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WWDJAPAN 小島健輔リポート
『アパレルの在庫問題を解決する「ロジスティクス革新」』
(2025年01月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アパレルビジネスに付きまとう欠品・残品の在庫問題の解決へ、調達や配分・補給から陳列訴求、店間移動や売価変更までさまざまなアプローチがなされ、近年はアルゴリズムやAIも活用されているが、DX活用・産直越境ECのタイムマシン・マジックを除けば決定的な「解答」は見えていない。オフショア生産依存でタイムマシン・マジックが使えない国内のアパレルチェーンにとっては、「ロジスティクス革新」こそ突破口になるのではないか。

 

在庫問題の本質とオンデマンド・サプライの限界

 

 アパレルビジネスの在庫問題はトレンドや天候による流動性、地域や世代による需要の偏りに加え、需要に生産・調達が先行するリードタイムがもたらす需給ギャップが大きい。数週間ならともかく何カ月も先の需要をSKU別の数量まで予測するのは極めて困難だが、リードタイムを短縮するほど予測精度が高まって需給ギャップを圧縮できる。その究極がファストなオンデマンド・サプライと言われたのは一昔前のことで、今やDXを駆使した産直越境ECは需要(受注)が先行して生産が後追いするタイムマシン・マジックさえ可能にしている。

 後出しジャンケンが可能なら需給ギャップは解消され、アパレルビジネスの在庫問題も解決するが、国内産地が崩壊してオフショア生産が98.4%(23年)に達した我が国では、アイテム特化の受注ビジネスを除いてタイムマシン・マジックは非現実的だ。タイムマシン・マジックは無理でも、CAD/CAM連携のパターンオーダーなら7デイズ・サプライも可能だし、オンラインPDM※1.プラットフォームを活用すればオフショア生産でも仕様の擦り合わせと見積もり、前工程を大きく短縮できる。

 大ロット計画生産と実需とのSKU在庫ギャップを埋める短サイクル補正生産も行われているが部分的な補正にとどまり(不足はカバーできても過剰には対処できない)、需給ギャップを埋め切れるわけではない。DXによるリードタイム短縮効果は大きいが、それだけで需給ギャップを解消できるわけではなく、多くの国内アパレルビジネスにとってオンデマンド・サプライによる需給ギャップ解消は理想論を出ないのが現実だ。

 オンデマンド・サプライが難しいなら、調達した在庫を各販路・店舗の需要に即して的確・迅速・低コストに供給・補給し、移動・集約して売り切っていく「ロジスティクス」(戦略的物流運用)が問われるのではないか。

 

※1.PDM(Product Data Management)…企画と生産のCADデータ連携、コスト&納期見積り、ワークフロー管理の調達実務マネジメントシステムで、欧米アパレルとアジアの工場の間ではクラウドベースのプラットフォームが普及している

 

ロジスティクスの基本スタンス

 

 ロジスティクスは的確・迅速・低コストに需要に応えるべく「前進分散配備」と「後方集中配備」を使い分けるのが基本。迅速・低コストを志向すれば「前進分散配備」になるが、在庫が分散して状況一変時の集約・再展開に手間取る。全方位な状況対応を志向すれば「後方集中配備」になるが、前線との距離がある分、対応に手間取りコストもかさむ。

 アパレルチェーンのロジスティクスでは「前進分散配備」してローカルテザリング(地域内在庫融通)で補正し、基幹商品の補給を「後方集中配備」するのが基本だが、店舗数が限られてドミナントエリアを形成できない場合はローカルテザリングが成り立たないので「後方集中配備」するしかない。お手頃価格のナショナルチェーンやリージョナルチェーンは「前進分散配備」と「後方集中配備」を組み合わせるが、顧客も店舗も限定されドミナントエリアを形成しない中高価格のブランド直営店は「後方集中配備」一択になる。

 単純化すれば「前進分散配備」は各展開地域にTC※2.を配してテザリングするリージョナル・ロジスティクス、「後方集中配備」は全国区をカバーするDC※2.を中央に配して補給するセントラル・ロジスティクスになる。ユニクロのように同一商品を継続して量販するケースでは「前進分散配備」で店舗に在庫を積み上げるだけでは賄い切れないから、「後方集中配備」のセントラル・ロジスティクス(リージョナルDCとの併用と推察される)が要になる。シーズンの初期から実需期へ在庫が店舗へ移動していくが、初期では店舗に3割、消費地DCと生産地の出荷倉庫に7割のバランスと見られるから、数量的にも「後方集中配備」の性格が強い。

 EC専業から店舗展開したケースやEC比率の高いチェーンはセントラル・ロジスティクスだが、OMOを効率運用するにはドミナントを形成した大都市圏にテザリングを取り入れる必要がある。

 リージョナルは各方面別のルート便トラックが1日で巡回できる範囲で、しまむらは10リージョナルにTCを置いて全国をカバーしてきたが、24年問題(トラック運転手の残業規制)でリージョナルの再編を強いられている。エリア(ローカル)はリージョナル内の一方面商圏で、出店とマーケティングでドミナントを形成してテザリングや集約消化を運用する経営単位と位置付けられる。

 

※2.DC(Distribution Center)、TC(Transfer Center)、FC(Fulfillment Center)…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC

 

ロジスティクスの基本プロセス

 

 アパレルチェーンのロジスティクスは(1)初期配分、(2)DCからの自動補充、(3) ローカルテザリング、(4)売り切り店舗への集約、の4段階で売り切っていくのが定石だが、ロジスティクスとマネジメントの集権と分権の方針によって各社のプロセスが異なる。

 セントラル・ロジスティクスでは、アルゴリズムやAIを活用してマーチャンダイザーやディストリビューターがコントロールしているから、(1)と(2)は教科書的に回せても(3)の仕組みを欠くケースがあり、偏在が表面化してから後手に回りがちで、(4)はエリアマネージャーのスキルに依存するケースが多い。対して、しまむらのようにリージョナル・ロジスティクスを確立しているケースでは初期配分も自動補充のローカルテザリングもリージョナルTC軸のルート便で速やかに回せるから、欠品も残品も最小化できて歩留まり率が高い※3のに加え、配送範囲が限定される分、物流コストもセントラル・ロジスティクスより格段に抑制できる。

(4)売り切り店舗への集約、はドミナント出店政策と在庫運用、組織運用の考え方であってロジスティクス体制が決めるわけではない。リージョナル/エリアのマネージャーが主導してエリア内で在庫を集約するのが原則だが、シーズン末の最終段階で本部主導のリージョナル間移送が必要となる場合もある。

チェーンストアの出店では一般に標準化が志向されるが、ローカルテザリングを前提としたドミナント出店政策を採る場合は標準店や旗艦店に加えてテザリング母店や集約処分店が設定される。テザリング母店は在庫を積めて入出荷が容易な賃料の安い路面の大型店、集約処分店は価格に敏感で実需期から末期の需要が高い高密度立地店が好ましい。

成果報酬制のチェーンでは店長や部門マネージャーに数量発注権が全部、あるいは部分的に付与されるケースがあり、その場合は(3)(4)は機能せず(2)も機能がないか限定される。そんなチェーンではシーズン末まで各店長/マネージャーが在庫を抱いて消化に注力するが、セールの直前にリージョナルマネージヤー(ザラではカントリーマネージャー)が介入して店間移動・集約し、ペナルテイやロイヤリテイが課されるようだ。

 

※3・・・・「ファッションセンターしまむら」の24年上期の値下げ率(値入れの減耗)は6.8ポイントで、40.6%の値入れから33.8%の粗利益率に着地しているから歩留まり率は89.7になる。

 

初期配分と補給、売り切り編集と集約移動

 

 初期配分は各店舗の販売消化力にスライドした「傾斜配分」が基本だが、店舗間で1ケタ違う場合もあって高効率店では棚に入り切らずストックに積み上げ、低効率店では棚がガラ空きになりかねないから、上限と下限を定めて補給頻度で対応する。「傾斜配分」の前提となる消化係数は同一店舗でもカテゴリーで異なり刻々と変化するから、アルゴリズムで自動計算して少なくとも月次に見直すべきだろう。

販売力は違っても統一したフェイス(陳列棚割り)を組んで継続販売する場合は「棚割りカセット配分」が行われる。標準サイズとダブルサイズ、ハーフサイズなどのタイプを設定して各店舗の規模や販売力に対応する一方、送り込むSKU別数量は「傾斜配分」計算に基づくから、棚割りからあふれる分は補充用にストックされる。

 「傾斜配分」「棚割りカセット配分」どちらかに徹するのではなく、売り切りの「横売り」品目は「傾斜配分」、継続販売の「縦売り」品目は「棚割りカセット配分」して陳列にもメリハリをつける。客数の多い高効率店では「棚割りカセット配分」の「縦売り」で売上を稼ぎ、客数の限られる低効率店では「傾斜配分」の「横売り」で品目の幅を広げて買い上げ率を稼ぐのが定石と思われる。

 「横売り」品目は出荷基地で店タイプ別のSKUフェイシング量を揃えたバンドルで投入、「縦売り」品目は店タイプ別の棚割り数量に補充分を加えた傾斜配分数量をパッキンやオリコンで投入する。DCに補給在庫を積まない「横売り」品目はローカルテザリングで補充し、勢いがあれば類似の「横売り」品目を投入してリレーしていく。「縦売り」品目は店舗後方ストック、DC在庫の順に補給して棚割りを維持し、DC在庫が切れたSKUはローカルテザリングで補給する。

 「横売り」品目の売り切りは類似商品とまとめて圧縮陳列し、ニット/カットなどの色展開品は色別配列、ボトムなどのサイズ展開品はサイズ別配列して欠品SKUを目立たなくすれば、買上げ率が上がって消化が進む。「横売り」品目は元よりフェイシング量が薄いから、類似商品との圧縮陳列編集を繰り返して売価変更すれば店舗内で消化が進む(売り切り段階でもテザリングは回っている)。

「縦売り」品目は補給が続く限り棚割りを維持し、補給が切れて棚が空くようになったらフェイスを圧縮して類似カセットと合体し、さらに欠けると解体してサークルやシングルなどで圧縮陳列するか売り切り店舗へ集約していく。マークダウンのタイミングは消化進行と販売期限、営業方針が決めるから、棚割り解体のタイミングとは必ずしも一致しないが、集約移動はマークダウンとタイミングを合わせることが多いようだ。

 

リージョナル物流によるOMOとテザリング

 

 

 ロジスティクスの政策と運用を解説したが、実際にコストと時間を圧縮して利便と効率を高めるのはフィジカルな物流だ。

 セントラル・ロジスティクスでは全国の店舗と顧客に長距離で載せ替えを要するオーバーナイトのハブ&スポーク物流(ヤマト、佐川の全国区宅配便)を要して時間もコストもかさむが、リージョナル・ロジスティクスではリージョナル内の店舗と顧客に載せ替えなしに即日配送するから、地域の宅配業者を使えば全国区宅配業者の半額ほどに収まり、自前(で契約した)ルート便を巡回させれば修理加工の集約やテザリング、集約移動を効率的に運用できる。

 EC注文品の店渡しや取り寄せ試着などのOMOも、リージョナル内の在庫を引き当ててルート便で希望店舗へ運べば翌日か翌々日(希望店舗在庫なら最短30分後)、宅配希望にもリージョナル内店舗の在庫から出荷すれば当日か翌日には届くから、顧客利便も高まる。
 スーパーマーケット業界では「地産地消」「地加工地配」が競われてリージョナルチェーンがナショナルチェーンを圧倒し、日本でも米国でもリージナルチェーンがグローサラントなどの革新をリードしている。ECと店舗を連携するOMOが当たり前になり、FC(Fulfillment Center)運営や宅配の物流コストが跳ね上がる今日、アパレル業界でも古典的なセントラル・ロジスティクスは在庫運用のスピードや顧客利便でもコストでもリージョナル・ロジスティクスに対抗できなくなっている。ヤマトや佐川に物流を依存する時代は終わったのではないか。

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