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『アダストリアが嵌った物流倉庫の統合効率化という「部分最適」の罠』
(2025年08月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

日本経済新聞はアダストリアが神戸市の自動化新物流拠点を26年7月以降に稼働させて東西に対応するロジスティクス体制を構想していると報じているが、レナウンの習志野インテリジェント・ジャンクション(1992年稼働の統合セントラルDC※)やユニクロの有明自動倉庫(2018年稼働のEC専用セントラルFC※)を想起したと言ったら意地悪に過ぎるだろうか。どちらも出荷倉庫としての運営効率を追求して自動化を極めたが、前者は煩雑な返品・振替・再投入という百貨店流通の現実と乖離してコストとタイムラグが嵩んで業績悪化の一因となり、後者は店舗物流と乖離してEC注文品の店在庫引き当て店渡し/店出荷というOMOに乗り遅れるという戦略ミスを招いてしまった。

 アダストリアにとって、国内7拠点に分散していた物流倉庫を東西の自動化倉庫に集約するという構想が果たして吉と出るか凶と出るか。飲食も含む多業態・多サイト・多拠点展開というアダストリアの実態にセントラルDC体制は適しているのだろうか。

※DCとTCとFC・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

 

■アダストリアの事業展開とセントラル・ロジスティクスはマッチするのか

 アダストリアは25年2月期連結で2931億円(前期比6.4%増)を売り上げて155億円(前期比13.9%減)の営業利益を計上する大手アパレルチェーンで、ファーストリテイリングやしまむらに続く第二グループの先頭を競っている。アパレル・雑貨業態を国内に1302店舗(他に海外111店舗、飲食76店舗、ウェブストア141店舗)を展開しているが、物販だけで68業態(他に飲食47業態、アパレルFC1業態)に及ぶ多業態展開で、最大規模のグローバルワークでも216店舗/売上526.6億円に過ぎないから中小チェーンの集合体というのが実態だ。全国の主要商業施設に複数の業態を展開し、国内EC売上も728億円(国内売上比28.4%)に達して自社EC比率は過半を超えるが、国内の外部サイトだけでも112に分散しており、運営も物流も相応に複雑で高コストと推察される。

 粗利益率は連結で54.7%と高いが前期からは0.6ポイント低下、販管費率は49.4%と前期比0.7ポイント上昇し、営業利益率は5.3%と前期から1.2ポイント低下しているから、多業態・多サイト・多拠点展開の複雑な運営コストが収益を圧迫していると見て取れる。販管費の内訳は人件費が18.1%(前期比0.6ポイント上昇)、地代家賃/リース料/減価償却費の設備費が17.8%(前期比0.5ポイント上昇)で、物流費は「その他」に含まれ開示されていない。国内は店舗物流も自社EC物流も連結子会社のアダストリア・ロジステイクスに委託されているが、全国7拠点8施設の倉庫運営であって、店舗や顧客への運送は宅配業社に外注している。

 アダストリアの主要業態のうち、ユニクロのような「縦売り」(継続補給販売)商品を大きく扱っているのはグローバルワーク他の大型業態に限られ、他の業態は「横売り」(蒔き切り販売)商品が多くを占めるから、店舗向け物流センターはTC機能(振り分け出荷)中心でDC機能(棚入れしてピッキング出荷)は限定されるはずだが、業態によって様々ゆえ並行運用されているようだ。店舗向けは茨城西センター中心に福岡、群馬県藤岡、神戸に分散しているが、日本経済新聞は新設の西宮北センターと在来の神戸センターが西日本の店舗、23年設立の常総センターが東日本の店舗をカバーする体制に切り替わると報じている。EC向けは茨城県茨城町FCで一括しており、検品・棚入れの上、毎日の受注に応じてピッキング・方面仕分けして出荷している。

 アダストリア・ロジスティクスは『中規模拠点に分散するより大型拠点に集中して自動化するのが効率的』とアナウンスしているから、店舗向けは東西に集約するセントラル・ロジスティクスを志向していると受け取れる。これまでの分散も各リージョナルに対応したものではなくセントラル・ロジステイクスを量的に(おそらくカテゴリーや業態で)分散していただけだから、リージョナル・ロジスティクスから転換したわけではないが、多業態に分散して「横売り」比率が高く店間移動が必須のアダストリアの商品展開には逆行するのではないか。

 蒔き切りで売れ筋を類似商品でリレーする「横売り」商品が多いアダストリアでは機動的なテザリング(店舗間の在庫融通移動)が消化促進の要となるが、セントラル・ロジスティクスでは逐一、拠点を経由して振り替えるしかなく、全国区宅配業社のハブ&スポーク物流でコストもタイムラグも肥大してしまう。しまむらのように全国10TCからのルート便で振り替えるリージョナル・ロジスティクスに比べればコストもタイムラグも倍増し、販売機会が損なわれ「最低陳列量」が嵩んで在庫効率も悪化する。

物流センターの統合自動化による運営効率化は「部分最適」の選択であって、機動的な在庫運用で欠品を回避し消化を促進して売上と粗利益、在庫回転と顧客利便を向上し、物流費と物流タイムラグを圧縮するという「全体最適」には逆行するのではないか。

 

■レナウンの支店物流放棄という自滅的選択

 20年5月に経営破綻した名門アパレルのレナウンについては様々な要因が指摘されているが、私は破綻に至った本質的な要因は三つあったと考える。ひとつは付加価値を損なった商社依存の商品開発体制、ひとつは機動的な在庫運用を妨げた委託取引から消化取引への移行の遅れ、ひとつは支店(リージョナル)ロジスティクスからセントラル・ロジスティクスへの移行だったのではないか。

 商社依存の商品開発体制は小杉産業ほど酷くはなかったが洋品系大手アパレルに共通しており、ワンポイントのカジュアル商品などユニクロに食われて売上が激減していった。委託取引では商品の所有権が小売店に移るからアパレル側が自在に振り替え移動が出来ず、小売店の破綻時にも在庫を回収できないが、消化取引なら販売時点まではアパレル側に在庫の所有権があるから自在に振り替え移動が可能だ。先行して消化取引に切り替えたオンワードは業績を伸ばし、2000年7月のそごう破綻時にも在庫を回収して損失を免れたが、レナウンは切り替えが遅れて営業力が落ち、そごう破綻時には大きな損失を被った。

最盛期の百貨店アパレルは各大都市(福岡、広島、大阪、名古屋、東京、仙台、札幌)の支店に物流機能を持ち、地域の百貨店間で機動的に在庫を振り替えて消化していたが、百貨店が衰退して業績が頭打ちになるに連れ支店の人件費や在庫が負担になって行き、支店の統廃合の果てに近畿や関東の倉庫からの集中物流に切り替えていった。レナウンも例外ではなく1992年に400億円を投じて千葉県に巨大自動化倉庫「習志野インテリジェント・ジャンクション」を開設してセントラル・ロジスティクスに転換したが、地域の百貨店間の在庫振替の機動性が損なわれて業績が悪化し、物流コストも物流タイムラグも肥大してコスト倒れになり、2013年にはプロロジスに売却して賃貸に切り替えたが採算は改善せず、2006年には倉庫運営の連結子会社を解散して19億円の債権を放棄している。

リージョナル・ロジスティクスからセントラル・ロジスティクスに切り替えれば物流センターを統合大型自動化して運営効率を高められるが、ハブ&スポークの全国区宅配業社に依存して4回の載せ替えとリージョナル間夜間移送を要する高コストでタイムラグの大きい物流を強いられ、リージョナル内各店舗間の機動的な在庫振り替えによる欠品の防止と消化の促進が妨げられるという大き過ぎる弊害が生じる。物流センターの運営効率化という「個別最適」のために機動的な在庫運用による消化促進という「全体最適」を損なっても良いのだろうか。レナウンの場合、様々な失策の果てにセントラル・ロジステイクスへの切り替えが致命傷になったのではないか。

 

■有明自動化倉庫は常勝ユニクロの「個別最適」失策だった

 今や世界に遮る者なき常勝ユニクロにも「失策」はあった。それは2018年10月稼働の有明自動化倉庫だ。

「入庫生産性80倍、出庫生産性19倍、省人化率90%、自動検品精度100%、最速出荷所要時間15分」と鳴物入りで公開された有明自動化倉庫だが、倉庫の運営効率は突出しても、EC商品の入出荷に特化したFC(Fulfillment Center)として開発したため店舗向け商品の物流と分断してしまい、店舗販売とECを一元化するOMO※を妨げるという弊害を招いた。

 OMOは顧客と在庫を一元管理して店舗とECの垣根を超えた在庫引き当てと顧客の受け取り利便、在庫効率、物流効率、店舗効率を最大化するリテール戦略で、究極は地域ごとにECと使い分けて店舗布陣を再配置するリージョナルOMOマーケティングに到達する。インディテックス(ZARA)のコロナ後の驚異的な店舗効率向上、アバークロンビー&フィッチの奇跡的な復活に共通するロジックとして注目されるが、ユニクロは有明自動化倉庫が店舗物流とEC物流を分断してしまったため大きく出遅れた。

21年10月からようやくFC(有明倉庫)出荷と並行しての店在庫引き当てが可能になったが、EC向け物流と店舗向け物流の分断は解消されておらずOMO効果が力不足でECが伸び悩み、EC比率は22年8月期の16.16%をピークに24年8月期は14.69%と15%も割り込んだ。EC比率が20%に届かないではリージョナルOMOマーケティングによる店舗網の適正再配置も難しく、インディテックスがアジアで苦戦する中も格差を大きく縮めるには至っていない。

有明自動化倉庫はFCの運営効率化に偏った典型的な「部分最適」事例であり、その代わりに失った「全体最適」には到底見合うはずもなかった。

 

※OMO(Online Merges with Offline)・・・ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

 

■アダストリアはリージョナル・ロジスティクスへ向かうべき

 アダストリアは主力業態では「縦売り」を志向してもファストな「横売り」マーチャンダイジングの業態も多く、セントラルDCから補給する商品よりリージョナル内で欠品回避や編集消化すべく店間移動(テザリング)する商品の方が多いはずで、機動的な在庫運用を図るにはリージョナル・ロジスティクスの方が適していると考えられる。加えて、アダストリアは国内EC売上が728億円(国内売上比28.4%)に達して自社EC比率も過半を超えるから、インディテックスのような店舗を出荷拠点とするローカルOMOへの転換も十分に可能で、地域ごとに店舗とECを組み合わせて店舗網を最適に再配置するリージョナルOMOマーケティングに踏み込めば、店舗効率と在庫効率の画期的な改善が期待できる。

国内の外部サイトだけでも112に分散して非効率になっているEC物流も刷新するべきで、自社EC事業をアンドエスティ社として分社し外部商品を拡大してプラットフォーム化するのを契機に、店舗物流とEC物流を一体化してリージョナルTCを軸としたルート便による機動的テザリング体制を確立し、自社商品は店舗在庫を引き当て店渡ししたり店出荷し、外部商材もリージョナルTC軸で店舗に届けて店渡ししたりTCからローカル出荷するロジスティクスに切り替えるべきだと思うが如何だろうか。

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