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『もはや日本は亜熱帯!? 温暖化でもアパレル小売が儲けるための3つの秘訣』
(2025年06月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 残暑が長引いて秋物の販売期間が極端に短くなり、暖冬で防寒衣料の山が後ズレして低くなり、夏が暑く長くなっても単価が低く売上が大きく伸びるわけでもなく、月々の固定費が嵩んで利益が圧迫されるアパレル小売の窮状を解決する方策はないものか。国内外の事例から以下のように考えてみた。

 

■稼ぎ月の利益が減って端境月の損失が嵩む現実

 決算期で締めての営業利益は月次損益の累計だから、温暖化で稼ぎ月の利益が減って端境月の損失が嵩めば必然的に苦しくなる。アパレル小売は単価の取れる冬場の防寒アウターや春秋のオケイジョンアイテム/ドレスアイテムで稼ぎ、単価の落ちる夏場は数を売っても稼ぎは限られるから、近年の温暖化で防寒アウターの山が後ズレして低くなり、春秋が短くなって夏が長く暑くなっては利益が削られてしまう。

 アパレル小売では人件費と店舗費(賃料と減価償却費)が販管費の大半を占め、固定賃料の路面店舗はもちろん、歩合賃料のテナント店でも最低保証※を超える賃料を除けばほとんどが固定費だ。臨時雇用(パート&バイト)や派遣の活用、果ては販売代行委託など人件費を変動費化する策を弄しても固定費の大枠は変わらず(販売代行契約にも最低保証がある)、月次損益のボーダーはさほど上下しない。

ゆえに稼ぎ月では大きな利益が出る一方、売上の落ち込む端境月では値引きロスも嵩んで粗利益が固定費を割り込んで損失が生じ、稼ぎ月の利益を削ってしまう。テナント店の場合、最低保証売上を割り込めば最低保証賃料が固定費となって損失が嵩むから、亜熱帯化で夏から秋の端境期間が長くなれば、8月だけだった損失月が9月にも及んで収益を圧迫する。アパレル各社から、そんな悲鳴が聞こえて来る。

端境月という点では1〜2月も同様だが、防寒衣料実需の後ズレもあって損失は拡大していない。温暖化による月次損益の悪化は8〜9月、とりわけ9月に集中しているようだ。

※最低保証賃料・・・テナント出店契約では売上に対する賃料率が定められ、出店区画に期待される最低保証売上(=最低保証賃料)が課される。売上対比の賃料率だから変動費に見えるが、最低保証売上以下では固定費になってしまう。

 

■消化歩留まり追求の副作用も大きい

 近年のアパレル業界では消化歩留まりを高めるべく「売り切り」消化が志向されているが、アルゴリズムやAIを駆使して消化管理し在庫を抑制すればするほど、POSでは見えない「売り逃し」が肥大していく。売上を最大化するには、多少の売れ残りや値引きロスには目を瞑って必要な在庫を揃え、「売り逃し」を最小化して顧客充足率を高めるべきで、それを欠いてはライバルに顧客が流れて占拠率を落としてしまう。

 ユニクロは「売り切り」より「売り逃し」防止を優先して膨大なSKU在庫を多段階に積み上げているが、その結果として少なからぬ売価変更ロス(推計22%強)や売れ残り在庫(推計8%強)が生じても、国民的支持を得て国内衣料消費の11%近いシェア(9322億円)を確保し、売上対比16.7%もの営業利益を計上している(24年8月期)。一店平均10億円近くを売り上げ、平米当たり年間販売効率も95.2万円、一人当たり年間売上も3844万円と突出している。

 「売り切り」消化を優先すればシーズンピーク〜末期の在庫を抑制することになり、8〜9月、1〜2月の端境期の売上も抑制してしまう。結果として最低保証売上に届かなければ、固定費負担で月度損益の赤字が肥大することになる。多少?の売価変更ロスや売れ残りと端境月の売上を天秤に掛けて、どちらが損益的に重いか、欠品回避による顧客充足がもたらすLTV(長期顧客化)シェア拡大という戦略的効果も合わせて考えるべきだろう。

 季節商品やトレンド商品は売価変更ロスが嵩んでもシーズン中に売り切る必要があるが、季節を超えて継続展開する定番商品は無理やり売り切らず、多少は持ち越しても翌シーズンに販売出来る。端境月の売上を下支えするには、継続展開商品の比重を高めるという選択もあるのではないか。

 

■季節商品と継続展開商品のバランスを変える

 1)暖冬と亜熱帯の夏という温暖化だけでなく、2)老若男女総労働力化による家庭内分担とライフスタイルの一変、3)アスレジャー革命以降の軽量・高機能・イージーケア・イージーフィットというウエアリング変化が相まって衣料消費は後戻りのない変貌が進んでおり、シーズンMD展開のテクニカルな修正だけでは対応できない。

シーズンMD展開だけでなくライフスタイルもウエアリングも素材も大きく変化しているのだから、商品の基本的なスペック(機能性/素材/パターン/縫製仕様)から再構築する必要がある。バイヤー/マーチャンダイザーの借り物MD(既存取引先スペックの転用)で対応できる次元ではないことを経営陣が自覚するべきだろう。そうなれば商品調達組織の陣容は一変し、サプライヤーとの関係も次元が変わる。

 商品スペックのアップデイトが相応に進むという前提で、マーチャンダイジングのテクニカルな対応に移ろう。四季の流れが一変する中、短期化する春・秋では在庫を揃えて季節内に売り切るのは無理があり、長期化する夏では「亜熱帯夏期」(東京では最高気温が30度を超える真夏日が6下旬〜9月中旬の3ヶ月間に及ぶ)を加えないと対応できないし、温暖化して寒冷期が後ズレする冬では「春」感覚(春色・春トレンド)の防寒アウター(必然的に合繊中綿アウター中心になる)や発色の良い合繊混(アクリルやナイロン、フイルム糸)のニットが主役とならざるを得ない。

 今風のスペック開発に加えて季節商品も一変するとなれば、サプライヤーの協力を得ても適応には時間を要するから、開発体制の整ったSPAならともかく、仕入れ依存のアパレル小売は後手に回らざるを得ない。後手に回った分、確実にマーケットシェアは失われていく。ならば、季節商品を抑制して通季継続商品の比重を高めていくという選択もあるのではないか。

 ユニクロが典型的だが、13W展開商品、26W展開商品が大半を占め、季節ごとに切り替わる商品は1割もないように見える。13W展開商品も素材替えや色替えで実質26W継続されるものもあり、インバウンド客の多い店舗ではライトダウンやTシャツが通年展開されるケースも見られる。

 通季継続する商品は顧客を限定しない定番商品であり、値下げすれば相応に消化が進み、売れ残って持ち越しても翌シーズンも販売できる。流石に定価での販売は難しいようで、ユニクロのECサイトでは今シーズン品の隣に同じアイテムの前シーズン品がほぼ半額で並んでいる。

 通季継続する定番商品は年々、スペックを磨いてアップデイトし、色やサイズを揃えて幅広い顧客を捉え、欠品を回避して顧客充足率を維持すべく在庫を抱えて補給する必要があるが、スペック開発でも補給や期中の補充生産でも小売業だけでは手に余る。そこで活用されるのがサプライヤーとの協業だ。

 

■VMIと二毛作という選択

 通季継続する定番商品はスペック開発も補給や期中の補充生産もサプライヤーと組んでVMI※を仕組むのが賢明で、「#女子」以前のワークマンはVMIサプライと買取型FCを組み合わせて欠品回避と在庫リスク回避を上手く両立させていた。「ワークマン+」や「#ワークマン女子」が売上の65.7%、PB比率が68.5%、海外直接仕入れ比率が63.1%に達した25年3月期は本部在庫(FC店在庫は含まない)の回転が3.48回と22年3月期の4.79回から1.31回転も減速したが、VMIから直接調達のSPAへシフトした影響も大きかったと思われる。

 VMIとまではいかなくても、サプライヤーによるスペック開発と補給の分担という点ではしまむらのJB(Joint Private Brand)も同様のメリットがあり、近年の付加価値向上(「ファッションセンターしまむら」の過去3期間の商品単価は862円から990円へ14.8%も上昇)と粗利益率の向上(同期間に0.9ポイント上昇)に貢献していると推察される。

米国でもカントリージーニングのバックルがサプライヤーと組んだJBを競わせて在庫効率を高め、突出した高収益を謳歌している。25年1月期のギャップとバックルを比較すれば、売上規模はギャップの150.9億ドルに対してバックルは12.2億ドルと12倍以上の大差があるものの、営業利益は4.6倍の差しかない。粗利益率※はギャップの47.2%に対してバックルは58.9%、営業利益率はギャップの7.4%に対してバックルは19.8%と収益力が格段に違う。

セレクト商品が過半を占めるバックルの粗利益率が元祖SPAのギャップより11.7ポイントも高いという事実は、自社完結の開発型SPAよりサプライヤー活用のVMIの方が消化歩留りが格段に高いことを実証している。バックルの消化歩留りの高さは在庫運用のエリア分権も奏功しており、詳しくは24年3月27日掲載の『イトーヨーカ堂とギャップがハマった現場弱体化の「落とし穴」とは』を参照されたい。

 

VMIと並ぶもうひとつのサプライヤー活用策が「二毛作」だ。紳士服や防寒衣料など季節の売上が偏るアパレル小売の場合、夏場や端境期の売上を底上げしようとしても在庫負担がネックになって踏み切れないことが多い。販売期間が短いと在庫が残って利益を食い潰してしまうからだ。そんなネックを解決するのが催事販売による「二毛作」だ。

かつてはリゾートウエアやエスニック衣料・雑貨の専門サプライヤーなどに限られていたが、昨今では均一価格雑貨やキャラクター雑貨のラックジョバー、お洒落なD2Cアパレルのポップアップショップ(期間限定店舗)なども広がっており、スペースに余裕のある店舗なら相応に活用できる。客層が共通すること、什器や照明、フィッティングやレジが使えることに加え、店舗のスタッフに陳列・販売を任せられるなら、組めるサプライヤーの幅が広がる。

期間限定の催事販売では陳列・販売のスタッフを遠隔派遣するコスト(交通費や宿泊費)が重く、現地でのバイトや派遣の確保もスキルの不安もあって難しいから、サプライヤーとしては陳列・販売スタッフを用意してくれる出店案件に絞らざるを得ない。ポップアップショップを広げる商業施設では地元の販売代行業者と組んでサプライヤーを勧誘しているぐらいだから、小売店舗側のスタッフが陳列や販売を担うなら売上の取れるサプライヤーを確保し易くなる。さすれば「二毛作」も難しくないのではないか。

 

戦略的な次元から泥臭い現実対応まで、次元を問わず温暖化への損益対策を挙げてみたが(コンサルの実務ではこの多次元視点が不可欠)、それぞれの事情に応じて可能なところから取り掛かれば良いと思う。

 

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

※粗利益率・・・ギャップ社もバックル社も商品原価にオキュパンシーエクスペンス(地代家賃)含んで開示しているから、その分、見せかけの粗利益率が低くなっており、本稿では商品原価からオキュパンシーエクスペンスを差し引いて粗利益率を算出している。

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