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WWD 小島健輔リポート
『店間移動を突き詰めればリージョナル経営に行き着く』
(2025年07月29日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 在庫運用で課題となるのが「店間移動」だが、広義にとらえればテザリングであり、MDの組み方や補給方法、ロジスティクス体制や運用権限の組織分担などで手法も手順も大きく異なる。さまざまなケース毎に最適な手法を選択する必要があるが、突き詰めればリージョナル経営に行き着くのではないか。

 

店間移動には2つのケースがある

 

 アパレルチェーンで「店間移動」と言われるものには2つのケースがあり、目的も手法も次元が異なる。1つは「欠品回避を目的とした店間移動」、もう1つは「消化促進を目的とした店間移動」だが、どちらもテザリング※1.の一環と捉えられる。

 

日常的に行われるのが「欠品回避を目的とした店間移動」で、自社DC※2.やベンダーからの補給が切れた後(蒔き切り商品では投入直後から)、販売によって店舗のSKU在庫が「最小陳列数量」を割り込めば自動発動され、通常は一点単位に移動されるから「客注対応」と同様な手順になる。低単価の雑貨や下着・靴下などは相対的に移動コスト負担が大きいから、DCやベンダーからの補給と同様、「半ダース」などバンドル単位に移動するルールになっているケースもある。

 

「欠品回避を目的とした店間移動」では補給と同様、「最小陳列数量」の設定と「データラグ」「物流ラグ」の見極めが要となる。「最小陳列数量」は補充商品が到着するまで欠品しないよう設定するから、販売消化ペースが速く「データラグ」「物流ラグ」が大きいほど積み上げる必要があり、補充や移動を自動発動する「最小陳列数量」が多くなって在庫回転が落ちてしまう。

 

在庫効率からはラグを短縮して高頻度に補充・移動し「最小陳列数量」を最小化するのが理想だが、物流費を抑制しようとすれば移動頻度を抑制して「最小陳列数量」を積むという選択もある。どちらの場合も「データラグ」「物流ラグ」は短いほど「最小陳列数量」を抑制して在庫効率を高めることができる。

 

「データラグ」はトランザクション頻度を上げれば短縮できるしリアルタイム化すれば解消されるが、「物流ラグ」はロジスティクスの仕組みを変えないと短縮が難しい。「データラグ」が数分〜数時間で収まるのに対し、「物流ラグ」は数日という単位になり、物流システムに拘束されるからだ。

 

販売消化に店舗や地域による偏りが生じたり、売り切り段階で色・サイズの欠落が目立って来たときに行われるのが「消化促進を目的とした店間移動」だ。特定の品番に限定して行うならともかくテイストやアイテムをまとめて大規模に移動するなら、店舗毎の特性や在庫バランス、在庫枠やタイミングを総合的に勘案しなければならないから、AIやアルゴリズムに原案を算出させるにしても、現場に通じた営業センスのある人材が仕組んで決裁する必要がある。

 

蒔き切りで補給のない「横売り」商品は色・サイズの欠けた残品の「澱(おり)」が蓄積してくるから、類似アイテムを集めて色欠けのトップスは色別に、サイズ欠けのボトムはサイズ別に編集して売り切っていくが、店舗によって売れ方が偏る場合は複数品番をまとめて店間移動することがある。補給が切れて色・サイズの棚が欠けてきた「縦売り」商品は目に見えて売れ行きが鈍るから、販売力のある店舗に集約して色・サイズをそろえて売り切っていくのが定石だ。

 

※1.テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きい靴チェーンや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる

 

※2.DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とFC(Fulfillment Center)…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FCは通販の出荷用DC

 

セントラルかリージョナルかという選択

 

店間移動は的確に行えば販売消化が進むが、移動に伴う物流費や「物流ラグ」、ピッキングや補充陳列のマテハン人時量に見合うかどうかは検証する必要がある。 

 

通常の配送でも店間移動でも、一点〜数点とバンドル単位、パッキン単位という物流ロット、エリア内やリージョナル内と他のリージョナルという物流距離や載せ替えを要するリージョナルまたぎでコストは何倍も違ってくる。欠品補充のピッキングも補充陳列も定時の品出しと同時化してマテハン作業と物流ロットをまとめ、シーズン末の季節商品移動を除いて原則、エリア内やリージョナル内の移動にとどめるなら、物流費も「物流ラグ」もマテハン人時量も格段に圧縮できるのではないか。

 

初期投入や補給もECの宅配も同様だが、セントラル・ロジスティクスかリージョナル・ロジスティクスかという根源的な選択が最初に問われる。

 

今日の宅配便物流はヤマトも佐川もフェデックス流のハブ&スポーク方式で、エリアの集配所→リージョナル組み替え基地→リージョナル間夜間移送→リージョナル組み替え基地→エリアの集配所というプロセスを辿るから、4回の載せ替えとオーバーナイトを要する高コストで時間がかかるフルサービスキャリアという性格を否めない。全国を中央の出荷倉庫からカバーするセントラル・ロジスティクスは必然的にハブ&スポークの宅配便に依存するから、遠隔の店舗や顧客に向けてはコストも時間も嵩む。関東のDCやFCから北海道や九州に出荷すれば、足元リージョナル内移動の倍以上の料金と時間を要するのは自明だろう。

 

対してリージョナル・ロジスティクスは複数方向のエリアを放射状にカバーするリージョナル倉庫(TCやDC)からルート便で配送と店間移動を行うもので、載せ替え無しで同日中に届き、店間移動商品もピックアップの翌々日朝には移動先店舗に届いている。ルート便体制が無くても、エリア内やリージョナル内に移動を限定してローカルの配送業者に委託すれば、物流費用も時間も確実に圧縮できる。

 

リージョナル・ロジスティクスのデメリットは在庫の分散だが、しまむらのように生産地の出荷基地で仕分け済みのバンドルやオリコンをリージョナルTCで自動仕分けして店舗へ配送するなら分散保管することがなく、デメリットは回避される。

 

店間移動でも、ルート便で回収した移動商品をTCで自動仕分けしてルート便で仕向け店舗に届けるなら、TCでは棚入れも在庫保管もピッキングも発生せず、極めてローコストに運用できる。

 

リージョナル・ロジスティクスは衣料品ではしまむらのような全国に千店超を展開するナショナルチェーンに限られるが(ワークマンは部分的にリージョナルへ切り替え始めた段階)、鮮度が競われる地産地消の生鮮食品や日配食品、惣菜や弁当では定着した方式であり、衣料品業界の「鮮度感覚」や物流コスト感覚は相当にズレていると言わざるを得ない。衣料品でもEC比率が高まって店舗在庫引き当ての店渡しや店出荷が定着する段階になれば、必然的にリージョナル・ロジスティクスに移行していくのではないか。

 

どちらを選択するかは店舗網の布陣状況や商品単価、MDの組み方や組織運用によるが、物流コストと「物流ラグ」の差は決定的に大きいから、事業規模の拡大とともにリージョナル・ロジスティクスに移行していくのが必然と思われる。

 

かつてレナウンは支店倉庫軸のリージョナル・ロジスティクスから400億円を投じて千葉県の習志野に新設した巨大自動化倉庫軸のセントラル・ロジスティクスに転換したが(1992年)、その巨大倉庫の高コストな運営を目にして、この会社は破綻すると直感したことが思い出される。実際、物流コストも「物流ラグ」も肥大してコスト倒れになり、2013年には倉庫運営の連結子会社を解散して19億円の債権を放棄している。

 

店間移動の組織分担はどうあるべきか

 

店間移動に限らず、在庫運用を誰が起案して指示を出すかも消化と粗利益確保を大きく左右する。アパレルチェーンのほとんどは本部のマーチャンダイザーやディストリビュータがコンピュータの支援で配分と補給(ほぼ自動化)を統括し、店間移動も欠品回避の自動振替はコンピュータに任せるが、消化促進の店間移動はエリアマネージャーやスーパーバイザーと調整して行うことが多い。

 

ギャップなどグローバル調達の開発型SPAは本部ディストリビュータの権限が強く、エリアやリージョナルの運用権限は限られるが、セレクト仕入れや企画仕入れ(ODM)の比率が高いナショナルチェーンやリージョナルチェーンは、補給が切れた商品の運用をKPI(業績評価指標)を定めてエリアに移管するのが通例のようだ。

 

グローバルチェーンでも「ザラ」のインディテックスは25年1月期でもフランチャイズが店舗数の20%強、売り上げの15%を占め、各店発注の各店責任消化が基本で蒔き切りの補給なし(同社は巨大セントラルTCだけで世界のどこにも補給在庫を積むDCもFCも持たない)だから、客注や期末の救済的なケースを除けば店間移動は例外と思われる。

 

補給が切れた商品はエリアやリージョナル内で自動振替して欠品を回避し、色・サイズが欠けてきた品番は店舗内の編集消化を経て売り切り店舗に集約するのが定石的な手順だが、どの段階でどの程度、エリアやリージョナルの現場(マネージャーやスーパーバイザー)に運用権限を移管するのか、企業によって大きく異なる。

 

どちらが消化が円滑に進んで粗利益の歩留まりが高いかというと、私の知る限りエリアやリージョナルに運用を移管する方が圧倒的に凌駕している。シーズンの最終段階まで本部がアルゴリズムやAIに依存して在庫運用すると売価変更で消化を図るケースが多くなり、どうしても値引きロスがかさんでしまう。売り場の品ぞろえバランスや地域店舗の特性をつかんだ現場のマネージャーやスーパーバイザーがきめ細かい編集運用や店間移動と売価変更を組み合わせて消化を進めるのに比べれば、相当の格差が生ずるのは必然と思われる。

 

とは言っても、シーズン末のリージョナル間在庫移動や政策的な在庫調整は本部主導で遂行するしかないから、最後は本部統括に戻ることになる。どの段階まで本部が統括し、どの段階から現場に運用を移管し、どの段階で本部が集約するか、その企業に最適なリレー手順を確立するべきだが、外してはいけない前提がある。それは「経営単位」の戦略的な設定だ。

 

「経営単位」を店舗ではなくエリアにしないとテザリングもスタッフの店間シフトも円滑に運用できないし、EC注文品の店在庫引き当てや店渡し、店出荷というOMOロジスティクス、それをベースとしたOMOマーケティングによる店舗網の最適再配置となれば、リージョナルが「経営単位」とならざるを得ない。新幹線網の発達で過去のものとなった「支店経営」が、テザリングを軸としたリージョナル・ロジスティクスとOMOの必要性で再評価されつつある。「店間移動」やOMOを突き詰めればセントラル・ロジスティクスへの疑問は否めず、リージョナル・ロジスティクスとリージョナル経営に目覚めざるを得ないのではないか。

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