『ファッション業界を読み解く6つの論点』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔
国内生産が主流だった80年代まではブランド商品の開発はデザイナー/パターンナー/生産管理を抱えての自社開発が主流であったが、90年代以降、生産地が中国などのアジアにシフトする過程で生産を商社などに委託するOEM調達が急増し、ブランド企業から生産管理スタッフが消えて行った。生産の海外移転とともに国内テキスタイル業界が空洞化して生産地素材が主流になるにつれ、生産のみならず仕様開発も商社に依存する商社OEM調達が増え、デザイン企画まで専門商社などに依存するODM調達が蔓延するに及んで、ブランド企業からパターンナーもデザイナーも消えてしまった。今や、デザイナー/パターンナー/生産管理を抱えて自社開発を貫徹するブランドは希少となり、仕様開発と生産を外部に依存する商社OEM、デザイン企画まで専門商社や企画業者に依存するODMが主流と成っている。
自社開発では完成度とキャラは高められるが開発期間が長くなってプロダクトアウトになり、労務的な限界もあって企画頻度が低く鮮度を保ち難い。加えて、生産ロットが小さいと開発固定費(開発スタッフの人件費など)が重く、価格が割高になってしまう。商社OEM調達では一定の品質は確保出来るが、商社出来合いの素材や仕様に乗せられて同質化しがちだ。ODM調達では大半がアウトソーシングされるため労務的制約がなく、開発期間が短く企画頻度も高いからマーケットインのスピードが速いが、流通素材で同質化しがちで完成度も低くなる。 総じて自社開発は品質やキャラクターを訴求する上級品向き、商社OEM調達は手堅いベーシック中級品向き、ODM調達は安価でファストな大衆品向きで、価格も自社開発がアパーモデレート以上になりがちなのに対し、商社OEM調達はロワーモデレート、ODM調達はアパーポピュラーになることが多い。109市場を例にとれば、バロックジャパンの基幹ブランド(マウジーやスライ)は自社開発で完成度が高いが企画頻度が限られて変化が乏しく、価格は単品で一万円前後もする。これに対してセシルマクビーはODM調達で企画頻度が高くマーケットインのスピードが速いが完成度は今ひとつで、価格は前者の四掛けと極めて手頃だ。
ユニクロは自社開発でもロットが巨大だから安くて完成度が高いが、開発期間が一年前後と長くプロダクトアウトにならざるを得ない。対極のフォーエバー21はODM調達で速くて安いが、完成度は期待すべくもない。自社開発のキャラクターブランドは完成度は高いが遅くて高い。安くて速くて完成度の高い開発は不可能なのだろうか。私は可能だと思う。
不可能を可能にする突破口は「リアルマインド」に他ならない。「リアルマインド」とは開発手法にかかわらず、労苦を厭わず完成度を追求する誰かが確実に存在する事を意味する。アパレルの開発、とりわけ生産段階の試作には工場に泊まり込んでの詰めが不可欠で、それをやり抜いてくれる誰かが存在するか否かで商品の完成度は大きく左右されてしまう。そのキーポイントは『私の企画した商品を完成させたい』という願望に尽きるのではないか。
自社開発ではデザイナーと一体になった生産管理スタッフ、ODM調達でも業者のデザイナーを本気にさせれば「リアルマインド」が成立するが、発注者の企画を生産するだけの商社OEM調達では誰も詰め切ってはくれない。コストとスピードを優先するならODM調達で、発注者のデザイナーが業者のデザイナーの技とやる気を引き出して「リアルマインド」を実現するのが現実的だ。バイヤーの仕入れ感覚でODM業者を使っては決して「リアルマインド」は引き出せないと肝に銘じて欲しい。

デザイン企画から店頭投入までのスピードは手当済みの素材を使えば中国で最速3週間、国内なら2週間でも可能だが、サンプル修正を繰り返して6〜8週かかるケースが多い。スピードを追うなら、韓国の東大門市場で素資材を手当てして一晩か二晩で商品化して持ち帰るキャリー商法に勝るものはない。
マーケットインだから商品は皆、売れ筋で売れ行きを心配する必要はないはずだが、現実には同時期に似たような売れ筋が多数市場に投入されれば食い合いになって販売が伸び悩み、値崩れが避けられない。マーケットインは後出しじゃんけんとは言え、売れ行きを保証するものではないのだ。そこを上手くやるには、事前に開発したオリジナル素材で差別化するか、同質化するなら先手必勝で逃げ切るしかない。 実際、ファストファッションと言われる外資SPAの商品展開を見ていると、投入商品の3割はすぐ売り切れるが4割はマークダウンして売れ、残る3割は捨て値にしても残っているという印象だ。その3割の売れ筋を素材/柄やディティールを替えて二度も三度も追って行く、というのが彼らの商法のようだ。
プロダクトアウトの成功条件は「売り込んでいく」事に尽きる。長い射程で開発した商品は完成度は高いが、必ずしもマーケットに受け入れられるとは限らない。だからこそ、読モやブロガーを総動員して雑誌やウェブで繰り返し訴求し広告やCMを打ち、店頭での陳列演出やキックオフを仕掛けてとことん売り込んでいかねばならない。何百万枚も計画生産して売り減らすユニクロなど、雑誌広告やCMはもちろん、ウェブキャンペーンからチラシ連動のキックオフまで、これでもかと売り込んでいるではないか。「売り込んで行く」プロセスを確立しないとプロダクトアウトはなりたたないのだ。
マーケットインもプロダクトアウトも上手くやり切るには高度な技が必要で、どちらかに徹したから成功が約束されるというものではない。が、マーケットインなプロダクトアウトというウルトラCが成立するビジネスモデルがある。それは特定アイテム/素材に特化したファクトリーダイレクトSPAで、シングルライナーあるいはマルチライナーの形態を取る。
シャツやニット、パンツのシングルライナー、あるいはそれらを複合したマルチライナーは、先行して開発した糸や生地を使って販売動向に短期対応する商品生産が可能で、シャツやパンツではデザインやサイズ、ニットではデザインやカラーをマーケットインする事が出来る。素材軸のプロダクトアウトながらマーケットインなファクトリーダイレクトSPAはこれから一番有望なビジネスモデルだと思う。
大手セレクトショップでも小売系はオリジナルが凡庸になりがちな分、セレクトがピリリと効いているが、メーカー系はオリジナルも完成度が高い分、セレクトが埋没して見えるケースがあり、中には大きくMD展開してSPA的な見え方になるブランドもある。どちらが魅力的か意見が分かれるところだが、セレクトショップ本来の魅力はセレクト商品がオリジナルから浮き上がって見える丼型であり、オリジナルとごっちゃに見えるチャーハン型やオリジナルをMD展開したバターライス型は顧客の期待を損なうものだと思う。セレクトショップのオリジナルはセレクト商品を活かすべく脇役に徹するべきで、オリジナル比率を抑えられないなら役割分担を明確にすべきであろう。
セレクトショップがSPA化する一方、SPAも大味で均質という枠を超えて差別化すべく、セレクトショップ的MDを部分的に取り入れるのがトレンドになっている。アースミュージック&エコロジーの急成長に刺激されてか、雑貨中心にセレクト商品を加えたりコラボ企画などでブランド商品をスパイス的に取り入れるカジュアルSPAが増えており、私は「セレクトスパイスSPA」と呼んでオリジナルだけのSPAと区別している。
セレクトショップがSPA化する一方でセレクトスパイスSPAが流行る風潮は、コーディネイトのパーツに収まる抑揚を抑えた手頃なSPAの服とパーツに収まらないでキャラクターを主張する高価なセレクトの服(デザイナーブランドやファクトリーブランド)、それぞれにニーズがある事を実感させる。上から下までパッケージされたセット企画をそのまんま買って行く若者が氾濫する今日でも、パーツなSPA服のコーディネイトに飽き足らず味のあるセレクト服を一点アクセントしたくなる消費者は決してマイナーではないようだ。
コストが上昇する中国から南アジアに産地をシフトする動きもあるが依然、中国産地は衣料品供給の83%を占めており、そのコスト上昇が円高を上回って衣料品の輸入単価が上昇に転じた事が大きいとは言え、3.11以降の消費マインド変化も単価上昇を後押ししたと思われる。幾つかの消費者調査が異口同音に報告しているのは、安物を着捨てるファスト消費から良いものを長く愛用するスロー消費への転換であり、それが購入単価の上昇をもたらしている一面は否定出来ない。
デフレかインフレかと言うなら方向は緩やかなインフレだが、ファストかスローかと言うならファストとスローの両極化を基調にスロー派へのシフトが緩やかに進むと見るべきであろう。そんな潮流下、注目されるのがメイドインジャパンへの回帰だ。
衣料品生産のアジアシフトが進んだ結果、85年のピークから四半世紀を経て国内生産数量はほぼ8分の1、縫製業従業者は5分の1以下まで減少し、今や国内生産シェアは3.3%まで落ち込んでしまった。国内産地はデニムの三備地区を除けばほぼ壊滅状態となり、紡績から製品化までのサプライチェーンは無惨に分断されたとは言え、未だ各産地にはわずかながら優良な工場が残っている。そんな匠技が創る味わい深い日本製品を再評価しようという動きが業界の各所で盛り上がり始めており、消費のスローシフトがメイドインジャパン回帰を後押しする事が期待される。


11年春はJR博多シティ(アミュプラザ/阪急)や大阪駅ノースゲートビル(ルクア/JR大阪三越伊勢丹)、あべのキューズモール、秋は有楽町の阪急メンズトーキョーやルミネが話題になり、12年春も東京ソラマチ(スカイツリータウン)やダイバーシティ東京(台場)、表参道プロジェクト(明治通り交差点)が注目されるように、商業施設開発はターミナルにばかりスポットがあたっているが、新規開発施設の成功率や既存施設の売上伸び率は実は郊外立地の方が高いのだ。
09年以降に開業したターミナル立地商業施設では09年10月開業のココエ(尼崎駅前)、10年3月開業のコレットマーレ(桜木町駅前)、同月開業のトツカーナ(戸塚駅前)、10年10月開業のコピス吉祥寺とも苦戦しており、同期間の成功ターミナル施設は福岡パルコとアトレ吉祥寺に留まる。注目を浴びた大阪駅ノースゲートビルにしても、ルクアの活況の一方でJR大阪三越伊勢丹は初年度目標を550億円から350億円に切り下げ、盛況に見えるサウスゲートビルの大丸梅田店も売上目標を30億円切り下げている。10年9月、銀座四丁目角に5割増床して開店した三越銀座店も初年度は目標の88%に留まった。
ターミナル立地の商業施設はコンセプトや構成による当たり外れが郊外立地に較べると極端で、一握りの大成功施設の一方で失敗する施設が実に多い。郊外SCは商圏の消費支出と売場面積占拠率から売上予測が容易で、世代構成や世帯定着性などから消費動向も掴み易く、極端な失敗は限られるが、マーケットは大きくても競合も激しく定量的占拠率の読めないターミナル立地の商業施設開発は難易度が高く、極端な失敗が多発してしまうのだ。どちらがハイリスクか言うまでもないだろう。
既存商業施設の売上伸び率を見ても、リーマンショック以降は郊外施設の方が高い傾向が続いている。日本SC協会の統計を見ても中心立地より郊外立地の方がほぼ2ポイントほど高く、より小商圏なコンビニエンスストアはさらに伸び率が高い。景気低迷下で消費行動圏が縮小傾向にある事が要因で、3.11以降はその傾向が一段と強まったようだ。
開発規制はあるものの、商業施設開発のリスクは郊外立地の方が小さく、開業後の伸び率も高いから、世間の風潮に惑わされる事なく郊外立地を見直すべきと思われる。

上場専門店の決算書を見ても当社主催SPAC研究会のメンバー統計を見ても、販売効率は正社員比率に正比例しているし、売上対比人件費率も正社員比率が高いほど低くなる傾向が顕著に見られる。時間コストの低いパート&バイト比率を高めれば売上対比人件費率は下がりそうなものだが、それ以上に販売効率が低下する事が多く、結果として高くなってしまうのだ。それは熟練販売員と非熟練販売員でも同様で、熟練販売員が揃っている方が販売効率が高まり、結果として売上対比人件費率も低くなる。新設店舗の開業スタッフに熟練チームを送り込むか否かで彼らが去った後の販売効率も大きく異なる事が多く、熟練販売員の技術水準や勤務態度が後継販売員のそれを決めてしまうと言われる。
店舗運営の現場は熟練度と意欲が物を言う世界であり、机上の計算が成り立たない事も多い。時間をかけて技術を習得し向上意欲を高めた正社員は低コストのパート&バイトで埋め合わせ出来るものではなく、正社員中心主義を基本に転勤や就労時間に制約のあるパートを専門職的に配し、搬入や陳列に特化してバイトを使うべきと思われる。正社員かパート&バイトかではなく、正社員を中心にパート&バイトで補足すると考えるべきだ。
小売業はどれだけ大規模になってもシステム化しても、現場の足腰は人が支えるものである事は変わらない。技術と意欲を持った現場人材の厚みこそが企業の体力であり、現場の力量以上の成長も収益も望めない。現場の力量を信頼出来てこそ自在な戦略を仕掛けられるのであり、現場の力量が弱体では戦略は絵に描いた餅でしかなくなる。低コストで流動的なパート&バイトに多くを依存しては現場人材が薄くなって足腰が弱くなり、中長期的な成長力/収益力を削いでしまう。正社員主義は明日の成長力/収益力を担保するものなのだ。









