小島健輔の最新論文

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『イトーヨーカ堂「ファウンドグッド」とファミマ「コンビニエンスウエア」
明暗を分けたのは』
(2025年08月22日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 イトーヨーカ堂はアダストリアが商品供給する「ファウンドグッド」が期待通りの成果を得られず、立ち上げから僅か2年で終了する一方、ファミリーマートの「コンビニエンスウエア」は立ち上げから4年で130億円を超え、今3〜7月は前年同期比160%超と絶好調に拡大している。食品スーパーとコンビニエンスストア、どちらも食品を主体とする業態に併設した衣料品という点が共通するが、明暗を分けた要因は何だったのだろうか。

 

■「ファウンドグッド」終了の事情

 「ファウンドグッド」は直営衣料品からの撤退を発表したイトーヨーカ堂が子育て世代(30〜40代)を取り込むべく、商品企画・調達から売場構築・販促までアダストリアに委託して、2024年2月のイトーヨーカ堂木場店などからスタートした注目のプロジェクトだったが、25年の秋冬商品を最後に26年2月で契約を終了する。イトーヨーカ堂の総合量販店に100坪から300坪まで64店に広がったが、期待した成果が得られず、継続を断念する結果となった。

 「ファウンドグッド」は子育て世代の多忙なライフスタイルに焦点を当て、「抜けて着回せる軽快で機能的な日常カジュアル」を追求したが、イトーヨーカ堂の主力顧客であるコンサバなシニア層とは噛み合わず、館の性格もあって子育て世代も期待ほど取り込めず、食品スーパーへの特化を進めるイトーヨーカ堂が見切りを付けた。「ファウンドグッド」の跡はテナントで対応すると見られるが、クロスプラスが商品供給するコンサバミセス対応のPB「ギャローリア」は継続される。

 顧客の高齢化が進んだイトーヨーカ堂衣料品に子育て世代を取り込もうという意欲的な挑戦ではあったが、イトーヨーカ堂の衣料品はシニア層に偏って久しく、イオン系などのライバル商業施設に競って子育て世代を取り込むのは限界があったことは否めないが、「ファウンドグッド」そのものにも課題があった。子育て世代対応の軽快で機能的なカジュアル商品はインパクトがあったとしても、量販店衣料の割高なサプライを革新したわけではなかったから、「しまむら」や「ユニクロ」「GU」などの強力な衣料品チェーンに対して「お値打ち」で勝てなかったと総括される。

 

■量販店衣料の割高な構図は変わらなかった

量販店衣料部門がロット調達するアパレル商品の納入掛け率は小売価格の48%前後だから、サプライヤーの生産原価は小売価格の38〜39%と推察されるが、セルフ販売で消化促進の編集陳列のスキルも欠くから値引きや残品のロスが大きく、値入れが52%前後もあっても粗利益率はせいぜい38%程度しか残らず、運営経費を差し引けば利益は僅かしか残らない。

対して「しまむら」が当用調達するアパレル商品の掛け率は小売価格の61%前後と高いから、サプライヤーの生産原価は小売価格の48〜49%と推察されるが、最小陳列在庫の蒔き切りで補給在庫を抱えない(リージョナルTC※だけでDCを持たない)から消化回転が速やかで値引きや残品のロスが限られ、値入れが39%程度しか無くても粗利益率は33%程度残り(寝具や下着なども含む「業態」としては25年2月期で34.1%)、9%強の営業利益を確保している。

小売価格は「しまむら」の方がワンライン下だが、両者の生産原価は大差なく、品質は同クラスというのが実態で、非効率な運営と消化歩留まりの低さで量販店の衣料品はワンライン割高になっている。それゆえ「しまむら」はもちろん、「ユニクロ」など低価格SPAに顧客を奪われて業績が長期に渡って落ち込んでいったが、「ファウンドグッド」はその構図を革新したわけではなかった。

業界の水準に多少、上乗せした程度の納入掛け率でないとイトーヨーカ堂としては採算が合わないから、「ファウンドグッド」もその構図は変わらなかったはずで、量販店アパレルや専門商社の役割をアダストリアが代替しただけというのが実態だったのではないか。軽快で機能的な日常カジュアルは新鮮さが在ったかもしれないが、生産原価率が嵩上げされたわけではなかったから品質感やお値打ち感は今ひとつで、多くの顧客の支持を得るには至らなかった。

ついでに言えば、アダストリアの売り場構築のVMDや販促支援も、編集陳列や店間移動しての集約消化、店舗間のテザリング※などの機動的な在庫運用や接客販売を欠いては売上と消化に繋がらなかったと総括される。それはイズミと取り組んだ「シュカ」とて同様ではないか。

※DCとTCとFC・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。

※テザリング・・・店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる。

 

■加速するファミマ「コンビニエンスウエア」

 ファミリーマートが20年6月から大阪でテスト展開して21年3月から全国の1万6200店舗に本格展開した「コンビニエンスウエア」は25年2月期で売上が130億円を超え、今3〜7月は前年同期比60%超増と加速している。ソックスは累計2400万足、タオルも累計1000万枚を超え、アパレルでもショートパンツは累計20万点を超えたというから、ファミリーマートの衣料品はカテゴリーとして定着しつつある。

 ファミマオンラインでも扱っているからラインナップを一覧してみると、25年2月期では男女の下着類が9型、靴下が8型、ハンカチ/タオル4型、リュック1型、アパレルはビッグTシャツ/Tシャツ、撥水パーカ/レインポンチョの4型に限られていた。婦人のソックス(一部4色展開)を除けば白黒がほとんどの1〜2色展開で、ファミマカラーのソックス(ベタとライン入り)が爽やかなアクセントになっている。ソックスや下着類は紳士向けと婦人向けに分かれているが(紳士向けはM/L/XL、婦人向けはM/Lのサイズ展開がある)、アウターのTシャツや(S/M/L/XL)やビッグTシャツ(フリーサイズ)、開口部なしのトランクス(M/L/XL)は男女を問わない。

 ソックス類は税込み(以下同)429円、ショーツやトランクスは880円、インナーのキャミソールやタンクトップ、Tシャツは1290円(男女同)、アウターTシャツが1490円、ビッグTシャツが1690円、レインポンチョが2190円、撥水パーカが一番高くて4390円という価格設定はユニクロと前後しており、『応急買いにしては高い』という見方と『こだわっている割に安い』という見方に分かれる。実際、SNSでの評価も二分されている。 

 25年4月以降、デニムのショートパンツ(2990円)やスウェットのショートパンツ(1998円)、綿ナイロンのショートパンツ(1998円)、豪州綿ポロシャツ(2990円)、紳士リブタンクトップ(1290円)、婦人リブタンクトップ(1290円)など、新たなアパレル商品が加わっているが、オンラインで扱っていない商品やラインナップから落とされた商品もあって品揃えは多少、変化しているようだ。

 

■「ちょっとこだわったライフスタイルウエア」

 『応急買いにしては高い』という見方と『こだわっている割に安い』という見方に分かれるとしたが、ここがファミマ「コンビニエンスウエア」の肝だと思われる。品質ギリギリの低価格で「応急買い」に応えるのではなく、『最寄りのファミマで買うちょっとこだわったワンマイル・ライフスタイルウエア』を提案して新たな購買(来店)慣習を広げようとしている。無印良品が生活圏のスーパーマーケットの隣で、エシカルにこだわったライフスタイルウエアを提案しているのと通じるものがあるのではないか。

 「愛着が持てるワンマイル・ライフスタイルウエア」(筆者の勝手表現)を実現すべく、クリエイティブディレクターにアパレルブランド「FACETASM(ファセッタズム)」のデザイナー、落合宏理氏を起用して「いい素材、いい技術、いいデザイン。」をコンセプトにこだわりを具現化したというから、なるほどと思わせる出来に仕上がっている。麻布台ヒルズのファミマではこだわり過ぎて高価になったアウターに腰が引けたが、市井のファミマで展開されている「コンビニエンスウエア」には共感できる。

急加速しているとは言っても、食品に比べれば販売効率が低い。25年2月期では一店あたり年間80万円強、日販2200円ほどだから、ラック2.5台(1.25坪ほどか)の展開にしては販売効率が低いが、60%増のペースが3年も続けば店舗平均の販売効率に追いつけそうだ。

 販売効率はまだ低くても、「コンビニで衣料品や服飾雑貨を買う」という購買慣習が広がり、今までファミリーマートに来ていなかった若い世代も増えているから、新たな商品ラインナップも広がって「応急買いの便利店」から「近隣型の日常ライフスタイルストア」へと変貌していく突破口となるのではないか。それだけでもファミマ「コンビニエンスウエア」は戦略的に成功したと評価すべきだろう。

 

■購買慣習を創造出来たか否か

 ファミマ「コンビニエンスウエア」とイトーヨーカ堂「ファウンドグッド」の明暗は、サプライ革新による「お値打ち」の創造と新たな「購買慣習」の創造の有無が分けたのではないか。

 ファミマ「コンビニエンスウエア」は「こだわりのワンマイル・ライフスタイルウエア」という明確な開発意図を持って落合宏理氏を起用し、伊藤忠商事がVMI※型のサプライを仕組んだコンセプチュアルなSPAであり、企画・開発とサプライの革新による新しい「お値打ち」の創造があった。対してイトーヨーカ堂「ファウンドグッド」は「子育て世代を取り込む機能的な日常カジュアル」という開発意図は明確だったものの、アダストリアが量販アパレルや専門商社に交代しただけでサプライの革新を欠き、新たな「お値打ち」を創造するに至らなかった。

 ファミマ「コンビニエンスウエア」が「コンビニで衣料品や服飾雑貨を買う」という新たな購買慣習を切り開いたのに対し、イトーヨーカ堂「ファウンドグッド」は「量販店で衣料品を買う」という半世紀以上も前からの購買慣習の復活を試みたに過ぎず、子育て世代を突き動かす革新性を欠いていた。旧態化した購買慣習は顧客を動かすインパクトを欠くが、新鮮な購買慣習の提案は顧客を動かすインパクトがある。そう言い切るのは単純に過ぎるかも知れないが、商売の真理ではなかろうか。

 

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

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