小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『アパレル企業が倉庫自動化の前に検証すべき
「物流最適化の大原則」とは』
(2025年09月08日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アパレル業界に限らず、労働力の逼迫もあって物流倉庫の自動化が急がれているが、物流倉庫運営の効率化・自動化が目的化して、ロジスティクス総体の最適化とは必ずしも一致しないケースが目に付く。自動化で倉庫運営自体は効率化できても、調達・配分・補給の一次物流から再配置の二次物流まで一貫するロジスティクス総体の効率を損なっては本末転倒という誹りは免れない。物流の基本原則から店舗物流と通販(EC)物流の一元化、在庫効率と顧客利便まで「全体最適」という視点で検証する必要がある。

 

■アダストリアの最新自動化倉庫に見る違和感

 最近、稼働したばかりのアダストリアの最新鋭自動化物流倉庫(常総物流センター)のPR動画を見て、強烈な違和感を否めなかった。自社のPR用に作成してユーチューブに公開している動画だから自画自賛のはずだが、入荷した商品を専用コンテナに入れ替えて自動棚入れシステムの自走ラックに人力で載せるシーン、ピッキングした個々の商品を中国製の小さな自走ロボットに逐一、人力で載せるシーンを見て、今時、ありえない人海作業に驚かされた。

 段ボールで届いた商品を人力で自動棚入れシステムの専用コンテナに入れ替え、人力で自動棚入れシステムの自走ラックに積み込むのは二重の不合理を感じるし、巨大な倉庫の中を多数の自走ロボットが行き交う様は確かに未来的?だが、各店舗の出荷段ボールまで商品を運ぶ小さな自走ロボットのトレイに作業員が逐一、商品を載せるのは不思議な光景で(ここってFC※じゃないよね?)、半世紀前のトータルピッキングの自動振り分けコンベアシステムの方がはるかに合理的に思えた。

 おそらく、従来は手作業で行なっていたプロセスを自動化した結果だと推察されるが、「入荷商品を各店舗に仕分けて出荷する」プロセス総体を最適化するという視点で設計すれば、全く別の自動化が仕組まれたのではないか。店舗業態だけでも40ブランド、EC専業も含めれば68ブランドに達するアダストリアの多数の事業は、ファストな横売り型※から一部は計画生産の縦売り型までMDもサプライも様々でパターン化したプロセスが組めず、物流部門(子会社のアダストリア・ロジスティクス)としては現況対応の課題解決に徹するしかなかったのだろうが、それでは全社ロジスティクスの最適化は見えて来ない。

まずは多数の事業の物流プロセスをパターン化するのが先で、自動化プロセスに乗らない事業は自動化ラインから外してバイパスラインや外注で対応するなどの割り切りも必要だったのではないか。もっと根本的な課題として、多数の事業を選別して成長事業・高効率事業に集約するなど、事業構造そのものを効率化するという経営判断も必要かと思われる。

それはともかく、横売りの蒔き切り商品、縦売り商品でも初期配分分は自動棚入れ棚出しシステムを通す必要は無いから、自動振り分けコンベアシステムに流してトランスファー出荷すれば人手をかけず素早く完了するし、コストも手間もかかる自動棚入れ棚出しシステムの負荷も軽減でき、棚入れスペースも半減できるはずだ。自動振り分けコンベアシステムのバイパスラインを並行するという発想はなかったのだろうか。

 アダストリアの最新鋭自動化倉庫は「店舗物流」に特化した施設のようだが(それにも当然に異論はあるが)、似たような自動化倉庫の例として18年10月に稼働したユニクロの有明自動化倉庫が挙げられる。ダイフクの自動棚入れ棚出しシステムを駆使して「入庫生産性80倍、出庫生産性19倍、省人化率90%、自動検品精度100%、最速出荷所要時間15分」という画期的な運営効率を実現したが、「EC物流」に特化して「店舗物流」と分断してしまいOMO※で後手に回ったという指摘に加え、段ボールで入荷した商品を自動棚入れ棚出しシステムのオリコンに人力で入れ替える(有明に運び込む前の陸上げ倉庫にて)という点はアダストリアの自動化倉庫と共通している。

 アダストリアの棚入れ棚出しシステムと搬送ロボットを組み合わせた自動化倉庫は、どう見てもユニクロの有明自動化倉庫とも共通する個品仕分けの「EC出荷」向きで(だから「FCじゃないよね?」と皮肉ったのです)、大量の商品を短時間で自動仕分けして出荷する「店舗物流」とは相入れないように見えたが、読者はどう思われただろうか。逆に見れば、EC出荷のFCと店舗向け補給出荷のDCを同一プロセスで並行できるメリットは見出せるから、初期配分の自動振り分けコンベアシステムを新たに併設すれば、EC出荷と店舗出荷を並行するOMO対応自動化物流施設にアップデイトできるかも知れない。

 

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

※縦売りと横売り・・・同一品を備蓄補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエテイを揃えて少量を蒔き切りで売り切っていくのが「横売り」。

※OMO(Online Merges with Offline)・・・ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店在庫取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

 

■物流最適化への基本原則

 物流の基本は出荷地点(生産工場や生産地出荷倉庫)から販売地点(店舗)や消費者へ、最短距離・最短時間・最小載せ替え回数・最小コストで運ぶことで、DCやTC、FCは中継拠点に過ぎないから、DCやTC、FCの運営プロセスを自動化しただけで解決する課題ではない。

 

 消費地物流では物流の距離と時間、コストは一般に相関するから(生産地から消費地のコンテナ物流では逆相関する場合もある)、在庫を前進(分散)配備するか後方(集中)配備するかという選択になり、必然的にリージョナル・ロジスティクス※かセントラル・ロジスティクスかという選択になる。それは同時に直行便(ローカル宅配業者)か載せ替えを伴うオーバーナイトのハブ&スポーク便(全国区宅配便業者)かという選択にもなるから、必然的に時間とコストも大きく開く。一般に全国各エリアにドミナントを形成する千店〜数万店スケールのナショナルチェーンではリージョナル・ロジスティクス、全国に分散してドミナントを形成しない数十店〜数百店スケールの中小規模チェーンではセントラル・ロジスティクスが選択されることが多いが、ドミナントの集中次第では数百店の中規模チェーンでもリージョナル・ロジスティクスが適する場合がある(食品スーパーでは定石です)。

 

物流コストは出荷単価に逆相関するから、国際物流ではコンテナ単位にまとめようとすれば時間を要することもあり、フォワーダーのビジネスが成立する。店舗物流ではパッキンの規格が大きいほど割安になるがマテハンの労働負荷も大きくなり、量がまとまる初期投入はともかく補充物流では頻度が抑制される弊害も生じる。宅配外注費負担の重いEC物流では出荷単価は物流費負担率を大きく左右する重要要件で、私の知る限り、ZOZOでは高単価ブランドと低単価ブランドで手数料率が倍近く(22〜40%)も違う。

 

 物流加工(ダグ付けやインレイ封入、バンドル仕分けやオリコン入れなど)を消費地のDCやTCで行うと二重手間と人件費の高さでコストが嵩むから、より上流の生産工場や生産地出荷倉庫で行うのが原則。しまむらはバーコードタグ付けして(未だRFIDは導入していない)バンドル仕分けした状態でのリージョナルTC納品をサプライヤーに求めているが、インディテックス(ZARA)はカテゴリー毎の自社セントラルTC(スペイン国内)で防犯ICタグの取り付け(一部商品は生産工場にてインレイ封入)と全世界各店舗への自動仕分けを行っている。

 バーコードとRFID(IC)の一番の違いは絶対単品認識の可否で、FRIDでは重複して読み込んでも個別認識するから一括読み取りが可能で、棚卸しやセルフ精算の効率化はもちろん、レーダー反射による位置探索もできるから、店舗や物流施設で迷い子になった商品の棚戻しも容易にできる。絶対単品認識は精算済み、検品済み商品の個別認識で防犯や検品にも活用できるし、書き込み機能があれば生産工場の出荷段階から二次流通までトレースできるが、何より人間の読み取り忘れや勘違いを回避するメリットが大きい。

 

 物流は止めない(棚入れしない)のがベストで、一度棚入れすれば保管とピッキングのコストも生じるから、しまむらはリージョナルTC経由の店舗物流に徹しているし、インディテックスはセントラルTCで仕分けて世界中の店舗に送り出している。しまむらはECもサプライヤー商材(日々、受注分を納品させる)は東松山のEC向けTCで仕分けて店舗受け取りと宅配に対応し、自社在庫商品はリージョナルTC経由のテザリングも含めて店舗在庫を引き当てているようだ(店舗受け取り率84%)。一方のインディテックスは世界の何処にもEC向けのFCを持たず、全て店舗在庫を引き当てて店舗受け取りと店舗出荷で対応している。

 ブランド商材を受託販売するECプラットフォーマーでも、出荷単価の高いZOZOは在庫を預かって出荷する「フルフィルメント型」だが、出荷単価の低いファストファッションの「ショップリスト」は在庫を預からず、しまむらのように受注分を日々、ブランドに納品させてTCで仕分け出荷する「トランスファー型」だった。それでも物流コストで収益が圧迫され、コロナが明けて以降の店舗回帰や中国系激安越境ECの急拡大で売り上げも伸び悩み、12年7月から「ショップリスト」を運営して来たクルーズ社は今年2月、セレクトEC「nugu」を運営する韓国メディコトス社に事業を譲渡している。

 

 物流の基本原則の最後に挙げたいのが「人が関わらない」ことだ。物流施設では人海作業の人件費はもちろん、採用やシフトの苦労、人が働くための空調や照明、後方施設(休息室や食堂、駐車場など)のコスト、自動化施設内での危険防止や救急体制、何より人間ゆえの思い込みや勘違い、諍いを避けるには「人が関わらない」で運営できることが必定だ。「人が関わらない」で運営できれば作業者の採用が容易な高コスト立地を選択する必要もないから、開発コストも賃料負担も格段に抑制できる。首都圏なら賃料の高いベイエリアや国道16号エリアに固執する必要もなくなるのではないか。

 

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けて送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DCだが、仕分けて出荷するだけのトランスファー型(TC)もある。

※リージョナルロジスティクス・・・中央のDCやFCから全国の店舗や顧客に物流(セントラルロジスティクス)するのではなく、生産地から各リージョナルのTCやDCに直送し、リージョナル内の各店舗や顧客に物流するロジスティクス手法で、ルート便によるローカルテザリングや地域の宅配業者による即日配送で在庫効率と顧客利便を高め物流費を抑制する。

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