小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『実例に見る「危ない商業施設」の見分け方』
(2025年10月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 24年の新規SC開設数は38とコロナ前19年の46には遠く、開業より閉業や縮小が多くなって総SC数も3037と18年の3220をピークに6年連続して減少している。地域が衰退したり競争に負けて売上が減少し、空き区画が広がったり閉業に追い込まれるSCも増えているが、そんな敗退施設をSCや市街地再開発からニュータウンやレジャー施設まで消費者目線で詳しく実況案内してくれるのがYouTubeの「だいまつのどこでも探検隊」(https://www.youtube.com/@daimatsusan)だ。なかなか行くチャンスのない地方の施設もアクセスから館内状況までビデオ解説してくれるから、売上や販売効率の数字こそ出てこないが、小売の玄人にとっても少なからず参考になる。https://www.youtube.com/watch?v=W2iq6Bwf3Gg(イオンモール高松)

 私がこれまでテナント側で出退店を検討した500を超える商業施設とデベロッパー側で関わった50近い商業施設の知見に業界報道などの近況情報も加え、敗退に繋がる危ない商業施設のパターンを探ってみた。

 

■商業施設の近況とタイプ別の「成功率」

24年のSC総売上高はインバウンドも加わって32兆1254億円と前年から4.2%増え、コロナ前19年(31兆9694億円)もわずかに上回ったが、この間の8.46%というインフレ率を差し引いた実質は19年の92.65%に留まる。小売総額に占めるSC売上シェアは19.22%と前年から0.31ポイント上向いたが、ピークだったコロナ前18年の22.53%には遠く、この間に6.22%から9.78%にシェアを伸ばした物販系小売ECに流れたと推察される。

新設SCの平均店舗面積は17,751平米と前年から僅かに大きくなったが、平均テナント数は39.4と50〜60だったコロナ前からは一回り小ぶりになった。郊外の大型SC開発が停滞し、都心の再開発大型複合施設と郊外生活圏の足元型施設に二極化した結果と見られる。

 借地借家法が改正されて定期借家契約が広がり、大店立地法が施行されてSC開発が加速した00年からリーマンショック(08年9月)までの巨大SC開設ラッシュを思えば「SCエイジ」も終わった感が漂い、競争に敗れて空き区画が広がったり、行き詰まって廃墟化するSCも少なからず見受けられる昨今だ。

 

「SC」と「商業施設」を言い分ける場合もあるようだが、日本ショッピングセンター協会の定義(「核店舗を除くテナント小売業が10店以上かつ合計店舗面積が1000平米以上で広告宣伝や催事の共同活動が行われている」)には駅ビルやファッションビル、地下街はもちろん、テナントを導入した大型量販店や一部のパワーセンターまで含まれるから同義と言って差し支えなく、本稿では「商業施設」で統一したい。その中を立地や性格で「駅ビル」「ファッションビル」「アーバンモール(地下街や複合施設)」、「郊外駅前型SC」「郊外車型SC」「アウトレットモール」と分けている。

繊研新聞社が集計した、売上を開示していないイオン系などを除く売上上位150施設中(館売上170億円以上)、「駅ビル」が39、「ファッションビル」が15、「アーバンモール」が16、「郊外駅前型SC」が30、「郊外車型SC」が34、「アウトレットモール」が15(他にエアポートモール1)。売上上位200施設に広げると「駅ビル」が57、「ファッションビル」が25、「アーバンモール(地下街や複合施設)」が21、「郊外駅前型SC」が37、「郊外車型SC」が39、「アウトレットモール」が20を数える。

繁華街立地が半分程度を占めるが、国内で168の大型SCを営業するイオンモールなどイオン系が含まれていない(三井系、三菱系、住友系は含む)ことを考慮する必要がある。ちなみにSC協会の24年の集計では「中心地域」が442施設、「周辺地域」が2595施設だから、アパレル業界に偏った集計であることは否めない。

 200施設の販売効率(月坪当たり売上)を全て算出したが、「駅ビル」が突出して高く、「アーバンモール」「ファッションビル」が続き、だいぶ下がって「郊外駅前型SC」と「郊外車型SC」の格差も大きい。

「駅ビル」はターミナル駅の「ファッション軸広域型」と生活圏駅の「食品・飲食軸足元型」に分かれるが※、乗降客数に左右されるとは言え、後者も食品の販売効率が高いので両者の販売効率は意外に大差ない。「アウトレットモール」は大都市圏周辺のラグジュアリー集積型は「駅ビル」と競うほど販売効率が高いが、地方のNB(ナショナルブランド)集積型は「郊外駅前型SC」と大差ない。

立地と対比した販売効率から「成功率」を判定すれば、「駅ビル」が突出して高く継続性もあり、「郊外駅前型SC」が続き、「アーバンモール」「ファッションビル」は立地や構成による当たり外れが大きく安定性も欠く。「郊外駅前型SC」は足元狙いに徹すれば空振ることは稀だが、「郊外車型SC」は広域商圏を必要とするケースが多く、競合以前に車アクセスや地形的制約で成否が決まることが多い。

※JR東日本はターミナル駅はルミネ、生活圏駅はアトレと対応する運営会社を分けている。

 

■商業施設の成否を分ける基本要件

  商業施設の成否を分ける要件は第一に「立地と商圏」、第二に「構成とゾーニング」、第三に「運営」で、「立地と商圏」に恵まれても「構成とゾーニング」「運営」で失敗することはあっても、「立地と商圏」を外した施設を他の要件で成功させるのは不可能に近い。個別に仔細検証するならともかく、「危ない商業施設のパターン」とざっくり切り分けるなら、「立地と商圏」を基本に「構成とゾーニング」との噛み合わせを見極めれば良いだろう。

「構成とゾーニング」の基本は広域狙いか足元狙いかであり、広域を狙えば買い回りのアパレルや服飾の比率が高くなり、足元を狙えば最寄りの食品やドラッグ、生活用品の比率が高くなる。広域狙いと足元狙いの二重構造を仕組むことは可能だが、広域型の高感度テナントと足元型の生活感テナントのレヴェルを合わせるのが難しく、ゾーニングの割り切りや駐車場アクセスの区分けが必要になる。

 

「危ない商業施設」の第一に挙げるべきはマーケットが足りない施設

商圏の人口密度はアーバン➡︎サバーバン➡︎エクサバン➡︎ローカル※の順に希薄になり、一人当たり消費力もこの順に低くなるから、より広域な商圏が必要になる。競合も薄くなると思いがちだが、広域を奪い合う戦いは勝者総取りで他は干上がるからリスクは高く、足元密度が薄いと対策の打ちようもない。ローカルでは少子高齢化で人口が減少し若年女性の都市への流出も顕著だからアパレルは特に厳しく、アパレルを集積して商圏を広げるという往年の策も成り立たず、打つ手なく衰退していくケースが多い。

 人口密度の高いアーバンやサバーバンでも、商勢圏を確立した有力施設の狭間に新規開設する「落下傘」施設は商圏の確保が難しく、足元狙いに徹しない限り離陸することも叶わないから、アパレルテナントは苦戦が避けられない。狭間の狭小商圏に過大な規模で開設すれば販売効率が低位にとどまり、館もアパレルテナントも採算点に達することなく行き詰まる。かつてはイオンリテールなどで散見されたが、最近は適正規模で足元対応に徹して堅実に稼いでいる。

 

第二は地形や鉄道線路などで商圏の片側が分断されたりアクセスが阻害される施設

分かり易いのはローカルの海沿い立地で、商圏が片肺になってしまい、鉄道アクセスがないと商圏が限定されてしまう。イオンモール高松が典型だが、似たような立地の商業施設はどこも苦戦している。広大なキャンパスに分断されて商圏が片肺になり苦戦しているのがららぽーと柏の葉だが、ニュウマン高輪はJRの線路と操車場に阻まれて海岸側からのアクセスは不可能に近いから、足元商圏は高輪側だけの片肺になってしまう。

 海に近い「川の手」は複数の河川や運河に分断されてアクセスが厳しく商圏が限定されるのに加え、「山の手」側より所得水準も低いから、売上が低迷する施設が多い。2021年2月に閉業して解体されたイオンモール名古屋みなとは典型で、2018年9月に開業したららぽーと名古屋みなとアクルスも苦戦している。それはゆめタウン広島や広島T-SITEにも通ずるのではないか。

 

第三は商圏の東西南北や足元沿線と周辺沿線で客層や所得水準、ライフスタイルが大きく異なる施設

横浜市営地下鉄沿線の港北TOKYU SC(元港北東急百貨店SC)やモザイクモール港北は開業時は田園都市

線沿線まで含めて高所得商圏と勘違いして百貨店核SCとして開発されたが、足元の横浜市営地下鉄沿線の

所得水準は格段に低く百貨店が成り立たず、量販的な構成に入れ替えて延命している。阪神間の阪急沿線と

阪神沿線、東京都内でも小田急沿線と京王沿線など、近接していても異質な商圏であり、安易な円形商圏設

定はすれ違いを招き易い。

2008年に日産自動車村山工場跡地に開設されたイオンーモールむさし村山(開業当時はダイヤモンドシティ・ミュー)も円形商圏設定で中央線立川駅周辺まで商圏に設定したが、実情は所得水準の低い青梅街道商圏が大半で、核百貨店の三越が撤退して大衆的な構成に入れ替えざるを得なかった。

近年の事例では、2020年に開業したららぽーと愛知東郷が挙げられる。同SCは女性軸の若年ホワイトカラーファミリーが多く高密度な西側(名古屋側)と男性軸の壮年ブルーカラーファミリーが多く低密度な東側(豊田市側)で商圏の性格が大きく異なるが、当時のアウトドアブームもあって男性軸でやや東側に比重を置いた構成で開業したため、人口密度の高い西側の商圏を取りきれず売上が伸び悩んだ。2018年に開業したMARK IS福岡ももちはファミリー狙いの凡庸なSCとしてスタートしたが、足元商圏は極端に若い女性に偏っていたため構成とすれ違い※、苦戦を強いられた。

 

第四はアクセス設定に無理がある施設

商業施設へのアクセスは「自家用車」「公共交通機関」「自転車等」「徒歩」から成るが、立地に対して無理なバランスを設定したり、主力となるアクセスの誘導に無理があると期待通りに集客できなかったり、出入りに大渋滞を起こすことになる。

バランスは駅やバスターミナルからの距離、足元密度などで決まるが、生活圏立地なのに駐輪場が不足して整理に多額の労力を要したり(特に高密度な下町立地)、車でアクセスする立地なのに駐車台数が不足したりは想像がつくと思う。ノウハウが必要なのは数千台の車出入りを捌く導線設計であり、ららぽーと富士見のように入る導線と出る導線が交差すると収拾がつかなくなる(私有地内に信号機は付けられない)。コツは周回路を設定して入り口より出口を多くする導線設計で、多数のSCを開発してきたイオンモールに1日以上の長がある。

前述した広域狙いと足元狙いの二重構造を仕組む場合の導線設計はより複雑で、食品スーパーなど足元系へはバイパス可能なダイレクトパーキングの平面駐車場(ネット注文品の店受け取りや店出荷に不可欠)と多数の駐輪場を隣接させる一方、モールの各ゾーンに万遍なくアクセスできるようパーキングビルとの接続を設計するのは至難の業だ。

 

「危ない要件」はまだまだあるが、この辺で打ち止めておこう。このレポートを読んでから「だいまつのどこでも探検隊」を視聴すれば、見えてくるものが違ってくるのではないか。

 

※アーバンとサバーバンとエクサバン…都市圏郊外の新興住宅地域を指す「サバーバン(suburban)」に対して都市圏内の旧住宅地域を指すのが「アーバン(urban)」。前者の典型が住居専用の一戸建て住宅地であるのに対して後者は商業地域や工業地域が近接してマンションやアパートと一戸建てが混在する再開発期の住宅地で、東京でいえば環状6号線の外側で環状8号線のちょい外辺りまでだろうか。都市圏の拡大で田畑や工場、倉庫などが混在する周辺都市近郊まで広がった住宅地が「エクサバン(exurban)」で、東京圏で言えば外環道から国道16号線辺りだろうか。

※福岡市の男女比率・・・福岡市全体では男性より女性が11.6%多いが、博多湾沿いの中央区は24.4%も多く、30代までの若い女性の比率が高い。

 

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