワークマン。コロナ明けのアウトドアブーム沈静化による「ワークマンプラス」の頭打ちや開店人気の反動による「#ワークマン女子」の落ち込みなどで既存店売上が伸び悩んで2期連続の減益と踊り場に陥り、成長軌道へ復帰する「次の一手」が注目されていた。

 その「次の一手」が、「#ワークマン女子」を「ワークマンカラーズ」に業態変更してメンズとキッズを拡充し、「ベーシック衣料のファミリー業態」として地方都市ロードサイドのFC店中心に多店化するという「ローカル回帰」「ロードサイド回帰」「FC回帰」(「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」のSC店は運営代行委託型の直営店)で、人口3〜8万人の地方小都市の3〜5万人商圏に20年かけて900店(32年までに400店)を布石して「ユニクロ」超えを目指すとしている。3〜5万人商圏というと「しまむら」(標準店は2.5万人商圏)と大差なく、「小商圏回帰」でもある。

 インパクトは大きかったがファッションイメージが先行して顧客の期待とすれ違う嫌いもあり立地も限定された「#ワークマン女子」の反省から、ローカルの小商圏ロードサイドでも客数を確保し易い万人向けのベーシックなファミリー衣料が志向されたが、その狙いは具現化されたのだろうか。2月20日から3日間、P.O.南青山ホールで開催された「新生『ワークマンカラーズ』発表会」でのサンプル商品から探ってみた。

 

■展示商品に見るマーケットポジション

 展示された商品とその説明から、新生「ワークマンカラーズ」の狙いは以下の4ポイントだと受け止めた。

1)ライバルを引き離す圧倒的低価格

 ベーシックアイテムは南アジアの工場と直接にガッチリ組んで、一年掛かりで生産仕様を詰めて大量計画生産することで圧倒的低価格を実現。メンズのポリエステル100%コットンライクストレッチ(ウールライクストレッチもあり)のシャツジャケット(4色/3サイズ)とパンツ(4色/4サイズ)のセットアップは各々税込1500円と、低価格カジュアルチェーンの半値水準。CALCULO(帝人フロンティアの高機能合繊素材)のサマージャケット(3色/5サイズ)とパンツ(3色/5サイズ)のセットアップでもジャケットが税込2900円、パンツが税込み1900円と、ライバルよりそれぞれワンライン低い。キッズの超撥水シェフジョガーパンツ(4色/4サイズ)が税込1280円、スーピマシルケットコットン半袖Tシャツ(6色/4サイズ)が税込780円、キャンバススニーカー(4色/10サイズ)が税込み980円と、「しまむら」価格に抑えている(「西松屋」はさらに安い)。

 レディスはリネンライクSORONA(米国デュポン社開発の植物由来サステナ高機能素材)キャミビスチェ(4色/3サイズ)が税込み1280円、撥水ランダムプリーツスカート(5色/2サイズ)が1900円、高撥水フードポンチョアウター(3色/2サイズ)が税込み3500円、ワンピースも素材やデザインによって税込み1900円〜3900円と、「しまむら」のカジュアル単品価格と同水準。デザインやトレンドを意識した商品は中国の協力工場でロットを抑えて短サイクル生産しており、こちらはワンライン高い商品もある。

 

2)ワークウエアで培った高機能商品を拡充してウエアリングも今風に

 これまでワークウエアで培ってきた撥水透湿、接触冷感、汗染み防止、ラッシュガードなどの高機能素材をメンズ、レディス、キッズの用途別に再強化し、機能を「格付け」して分かりやすくタグに表示し選びやすくした。当然にイージーケアで軽量な合繊素材中心になり、緩めに設定したサイズ感と合わせて「高機能・軽量・イージーケア・イージーフィット」というアスレジャー感覚の今風ウエアリングにも対応する。となれば、アウトドア志向の高齢層イメージも残る従来のポジションから「現役世代」「子育て世代」をカバーするメジャーポジションへと大きく転換することになる。

 

3)緩いナチュラルモードカジュアルで万人ウケする無難なファッション化

 「機能性合繊素材中心のアスレジャー感覚の今風ウエアリング」と言っても、緩いサイジングと抑えたナチュラルカラーでゆるナチュラルモードなテイストにまとまっており、「#ワークマン女子」で目立ったような派手な色彩のアウトドアイメージは一掃されている。レディスでは適度にフェミニンなディティールも加えて万人ウケする無難なファッション化に抑えており、ワークマン側が言うような「トレンド感」は全くない。

デザインディティールでもカラーでもアウトドア感から脱皮し、都会風ともローカル風とも言えないゆるナチュラルモードながら、メジャーポジションを狙えるベーシックテイストに着地している。

 

4)「現役世代」「子育て世代」対応のメジャーチェーンへ

 メンズやキッズも拡充してアスレジャー感覚の今風ウエアリングで「現役世代」(30〜50代のX世代〜Y世代)、「子育て世代」(アラ30〜アラ40のY世代)を狙うとなれば、「ユニクロ」と正面を張るメジャーなアパレルチェーンを目指すということになるが、価格帯も出店立地も品質感もテイストも「ユニクロ」とは異なり、むしろ「しまむら」を脅かす存在になると思われる。

 

■誰のマーケットを奪うことになるのか

 「現役世代」「子育て世代」対応のメジャーチェーンを狙うと言っても「ワークマンカラーズ」は価格相応の品質感のロワーポピュラープライスであり、安心の品質感で国民的支持を確立したアパーポピュラープライス(アウターアイテムの一部はロワーモデレート)の「ユニクロ」とはマーケットが異なる。NB(ナショナルブランド)級の完成度の高いスペックとしっかりとした素材で安心感のある「ユニクロ」にもはやローカル感覚やチープ感覚はないが、「ワークマンカラーズ」は素材のペナペナ感やスペックの大味さは否めず、チープなローカル感覚が残る。

出店立地も「ユニクロ」は郊外の大型SCやターミナルに登って久しく、郊外ロードサイドでも幹線道路沿いのコミュニティ商圏(概ね10万人前後)で、ローカルの生活圏ロードサイドを主力とする「ワークマンカラーズ」とは直接的な競合は考え難い。

 ナチュラルカラーの機能合繊素材という点では「グローバルワーク」のビジカジラインに近いが、価格帯(ロワーモデレート)も立地(大型SC)も違い、軽量な合繊と言っても「グローバルワーク」は風合いや肌触りにこだわってレーヨンやナイロンの混紡も多く、「ワークマンカラーズ」ほどペナペナではないし、スタイリングも格段に都会的だ。価格が近い「グローバルワーク スマイルシードストア」も都会的なスタイリングは「グローバルワーク」と同様で、「ワークマンカラーズ」のようなローカル感覚はない。

 価格帯や立地はホームセンター衣料と「しまむら」が近い。ホームセンター衣料は機能性は共通してもワークウエアに割り切ってガッチリとした耐久感があり、多少はファッション性があって軽量薄地過ぎて頼りない「ワークマンカラーズ」とは異質のマーケットと思われる。ワークウエアを求める顧客は「ワークマン」を選択するはずだ。

 価格帯も立地もローカルでは客層も近い「しまむら」には専業主婦感覚のコンサバなタウンウエアやキレイ目系のカジュアルしかなく、若向けも「ハニーズ」のようなナチュラルフェミニン系に偏り、ワークウエアのようなタフなカジュアルもナチュラルモードのような都会風のタウンカジュアルもない。300坪を超える大型店舗にバラエティを揃えているように見えても、似たような商品ばかりでテイストやウエアリングの幅は極めて狭く、「現役世代」向けのビジネスウエアや「子育て世代」向けのアスレジャーカジュアルなどは季節商材にとどまる。都会的なスタイリッシュモードは皆無で、緩いナチュラルモードも季節商材を出ず、アスレジャー以降のウエアリングの変貌に目を背けている。 

 そんな「しまむら」に満たされず大型SCまで買い物に遠出していたローカルやエクサバン(郊外のさらに外側の都市外周住宅地)の「現役世代」や有職の「子育て世代」は「ワークマンカラーズ」に惹かれるかもしれないが、そんな彼女彼らは「ユニクロ」のNB的品質感も「グローバルワーク」の都会的なナチュラルモードも「GU」の今風なトレンド単品ルックも知っている訳で、「ワークマンカラーズ」のローカル感覚が残るファッションイメージはもちろん、品質感やスペックが比較に耐えるかどうか課題が残る。

そうは言っても、誰が一番食われるかというと、今や専業主婦率が23%まで落ち込んだ(77%が共稼ぎ)のに旧態化したコンサバ感覚をでられない「しまむら」であることは間違いないだろう。これはワークマンと言うよりしまむらの経営課題だ。

 ローカルでは「ワークマンカラーズ」のゆるナチュラルモードがペナペナな素材と相まって頼りなげに見えるだろうし、都会風のナチュラルモードはニュートラルカラー(モノトーン)やクールカラーが主軸だから、「ワークマンカラーズ」のナチュラルカラーは都市郊外やエクサバンの顧客にはローカル風に見えるかも知れない。テイストも品質もスペックも「中途半端で未完成」と言ったら点が辛すぎるだろうか。

 

■「インクルーシブ」「MD設計」「スペック開発」「オンラインPDM」が課題

 「ワークマンカラーズ」のテイストがゆるナチュラルモードに統一されているのはブランディングとしては好ましいとしても、ローカルの小商圏ロードサイドで十分な顧客を獲得できるかとなると、もっと「インクルーシブ」(包括的、開放的)であるべきかも知れない。

少子高齢化が加速するローカル商圏では「現役世代」「子育て世代」だけでは客数が足りず、シニア層も取り込む必要があるが、「ワークマンカラーズ」はカバーできるのだろうか。発表会で展示した「ワークマンカラーズ」で全てを構成してはローカルの小商圏立地では客数不足となるリスクがあり、得意としてきたタフな品質感のワークウエアやNB的定番アイテムで補って顧客カバー率を上げることも必要ではないか。

ローカルでも都市郊外でもライフスタイル定番たるトラックスーツ(ポリ・ジャージやナイロン・リップのアクティブ・セットアップ)のカラー展開企画が見られなかったことも気になった。アスレジャーが機能素材で終わってライフスタイルとしてカバーされていないのではないか。ライフスタイル視点に立てば、テイストをバラけることなく強力な定番アイテムを揃えてウエアリングの幅を広げることができるはずだ。そんな定番アイテムの年間ストーリーを確立しないと顧客が定着せず、売上も安定しない。

ナチュラルカラーに偏る配色も、季節ごとにアクセントカラーを加え、商圏の特性によってナチュラルカラーとニュートラルカラーのフェイシングバランスを変えるなどテクニカルな対応も必要だろう。高齢層もカバーするMD手法という点では、欧州ブランドに見られるような布帛アイテムとニット/カットアイテムで近似色相のトーンコントラストを組むという技も見当たらなかった。定番アイテムの欠落やMDスキルの未熟さが目立ち、「MD設計」が未完成という印象を否めなかった。

試着してみた訳では無いがアパレルはメンズもレディスも緩めなパターンで、Tシャツやレディスのパーカー、メンズのレインコートやセットアップを除いてSサイズがなく、M〜Lあるいは2L、3Lの展開で、グレーディング展開がアバウトという印象を受けた。オリジナル商品のSPA業態を開発しようというのに開発機能は小売業のマーチャンダイザーの域を大きくは出ておらず、デザイナーとパタンナーによるデザインチームは存在しない。

マーチャンダイザーが仕様書を書いてオフショア産地の工場に何度も足を運んでスペックを詰めているようだが、パターンは随時の外注に依存しており、オリジナルの標準パターンやグレーディングのメソッドは未確立で、それがアバウトなパターンやサイズ展開をもたらしていると推察される。マーチャンダイザーが工場に何度も足を運んでもサンプル製作が3回、4回に及ぶというケースも多々あるようで、リードタイムが不要に長くなって開発業務が非効率になっている。デザインチームによるデジタル企画(CAD)がない以上、オンラインPDM※による開発・調達業務の効率化というDXも進みようがない。

「スペック開発」も「オンラインPDM」もこれからという途上の開発体制で、それらをとっくに確立した「ユニクロ」に張るメジャーチェーンを仕掛けようという経営感覚には危なっかしさを覚える。世間の意表を突くマーケティングだけでメジャーなアパレルチェーンビジネスが成功するとは思えず、フランチャイズシステムとの整合やロジスティクスの効率も問われるから、走りながら改善していくのはリスクが大きい。 

「ワークマンカラーズ」への業態変更というローカル/小商圏ロードサイド/FC回帰が踊り場から抜け出す突破口になるかというと疑問符を否めないが、一気呵成に課題を解決していければ「時の勢い」みたいな神風が吹くこともある。フリースブームの反動で01年8月期から03年8月期へ売上が7掛けに急落したユニクロは、それを契機にデザインチームを組織して開発・調達体制を直接管理の垂直統合型に抜本転換し、メンズ/ウィメンズのスペックもゼロから再構築してブランド神話を確立し、グローバルブランドに化け上がっていった(筆者の「ユニクロ症候群」に詳しい)。ワークマンにも、そんな「覚醒」をもたらす試練が必要なのかも知れない。

※PDM(Product Data Management)・・・企画と生産のCADデータ連携、コストと納期の見積り、ワークフロー管理の実務マネジメントシステム。

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