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WWDJAPAN 小島健輔リポート
『「しまむら」の都心再進出に勝算はあるのか』
(2025年01月09日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 2024年2月期の過去最高業績と賃上げによる消費の回復を受け、しまむらが新たな成長を志向して「都心店」に再挑戦しているが、都内の新店舗を見る限り、前回の失敗から学んだようには見えない。果たして、しまむらの都心再進出に勝算はあるのだろうか。

 

どこが「都心型」なのか?

 

 今期に入っての「ファッションセンターしまむら」(以下「しまむら」)の都内への出店は24年5月23日開店の下高井戸店と同9月19日開店の西友成増店だが、10年10月開店のホームズ仙川店も新店と同タイプに改装されているから一連の「都心型」店舗に加えても良いだろう。この3店舗を実査したのは師走の12月下旬で、商店街の裏立地という下高井戸店こそ閑散としていたが(立地選定のミスだと思う)、3月に「ジーユー」が開店して客数が増えたホームズ仙川店も駅直結の西友成増店も結構、にぎわっていた。

3店に共通した第一印象が「照明環境が野暮い」で、いまどきのファッション店舗には珍しい蛍光灯型LEDの面照明※1.でスポットも限られ、カラーメーターで測った色温度※2.は4000kもあった。最新の西友成増店こそ4000kをわずかに切っていたが、他2店はやや超えていた。ちなみにホームズ仙川店の「ジーユー」は「ユニクロ」と同様な点照明(ダウンライト型LEDとHIDスポット)で3400k、家電のノジマは面照明で5000kだった。

衣料品の店舗照明は高額品ほど立体感や演色性に優れる点照明のカクテル配光で色温度も2700〜3000kと低く、低額品ほど平均性と照明効率に優れる(立体感や演色性は劣るが)面照明の均等配置で色温度も3400〜4000kと高くなる。重点照明(HID/高輝度スポット)を多用すればさらに立体感や演色性が高まるが設備投資もかさむから、低額品店では限定される。セレクトショップでも高額な基幹業態は2700〜3000kでも、お手頃なディフュージョン業態は3400〜4000kと使い分けられている。

4000kの面照明でスポットも限定されるとコントラストを欠くのっぺりとした印象になり、緩い空気感になってテンションが上がらず商品の見栄えもしょぼくなるから、今時のファッション店では低価格店でも滅多に見られない。内装も90cmピッチの安っぽいアタッチメント型システム什器も郊外型と変わらず、「都心型」とうたうには無理があるというのが第一印象だった。

 部門構成も寝具まである郊外型と差がなく、売場の編成も部門(婦人衣料、肌着、紳士衣料、ベビー・子供服、洋品小物、靴、寝装具)→カテゴリー→アイテムと郊外型と同様。VMD手法も連結ラック内の品番→色→サイズのハンガーSO(スリーブアウト)トコロテン陳列一辺倒で棚陳列(フォールデット)は見られず、郊外店とまったく同じ。コーナーエンドに配置するトルソーの数もタイプも郊外店と同様で、「都心型」という印象は皆無だった。

 唯一、「都心型?」という印象があったのがSKU別フェイシング量だ。もう師走とて冬物は色・サイズが欠けて圧縮陳列になっていたから、初春物の新規投入品で数えてみた。婦人衣料では通常、S1/M2/L2/LL2、やや高効率な店舗でもS2/M3/L4/LL3ぐらいなのに、西友成増店の婦人ブラウスではLで最大6点のフェイシング量が見られた。

「都心型」とは限らないのだろうが、防寒肌着のパッケージ商品ではフックバー一本毎に1SKU12点という台帳陳列になっていたから、継続販売する定番品は「ユニクロ」と変わらない。ならば、カジュアル衣料の定番品でも「ユニクロ」流の台帳陳列にして「縦売り」しても無理はないのではないか。春物がそろう時期に、改めてアイテム別のフェイシング量とVMDを検証してみたい。

 

※1.面照明…店舗の照明には基本照明と重点照明があり、後者ではHID(高輝度ランプ)などスポット照明が使われるが、前者ではダウンライト型の点照明と蛍光灯型の面照明がある。点照明は立体感や演色性が秀でる反面で平均性が弱く、面照明は平均性が高く柔らかい印象の反面で立体感や演色性が劣る

 

※2.色温度…光源の色を定義する単位でk(ケルビン)が使われる。赤みかがった温かい光源ほど色温度が低く、青みかがった冷たい光源ほど色温度が高い。衣料品の店舗照明では高額品ほど低く3000k前後、低額品ほど高く4000k前後となるのが一般的だが、ビジネスウエアも4000k前後と高く、スポーツウエアでは5000kが使われることもある。ちなみに食品スーパーでは鮮魚(5000k)、野菜・果物(4000k)、ベーカリー・惣菜(3500k)、精肉(3000k)と使い分けられる

 

「郊外型」と「都心型」、客数と損益はどう違う

 

 「しまむら」で言う「都心型」とは、今のところ都内でも環七の外側のアーバン※3.住宅地の私鉄駅前・駅近立地を指すようで、山手線のターミナル駅やJR・私鉄の郊外ターミナル駅の駅上・駅前・駅近立地とは客数も賃料も一ケタ違う。

「しまむら」の「郊外型」はサバーバン(郊外住宅地)と言うよりローカルに近いエクサバン※3.(郊外周辺域)の生活道路沿い立地で、平均的な商圏人口は2万5000人と言われ、過疎化が進むローカル立地の「しまむら」はさらに客数が限られる。そんな「しまむら」にとってアーバン住宅地の私鉄駅前・駅近立地は人口密度がケタ違いに高く、商圏人口は少なくともエクサバン店の4倍の10万人前後が望める。

京王線各停駅の駅近で商店街の裏立地という下高井戸店は誤算だったかもしれないが、東武東上線の成増駅は池袋から二つ目の急行停車駅で、西友成増店は改札口のデッキと3階で直結するし、京王線の仙川駅は急行こそ停まらないが区間急行と快速は停まるから各停駅ではなく、駅前からホームズ仙川店までの400m弱は小洒落たオープンモール商店街になっていて歩くのが全く苦にならない。西友成増店は私鉄駅直結のCSC(コミュニティセンター/地域圏SC)、ホームズ仙川店は私鉄駅近の商店街エンドに位置するホームセンター核パワーセンターだから、どちらも10万人以上の実勢商圏が望める。

人口密度が高い分、競合も激しくなるから単純に比較はできないが、平均して月坪9万円弱程度の「しまむら」の販売効率が倍の18万円前後になると期待しても良いだろう。販売効率が倍になっても賃料はエクサバン立地店舗の倍(自前建設店舗が多く比較は困難だがテナント賃料換算して対比)では収まらないから、売上対比の賃料負担率がかさむのは避けられない。販売効率が高まる分、マテハンなど店舗運営の人時量も増加し、パート社員さんの時給もエクサバン店舗より11〜13%程度高くなるから(しまむら公式採用サイトから計算)、販売効率の高さがカバーするにしても損益的には「都心型」のメリットは見えて来ない。

中途半端なアーバン立地ではなく「ユニクロ」みたいにターミナルの一等地に出れば、販売効率は多少は高まるだろうが(後述)賃料はそれ以上に高くなるから、損益的にはさらに苦しくなる。国内「ユニクロ」の販売効率は平均で月坪26万円強、郊外大型SC店舗はほぼその水準だが、郊外ロードサイド店舗はその6〜7掛け前後、都心のターミナル店舗は平均の3〜4倍程度と推察される。郊外大型SCの売上対比賃料負担率は8%弱と推計されるが、都心ターミナル店舗の賃料は3〜4倍では済まないから10%を超えているだろう。それでも売上規模と販売効率は圧倒的だから、営業利益の絶対額は突出していると思われる。

「ユニクロ」は「縦売り」するコンセプチュアルな開発型SPAだから立地の商圏規模に比例して客数も売上高も伸ばせるが、「横売り」する特色のない仕入れ型衣料スーパーの「しまむら」は立地の商圏規模が大きくなっても客数も売り上げも比例して伸びるわけではない。商圏規模が大きい立地ほど競争に埋没して占拠率が加速度的に落ちるから、販売効率より賃料の上昇が著しく、商圏規模の大きい立地ほど損益は苦しくなる。

広域大型SCやターミナルなど客数も多いが競争も激しい立地で賃料負担以上に売上高を伸ばすには「大多数に選ばれるブランド」であることが必須で、無名のサプライヤー商品を最寄り的に品ぞろえする「しまむら」のままでは売り上げが伸びず損益的なメリットが見出せない。それでも「しまむら」が「都心型」を志向する背景は何なのだろうか。

 

※3.サバーバンとアーバンとエクサバン…都市圏郊外の新興住宅地域を指す「サバーバン(suburban)」に対して都市圏内の旧住宅地域を指すのが「アーバン(urban)」で、前者の典型が住居専用の一戸建て住宅地であるのに対して後者は商業地域や工業地域が近接してマンションやアパートと一戸建てが混在する再開発期の住宅地。都市圏の拡大で田畑や工場、倉庫などが混在する周辺都市近郊まで広がった住宅地が「エクサバン(exurban)」

 

「しまむら」はなぜ、「都心」を目指すのか

 

 「しまむら」は24年12月末段階で全47都道府県に1417店を展開しているが、人口10万人あたり店舗密度は過疎のローカル県では2店舗を超えていても大都市圏では1店舗に届かず、東京都は0.5店にも届いていない。しかも過疎のローカル圏ほど人口減少が著しいから、店舗がローカルに偏在したままでは既存店売上高もいずれ減少に転じてしまう。

 24年の春夏期(3〜8月)、「ユニクロ」の既存店売上高は11.7%、「無印良品」も同9.2%(衣料品は1.7%)伸びたが、「しまむら」は3.9%しか伸びていない。秋期(9〜11月)でも「ユニクロ」の7.3%増、「無印良品」の17.6%増(衣料品は10.2%増)に対して「しまむら」は1.6%増にとどまった。既存店客数でも、「ユニクロ」が春夏期4.1%増、秋期4.8%増、「無印良品」が春夏期3.3%増、秋期7.7%増に対して「しまむら」は春夏期2.7%、秋期1.3%しか伸びていない。

 25年2月期第3四半期連結決算でも、売上高の前年同期比3.8%増に対して販管費は4.8%増で販管費率が0.2ポイント上昇し、営業利益は2.0%増にとどまった。大幅な賃上げで人件費が7.7%増加し、人件費率が13.3%と前年同期から0.5ポイント上昇したのが大きかった。

 インフレが収まらず賃上げが競われる中、既存店売上高が伸びないと人件費負担がかさんで店舗損益が悪化してしまう。24年2月期の「しまむら」事業の一人当たり売上高は4666.4万円と24年8月期の国内「ユニクロ」事業の3844.0万円を12.1%上回るが、仕入れの「しまむら」事業の粗利益率が33.7%にとどまるのに対して開発型SPAの国内「ユニクロ」事業は前期から2.9ポイントも上向いて50.8%と1.5倍強も厚く、一人当たり粗利益高は「しまむら」事業の1572.6万円を国内「ユニクロ」事業の1952.8万円が24.2%も上回る。有体に言えば、給与の支払い能力にそれだけ差があるということだ。

 前期までは一人当たり売上高で国内「ユニクロ」を凌駕していた「しまむら」だが、今の既存店売上高の格差が続けば来秋冬期か来々春夏期には追い付かれかねない。平均給与水準(しまむら単体)も24年2月期は689.2万円と国内「ユニクロ」事業を上回っていたが、業績の向上で賃上げペースが加速する国内「ユニクロ」事業に逆転されるのも時間の問題だろう。

 人口減少が進むローカルの店舗が大勢を占めて「しまむら」事業の既存店売上高が伸び悩み、仕入れ型ゆえ粗利益率も低く一人当たり粗利益高も伸び悩んで、賃上げ競争が損益を圧迫する構図に陥っている。人口密度が高く販売効率も高い「都心店」はその突破口と期待されるが、「多くのライバルの中から大多数に選ばれるブランド」たり得ないと「縦売り」による高販売効率は望めず、かさむ賃料と人件費に負けて損益は厳しくなる。郊外店舗と大差ない現状の「都心型」では高販売効率も高収益も望めず、2010年前後の「都心店」出店と同様に挫折する公算が高いと思われる。

 

■「しまむら」が「都心店」で成功する条件

 

 2011年に婦人服に絞って出店した「都心店」が期待したように売れず撤退を余儀なくされたから、今回は「郊外店と同様に主婦が代理購買できるフルライン店」で再挑戦しているようだが、「夫婦と子供世帯」が全世帯の4分の1まで減少し、「夫婦のいる世帯」における専業主婦比率が23%まで落ちた(77%は共稼ぎ)今日、「主婦の代理購買」という発想は時代錯誤との指摘を免れまい。ニトリがあれば勝ち目がないローカル感覚の「寝装具」は不要として、衣料品も子供服はともかく紳士服は「ユニクロ」のように本人買いが可能な品揃えと見せ方が必要ではないか。

雑多に圧縮陳列した見え方になりがちな多品種・少量・売り切りの「横売り」MDも、客数の増加に見合ったSKUフェイシング量の積み上げ、それに応じた品番数の集約が必要で、倍の販売効率を期待するならSKUフェイシング量を倍増して品番数を半減するべきだ。第一番に落とすべき品番は、異様に派手なジャージなどのローカル感覚商品、品質にクレームが出そうな裾もの商品だが、残す商品も類似品番は集約するべきだ。

客数相応にSKUフェイシング量を積み上げるだけでなく、各カテゴリーのコーナーエンドには積極的に売り込む「縦売り」商品が色・サイズを揃えた単品集積やT字の「定型ルック」陳列で訴求されてしかるべきだろう。ならば、品番数はさらに絞られる。

 「縦売り」すると言っても、「ユニクロ」のように大量生産してDCや店舗後方に積み上げて延々と売り減らすのではなく、全国10地区のTCを核としたひと蒔きのローカルテザリング※4.体制のまま、高販売効率の「都心店」に厚く投入して「郊外店」とテザリングしていけば良い。MDを抜本的に刷新した「都心店」が上手く回るようになれば、テザリングは「郊外店」から「都心店」への移動集約という流れが定着するはずだ。ローカルテザリングで移動消化するとしても、「縦売り」するには在庫の継続的な補給が必要だから、サプライヤーとタイアップするJB※5.のVMI※6.サプライが現実的と思われる。

 

※4.テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、ABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースが多い

 

※5.JB(Joint Private Brand)とPB(Private Brand)…小売業が仕様書発注して一括調達するPBに対してJBはサプライヤーが企画・開発と補給を分担する協業型のPBで、最低引き取り保証を付けたVMIで自動補給されることが多い

 

※6.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い

 

スペックの全面刷新で「市場創造者」に変貌できるのか?

 

客数も多いがライバルも多い「都心店」では「多くのライバルの中から大多数に選ばれるブランド」たり得る「信頼」を勝ち取る必要があるが、そのキーはNB(ナショナルブランド)に匹敵する品質とスペック(ディティール、パターン、縫製仕様)の完成度で、年々継続して微修正していく必要がある。それにはシーズンを超えて継続されるVMI型のPBやJBが前提となるが、社内に開発機能を持たないしまむらの場合は必然的にサプライヤーとのJBになる。問題はしまむらのマーチャンダイザーにサプライヤー企画の品質とスペックを選別する「目利き」があるかどうかだが、店頭の品揃えを見る限り、品質やスペックの裾を切ったり刷新するという姿勢は感じられない。

 品質やスペックはゆっくりとアップデイトしていくもので、2013年以降のアスレジャーに発する「軽量化」「機能化」「イージーケア」「イージーフィット」の奔流が従来の自然素材軸の品質感やスペックを一変させたが、「しまむら」の商品には「点」で取り入れられても「面」の刷新には遠く、イトーヨーカ堂の衣料品とも共通する旧世代感を否めない。「ユニクロ」や「ジーユー」、「グローバルワーク」などはそんな奔流に乗って素材やスペックとウエアリングを刷新した「市場創造者」であり、「都心店」で成功するには「しまむら」も「市場創造者」側に生まれ変わる必要がある。

 それはスペックの自社開発体制を備えたSPAへの180度の変貌かというと、決してそうではない。しまむらはあくまで小売チェーンとしての店舗運営体制とロジスティクス体制を強みとして、サプライヤーの企画・開発・補給力を活用するスタンスであり、サプライヤーが提案する品質とスペックを「目利き」する力量さえあれば、現状のビジネスモデルの骨格を変える必要はない。ただし、顧客に向けた品揃えは品質とスペックで足切りして相応に絞り込み、重点商品はJBのVMIで多少なりとも「縦売り」して「継続する柱商品」を広げていく必要がある。

 品ぞろえの刷新に伴ってVMDも各コーナーエンドの単品集積訴求や定型ルック訴求など分かりやすいインパクトが必要で、トルソーも骨格タイプを意識したナチュラル系にすれば肩がほっそりとしてレイヤードがキレイに見えるから都心客ウケが期待できる。照明も品質感や風合いを引き立て演色性も高いダウンライト型LEDとHIDスポットによる点照明に変え、3300k〜3400kでバランスを取れば「都心型」に見えるのではないか。

 「小売チェーンとしての店舗運営体制とロジスティクス体制」はルート便によるローカルテザリングを背景とした取り寄せ試着やEC注文品の店渡し、ECのオープンマーケット化による客層の広がりなど、OMO戦略の要ともなる一方、「DCに在庫を積まない縦売り」というマジックも可能にする。

 ここまで列挙してきた「都心店で成功する条件」は厳しく聞こえるかもしれないが、「しまむら」の成功ビジネスモデルを何ひとつ抜本的に変えようとするものではない。マーケットの時流と立地に対応する「テクニカルな革新」に過ぎないと言ったら理解してもらえるだろうか。

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