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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『欧米トレンドは周回遅れのピンボケ』 (2018年08月03日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 衣料品の夏商戦は最終処分段階に入る一方、早くも秋物を打ち出す店も多い。50年、100年に一度という酷暑(たしか昨冬も『50年に一度の酷寒』っていってたよね)の中で秋物に触手を伸ばす顧客は相当なファッションフリークだと思うが、それが衣料品業界の慣習だ。過剰供給と嗜好ギャップで年々消化が悪化し、売れ残りを恐れて投入を早める企業も多いが、早く投入しても実需期がこないと動かないから在庫が寝るだけだ。

 衣料品では作り手・売り手と消費者のギャップが年々広がり、値引きと残品で利益が残らず、それでも利益を確保しようと原価を切り詰め、それがまた顧客を離反させるという悪循環に陥っている。その背景は以前にも指摘したが(7月23日掲載の『衣料品はなぜ叩き売られるのか』)、裏付けのない欧米トレンド信奉も災いしているのではないか。

欧米トレンドは周回遅れのピンボケ

 来春夏(19SS)を例にとれば、メンズコレクションは6月9日のロンドンから一巡し、ウィメンズコレクションは9月6日のNYから始まるが、企画や素材の開発には4カ月以上を要するから、メンズは今年春夏のマーケットを全く反映できず、ウィメンズも前半しか反映できない。欧米コレクションは受注生産を前提としているため、組み立てる時期が早過ぎて今シーズンのマーケットを反映できず、どうしても周回遅れになってしまう。

 報道されるコレクションを見ても(コレクション時期には毎日、昨日のショーをネットでチェックするのが業界人の慣習です)、メンズなどTOKYOやNYのストリートの後追いでしかなく、それも高価なプライスに見合うモードに洗練させようとして“活き”や“抜け”を矯めるきらいがある。加えて、北欧圏コーカソイドや地中海圏ラテン向けのフィットや空気感が強く、湿度が高い亜熱帯モンスーン圏のわが国の“抜け”たフィットや空気感とは埋めがたい乖離がある。

 欧米輸出の多いテキスタイルコンバーターに聞いても、『欧米で売れる素材と日本で売れる素材は全く違う』『欧米で売れる素材は“ウェット”、日本で売れる素材は“ドライ”』と異口同音に語る。中国の化粧品市場でも、香水やメーキャップ主体でモード感の強い欧米ブランドから保湿性など東洋人の肌に合ったスキンケアに強い日本や韓国のブランドに人気が急速に移行している。発展途上的な欧米モードへの憧れから成熟した自分志向へ、衣料品も化粧品もローカルシフトが強まっているようだ。

ローカル多様化する日本市場

 湿度が高い亜熱帯モンスーン圏の華南系モンゴロイドたる日本人は“肌離れ”するドライな素材感やキモノの着流し感覚に近い“抜け”たフィットを好むなど、着装感覚は欧米とは根本から異なる。組み立てる時期が早過ぎて周回遅れになり着装感覚も異なる欧米トレンドに流されては売れるMDが組めるはずもない。自分の顧客層に特有の嗜好が季節とともにどう推移し、来シーズンの各季節では何が好まれそうか、今シーズンの推移を克明に検証して顧客ローカルに組み立てるべきではないか。 

 毎月の客層別スタイリング変化とブランド別売上げを比較して検証すると、欧米トレンドを追う外資アパレルチェーンは低迷を深め、欧米トレンドに流されたナショナルチェーンも苦戦する一方、顧客に密着してローカル対応するブランドやチェーンは着実に売上げを伸ばしている。17年以降の日本市場は急ピッチでローカル化しており、地域や客層で多様化している。周回遅れで顧客とすれ違う欧米トレンドに固執するメリットは見出せないのが実情だ。

自分の顧客と隣の顧客から目を離すな

 ローカルに多様化する顧客の嗜好をつかむには毎シーズン、「客層マップ」を作って検証するのが確実だ。当社では30余年に渡って毎シーズン、ウィメンズとメンズの客層マップを作って対応するブランドの販売成績と比較しマーケットの天気予報を作製しているが、顧客の移動や変化は左右隣までで極端に飛ぶことはない。故に、個々の事業者は自分の顧客と近接するライバルの顧客までカバーすれば変化を読める。

 ディティールや色柄もともかく、ブランド/業態のポジションを左右するのはフィットと面だ。フィットは“抜け”か“締まり”のどっちへ向かっているか、面(表面感)はキレイ目か加工目のどっちに向かっているか、が要となる。同一客層でもドレス(オン)とカジュアル(オフ)で向かう方向が微妙に異なる場合もあるから、シーン別に方向を見定める必要がある。

MD展開の反省を忘れるな

 数字を動かすのはトレンドだけではない。何を何時どれほど投入してどれほど消化したかという在庫と売上げの流れを反省し、来シーズンに生かすよう対策しなければならない。先ばかり見て結果の検証と反省が疎かになっては同じ過ちが繰り返されてしまう。これまで多くのクライアントと付き合ってきたが、毎年指摘しても同じ時期に同じ過ちを繰り返すケースが後を絶たない。

 52週の前年実績推移表に週ごとの気温や天候、イベントや売れ筋、起きた失敗を記載して張り出し、毎週、3カ月先(商品)と1カ月先(営業)を見て対策を確認する習慣をつければ、ミスの過半はつぶせる。『仕事は基本が八割』とはよく言ったものだ。

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