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WWD 小島健輔リポート
『古着商売に学ぶ「絞る勇気」と「捨てる勇気」』
(2025年07月23日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 古着やオフプライスの二次流通ビジネスを垣間見ると、リアルな「ブランド価値」を痛感させられたり、極端に絞ったり捨てたりといった「商いの勘所」を学ぶことが少なくない。プロパー(一次流通)のビジネスにも通ずる「価値の見極め」と「商いの勘所」を探ってみよう。

 

新品より古着の方がインフレしている

 

 財務省の貿易統計によれば、24年の古着輸入量は9739トンと前年から2.1%増加し、コロナ前19年を47.2%も上回ったが、ピークだった23年の10463トンに対しては93.1%と及ばなかった。輸入金額は128億5700万円と前年から6.7%増加し、kg単価は1320円と同4.6%上昇した。25年1〜5月は輸入量が前年同期から7.6%減少しているが、輸入金額は逆に4.1%増加しており、kg単価は為替が前年より2.7%円高に振れたにもかかわらず1475.5円と12.7%も上昇している。19年と比較すれば、24年のkg単価は62.0%、25年1〜5月のkg単価は78.1%も上昇しているではないか。

 

 ちなみに日本からの古着輸出は24年で21万3300トンと古着輸入の21.9倍に及ぶが、実質的な廃棄処分やウエス材料で、kg単価は73.7円と輸入単価に比べれば極端に低い。kg40〜50円で推移していた過去20年間から見れば上昇しているが、円安によるところが大きい。

 

 一方で、24年の新品輸入数量(付属品を除く)は33億5290万点と前年から0.5%、19年からは11.0%減少したが、輸入単価は920.3円と前年から4.4%、19年からは26.9%上昇した。25年1〜5月も前年から数量は7.9%、金額は7.8%上昇したが、輸入単価は827.4円と前年同期から横ばいだった。

 

 新品衣料の輸入単価は19年から24年で26.9%上昇しても、25年1〜5月は前年から全く上昇していないのに、古着の輸入単価は19年から24年で62.0%も上昇し、25年1〜5月も前年から12.7%も上昇と新品との格差が大きい。いったいこれは何を意味するのだろうか。

 

ブランド品だけの「分別輸入」が広がった

 

 古着もオフプライス品も同様だが調達段階の仕分けが肝で、価値のあるブランド品に絞って、価値のない(経費に合わない)商品を流通に乗せない(在庫にしない)と割り切れるかどうかで収益力が決まる。

 

 古着のベールを開けて仕分けると、お宝(ビンテージなブランド品)が1点でも出てくれば、それだけで元がとれると言われるが、今時は滅多にお目にかかれないと聞く。現実の商売で確実な売り上げになるのが名の知れたナショナルブランド品※1.で、集散地のサプライヤーにブランドやアイテムを指定すれば相応の確率で集めることができる。問題は無名ブランド品やファストブランド品、低価格PB(プライベートブランド)品やダメージ品で、どう指定しても多少は混じってくる。これらは均一価格で叩き売っても一定量が残って在庫の「澱(おり)」になってしまう「B品」だ。

 

 お宝はネットに上げれば時を待たず売れるし、ナショナルブランド品もネットや店舗でブランド別に訴求すれば確実にさばけていくが、「B品」は低価格で売れば販売コスト(賃料、マテハン人件費、物流費・倉庫費、判定・ささげ人件費など)に見合わず、一定量が売れ残って在庫の「澱」となって積み上がり、在庫枠を圧迫して品ぞろえの「鮮度」(古着でも意外に重要)を損なう困りものになっていく。

 

子供服など人気のブランド品以外はワンコイン以下の均一価格で叩き売るしかないが、販売コストに合わず、価格の通るブランド品に絞り込まないと利益が残らない。大人の服でも1000円未満の均一価格でしか売れない「B品」は無人店舗などで売らないと採算が採れないが、それでも「澱」になって沈殿してしまえばコスト倒れになってしまう。

 

 これを回避するには「B品」を無理に売ろうとせず、溜まってきたら躊躇せず、福祉施設などに無償譲渡したり、捨て値で海外輸出に回したりすべきだが、初めから流通に乗せないのがベストだ。C2B2C(消費者買取販売)なら買い取れるブランドを限定して平均単価を一定ライン以上に保つべきだし、アジアの古着集散地から調達するならサプライヤーにブランドとビンテージを厳密に指定してブランド品だけを国内に持ち込むべきだ。新品を大きく上回る古着の輸入単価上昇は、古着集散地における事前仕分けで「B品」を排除してブランド品だけを輸入する「分別輸入」が広がったことが主要因と思われる。

 

※1.ナショナルブランド…古着では「ポロ・ラルフローレン」「トミー・ヒルフィガー」「ヴァンズ」「チャンピオン」「リーバイス」「ザ・ノース・フェイス」「ナイキ」など、米国発でグローバルブランド化したナショナルブランドの人気が高い

 

 

「絞る勇気」と「捨てる勇気」

 

 

 コロナ下では人出の減少で空き店舗・空き区画が広がって賃料が落ち込んだこともあり、古着店が急増した。コロナが明けて店舗回帰が進むにつれて賃料水準が回復し、潮が退くように古着店は減っていったが、まともな賃料を払っても店舗を増やしている古着チェーンもある。賃料水準も最低保証売上水準も高い駅ビルに出店できている古着店はブランド品だけで品ぞろえして「B品」の澱がなく、分別輸入に徹して採算性が高いことが分かる。

 

 C2B2C子供服古着店の某社は人気ブランド品に絞って(ホームページにリストを表示)買い取っているが、買取を求めて送られたり持ち込まれる古着の中には相当数の対象外商品が混入している。それらを激安均一価格で販売しても採算が取れないから、傷んでいないものは定期的に福祉施設などに無償譲渡し、傷んだものは廃棄処分して在庫から外し、品ぞろえの鮮度を保っている。子供服は人気ブランド品と「B品」の価格差が極端で汚れや傷みも大人服より激しく、「B品」は激安均一価格で販売して採算割れするより無償譲渡したり廃棄する方が賢明なのだ。

 

 古着チェーンの在庫回転は澱になった「B品」を排除しないと年間1〜2回転にとどまるが、澱になった「B品」を適時に排除して新規のブランド品を投入すれば鮮度が回復して回転が速まるし、分別輸入して元から人気ブランド品だけに絞れば輸入古着店の壁を越える在庫回転が期待できる。

 

 古着はデッドストックを除けば一点物の「横売り」だが、新品販売でも蒔き切りの「横売り」では売れ残りの澱が溜まれば品ぞろえの鮮度が低下し、売り上げが鈍って在庫回転が目に見えて低下していく。悪循環を断ち切るには澱を取り去って在庫枠を空け、鮮度の高い新商品を投入する必要があるが、それには売価変更と在庫集約による売り切りや倉庫引き上げで澱を取り去らねばならない。

 

 粗利益予算に縛られて売価変更や倉庫引き上げの決断が遅れれば澱が積み上がって鮮度が落ち込み、より大きな損失を招いてしまう。売れ残って澱になる「B品」を元から排除する「絞る勇気」、澱になってしまった「B品」を「捨てる勇気」が問われるのではないか。

 

「賞味期限」「消費期限」と処分価格

 

 「捨てる勇気」と言っても損失は最小限に抑えたいが、処分価格・放出価格は時間と共に落ちていく。一般にアパレルの「賞味期限」(感覚的な価値)はファストな「横売り」商品なら当シーズン中、ベーシックな「縦売り」商品でも翌シーズンまでで、翌々シーズンになれば「消費期限」(物性的な価値)も怪しくなってくる。

 

 売価変更も当シーズン中なら2〜3割引、期末でも4割引止まりだろうが、翌シーズンに持ち越して仕舞えば4〜5割引は必定で、翌々シーズンまで持ち越せばアウトレットで6〜7割引しても売れなくなる。二次流通業者の買取価格はもっとシビアで、シーズン前の色・サイズがそろった未引取り品こそ生産原価から多少のディスカウントで引き取ってもらえるが、シーズン末のバラ残品(色・サイズ欠け)になれば原価の半額にも届かず、翌シーズンに持ち越せばその半額、翌々シーズンまで持ち越して物性的な価値も怪しくなればkg幾らになってしまう。ハイブランドのインベスティメント商品※2.ならもう少しマシかもしれないが、処分は早いほど損失が少なく、キャッシュにして新商品の調達に回せば新たな利益が稼げる。

 

 鮮度が落ちて澱になった商品は売り上げにつながらないだけでなく、品ぞろえの魅力を削ぎ、在庫回転を停滞させてしまう。粗利益予算という枠はあるだろうが、早々に澱を処分して売り上げにつながる新鮮在庫に入れ替えないと、売り上げの絶対額が停滞して粗利益額も落ち込み、損益分岐点を割り込んでしまう。最低保証売上を割り込めば最低保証家賃が固定費となって損失が膨れ上がるから、値引きロスが多少はかさんでも売り上げの絶対額を確保する方が経営的には優先されるべきだろう。

 

 古着でも鮮度が売上を左右するのだから新品衣料なら尚更で、決断は早いほど傷が浅いから、「捨てる勇気」が問われよう。

 

※2.インベスティメント商品…生産仕様の完成度が高く、長年の愛着使用に耐える堅牢性もある高質な定番商品

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