小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『ユニクロとしまむら、フェーシング数量に見るロジスティクスと商売哲学の違い』
(2025年05月12日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コンビニやスーパーの棚に並ぶSKU毎のフェイシング数量は欠品せず滞貨もしないよう適切に設定されているはずだが、現実には需要と乖離して過大過小なケースも多々見られる。アパレルでも「しまむら」は各1、「ユニクロ」は各1ダースをベースと大差があるが、その背景には「横売り」と「縦売り」というMD政策に加えてロジステイクス体制の違いもあるようだ。 

 

■「神話」と現実は異なる

 「ファッションセンターしまむら」(以下「しまむら」として企業総体のしまむらと区別)のアパレル商品のフェイシング数量は『原則各1で中心サイズのみ各2』と業界ではまことしやかに囁かれるが、毎月のように「しまむら」の都内近郊店舗を見て回っていると必ずしもそうではないことが分かる。商圏人口が限られるローカルやエクサバン(農地や工場・物流施設も混じるサバブ外辺圏)の店舗では確かに「神話」通りだが、「都心店舗」(と言っても東京圏で言えば環七の外側の私鉄駅近接地)ではアパレルの中心サイズで4〜5、肌着やナイティでは6以上、パッケージ肌着では1ダースというケースも見られるから、『立地の販売速度と補給頻度で決まる』という定石通りと見るべきだろう。

 「しまむら」の店舗の大半はローカルやエクサバンの生活道路沿いに立地して商圏人口は2〜3万人ほどだが、少子高齢化と若年女性の大都市圏への流出で先行きが厳しいのが現実で、人口密度の高い大都市圏のサバブ(戸建て住宅地)やアーバン(集合住宅化する再開発期の住宅地)の私鉄駅近接立地への出店を進めている。そんな「都心店舗」ではローカル店舗の4〜5倍の客数が期待できるから、同じ補給頻度なら(全国10リージョナルのTCから毎日、ルート便が巡回するから当然に同じ)SKUフェイシング数量も4〜5倍が適切ということになる。

 そこまでのフェイシング数量ではないのは「都心店舗」としては賃料の安い物件を選択しているから客数も4〜5倍には届かないからだと推察されるが(しまむらの25年2月期の平均月坪店舗費※は4756円とコロナ前から大差ない)、「ユニクロ」のような「縦売り」を志向していないことも要因と思われる。

※縦売りと横売り・・・同一品を備蓄補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエテイを揃えて少量を蒔き切りで売り切っていくのが「横売り」。

※店舗費・・・・しまむらの店舗はほとんどが定期借地契約して地代を払って自ら建築するロードサイド店舗だから、賃料は安いが減価償却費の負担が大きく、賃料と減価償却費を合わせてテナントチェーンの水準と比較する必要がある。

 

■売れる速度と補給頻度・補給線、「横売り」と「縦売り」

 「しまむら」(110.9万円)と国内「ユニクロ」(314.2万円)では坪あたりの販売効率が3倍近く違うが、国内ユニクロの平均月坪店舗費は推計22300円としまむらの5倍近い。商品単価も倍以上違うから(「しまむら」は990円と開示しているが「ユニクロ」は非開示)、物理的な「売場」在庫の回転は1.3〜1.4倍ぐらいしか違わないはずで、フェイシング数量もそのぐらいの差が適正と思われるが、現実には5倍以上の差がある。

 坪あたり期末在庫は国内「ユニクロ」直営店の14.2万円に対してしまむら(連結)は8.24万円と1.72倍の差で、3.24倍という坪あたり販売効率の格差とは乖離がある。その背景は「縦売り型」(DCに補給在庫を抱える)と「横売り型」(TCで振り分けるだけで補給在庫は持たない)のロジスティクスの違いにある。

「店舗」在庫の回転だけ見れば国内「ユニクロ」直営店の6.73回に対してしまむら(連結)は7.61回と13%強速いだけだが、国内DCに積んだ補給在庫まで合わせると3.10回(ファーストリテイリング連結)に落ちる「ユニクロ」より2.45倍も速い。「しまむら」は店舗後方にもストックは持たず、リージョナルTCロジスティクスで倉庫にも一切、補給在庫を持たない「横売り」型で、欠品を厭わず売り切ることを優先するからフェイシング数量もミニマムに抑える。「ユニクロ」は売場、店舗後方、国内DC、生産地出荷倉庫(BSには計上されない)と4段ダム方式で在庫を補給する「縦売り」型で、売り切ることより欠品させないことを優先するから、「売場」在庫のフェイシング数量も厚く構える。

「ユニクロ」が多段階に在庫を抱えて継続補給するのに対し、「しまむら」は補給在庫を一切抱えず、薄く一蒔きした店舗在庫をリージョナル内でEOS自動振替して売り切っていくテザリング方式だ。それを支えるのが夜間に一巡する自前のルート便で、移動品は翌日の日中にTCで自動振替して翌晩のルート便で不足店舗に届く。自前建設の路面店舗ならではの夜間無人荷受け荷出し方式で、テナント店舗では無理がある。

全国区の宅配業者に依存するセントラルロジスティクスに比べれば物流のコストも所要時間も半分以下で済むはずで、物流コストを抑えるべく補給頻度を落とす必要もない。物流コストの高いセントラルロジスティクスでは補給頻度を週3便とかに抑えるケースがあるが、オーバーナイトの宅配日数に待ち日数が加わればタイムラグが3〜4日にも及び、欠品による機会損失はもちろん、データと実態が乖離して在庫管理の精度も怪しくなる。

補給線が短く補給が多頻度であるほどタイムラグが小さく、フェイシング数量を抑制できて在庫管理の精度も商品の鮮度も高くなる。それはスーパーマーケット業界で検証された公理であり、衣料品とて同様だ。

しまむらはリージョナルTCをハブとしたルート便体制があってこそ、欠品を回避しながら売場のフェイシング数量をミニマムに抑制できるわけで、取り寄せ試着やEC注文品の店舗在庫引き当て・店渡しなどにも効果を発揮するからOMOにも大きなアドバンテージが期待できる。

両社の違いは「売り切る」か「欠品させない」かという根本的なサプライマーケティング戦略の相違であり、どちらが幅広く顧客を捉え、継続的な顧客化を実現していけるか、商売哲学の選択と捉えるべきだが、ロジスティクス体制による物理的な補給頻度と補給線(距離と費用)、タイムラグの違いにも着目して欲しい。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

※テザリング・・・店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、ABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも多い。

 

■誰が決めればフェイシング数量の精度が高まるか

フェイシング数量の適正値は「売り切る」か「欠品させない」かというサプライマーケティング戦略に加え、補給の頻度と補給線(距離と費用)で相応に異なるが、それぞれのケースで「正解値」に近い数量を設定できるのは誰だろうか。

フェイシング数量の「正解」は結果的なものだ。「横売り」型では「売り切れた」ことをもって「正解」とするようだが、「買えなかった」顧客の失望と離反は全く見えていない。「縦売り」型では欠品の最小化を目指すが、POSでは売れた結果は見えても欠品は見えないから、同一アイテム内の品番、同一品番内のSKUによる消化偏差(中央値からの乖離)で評価するしかない。消化促進の店間移動は在庫集約によるSKUの補填、期中の追加生産は不足SKUの補充を目論むから、SKUによる消化偏差が擬似的な欠品評価になるのは頷ける。

戦場のロジスティクスでは欠品は即、戦線の崩壊に繋がるからユニクロのように戦線から多段階に物資を集積する「縦売り」が定石で、売り切り優先の「横売り」は斉射しては後退して補充するゲリラ戦法に相当する。「横売り」は戦線維持の犠牲(少なからぬ売れ残りや値引き)は回避できるが戦線を構築したり前進させることはできないから、戦術的には効率的でも戦略的な威力は限られ、顧客の継続的拡大による戦域(マーケット)の制圧は望めない。

そんな「縦売り」と「横売り」のロジスティクスの違いを前提とすれば、それぞれ誰がフェイシング数量や配分量を決めれば良いか見えて来る。

「縦売り」では多段階の補給在庫配置や生産との連携が必須だから、PLM的にサプライチェーン全体を鳥瞰できる本部のスペシャリスト(D.B.)がアルゴリズムやAIを活用したデータマイニングで指示・運用するのがベターだが、「横売り」では最前線の戦闘単位(戦場では分隊や小隊、リテイルでは小売店舗)がゲリラ的に動けるよう、店舗バイヤーが決定するのがベターと思われる。

SPA化したナショナルチェーンの多くは前者だが、初期配分と補充は本部D.B.ベースでも、補給在庫が切れて以降の在庫の消化(集約)運用はエリアマネージャーに権限が移行するチェーンも少なくない。補給終了後の消化運用まで本部D.B.ベースだと値引きが嵩んで収益力が低位にとどまりがちだが、エリアに運用を移管すれば値引きが抑制されて収益力が高くなる。24年3月27日に掲載した『イトーヨーカ堂とギャップがハマった現場弱体化の「落とし穴」とは』をご一読いただければ、その違いが理解できると思う。

発注権限が店舗バイヤーにあるのが世界最大・最高収益のインディテックス社(ZARAが主力)で、毎週のオンライン発注会(売上規模に対して過小な調達ロット※なので短時間で売り切れる)で各店舗の部門マネージャーに数入れ発注させている。カントリーマネージャーが発注状況をリアルタイムに監督してニコ動方式で店舗マネージャーの発注を制御しているが、フランチャイズシステムに発した成果報酬制のため、最終の決定権は店舗バイヤーにある。

買取型のフランチャイズシステムではフェイシング数量の設定と発注の権限はジー側にあり、AI仕掛けの自動発注システムやスーパーバイザーがサポートしても最終的な責任はジーにあるから真剣勝負で、発注精度は直営店より高くなる。食品スーパーを見ても、ナショナルチェーンよりリージョナルチェーンの方がフェイシング数量の精度は格段に高いから、現場に権限があるほど発注精度が高くなることは共通している。

「横売り」か「縦売り」か、ロジスティクス体制の違いに加え、本部と現場の権限分担も発注や在庫運用の精度を大きく左右している。チェーンストアは仕組みと戦略に加え、現場の力量を引き出すガバナンスが大きく業績を左右するビジネスだということを忘れてはなるまい。

 

※PLM(Product Lifecycle Management)・・・商品の企画・開発から生産・物流、流通・販売、二次流通までライフサイクル全体の流れを戦略的に管理・運用して品質とブランド価値、利益とキャッシュフローを最大化するマネジメントシステム。

※DB.(Distributor)・・・一般には在庫を所有して配送する卸業者(所有しない卸御者はBroker)を意味するが、チェーンストア運営では調達した商品を多数の店舗に最適配分・補給・移動する在庫運用責任者を指し、値入れの歩留まりをマーチャンダイザーやバイヤーと連帯して評価される。

※インディテックス(ZARA)の調達ロットはデザインもので1〜2万点、定番的な単品でも10万点に届かず、H&Mやユニクロより桁違いに少ない。

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